purification



　あのとき、頭の片隅ではひそかに計算していたのかもしれない。
　自分の正体をばらして啓太を驚かせ、その勢いに任せて告白してしまえば、啓太にきっと受け入れてもらえると。
　もし啓太が少しでも自分に好意をもってくれていた場合、そのまま雰囲気で流してしまえば啓太は混乱と興奮のうちに確実にこの腕の中に堕ちてくれると。
　そして啓太の好意と体とを手に入れてしまえば、啓太の性格なら後日冷静に振り返ったところで、もう自分からは離れられないと――既成事実を作り上げ快感で縛ってしまえばいいと、あのとき少しでも頭の片隅で計算しなかっただろうか。
　そんな余裕はなかったという自分と、無意識にでも計算していたかもしれないと思う自分がいる。
　本当に啓太を想い、啓太の気持ちを大切にするなら、あのとき告白だけでとどめて啓太がその気になるのを待つべきだったのではないだろうか。
　啓太に互いの気持ちを振り返る余裕を与え、それから少しずつ進んでもけして遅くはなかった。
　ただあのとき勢いに乗じてそのまま啓太を組み敷いたのは、愛情を盾にしたどす黒い欲望と、歪んだ執着からくる計算に過ぎなかったのではないだろうか。
　啓太が本当に大切ならば、このやり方は間違っている――いつからか、そんな考えが頭の中を占める。
　とても大切で、とても大事だからこそ。自分の傲慢と欲望で、これ以上啓太を振り回すべきではないのだ。
　もう一度すべてを戻して。
　ただ純粋な想いだけを残して。
　白くて清らかな世界に、啓太を解放するべきなのだ。







「ちょ、ちょっと和希っ。いきなりなにするんだよ･･･っ」
　押しつけられたベッドから腕を突っぱねて身を起こそうとしながら、啓太が慌てた声を出した。
　だがすぐに後ろからまわされた腕が制服のジャケットのボタンをはずしていく。器用な指にあっという間にすべてのボタンをはずされ、赤いジャケットがするりと啓太の肩を滑った。露になったうなじに唇が押し当てられる。
「か、和希っ！」
　やわらかな唇の感触に気を取られている間に、ジャケットから簡単に両腕を抜かれた。無造作にジャケットを後ろに投げた手が、今度は啓太のネクタイをゆるめる。それと同時に背中のシャツ越しに唇が押し当てられ、またその一方で啓太のシャツをズボンから引き抜いていく手がある。
　後ろから自分を抱きしめている和希が、今ものすごくその気になっていることは火を見るよりも明らかだった。服を脱がそうとする指にも押し当てられた唇にも、背中越しに感じる和希の体にさえ、そのすべてに欲望の熱がともっているかのようだった。
　たった今和希と一緒に部屋に帰ってきたばかりだというのに。自分の部屋に帰らずこの部屋に寄りたいと和希が言い出したときも、すぐにこんなふうに仕掛けてくるとは思いもしなかったのに。
　ドアを開けて電気をつけ、二人で部屋の中に入った途端に後ろから抱きしめられた。強引に顔を後ろに向かせられキスをされる。それから身体を押されて、啓太は床に膝をつくことになった。目の前にはベッドがあり、ベッドの端に手をついて身体を起こそうとしたのだが。そのまま和希が後ろからのしかかるようにして腕を前に回してきたのだった。
「和希ちょっと待てよっ。なんで今日はこんなにさかってんだよ！　ちょっと落ち着けってば」
「落ち着けない。啓太が欲しいよ。今すぐに」
　耳から聞こえる声はかすれていて、啓太は和希が自分を求めていることをよりリアルに感じた。
　脇腹からシャツの中に和希の左手が入ってくる。じかに肌を撫でられた感触に身体を竦めたときには、もう和希の指先が啓太の胸の突起にまで届いていた。
「和希っ。もっとこう、じゅ、順番てものがあるだろ。電気消したり、ベッドに移動したりさ。第一まだこんな早い時間に･･･あ、だから･･･っ」
