初お披露目

　　　　初お披露目

　――財界のパーティー会場にて。

「か、和希。俺、やっぱりこんなところ場違いだって…」
「啓太。今までにも来たことあっただろ」
「それは和希に急ぎの用事があったときだけだし、それに俺、会場にいたのはほんの短い時間だけだっただろ。だからずっとここにいるのは無茶だよ…」
「大丈夫だって。俺が一緒にいるんだし、啓太は何もしないで、ただ俺の隣にいてくれればいいよ」
「だからそれが……」
「けーいた。一度は一緒に来るって決めてくれただろ。ここで尻込みしない」
「だってここの雰囲気、今までより華やかで規模が大きくて俺の想像以上で、せ、世界が違うっていうか…っ」
「だからだよ。啓太が俺のパートナーだって紹介するには、ちょうどいい機会だろ。すぐに広まって話が早い」
「か、和希……」
「――実は今日、ちょっと難しい相手とも会うんだ。うまく話ができればうちはもっと大きく発展するし、信用を得られなかったらちょっと軌道修正しなくちゃいけないくらい厳しくなる…。だから俺の隣に啓太がいてくれれば、俺はすごく頑張れるし、仕事もうまくいきそうな気がする。啓太の運を分けてほしいんだ。……それでもだめか？」
「それなら…。俺は何もできないけど、和希の仕事の邪魔にならなくて、ほんの少しでも手助けができるなら…」
「ありがとう啓太！　啓太がそばにいてくれれば、俺は百人力だよ。じゃあそろそろ行こうか」
「手…つなぐのか？」
「啓太の運を分けてもらうためだからな。ちょっと寂しいけど、勿論会場では離すからさ」
「わ、かった…」

「あら、鈴菱さん。珍しいわね、あなたが誰かを連れていらっしゃるなんて」
「こんばんは。ご無沙汰しています」
「お隣のかわいい彼はどなた？」
「私のパートナーで、伊藤啓太と言います」
「パートナー？　お仕事上の？」
「いえ、プライベートの、です」
「まあ！　まあまあ、そうなの！」
「か、和希。俺ちょっと飲み物とってくるよ。すみません、失礼します」

「ふふ。本当にかわいい人ね。私、鈴菱さんのそんな嬉しそうな顔初めて見ましたよ」
「そうですか？」
「ええ。そんなにしまりのない顔」
「すみません。初めて彼を私のパートナーとして連れてきたのでつい顔がにやけてしまって。これからできるだけ彼を身近に置きたくて……私の場所の中に、彼の居場所も作っていきたいんです。どうやら私と彼の世界が違うと思われているふしがあって、それでいつか振られて逃げられそうで怖いんですよ。だから逃げられないように周りから固めて居場所を作っておきたいんです」
「まあ… ほんとに彼が好きなのねえ」
「ええ。私の人生は本当に彼のためだけにあるので」

「……やっぱり緊張するよ…」
「そうか？　笑顔もぎこちなくなかったし、あまりそんなふうに見えなかったぞ」
「……それは嘘だろ」
「緊張してる啓太はとてもかわいいよ」
「和希！　……和希に少しでも恥をかかさないようにって、こっちは必死なんだからな…」
「啓太で恥をかくことなんて絶対にないよ。俺の恋人はこんなにかわいいんですって自慢する理由が増えるだけだよ。……さっきもしまりのない顔って言われちゃったしな。俺は、啓太を公の場でも俺の隣に連れてこられて本当に嬉しいんだよ」
「……本当に？」
「本当に」
「…和希がそう思ってくれてるなら、俺は、どんなに緊張してても恥ずかしくても頑張れるよ。……頑張れるけど…」
「けど？」
「ますます、俺自身が納得できるような、和希の隣にふさわしい人間に早くなりたいと思うよ」
「啓太。でもそんなこと気にすることないよ。啓太は自然体でいいんだよ」
「だから、和希が思うんじゃなくて、俺が自分で納得できる俺になりたいんだって。胸を張って、俺は和希のパートナーですって言えるようにもっと頑張りたいんだ」
「啓太…」
「すごく緊張したけど、今日この場に連れてきてもらって感謝してる。俺を和希のパートナーだって紹介してくれて。俺も改めて自分の心を決めることができたよ。――これからうんと努力して、俺は和希の隣にいるのが当たり前に思われるくらいに、俺の居場所を作るよ」
「居場所…」
「和希の隣を、誰にも譲りたくないからな」
「……」
「和希？　なんだよ」
「…怖がること、ないのかなって」
「…和希。またなにかつまらないこと…」
「まあまあ。啓太は本当に魅力的で、俺はますます啓太のとりこになるよ。でも頼むから、頑張りすぎてこれ以上他の男から惚れられないでくれよ」
「これ以上ってそんなの…」
「俺の隣は啓太だけだし、啓太の隣もだれにも渡さない。これからたくさん、世界中に向けてそれを証明していこうな」
「せ、世界って…」
「まずは、もっともっと啓太を紹介したい人たちがいるんだけど、付き合ってくれるか？」
「勿論」
　そう答えたあとで深呼吸して。
「頑張るよ」
　啓太は和希に笑顔を向けた。
　それを和希も笑顔で受け止めて、二人で同じ世界に歩き出した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　20141103-1206

実際にあった大企業のトップの人のゲイのカミングアウト話から、和希が、財界のパーティーで、啓太のことを自分のパートナーだとお披露目するのもいいんじゃないかなと思いついた話。和啓のいくつかある未来の一つというイメージ。啓太をパートナーだと公表しない未来も、それはそれでいろいろこじれて、より深く熱い和啓になりそうです。