長いキスのあと、二人はベッドに移った。 だが和希は自分だけベッドに横になり、啓太にはベッドに腰掛けさせた。 久しぶりに与えられた本格的なキスでその気になっていた啓太が、戸惑いながら和希を見下ろす。 「か、和希、なんで……」 「だから、今日は俺をリードしてくださいってさっき言ったじゃないですか、伊藤先生。俺がほしいなら、先生が俺を誘導してください」 啓太の手を導き、自分の着ているシャツのボタンに触れされる。 「まずは俺を脱がしてください。あ、先に先生が脱いでくれるのもいいですけど」 「リ、リードって、そんなの俺…っ」 「伊藤先生は経験豊富なんだから大丈夫ですよ。なにも知らない男子高生をリードしてその気にさせるなんて朝飯前ですって。あ、俺初めてなので優しく導いてくださいね」 「なにが初めて…！ それに俺が経験豊富って、そんなの全部和希が俺に経験させたことだろっ!?」 突っ込みどころ満載の和希の言葉に、啓太が声を上げる。 それに対して和希は笑顔でそれを受け止めたあと、再び啓太の手を促した。 「ほら、先生焦らさないでください。先生は余裕あるのかもしれないけど、こっちはドキドキなんですよ」 「余裕なんて……」 「俺の服脱がせて俺に触れてください。俺も、早く先生の滑らかな肌に触れたいですしね。……久々だからこそ、俺を欲しがって自分から懸命に求めるところが見たいんですよ、伊藤先生」 「――っ」 敬語で先生呼びではあったが、最後の言葉にまぎれもない和希の本音が見えて、啓太はため息をついた。久しぶりの逢瀬だからこそ自分を求めているところが見たいなんて言われたら、これ以上逆らうことなんてできなくて。自分が和希を早く欲しいのは事実で、だから理事長でもある遠藤和希ならいくら一年生でも童貞なわけはないだろうと和希が提示した設定に突っ込みつつも、啓太は意を決する。 「こんなのに付き合うのは今日だけだからな。……俺がどんなに和希を好きで、久々に会えてどんなに喜んでて、そしてどんなに和希を欲しがっているか、ちゃんとその目で見てろよ」 「……楽しみですよ、先生」 啓太はベッドに乗り上げると、自分から和希にくちづけた。想いを込めて濃厚なキスを仕掛ける。 それとともに和希の身体に服の上から触れた。服を通して感じる和希の肌に興奮を覚えながら、もどかしげにシャツのボタンに手をかける。ボタンをはずしたシャツから、すぐさま手を差し入れた。そして片手では自分のネクタイを緩め、自分の服のボタンをはずしていく。 「……本当に積極的ですね、伊藤先生。今先生が自分で脱いでいる服、学園で着ている服ですよね。先生が自ら教師として着ている服を乱して、生徒を食べるんですね」 和希の揶揄には答えず、啓太は互いの服のボタンをすべてはずすと、和希の胸に唇を落とした。唇で辿りながら裸の胸にさらに触れていく。いくら童顔だって体つきは大人のもので、だから和希がなにを言おうと生徒を誘惑しているふうには思えない――はずなのに、自分からは全く何もしようとしない和希に、悪い教師だというイメージが一瞬浮かんだ。学園で授業をしていたときに着ていた服を自ら脱いで快感を欲しがっている。こんな姿、本当の生徒には絶対に見せられない。こんなふうに浅ましく男を求めている教師だなんて。 和希の胸に触れたあと、啓太は和希の手をとった。手の甲に唇を落とし、唇で指の一本一本を辿る。いつも懸命に働いている和希の手。 「手なんかでいいんですか先生？ もっと早く触りたいところがあるんじゃないですか？ ……それとも俺のこと焦らしてます？」 和希の言葉に、啓太は和希に向けて笑みを浮かべた。 「――っ、先生……」 そのあとで再び手への愛撫を再開する。 「……ほんとに、余裕あるみたいですね伊藤先生……」 余裕なんてあるわけない。早く体の奥に和希の熱が欲しいのは本当。でもしばらくぶりに会って自分から和希に触れられるからこそ、普段抱かれているときには意識しないところにも触れてみたかった。そうして和希のなにもかもが本当に好きなんだという気持ちが、ちゃんと伝わればいいと思う。 ――もし本当に和希が生徒で自分が教師なのだとしたら、七年もの年齢差がある分、なおさら体で繋ぎとめたい気持ちになっていただろうと推測する。余裕なんかなくても余裕のあるふりをして、いっぱい性感を高めて、自分に溺れさせたくなっていただろう。 そう考えたら、ますます和希に触れたい気持ちが高まってきた。和希の手に乗るのは癪だけど、本当に自分が年下の生徒である和希に恋をしたら。 手への愛撫をしたあと、啓太は再び和希の胸に口づけた。和希の身体にまたぐように乗って、自分の肌を和希の肌に触れ合わせながらキスを落とし、和希の身体に触れていく。和希の脇腹からズボン越しに下半身へと。直接的なところは触れずに、普段あまり触らないところを。 和希はいまだ自分の手を動かさない。いつもなら頭を撫でたり頬を撫でたりしてくる手がまったく動かないままベッドに置かれている。熱い視線だけは感じるけれど。 余裕があるのはどちらだろうか。自分はだんだんと体が熱くなって、和希が持ち出した設定についての怒りもぼやけているのに。啓太はもっともっと誘惑して、和希を早くその気にさせたいと思った。 啓太の手が和希のズボンに触れる。前を緩め、ズボンをずらす。そのあとで体を起こし、自分のズボンにも手をかけた。下から見上げてくる楽しそうな視線は気にせずに、自分のズボンの前もゆるめ、下着はそのままにズボンを少しおろす。それから啓太はまた和希の上に身を伏せ、自分の肌と和希の肌を重ねた。