　性急にズボンのバックルをはずされ、止めようとする啓太の手も難なくかわし、和希の右手がズボンの中に入ってくる。簡単に下着の中まで侵入した和希の手は、まださして反応していない啓太のそれを握りこんだ。
「や、和希･･･っ」
「啓太。膝で立って。ズボン、おろしたいから」
　ゆるゆると啓太自身を扱きあげながら、和希が啓太を促す。ズボンをおろされた先になにが待っているかなんて、考えなくても明らかだった。
「それにそのほうが、俺も手を動かしやすいからさ」
「こ、この続きはしないっていう選択肢はないのかよ･･･」
「ないよ。ほら啓太、腰を上げて」
「あっ･･･！」
　胸から離れた手が啓太の尻に回り、その身体をぐっと引き上げる。啓太の上半身は自然とベッドに投げ出され、床に膝をついて尻だけ突き出す格好になった。下着から引き出され和希にもてあそばれている啓太自身の先端が、ベッドのサイドを擦る。その動きはどうやら和希が故意にしているようで、啓太はそのあとしばらく先端を無機物に擦りつけられた。
「あ、だから和希･･･っ」
　抵抗を示しながらも、和希の巧みな手によって少しずつ啓太の身体は反応しはじめていた。敏感なところを扱かれ、指でくすぐられると、どうしてもそこに血が集まってしまう。このままなしくずしに抱かれるのはいやだと思ったところで、身体が心を裏切ろうとする。啓太は無意識に目の前のシーツをつかみ、次々に襲いくる快感の甘さに耐えた。
「んっ･･･あ･･･っ」
　和希の左手がゆっくりと啓太のズボンと下着を下ろしていく。だんだんと自分の下半身が露にされ部屋の空気に晒されていくのがわかり、啓太は気恥ずかしさに身をよじった。
「いいよ啓太。すごくかわいい･･･」
「ふっ、ふざけんなよっ。だから、なにいきなりさかってんだって聞いてんだろ？」
「いきなりでもないよ。今日の授業中、ずっと啓太にこうしたいって考えていたんだからさ」
　和希の手が露になった啓太の双丘を手のひらで撫でた。
「じゅ、授業中!?」
「啓太には伝わらなかった？　俺、ずっと啓太のことを見て頭の中で啓太のことを犯してたんだけどな。俺の頭の中では肌を晒した啓太が俺にしがみついて、必死におねだりしていたんだよ」
「しっ、知らないよそんなの」
「授業を受けている啓太を見ながら啓太の制服を一つ一つ脱がして、ちょっとずつ触っていく過程を頭の中で想像してたよ。俺が悪戯するたびにみだれて泣きそうになる啓太を想像した。啓太はすごく敏感で、授業中だっていうのに甘い声あげて、俺のこと潤んだ目で見上げてたなあ」
「な、なに考えてんだよ和希！　授業中にそんなこと･･･っ」
「だから、啓太のことだけを考えてたんだって。啓太の感じてる表情とか、啓太の熱さや気持ちよさのことばかり考えてた。嬉しいよ啓太。今度は俺の想像じゃなくて、本物の啓太を味わうことができるんだもんな」
　双丘を撫でていた手に力がこもり、今度は揉みしだいていく。故意か偶然か和希の指先が割れ目やその奥にあたり、啓太の身体はぞくりと震えた。和希にベッドに押しつけられてまだ間もないのに、慣らされた身体が快感を拾い、和希にこたえようとしているのがいやでもわかる。
「啓太。ここに帰ってくるまで、俺ちゃんと我慢しただろ？　帰ってくるまでの間に適当な場所に連れこまなかっただけほめてほしいよ。我慢するのすごく大変だったんだからな。その分、これから啓太の身体にはたっぷりと俺を受け入れてもらうよ」
　――『ここで』。
　和希の囁きと同時に、啓太のそこに和希の指があてられた。二本の指でそこを撫でられ、それとともに前を扱く手に力がこもる。
「･･････っ」
　啓太自身の先端を執拗に擦りあげる和希の手はすでに啓太の先走りで濡れており、それがときおり淫猥な水音を立てた。
「か、和希･･･和希、本当にちょっと待てよ･･･っ。こ、こんなの･･･っ」
