熱帯夜 「……んっ…」 肌を辿る唇に、声がこぼれる。 同時に左手で腰を撫でられて。 それだけで自分の身体がさらに熱くなっていくのがわかった。 互いの中心はもう相手を求めて昂ぶっていて、肌に擦れるだけでせつなさに疼く。 「和、希…っ」 背中に回した腕にぎゅっと力を込めれば、手のひらが汗で滑った。 どんなに冷房をきかせても汗はひかず、身を包んでいるはずの冷気はたちまち熱気に変わる。 「啓太」 「……っ」 指先で胸の突起を押しつぶされ、上に乗っている身体が開いた両足の間にぐっと割り込んでくる。密着度が高くなり、否が応でも恋人の欲望の強さを感じさせられた。 その強張りが啓太にこの先の行為を錯覚させるかのように、ゆっくりと動き出した。強弱をつけて押しつけられる。 「……っ…」 その動きに身体の奥の快感を刺激される。実際にはまだ与えられていないからこそ、そのわずかな動きだけで頭の中の連想に侵される。 「啓太」 かすかに笑う気配と視線を感じた。押し寄せる快感に目を閉じていても、相手が自分の顔を見つめているのがわかる。 今自分が何を連想しているのかわかっていて笑っているのだ。 「もう、ぐちゃぐちゃだ。このままイク？」 先走りの雫が相手の腹を汚しているのを示唆され、啓太はカッとなった。目を開いて目の前の相手を睨みつける。 「そんなの、和希だって……！」 「うん。俺のもぬるぬる。啓太のここをよごしちゃってるな。……ここ」 「…っ…強調しなくてもわかるから…っ」 「なんか、今日は本当にこれだけでイけそうな気分だ。覚えたての中学生みたいに我慢がきかなそう。まだろくに、触りあってもいないのにな」 啓太もそうだろ？――薄闇の中、顔を覗き込んで和希が聞く。啓太は顔をそらした。 「…手で触ってなくったって、もう充分――」 「充分、なに？」 「……っ」 和希がさらに啓太の昂ぶりを擦りあげるように身体を揺らす。また啓太の片腕を取り、その手を自分の口元まで運んだ。 「充分、なに？ 啓太、その続きは？」 啓太を促したあとで啓太の指にゆっくりと舌を這わす。 「あっ」 舐められ、口に含まされ、軽く歯を立てられ。濡れた音と故意に立てられたくちづけの音が啓太の耳に届く。 制止の意味を込めてもう片方の手で和希の背中に爪を立ててみたが、なんの効果もなく。むしろいっそうじっとりと責められた。 「んっ、だ、だから…ぁあ…」 和希の問いに答えるまでは解放されないと悟った啓太が、涙目になりながら続きの言葉を口にする。 「直接触ってなくったって、こんなふうに、和希がするから……俺、もう充分、か、感……」 「うん」 「……感じて、たまらなく…なってるんだからな……っ」 言ったあとで大きく息を継ぐ。その啓太の必死な表情に、和希の口元に嬉しげな笑みが浮かぶ。 「笑ってる、なよ…」 「啓太があんまりにもかわいいからな。……どうしよう。今日はもっと啓太を泣かせたいよ」 「これ、以上……」 「これ以上。啓太をいじめて、焦らして、泣かせて、喘がせて。もっともっと乱れさせたい」 「ば…か…。そんなの…」 「啓太は焦らされるのはいや？」 「当たり前だろ」 「でも」 気持ちいいのは好きだろ？――ひそかな声でそう囁かれたあとで、和希の唇が再び啓太の肌に落とされた。すぐに胸の突起に唇を寄せられ、甘噛みされる。 「…んっ…」 そのまましばらく乳首の周辺を唇で責められた。 「……和希…っ」 一番熱くなっているところには直接手で触れられないまま、身体の中の熱ばかりがたまっていく。我慢がきかなそうと言いながらも和希のほうは余裕ありげで、啓太の弱いところを指先や唇で甘く責め立てる。 緩やかで執拗な愛撫に熱の逃がし場所はなく、啓太は幾度も和希の名前を呼んでそれ以上を求めた。 「和希、も、限界……頭、変になりそう。だから…」 「変になっていいよ。啓太、もっと変になって。俺も頭わいてるから」 「そうじゃなくて…イきたいよ。和希とつながって、ちゃんとイきたい」 「うん」 宥めるように落とされた軽いキスに恨みが募る。 「和希…！」 睨みつけると和希は笑って、啓太の昂ぶりに触れた。 「……っ」 軽く撫でられただけで身体が震える。さらなる刺激がほしくて自ら腰を揺らしそうになる。 ほんとにぐちゃぐちゃだなと笑った声さえ歯止めにならなかった。 「和、希…」 「うん。ごめんな、啓太。もっと啓太をぐずぐずにしたくて。すぐにイって終わりじゃなく、一晩中啓太の頭の中を俺のコレだけでいっぱいにしたくて」 「かずっ…」 「啓太が理性を飛ばしてコレだけを何度もおねだりするぐらい、やらしい啓太にしてみたい」 「……っほんとに、頭、わいてる…っ」 「うん」 「嬉しそうに…言う、な……ああっ……！」 本当に限界だった。激しいことはまだほとんどされていないのに、イきたくてたまらなかった。 「じゃあ、一度イってもいいよ」 促すように和希の手がゆるゆると動く。 「……っ…あ…ああ…！」 さほど時間をおかず、啓太はすぐに達した。 「……ふっ……はぁ……」 達したあとで啓太は大きく息を継ぐ。だが、達したにも関わらずまだ昇華しきれない熱が体内に燻っていた。 足りない、と強く思う。もっともっと激しい動きで自分を昇りつめさせてほしかった。 一度絶頂に達したために、さらなる官能があとからあとから呼び覚まされ、強い快感を欲していた。 「……和希…」 「なに、啓太」 「……足りない。もっと…もっと俺……っ！」 「うん。時間は、たっぷりあるから」 和希が自分の手についた啓太の快感の証を啓太の腹や昂ぶりになすりつけた。その濡れた感触だけで啓太の身体が震える。 「俺もイきたいし。今日は朝まで何度もしよう。……ずっと感じさせてあげるよ」 和希の手が啓太の肌を辿り、啓太は体内に燻る快感を和希に移そうとするかのように、いっそう和希に身を寄せた。 身体に浮かぶ汗など気にならなかった。 部屋の熱気よりも体の奥にある熱のほうが強く、甘く。 暑さに包まれた、頭が沸騰しそうな一夜。 理性が熱に溶かされ、じゅくじゅくとした夜が深まっていくのはこれからだった。 ＥＮＤ |