ＷＩＴＨ ＹＯＵ 〜すきしょ３ 真相ＥＤを絡めた七空妄想〜 （正確にそのまま、真相ＥＤとつながっているわけではありません。七海と空を中心において書いていますので、二人の気持ちはゲームとは違います） （最初にたわごと･･･） 自分の過去の罪を知り、これから前向きに、強くなろうとする空。 過去の自分の過ちを突きつけられながら、それでも逃げ出さずに、自分が元いた場所に向かおうとする七海。 空が強くなったら、七海はただ頼るだけ、支えられるだけの立場にならなければいけないでしょうか？ 自分は、そんなことはないと思っています。 七海が不安になること、弱気になることだってあるでしょう。空が叱りつけて、それで目が覚めたり、改めて冷静になれたりもするかもしれません。子供のころ自分の腕の中で大泣きしていた少年が、そこまで成長したのかと驚かされ、かつ頼もしく思うかもしれません。 でもきっと、空だって悩み、苦しみ、過去の自分に脅かされて眠れない夜を過ごすことだってあると思うのです。 いつだって強気でいられるわけじゃない。ときには過去の大罪に苦しめられて震えがおさまらないときがあるかもしれない。 そんなとき、そばに七海という人がいたら。 だれよりも癒し手である、だれよりも包容力を持っている七海がいたら。 そこから重なる気持ちも、あるかもしれないと思うのです。 （そしてほんとに真相ＥＤのネタばれとなります。まずは空編） 「空くん、大丈夫ですか？ ･･･うなされていましたよ」 「･･･七海ちゃん･･･。――腕に、感触が蘇るんだ。あのときの、兄ちゃんを刺したときの感触が。思いきり突き刺した感覚、たくさんの血があふれてオレにかかってきて。オレはそんな中で、ようやく目的を果たせたことに満足して笑ってるんだ」 「空くん･･･。もう少し、眠ったほうがいいですよ。今度は何も考えずにぐっすりと･･･」 「触るなよ！ 七海ちゃん、オレに触るなよ！ オレは･･･またあんなふうになっちまうかもしれないんだぜ。相沢の薬の効果がまだ残っているかもしれない。そしたら今度はオレ、七海ちゃんを･･･。オレは･･･もうそんなのいやなんだ･･･」 「･･････」 泣きそうなほど顔をゆがめた空を、七海は、両腕で抱きしめた。――優しく、そして強く。 不安におののく少年を大切に包み込むように。 「七海ちゃんっ」 「そんな不安に、脅えたりしないで。余計なことなんかで悩んだりしないで。私なら大丈夫ですから。もし万が一なにかがあったとしても、それは私の自業自得というものでしょう。だから空くんが心配することはないんですよ」 「七海ちゃん違うだろ。そうじゃないだろ！ オレはっ」 「大丈夫。脅えないで、悩まないで、苦しまないで。･･････安心して？ もう、あなたが心を見失うことはないから。意識を奪われて、自分の意にそわないことをさせられることは二度とないから。だから、安心して委ねて――」 「･･････」 七海の言葉を聞いて、空の体からふっと力が抜けた。 幼いころ七海に抱かれていたときのように、無防備に七海の肩に頭を預ける。 「･･･オレの手は、よごれているんだな。もうとっくに赤く染まっているんだ」 わずかに持ち上げた自分の手を見つめて、空が淡々と呟いた。 「私の手もよごれていますよ。もうずっと前から、罪ばかりを重ねてきましたから。･･･きれいな手じゃないのにこうしてあなたを抱きしめている･･･恥知らずな人間だと、あなたは笑いますか？ 自分の過ちを真に理解していないと、怒りますか？ 実際そのとおりかもしれません･･･。本当に自分の罪を自覚していたら、私はここにいるべきではないんでしょうね」 「オレにはわかんねーよ･･･。ただオレが思うのは、今はこのぬくもりが必要だということだけなんだ。･･･はは、人殺しなのに人のぬくもりを求めている。