　シーツを握りこむ手に力を込め、啓太は喘いだ。今の和希が持つ雰囲気に侵食され、いつも以上の快感が身体の中に広がっていることに戸惑いを覚えた。和希の手の中で熱く勃ちあがった啓太自身からも、ゆるゆるとなぞられる後孔からも、蕩けそうなほどの快感を感じて意識がそれだけでいっぱいになる。
　なぜ今日はこんなにも感じてしまうのか。
　単に和希がいつもとは違い強引にことを進めているというだけの理由ではなく、そこには別の要素が絡んでいるような気がした。
　――背後で、かすかに笑う気配があがる。
「啓太は意地悪だなあ。ずっと我慢していた俺にまだそんなことを言うんだ。それもここをこんなにして自分もやせ我慢してるなんてな。それとも･･････急に感じすぎて怖くなった？　自分がものすごくいやらしい人間になったみたいで戸惑ってる？　でも、それが啓太なんだからそのまま素直に感じていいんだよ」
「ん――･･･っ」
「啓太。声、我慢したらだめだよ。俺の頭の中の啓太は、ちゃんと声を抑えないでみだれてくれたよ。本物がそれに負けちゃったらだめだろ？」
「･･･は･･･っだ、だったら、和希が頭の中で勝手に俺のこと想像して、一人でぬけばいいだろ!?」
　悔し紛れにそう言い返すと、和希からはいっそう楽しげな声が返ってきた。
「まさか。想像してぬくより、本物の啓太の中に挿れたほうが気持ちいいだろ。そんなの、当たり前だろ。啓太のここに挿れて思うとおりに突き立ててかき回して･･･啓太だってそのほうがいいだろ」
「よく、ない･･･っ」
「そのわりには、俺が触るたびにここ、ひくついているよ」
　前を扱いていた和希の右手が啓太の双丘にまわる。それまで後孔に触れていた左手に代わり、啓太のそこに先走りで濡れた指先があてがわれたのがわかった。やがて指先から手全体が押し当てられる。乾いていたそこがだんだん濡らされて、滑りのよくなった和希の手が何度もそこを刺激していった。そのたびに昂ぶった身体がかすかに震え、みだれた吐息をこぼす。
　シーツをつかむ手はいまだボタンすらもはずされていない制服のシャツに包まれ、ネクタイは引き抜かれないまま首にかかっている。膝下にはまだズボンと下着がからみ、天井からは煌々とした電気が室内を照らす。
　そんな状況なのに背後からのしかかっている和希の手に溶かされ、もうそこに和希を受け入れる準備をさせられている。いつもと全然違うやり方なのに、後ろを濡らされ指でほぐされてくると、そこにもっと強い刺激が欲しくて啓太はだんだん追いつめられた。
「･･･あっ･･･ああっ･･･和希･･･っ」
　和希の左手はベッドにかかり、今は啓太自身を扱く手はない。一度触れたきり和希の指が胸にかかることもない。ただどちらもかすかな身体の振動でシーツに擦れる摩擦だけが唯一の刺激なのだ。じりじりと身体を焼くその鈍い刺激だけが。
　なのに――あるいはだからか、和希の指先が触れる啓太のそこが和希が言うようにひくつき、だんだんほしがっていることを啓太はいやでも実感させられた。和希が今明確な意思でもって触れているのがそこだけだからか、ならばもっとと欲しがる気持ちが芽生える。
「ふぁ･･･あっ･･･んん･･･っ･･･」
　指が押し込まれ中をほぐしていく。慣れた指先が啓太の感じる箇所を的確に責め、指の数を増やしていく。
「は･･･っあ、和、希･･･っ」
「なに、啓太」
　和希が啓太のシャツをめくりあげた。あらわになった背中に和希のキスが落とされ、そして舐められる。
「あ･･･っ」
　それすらも今の啓太にはより甘い快感に変わった。
「もうそろそろいいかんじ？　まあ指三本がこんなに動くんじゃ、もう充分だよな。啓太。俺が欲しい？」
「ん･･･っ、んん･･･っ」
「さっきはちょっと待った、とか、一人でぬけばいいとか冷たいこと言ってたのにな。今は欲しくて欲しくてたまらない？」
「あっ･･･ああっ･･･」
「言って、啓太。俺が欲しいって」
「･･････っ」
