リベンジ 　街からベルリバティに帰る途中、啓太はたまたま見かけた駄菓子屋で一本のアイスキャンディを買った。 　啓太は喜々としてそのアイスキャンディを舐めはじめる。 　白いミルク味のキャンディーはよく冷えていて、とても甘かった。 「啓太、そのアイス好きだよな。前にも食べてただろ」 　啓太の隣を歩く和希がやや呆れた声で言った。 「そうそう、これ甘くておいしくて大好きなんだ。……にしても、よく覚えてたな。和希の前で食べたのなんか少し昔のことだろ？」 「まあな。たまたま覚えてたっていうか……」 　インパクトが強かったからな――との和希の呟きは、啓太には聞こえなかった。 　啓太は本当においしそうに、赤い舌を見せてぺろぺろと舐めている。ときおりアイスキャンディをくわえ、口をすぼめたりもする。 　唇や舌にわずかに残るアイスの白色。 　和希はその様子を横目で見ていた。ついつい唇や啓太の舌使いに目がいってしまう。以前も別のことをイメージしてしまい、啓太の口元から目が離せなかったのだ。 　アイスがたれそうになったり、それを慌てて舌ですくうさまがまたなんとも……。 「和希？」 「え？　なに」 「なにって、さっきから黙ってアイスばかり見てるけど。もしかしてちょっと食べたくなったのか？　だったらほら」 　啓太が持っていたアイスキャンディを和希に差し出した。 「俺の食べかけでよかったらやるよ」 「あ…ああ…」 　差し出されたアイスキャンディの棒を和希は受け取る。 　そしてアイスキャンディを数秒無言で見つめたあと。 「じゃあ、少しもらうな」 　啓太に向けてにっと笑って、和希はアイスキャンディを舐めはじめた。 　――和希の舌が、ゆっくりとアイスキャンディの表面を滑る。奥から手前、手前から奥へと。舌先で舐めたり、舌を丸めように這わせたりと、和希はアイスキャンディを持つ手をやや上にあげてじっくりと味わっているようだった。 　ときおり濡れた水音まで聞こえた。 「……か…和、希…？」 　和希の唇が開く。アイスキャンディの先端から少しずつくわえこんでいく。 「和……」 　呆然とその様子を見つめている啓太に、和希は無言のままちらりと視線を送った。そのままさらにゆっくりアイスを舐め続ける。 「――」 　啓太は和希のその様子から視線をはずすことが出来なかった。 「あーおいしかった。ありがとうな啓太」 「う、うん…」 「ほんと、啓太の言ったとおりおいしかったな。すごく……甘くて」 「よ、よかったな」 「啓太？　続き食べないのか？　早く食べないととけちゃうぞ」 「た、食べるけど。食べるけど……」 　少しずつまたアイスの続きを食べはじめたものの、啓太はアイスがなくなるまで、ずっと俯いたままだった。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　20080327