オレこそ、ほんとに恥知らずだよな」 「･･･私たちはいっしょなんです。運命共同体と言い換えてもいいかもしれません。もう真っ白い道の途上には立っていない。けれど、真の闇も真紅の海も私たちの前には広がっていない。見つめ続ける先に、私たちでもつかめる光がきっとあるんです」 「それは･･････許し、なのかな」 少年がぽつりと呟いた。青年はその少年に優しいまなざしを送る。 「癒し、なのかもしれません。罪は罪、過去は過去です。けして拭いされはしないけれど、けしてずっと責めつづけられることもないんです。誰からも･･･自分からも」 「このまま、眠っていいかなオレ。こうしていると安心して眠れそうな気がする。たまにはぐっすりと眠ってみたいんだ」 目を閉じて空が言うと、七海は空が楽な姿勢になれるようにと、自分の体の位置をずらした。 「ええ、どうぞ。私もこのまま眠ることにしますから、気をつかわないで？」 「ん･･･。七海ちゃん、おやすみ。起こしてごめん」 「おやすみなさい、空くん。ゆっくり休んでくださいね」 （ついで七海編） 空が帰ってきたとき、部屋の中は真っ暗だった。 ドア付近にある電気のスイッチを見つけて、空が明かりをつける。 「･･･七海ちゃん？ 部屋を真っ暗にしてどうしたんだよ」 部屋の中央に座っていた七海は、明かりがついてからようやく空を振り返った。 「空くん。お帰りなさい。もうそんな時間なんですね」 「七海ちゃん、考え事してたのかよ？ ･･･オレの前で無理に笑うことねえんだぜ」 「別に無理していませんよ。気にしないでください」 そう言って七海がかすかに微笑む。空はたまらなくなって部屋の中に踏み込み、七海の腕をつかんだ。 「･･･っ七海ちゃん！」 「空くん？ どうかしたんですか？」 空にきつく腕をつかまれた七海が、その勢いに引っ張られる形で立ち上がる。空は持っていた鞄を放り捨てると、両手で七海の腕をつかんだ。七海を自分の正面に向かせる。 「･･･オレは、七海ちゃんにとってそんなに頼りにならねえ？」 「なに言ってるんですか。すごく、頼りにしていますよ？」 「そうじゃなくて、オレはほんとの意味で七海ちゃんに頼りにされてねえだろ!? 七海ちゃん、オレのこと年下だとか学生だとか子供だとか思ってるんだろ!? だからこういうとき、オレにはなんにも言ってくれねえんだっ」 「空くん･･･。それは、仕方ありませんよ。実際に空くんは私より年下で、私がしっかりしなきゃって思っているところはありますから。でも･･･それでも、本当に頼りにしていることはあるんですよ。空くんに励まされて動き出せることが私にもあるんです」 落ち着いた声で返す七海のその穏やかな表情を見て、空は強引に七海を抱き寄せた。 腕の中にいるのに、心は遠い気がする。本当の彼自身には、まだ全然届いていない気がするのだ。 「空くん？ どうかしたんですか？ なにか気になることでもあるんですか？」 「――七海ちゃんは、ほんとはオレのこと恨んでんじゃねえの？」 「なに言って･･･」 「あんときオレが兄ちゃんを刺すんじゃなくて、オレ自身を刺していたらもっと動きやすかったのにって、心のどこかで思ってんじゃねえの？ 怪我したのもさらわれたのも兄ちゃんじゃなくてオレで、ここに兄ちゃんがいたら。そしたら七海ちゃんだって不安を感じることもなくて、もっと的確に動けて、なんでも任せきれて。ここにいるのが真一朗ならよかったのにって何度も――」 空の言葉を遮るように、七海が無理やり空の腕をはずしてその頬を軽く叩いた。 「自分でなにを言ってるのか、本当にわかっているんですか？」 「･･････」 「私が本当にそんなことを考えていると思ってるんですか？ それは、私のことを見損なっていることと同じですよ」 「だって、事実だろ。ここにいるのが兄ちゃんなら、七海ちゃん、すげえ楽だろ？ こんな馬鹿なガキの面倒なんか見ないですむし、なんでも話せて頼りきれて、ほんと、兄ちゃんがここにいたらよかったんだよな」 「空くん。そういう問題じゃないでしょう!?」 七海が空に向けるまなざしをきつくする。それに対して空は、口の端をわずかに歪ませた。 「そうだよな。いまさらこんなこと言ってもしょうがねえよな。どんなに兄ちゃんのことを望んだって、実際残されたのはオレだけなんだもんな。七海ちゃんとしてはどうにかオレを使いものになるように仕立てて、こんな頼りきれない手駒だけで事態をよくしていかなきゃいけねえんだもんな」 「空くん！」 七海が空の名前を口にして、その腕を強くつかんだ。強引に自分の方に注意を向かせ、その瞳を覗き込む。 数瞬、二人の視線が絡んだ。 ――空は、目を伏せようとも逃げようともしなかった。 別にただ拗ねて、七海に当り散らしたいわけではないのだ。その奥に、伝えたい気持ちがあるから。 「･･････だったら、七海ちゃんなんでオレになんにも言わねえんだよ。つらいとか苦しいとか悩んでるとか、七海ちゃんだってあんだろ？ 全然つらくないなんて言わせねえからなっ。･･････ほんとはつらいのになんにも言わないのなんて、そんなの心のどこかでオレのこと恨んでるとか、まるっきり頼りにできないガキとしか思っていないってことだろ!? 七海ちゃんがオレになんにも言わねえのは、つまりそういうことだろ!?」 七海を問い詰めるようにそこまで言ったあと、空は一息つき、今度は淡々とした口調で切り出した。 「今だってそうじゃねえか。七海ちゃん、部屋の中が暗いことに気づかないほど、なにを考えてたんだよ。オレにはそれを聞く権利さえもねえのかよ？ 兄ちゃんを刺したオレには話したくない？ 話したってなんにもできないんだから言うだけ無駄？ ･･･ははっ･･･七海ちゃん、どんなに笑ってもオレに優しい言葉をかけてくれても、態度がそれをおもいきり裏切ってんじゃん。――要するに、オレのこと信用できねえってことだろ」 「信用されないのは、私のほうでしょう？」 「――」 「そしてつらいとか苦しいとか不安だとか、そんな言葉を吐く権利がないのも、私のほうでしょう？」 空の視線の先で、七海もまた目をそらさなかった。 その瞳の中に、少なからず空を傷つけてしまったという謝罪の気持ちは見いだされなかった。 ただ、毅然として。 「･･･七海ちゃん･･･」 「私が空くんになにを言うんですか？ まさかこんなことになるなんて思わなかった？ これから先のことが不安？ 相沢に対抗して、はたしてみんな無事に戻ってこられるのか？ ――そんなことを言ったところで、すべて自分に返ってくるだけの話でしょう？ 今の状況がつらい、苦しいなんて言ったところで、元をただせば全部私が原因じゃないですか。空くんのことも、真一朗のことも。そんな私が巻き込んでしまったあなたにつらいなんて言う権利なんか、どこにもないでしょう!?」 「七海ちゃん！ なんでそんなこと思うんだよ。権利なんかじゃねえだろ、言って当然のことだろ!? そんなんで気持ちを押し殺すのは違うだろ!?」 「自分が原因で引き起こした事態のことで、巻き込んで人生をめちゃくちゃにしてしまった空くんに、私がなにを言えるんですか？ ただごめんなさいとしか、言えないでしょう？ 恨んでなんかいない。頼りにできないとも思っていない。むしろ恥知らずにも時々頼りたくなってしまうから、自分で自分の感情を制御するしかないんでしょう？」 「制御することなんかねえじゃん！ 七海ちゃんが本当に思っていることなら、抑えることないだろ。そういうの、オレに全部ぶつけてくれよ。よけいなことなんか考えねえで、オレのこと頼りたくなるならそんときに頼ってくれよ！」 「自分の罪を棚にあげて？ あなたに･･･救いを求めろと？」 そう呟いて、七海が皮肉げに笑った。