「それとももっとここ、ぐちゃぐちゃにかき回して欲しい？　最初は指だけでいきたい？」
「違･･･っ。･･････欲しい、よ･･･もう、和希が欲しい･･･」
「どこに？」
「･･･俺の中に。か、和希のが欲しいよ･･･っ」
「――すっかり、慣らされちゃったな」
　啓太に聞こえないほどの小さな声で呟いて、和希はのしかかっていた啓太から身を起こした。啓太の膝下に引っかかっていたズボンと下着を脱がせ、自分のズボンの前を寛げていく。
　無論啓太を欲しがる気持ちは充分ある。授業中、啓太を思って我慢していたのも事実だ。
　ただなにも知らなかった啓太を自分がここまで慣らしたのだと思うと、反射的にいだく充足感とは裏腹にどこかで自嘲を覚える。啓太の身体をここまで慣れさせてしまったのは、自分のエゴのように思えた。
　――あのとき啓太の気持ちが追いつくのを待つよりも、自分の欲望と焦燥を優先させたエゴ。
「啓太。じゃあ、挿れるよ」
「ん･･･っ」
　啓太が小さく頷いたのを見て、和希はベッドに片手を突き、今までほぐしていたそこに熱く猛った自分自身をあてがった。そのままゆっくりと腰を進める。
「あ･･･っ、ああ･･･っ」
「もう少し力を抜いて･･･そう、いい感じだよ」
「ん･･･っ」
　徐々に押し進めていくと、啓太がかすかにつらそうな表情を見せた。その様子を気遣いながらも、和希は啓太の身体のタイミングを見て自身のすべてをおさめた。
「･･･啓太。全部入ったよ。啓太にも、俺が啓太の中にいっぱい入っているのがわかるだろ？」
「･･･っそ、そんなこと言うなよ･･･」
「どうして？　ほら、啓太のここがぎちぎちいってる」
　和希の指先が、啓太と和希とつながっている部分の縁を撫でた。
「･･･あ、かっ、和希･･･」
「ここも感じる？　今啓太の中には俺が入っているのにな。啓太はほんとに際限なく感じちゃうんだな。啓太が感じると、すぐにここを締めつけてくるからわかるよ」
「･･････っ」
　縁をくすぐりながら啓太の中でかすかに身じろぐと、すぐに啓太の身体が反射的に和希の動きに反応した。その心地よい締めつけに、和希の口元に笑みが浮かぶ。頭の中が溶けてしまいそうなほど甘美で愛しい身体。このまま溺れてしまいたいほど――永遠に抱いていたいと思うほどに。
「啓太。動いてもいい？」
「ゆ･･･ゆっくりなら･･･」
「じゃあゆっくり動くよ。最初は」
　啓太に前置きして、和希は動きはじめる。これまで何度も抱いてきた啓太の身体を堪能するようにはじめはゆっくりと。それから体内で急激に膨らむ熱に任せてだんだんとその動きを激しいものにしていった。
「･･･あっ･･･和希･･･っ」
「啓太･･･すごく気持ちいいよ。啓太も気持ちいい？」
「う、うんっ･･･あっ、あぁ･･･っ」
　啓太の中を何度も突き、あるいはかき回す。自分の下にある啓太の身体がそのたびに快感に震え、濡れた声で喘ぐのを、和希は啓太の熱に包まれながらじっと見つめた。啓太が感じているその表情さえ、さらに自分を荒々しく駆り立てていく。
　和希は啓太の前に手を回すと、先程よりも熱く勃ちあがっていた啓太自身をいくらか乱暴に擦りあげた。たちまち啓太の口からいっそうみだれた声があがる。
「･･･和希っ･･･かずき、俺、も･･･っ、そこ、までされたら･･･っ」
　啓太の腰が揺れ、和希を包む啓太の締めつけにも啓太の限界が近いことが表れていた。和希はさらに強く自分を打ちつける。
「いいよ、一緒にいこう･･･」
　啓太を導きながら、和希はふと、啓太を初めて抱いたときのことを思い出した。この体勢はあのときに似ている。
「あっ･･･ああっ･･･っ」
　和希の手の中の啓太が震え、手に濡れた感触が走った。そのあとすぐに和希も自分を解放する。
啓太の中に自分の欲望を叩きつけながら、和希の脳裏には初めて啓太の中に出したときの記憶が重なっていた。
　――あれは、最初の過ち。



