階段 　子供から大人へ、一つ一つ階段をのぼる。 　卒業、大学入学、卒業、そして就職。 　二十歳になって覚えた飲酒、最近とった車の免許。 　慣れてきたスーツとネクタイ、腕時計。それからたまにカフスボタン。 　あとなにをすれば、彼にもっと近づける？ 　けして追いつくことはできないけど、少しでも近づけるように、ステップアップ。 『無理をすることはないよ。啓太は啓太だろ』 　優しい恋人はそう言うけれど。 　早く、早く。 　もっと早く、かっこいい大人である彼に近づきたい。 　早く――でも、待って。 　ぴたっ。 　世間的には、恋人や配偶者は若い方が嬉しいもの。 　男なら。 　出会ったときからもう何年も経っていて、このまま急いで自分が大人になったら…… 　古くなったら……捨てられちゃうんじゃないの？ 『――啓太、またなにかつまらないこと考えてるだろ』 『つ、つまらなくなんかないっ』 『その理屈だったら、俺の方が若い啓太に捨てられちゃうだろ。世間では俺みたいなおじさんはだんだん若い恋人に相手にされなくなるんだからさ』 『そんなことない！！』 『そうかな？』 『和希！』 『じゃあ俺も同じだよ』 　そう言って、その人はにっこりと笑って。 『俺が好きになった相手がたまたまそのとき学生だっただけで、啓太は啓太だよ。ずっと変わらない』 　優しく両手を握りしめてくれた。 　階段、階段、ステップアップ。 　あとなにを覚えればいい？　経験すればいい？ 『んー、啓太はもう十分じゃないか？　フェラだろ、シックスナインだろ、テレホンセックス、目隠しプレイにコスプレにカーセックス……うん、いろいろしてもらったし。あとしてないのはなんだろうな？　緊縛？』 『〜〜〜〜〜和希――――――っっっっ！！！！！！！』 『まあまあ。じゃあ今度、俺もまだしてないこと一緒にやろうな』 『……それ系のプレイとか絶対っいやだからなっ！』 『違うよ。啓太、耳貸して』 『……なんだよ』 『――結・婚・式』 『――っ』 『家族になって家庭を持つのは、大人ならではだろ？』 『――』 『無理なんて言うなよ。俺は、啓太のことを世界中に誓いたいんだからさ。勿論、俺とはいやだなんて言うのは、却下な』 『そんなこと言うわけないだろ。……ありがとう和希』 『啓太。一緒に幸せになろうな』 　じゃあこの先は。 　手をつないで、二人で一緒に階段をのぼっていこう。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　20141117