多分に自嘲を含めたその笑みに、空は一瞬七海から目をそらしたくなった。いつも明るく清々しく笑う七海の、そんな痛々しい表情など見たくなかったからだ。 けれどここで目をそむけてしまったら、なにも、伝わらないのだ。 だから空は目はそらさずに、改めて七海に伝えた。 「七海ちゃん。オレが七海ちゃんにとって少しでも頼りになる存在だというのならそうしてほしい。オレに頼ってほしいよ。オレは七海ちゃんより年下だけど、一方的に守られたり優しくされるのはいやなんだ。オレだって七海ちゃんを守りたいし、優しくしてえから。オレで七海ちゃんの心を軽くできるのなら、そうしたいんだ」 「･･････空くんが私を受け止めてくれるんですか？」 ぽつんと、七海はその一言を落とした。それはなんの感情も含まない、素朴な疑問のような響きを帯びていた。 だがすぐさまその七海の声に頑なさが加わる。 「中途半端な同情や義理ならいりません。軽い気持ちで受け止めようとされても迷惑です。最初から全部を受け止めるつもりがないなら、半端なことはしないで。私の過去、私の罪、私の弱さ･･･そういう重くてきたないものをすべてひっくるめて受け入れてくれますか？ そういう覚悟が空くんにありますか？ ･･･私は、罪を犯したんです。人に甘えたくなっても、頼りたくなっても、自分が罪人であるというその一点において、私は自分一人で立っていることができるんです。自分への、戒めとして。それを解かせて私の意地も罪悪感をも壊して本心をさらけ出させたいというのなら、それぐらい覚悟するのは当然でしょう？ すべてを受け止める覚悟もないのに本心だけを聞きたいなんて、人の心を覗き込もうとするのと同じですよ。――空くんは、本当にすべてを覚悟して私自身を受け止めたいと思うんですか？」 最後の一言を強調して、七海が空に聞いた。 空の返答はすぐには返ってこなかった。 しばらく二人の間に沈黙が落ちる。 空はつばを飲み込む。七海に問われて、すぐさま返事はできなかった。軽い気持ちで答えられるものではないのだ。 七海の過去、そして今こうして目の前にいる青年の弱さも強さもすべて。 自分の腕が一人の人間を受け止め、支える――それはけして簡単なことではないけれど。 でも。 「･･･思う、よ。オレは、七海ちゃんの全部を受け止めたいと思う。過去の出来事なんか知らねえし、人の気持ちなんかよくわかんねえ。でも、七海ちゃんだから。七海ちゃんだからオレは頼ってほしいし、本心を知りたいし、苦しんでいるのならオレが助けてやりたいと思う。七海ちゃんからすれば大博打かも知れねえけど、オレに、七海ちゃんのすべてを預けてほしい･･･」 「･･････バカ」 「な、なんだよ七海ちゃんっ」 「普通はそこで手を引くんですよ。自分のほうが年下なのにそこまで面倒見きれないって。なのに･･･。空くんはこれでもう逃げられなくなったんですよ、私から」 「ンなの、むしろ望むところだぜ！」 空が自分の胸を示してそう勢いよく言うと、七海はふっと微笑んだ。それは一瞬の、泣き顔にも似た儚い笑みだった。 「本当にバカなんだから･･･」 「七海ちゃん･･･」 七海が腕を伸ばして空を抱き寄せる。その腕がかすかに震えていることに、空は気づいた。 「･･････怖い、ですよ。これからどうなるのか、未来にはなんの保証もありません。さらわれた真一朗のことも心配だし、藤守くんのことも気になります。私があのとき選択を間違わなければ、あのとき逃げ出さなければ。もっとしっかりと考えて行動していたら、今起きてしまっている出来事に対して事前になにか手が打てたかもしれない。相沢の計画の先をもっと読みこんで、ちゃんと周りの出来事に注意していれば防げたものがあるかもしれない。そんなふうにいつもいつも私の力は足りなくて、物事は常に最悪の形で動いてしまうのかもしれない。