　絶頂の余韻が少し薄れてくると、啓太は這い上がるようにして自分の身体をベッドに投げ出した。まだ呼吸は荒く、体内の熱は引かない。だからこそ力の入らない全身を受け止めるベッドのやわらかさが心地よかった。
　そのあとで、先ほどまで自分の上にのしかかっていたはずの和希の気配を探す。ベッドに頬をつけたまま視線を移していくと、ベッドの脇に座り込み、自分の手を舐めている和希の姿を視界に入れた。
「和希、ティッシュそこにあるだろ!?」
　慌てて顔をあげ、和希の足元を指差す。
「なんで？　必要ないよ」
　和希からはこともなげな返事が返ってきた。和希がそうするのは一度や二度ではないといっても、啓太としてはどうしても恥ずかしくて慣れない。
「だってやっぱりさ･･･」
「それより啓太のシャツにもついちゃったな」
　手を舐め終えた和希が、啓太が横になっているベッドに膝を乗せてきた。手を伸ばしてうつ伏せている啓太のシャツのボタンを探る。
「それにこっち、ずっと中途半端だったよな」
「中途半端って･･･」
　啓太のシャツのボタンをはずしながら、和希の手が啓太の胸を撫でた。指先が啓太の胸の突起を軽く押しつぶす。
「･･･っ･･･」
「啓太は、ちゃんとここもかわいがられないといやなんだよな。それなのにずっと触ってなくてごめんな。今度はこっちも･･･」
　啓太のシャツのボタンをすべてはずしたあと、首に絡んでいたネクタイを解いて放り投げる。それから和希は啓太の腕をつかんで啓太を仰向けにした。すぐに身体を重ね、啓太の胸に唇を寄せる。
「べ、別にそんなことない･･･」
「嘘つき。そんなことあるだろ」
　和希の濡れた舌先が啓太の胸をつついた。固く立ち上がっている突起の周りにも舌を這わす。それとともに和希の左手は啓太のもう一方の突起に触れていた。指で摘まれ、ゆるくこねくり回される。また和希に舐められているほうも、だんだん執拗に嬲られるようになった。
「ふぁ･･･あっ、和希･･･っ」
　達したばかりだというのに、身体がぞくぞくしてくる。和希の舌先で転がされ、歯で擦られると、下半身に再び熱が集まる。ときに痛みを与えられ、ときにやわらかく触れられ、あるいは焦らすように掠めるだけで離れていく指先や唇に、啓太は身悶えた。少し身体を起こして和希の背中を叩いても押し返そうとしても、和希の愛撫はそこから離れることなく、啓太はしばし胸だけを責められ続けた。
「あっ、やっ･･･もうそこだめ、ほんとにだめだって、和希･･･っ！」
「だから、今日は全然こっちをかわいがっていなかったからサービスだよ」
「そ、んなサービスなんかいらな･･･っ」
　喘ぎ喘ぎそう訴える啓太の目はすでに濡れていて、顔をあげた和希は再び高まってきている啓太の様子に満足を覚えた。それまで嬲っていた啓太の胸の突起を、指ではじく。
「ひゃぁっ･･･」
「もうここは充分？　じゃあ今度はこっち？」
「･･･っ」
　和希の手が再び啓太自身にかかった。すでに固くなったそれを手で包み、和希はその感触を楽しむ。
「んっ･･･や、だ」
「啓太の、もうこんなになってる。そんなに今の気持ちよかった？」
「･･･和希、服･･･っ」
　啓太の手が和希の服をつかんだ。潤んだ目で必死に和希を見上げて訴える。
「俺ばっかり脱がすんじゃなくて、和希もちゃんと脱げよ。もし、も、もう一回する気なら」
「･･･それは、啓太がもう一回してほしいだけだろ？　ここがこんなふうになってたら、そりゃあもうおさまらないよな」
「･･･和希がしたくないんなら、しなくてもかまわないよ俺は！」
「――」
　睨みつけてくる啓太の唇に、和希は軽く口づけた。
「降参。俺のほうがしたいよ。啓太の中にもう一回挿れて気持ちよくなりたい」
「･･･っ。そんな露骨な言い方するなよ」
　それから和希は啓太の手を取ると、自分の服に導いた。
「服。啓太が脱がして」
「･･････」
