紙飛行機 「あ、紙飛行機だ」 　どこからともなく飛んできた紙飛行機を見て、啓太が声をあげた。 「なつかしいなあ。子供のとき、よく折ったよな」 「そうだな、なつかしいな。昔、啓太に紙飛行機折ってってねだられたことがあるんだよな」 　啓太の隣で和希も、昔を思い出して目を細めた。 「そんなことあったんだ」 「ああ。啓太にねだられて折ってみたけど、うまく飛ばなくてな。そのうち啓太が俺のを見て折り方を覚えて、自分で折ってみて……」 「折り方がぐしゃぐしゃだったって言いたいんだろ」 「確かに折り方が曲がっていたところもあったな。でも」 　和希はそのときの情景を脳裏に思い浮かべる。 　幼い啓太の折った紙飛行機はよれていたところもあったのに。 「ちゃんと飛んだんだよな。啓太の紙飛行機は風に乗って、まっすぐに」 　あのとき、きれいに飛んだ紙飛行機を見てふと思ったものだった。 　啓太は、こんなふうに自分を越えて未来に向かって飛んでいくのだと。 　今はこうして幼くとも、すぐにもたもたしている自分など置いて、明るい未来に向かってまっすぐに。 　ずっと先まで。 「……」 　それは今もそうなのかもしれない。 　啓太は、自分など越えてこの先の未来まで――。 　自分の思いに沈みこんだ和希の頬が、いきなりぐにっとつねられた。 「…っ痛…啓太!?」 　そこにあるのは恨めしそうな瞳。 「今、ろくなこと考えてなかっただろ和希。表情でわかるんだからな」 「ろくなことって……ひどいな。俺はただ」 「ストップ。その先は言わなくていいよ」 　啓太は和希の言葉を遮り、そして続けた。 「子供の頃、俺の紙飛行機が飛んだのは和希のおかげだろ。和希が折り方を見せてくれたからであって、俺一人じゃきっとうまく飛ばなかった。つまりそれだけ和希が必要だったってことだろ。というか、ほんとはただ」 「ただ？」 　一人で折ってみせて、ただカズ兄にほめられたかっただけ――。 　その言葉を飲み込み、啓太は微笑む。 「和希。部屋に帰ったら久しぶりに二人で紙飛行機作って飛ばしっこしようか」 「その続きはなんだよ、啓太。気になるだろ」 「俺、すごくよく飛ぶ折り方知ってるんだ」 「啓太」 「折り紙が下手な和希になんか絶対負けないからな」 「言ったな。あのときはたまたまだろ。俺の折り方は正確だぞ」 「じゃあ二人でうまく風に乗せて飛ばそう」 　――どこまでも続く未来まで、一緒に。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　20080228