自分が引き起こしてしまった事態だからこそこのまま逃げるわけにはいかないけれど、でも、万が一のことがあったら私は藤守くんや真一朗や空くんにどんなふうに責任をとればいいのか。どんなふうに償えばいいのか――」 「七海ちゃん、そんなのは」 「･･･わかってます、そんなのは考え過ぎだって。最悪なことばかり考えていたら動けなくなってしまうって。でも、どうしても考えてしまうんです。みんなが無事で平穏に暮らせる状況を頭の中で何度もシミュレートして、だから頑張れるって前向きになろうとしても、足元から大きな不安が這い上がってきてそれに呑み込まれそうになるんです。このまま真一朗も助けられなくて藤守くんを相沢から解放することもできなくて、そのうえもし空くんまで危険に晒してしまったら？ ･･･空くんまで失ってしまうくらいなら、いっそこのままなにもかも投げ出して、二人でどこか別の場所に行ってしまったほうがいいのかもしれないとさえ、私は考えてしまうんです」 「･･････」 「軽蔑しますか？ このうえまだ逃げようとするなんて最低だと思いますか？ あなたを守りたい、ということさえ口実で、私はただ自分ひとりが無事に生きていければいいのかもしれない。そうして生き残ったあとでひどい人間だと自分を罵り、失ってしまった存在を哀しみながら、途切れることのない平凡な毎日を過ごしていくんです。･･･自分の命なんか投げ捨ててでもみんなを守りたいって思う気持ちもあるのに、相反するその考えを捨てられない。それくらいに前に進む勇気が持てなくて自分でも理屈に合わないことばかり考えてしまう。いくら平気なふりをしても大人ぶってみても、所詮私の中身なんかこの程度でしかないんです。ただ時間が無為に過ぎただけで、私は、過ちをおかして逃げ出したときとなにひとつ変わっちゃいない――」 飾らない、七海の本音。 ずっと穏やかに笑い続けていた七海の奥底にあったもの。それを目の前にさらされて、空は心臓を鷲掴みにされたような痛みを感じた。どれほど年上であっても、この人は本当は、こんな脆ささえ抱いていたのだ。 空は七海の背中を支えるようにして腕を回した。その身体を強く受け止める。 ここにいるのが別の誰かなら。 七海の全部を受け止めて、笑ってやることもできたのだろうか。胸を叩いて心配すんなと七海を元気づけてやれただろうか。 ――でも、自分は自分なのだ。 空はもう一度七海の背中に回した腕に力を込めると、ゆっくりと深い息を吐き出した。 どんなに守りたくても、自分の腕は人一人を支えられるほど太くなくて、自分の心はいまだに弱い。 腕の中に閉じ込めたものは、こんなにも大切なのに。 「･･･七海ちゃん、やっぱ、オレだめだ･･･。七海ちゃんの全部を受け止めらんねえや･･･」 ぴくりと、七海の身体が揺れた気がした。 「さっきはあんなことを言ったけど、だってオレのスタンスじゃねえもん。全部受け止めて大丈夫、なんていうのはさ。オレだってめちゃくちゃ不安だし、怖いし、これ以上七海ちゃんが傷ついたらどうしようって思うし、オレがなんとかしたいとは思うけど、なんとかできるなんて全然思えねえしさ。オレがしたことで七海ちゃんを苦しめているのはわかるし、これから先だってオレの方が足がすくんでだめになっちゃうかもしれねえしさ。だから･･････一緒に、強くなろうぜ七海ちゃん」 「――」 「どちらかがどちらかに甘えるんじゃなくて、受け止めるだけでもなくて、オレもなんだかんだいって七海ちゃんに甘えてえし、でもやっぱり七海ちゃんに頼りにされたいし。相手を叱りつけて引っ張っていくっていうのもいいけど、時々二人で泣くっていうのもありだろうし、やっぱりだめだって気になったら本当に二人で現実逃避しちゃうのもいいかもしんねえし。一緒に泣いて、一緒に笑って、一緒に立ち向かっていこうぜ？ 幸せになるのも一緒で、だめになるのも一緒で。それならオレ、なんにも怖くない気がする。