　恥ずかしい気持ちはあったが、なぜか拒否できない雰囲気を感じ取り、啓太は自分の肩に引っかかっていたシャツを脱ぎ捨てると、和希の制服に手をかけた。和希の服を脱がしている間、和希は幾度も啓太に口づけ、肌を優しく撫で上げた。
　和希を脱がし、またその間和希に優しく触れられると、強い刺激でもないのに啓太の中で和希を求める気持ちがいやがうえにも高まっていった。繰り返し交わすキスが身体よりも気持ちを盛り上げ、先程よりも強く和希を求める。
「･･･和希はずるい」
　ふと、啓太の口からそんな言葉が滑り落ちた。
「ずるい？　俺が？」
「ずるいよ。結局和希は俺をその気にさせちゃうんだもんな。俺がどんなに今はできないって思ってても、和希がその気になったら俺はいつも和希に引きずられるんだ」
「俺だって、啓太に引きずられるときがあるよ。俺がどんなに今はまずいよなあって思ってても、啓太のかわいさに誘われちゃったらどうしようもなくなるんだ」
「俺は誘ってないよ」
「誘ってるよ。啓太の表情や仕草の一つ一つが俺を誘惑してる」
「そんなんで誘ってないっ。お、俺が誘うときは、もっとわかりやすい方法を取ってる･･･」
　頬を染めて俯いた啓太の目の縁に、和希が下からくちづけた。
「勿論本当に啓太から誘われたら、俺はすぐにくらくらしてその気になっちゃうよ。でもそうじゃなくても、俺はほら、リミッターが弱いからさ」
　『――そんな顔されたらもう我慢できないよ』
　啓太の耳元で和希が囁く。そのまま耳朶を舐められた。
「･･･っ･･･」
「啓太のここも中途半端でかわいそうだもんな」
　和希は自分の身体の位置を下にずらすと、勃ち上がったままの啓太のそこに改めて手をかけた。身体をずらしたためにちょうどその位置に和希の顔があり、手とともに啓太自身に和希の吐息がかかった。
「あ･･･っ」
「やっぱり啓太のここって、啓太と一緒でかわいいんだよな。これぐらいの刺激で感じちゃうところがなんともいえないよ。ちょっとつつくと、すぐにほら、ここからいやらしくにじみ出てくるしな」
　和希の指が啓太の先端を幾度か擦ると、たちまち啓太のそこが濡れはじめた。
「べとべとになった啓太のここは、すごくいやらしいよ。だからもっとそうしたくなる。俺の手でいつもと違う顔にして、もっとどろどろにしたくなるよ」
「･･･っあ、和希･･･っ」
　和希は啓太自身やその下にある袋を揉みしだきながら啓太の足を広げた。啓太の太腿の下に手を入れて膝を立てさせると、内腿や露になった秘所に先ほどの行為の名残が残っていた。和希の指がそこをなぞる。
　和希は目をすがめた。無垢な啓太のそこに白濁した澱が絡んでいた。清らかなものを穢した証。薄汚れた欲望の残滓。
「か、和希っ。そ、そこばっかり見るなよ」
「ごめんごめん。啓太のここに俺が出したものがついてたからちょっと見入っちゃったよ」
「･･････っ。そんなの見入るなよっ」
「だってすごくそそる眺めだったからさ」
　和希は広げた啓太の両足の間で身体を起こすと、再び自分の名残に指を這わせた。唇に冴えた笑みが浮かぶ。
「――まだよごれていない綺麗な啓太の中に挿れるっていうのもいいけど、そのあとで、すでに俺のを受け止めてよごれている啓太をさらに穢すのもたまらないよ。もっと激しく犯したくなる」
「･･･和希っ」
「啓太のここにまだ俺のが残ってる。ほら、中はまだとろとろみたいだよ」
　起き上がろうとした啓太の身体を手で押さえ、和希は啓太のそこに指をうずめた。
「･･･んっ･･･」
　先ほどの行為で一度溶かされたそこはまだ熱を持っているようで、和希の指をさしたる抵抗もなく受け入れ、その動きを自由にさせた。和希の指が中をかき回す。
「啓太にも聞こえる？　啓太の中で俺のがぐちゃぐちゃいってる。啓太はここで俺のを何回受け止めたんだろうな」
「･･･んなの、覚えてな･･･っ」