怖がることもなく、前に進んでいけるような気がするんだ」 「･･･空くんと私とで、一緒に泣くんですか？」 「そうそう、そういうのもオレたちだったらありだろ？ ほんとにつらいときにはさ」 「･･････いや。真一朗に追いかけられて大泣きしていた空くんと一緒にしないでください。私の涙は貴重なんですよ。そうそう簡単に見せたりはしません」 「うわっ、なんだよその言い方はっ！ オレだって簡単に泣くわけねえじゃん！ 簡単に泣いてたのは七海ちゃんのほうだろ!?」 「あのときはたまたまです。それより本当は空くんのほうが涙腺が弱いの知ってますよ。今度、証明してあげましょうか？」 空から少しだけ身体を離して、七海がかすかに口元に笑みを浮かべた。 「･･････証明ってなにそれ･･･」 「空くんを泣かせる方法なんか、私にはいくらでも浮かびますよっていう話です」 「･･････七海ちゃん、それオレのこと脅してんの？」 「脅してなんかいませんよ。事実です。ふふっ、いっぱい泣いて、いっぱい甘えていいですからね」 「七海ちゃん、今必死で年上っていう自分の立場を守ろうとしているだろ。オレに本音をこぼしたことがばつが悪くてさ」 「ばつが悪いなんて思っていませんよ。だって、本当はずっと空くんにすべてをさらけだして楽になりたかったかもしれないんですから。･･･ときどき、私はすごく怖いことを考えるけど、見捨てないでね？」 「･･･やっぱ脅されてるんだオレ･･･」 憮然として呟く空の声に、七海の笑い声が重なる。 互いに相手にまわした腕は解かないまま。 「･･･七海ちゃん」 空は七海の額に、自分の額を預けた。幾分照れながら、自分の気持ちを伝える。 「なんですか？」 「オレ、ちゃんと強くなるからさ。もっともっと強くなって一人前の男になって、七海ちゃんのことを受け止めても揺らがないような人間になるからさ。七海ちゃんこそ、オレのこと見捨てないでくれよ･･･？」 「空くんがそんなふうに成長しちゃったら、あんまり嬉しくないかな･･･」 「え？」 聞き返した空に七海は目に悪戯っぽい光を浮かべて、小さな声で答えた。 「強くなるのはいいけれど、空くんはちゃんとかわいい部分も残しておいてくださいね。そうじゃなきゃだめですよ？」 「･･････七海ちゃん･･･」 「ふふっ。――一緒に、頑張っていきましょうね。つらいときに寄りかかれる場所があるなら大丈夫。私たちは、けして負けない。ちゃんと自分たちの力で光をつかむことができるんです。そうして、幸せになりましょう？」 「･･･七海ちゃんて、強いのか弱いのかわかんねえ･･･」 「空くんに悟られるほど単純な人間じゃないということですよ」 「なんていうか、ほんと複雑怪奇。･･･でも、だからこそ･･･」 空は、その続きを口にしなかった。 そしてどちらからともなく。 自然に、引き寄せられるように。二人はゆっくりと唇を合わせたのだった。 ＥＮＤ |
ということで七空妄想でした。 ええ、「妄想」ですから設定の部分を含めていろいろと突っ込みどころがたくさんありますが、それはそれとして流しちゃってください。 のりで書いて、さくっと終わった空編。 なんだか妙に長くなってしまった、七海編。 七海編は相沢さんにさらわれた真一朗のことを思えば、最後はここでいちゃついている場合じゃないだろうって感じですけどね（笑） ともかく書きたかった、「七海ちゃんが弱音を吐いて、それを空が慰める」予定だった七海編もなんとか終わってよかったです。 ここで改めて七空の良さを長々と語りたい気もするんですけど、それはやめといて、ただこれを書いていてやっぱり自分は七空が好きだと感じたし、やっぱり七空はめちゃくちゃおいしいんだっていうことだけ書いておきます。守る・守られるの関係が曖昧で、二人がなにかと対等なところがおいしいのですｖｖｖ |