「数え切れないほどたくさん、かな。それくらいたくさん啓太のここは俺を受け止めて、そのたびに俺に穢されていったんだよな。何度も何度も、俺に挿れられてよごされて――」
「･･････っ！」
　和希の指で中を責められながらも、啓太は自分の身体を押さえる和希の腕をつかんだ。その唇からみだれた息を吐きながらも、和希の腕に故意に爪を立てる。
「和希･･･っ」
「なに、啓太。もう指だけじゃたまらなくなった？」
「そうじゃない。そうじゃなくて。･･･そりゃあ綺麗なものとは言わないけど、自分だけがよごれているみたいな言い方はよせっ」
「･･････え？」
「俺だって男だし、和希とおんなじだろ!?　俺は別に和希に抱かれて汚れていくわけじゃないだろ。元からそんな綺麗な人間じゃないし、汚したとか穢したとか、そんな言い方はよせよ！」
「･･････啓太」
「和希。おまえはなにか思い違いをしてる。普段からそんなこと考えているんなら、俺、おまえのこと殴るからな！」
　快感に目元を染めながらも、毅然としたまなざしが下から和希を見つめる。腕をつかむ啓太の手の力は強く、それだけこのことに関する啓太の感情の激しさを物語っていた。
「俺と和希は対等だろ!?　同じ男だろ!?　なのにそんな言い方――」
「･･････そうだな」
　和希はそう言って、啓太の中から指を引き抜くと、そのまま啓太の身体の上に倒れこんだ。腕を回し、そっと啓太の身体を抱きしめる。
「ごめん、変なこと言った。今のは忘れてくれよ」
「和希･･･」
「どうしてもいたいけな少年にいかがわしいことを一方的に教えているみたいな気になってさ。確かに同じ男なんだから、持ってるものも出すものもおんなじ、だよな」
「そ、そうだよ･･･。俺たちがこうしてるのは一方的なものじゃないだろ。そりゃあ、和希のほうが仕掛けてくることのほうが多いけどさ･･･」
　啓太も和希の頭に腕を回してきた。啓太の手が優しく和希の髪を撫でる。
　その手を心地よいとして受け止めながら、和希は心の中で思う。こういうところが、身体は同じであっても啓太と自分とを大きく隔てている部分なのだと。肉体よりもなによりも、啓太はその精神こそが無垢なのだ。幾度抱いていてさえ。
　――だから。
「啓太。続き、してもいいか？　もうあんなこと言わないからさ」
「う、うん。いいよ。俺も、もう早く和希にきてほしいよ･･･」
　啓太の手が和希の髪から離れる。和希は啓太の身体から腕を解いて身体を起こすと、改めて啓太の両膝を大きく割った。
　――だからやはり、もうこれで啓太を解放するべきなのだ。
　和希は再び啓太の中に指をうずめ、そこをほぐしていく。
「･･･ん･･･っあっ･･･」
　さほどほぐすこともなく、すぐにそこは和希を受け入れる準備が整っていた。最初の行為の名残が、和希の指のすべりをよくする。
「啓太･･･」
　和希は指を引き抜くと、挿れる前に啓太の身体を見下ろした。
「ん･･･なに･･･？」
「ごめん、先に言っとくよ。今日はこのあともう自制利かないから」
「えっ!?」
「きっともう止まらなくなる。とことんまで啓太を求めて、啓太のすべてを奪うよ。･･･でも」
　でもこれが、最後だから。
「でも？」
　啓太に問われても和希はその続きは口にせず、ただ啓太に向けて優しく微笑んでみせた。
「啓太。好きだよ。愛してる。･･････ずっと。俺のすべてはおまえのものだよ」



　解放。
　想いの浄化。
　ただ純粋な想いだけを残して。薄汚れた欲望とは切り離して。
　白くて清らかな世界を、啓太に返すのだ。

　――もう、啓太を抱いたりはしない。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ＥＮＤ

この話には本当は続きがあって、和希は啓太を抱かなくなるけど、それに気づいた啓太が和希の考えをすべて聞き出して、叱って……
そして最終的にはちゃんとハッピーエンドになる話なのです