今度は和希の下着と自分の下着がちょうど当たるように位置を調節する。 「先、生……」 下着越しに、互いの性器が触れ合う。ただ触れ合うだけでなく、啓太から与えられる緩やかな振動。直接的に触れられたわけではないけれど、そのもどかしい刺激に和希は口元を緩めた。 「煽ってくれますね…」 「……」 啓太からの返事はなかった。ただ息を乱しながら、ときおり腰が押しつけられる。緩やかな振動がだんだん速くなり、啓太の吐息もさらに甘くなった。 「は……ぁ……」 「人の体使ってこするなんて、先生、やーらしい。目の前で先生主演のＡＶを見てるみたいですよ」 「……自分だって大きくしてるくせに」 ふと体の動きを止めた啓太が和希を見下ろす。 「そりゃ、こんなふうに刺激されたらどんどん反応するのは当然でしょう。……もどかしすぎて涙が出そうですけどね」 「……でもその分、俺がもっと欲しくなっただろ」 啓太は笑ってそう言ったあとで、「俺も、もっと和希が欲しいよ」と付け足した。 「じゃあ、欲しがってるところをもっと見せてくださいよ」 「……」 和希に促され、啓太は体を起こすと、一度和希の上から降りて自分のズボンを脱いだ。そのあとで下着も脱ぐ。和希に見られていることはわかっていたが、その手が躊躇することはなかった。たとえ自分が反応していることをはっきり見られていても。 「伊藤先生、思いきりがいいですね」 和希の言葉には答えず、啓太は和希に乗り上げると、今度は身を伏せずに中途な前傾姿勢のままで、再び和希の下着に自分の下半身をこすりつけた。布地に擦れて先ほどよりも直接的な刺激に思わず声が漏れる。 「……んっ、あっ…ふ……っ」 「……っ」 自分が触れているのは和希の昂りで、下着越しでもちゃんと和希が反応しているのがわかる。……ちゃんと、求められている。 和希の顔を見るとくいいるようにこちらを見つめていて、啓太は笑みを浮かべながら、自分の身体を片腕だけで支えると、自由になった手で和希の手をとった。和希の指先に軽くくちづけてから、自分の胸の尖りに押しつける。 「ん…っ」 自分が起こす振動だけで、そこからも快感が生まれる。和希はまったく動かしてなくても、和希の指に触れられているというだけで。 しばらくしてから少し身を屈めて、啓太はもう一方の胸にも和希の手を触れさせた。和希の手をつかむ自分の手で位置を調節し、一番敏感なところに指を当てる。 「……はぁ…っ…んっ…」 「……伊藤先生、俺は先生の道具じゃないんですけどね…。欲しがられていると言うより、これは先生の自慰の道具になった気しかしませんが」 憮然とした和希の声に、啓太は「我慢比べだろ」と答えた。 「俺がじれったくなって和希にねだるか、和希が我慢できなくて音を上げるか。…今日は俺にリードされたいんだろ？ だったら、俺が和希をどんなにほしいか、俺が……どんなに和希に変えられたか見てろよ。なんせ七年分の経験、だからな」 「我慢比べね…。まあ、これはこれで新鮮ですけどね」 和希の言葉に笑みを見せたあと、啓太は和希の手をさらに動かした。 「は……和希の手、本当に好きだ…。今までずっと、こうして触れられてきたんだもんな。ずっと、俺を優しく導いて……んっ……和希の手で触られてないとこなんて、もうないかもしれないよな。……ここだって……」 自分の肌から、反応している自分自身へ。頬を赤く染めながらも啓太の手が止まることはなく、啓太は和希の右手で、自分の昂りを包み込む。 「んっ……っ！」 そうした途端、和希の指がぴくりと動いた気がして、啓太は声を上げた。 「あっ…、…かず、き…っ…」 実際に和希の手を動かしているのは自分で、自分が一人でするときと変わらない動きなのだが、それでも触れているのが和希の手というだけでたまらなかった。和希は自分から手を動かそうとはしないが、ときおり動揺しているのかこらえているのか指先がほんの少しだけ動くときがあり、それがますます啓太を高める。 「は…ぁ…」 啓太はなかば無意識に和希の指先を押さえ、感じるところをくすぐっていく。 「んっ…い、い……」 指の腹をあてることはできても和希の爪をひっかけることはできず、その分もどかしさが募る。だがそれさえも焦らされているようで気持ちよさを感じた。 「……そこが、伊藤先生のイイところなんですね。伊藤先生、そうするのが好きなんだ？ いつも一人でそうやってするんですか？」 「……」 「俺たちの前で真面目に授業している伊藤先生が、そんなにいやらしくて気持ちいいことが大好きだなんて知りませんでしたよ？」 和希の言葉に、快感に持っていかれそうになっていた意識が浮上し、『設定』を思い出す。和希の前で授業をした覚えなど一度もないが、本当に生徒相手にこんなことをしてたら、どれほどいやらしい教師なのだろうとの思いが頭をかすめた。 「…だ、だって、和希の手だから……」 「俺の手だから、ですか？ 見られていることに興奮しているのもあるんじゃないですか？」 「違、う…」 「そうですか？ 足開いて生徒の手で自慰をして、腰もますます揺れてますよ先生」 「っ…だって、全然手を動かしてくれないから仕方ない、だろ……」 「俺に手を動かしてほしいですか？」 「当たり前だろ。……早く…もっと…」 「先生が俺をリードしてくれるんですよね」 「でも少しぐらい……和希は、自分で動かしたくならないのかよ。そんなに、つまらない体……」 啓太が言うと、和希の指先がちょんとつつくように動いた。 「あっ…！」 「勿論俺だって触りたいですよ。つまらないなんて絶対にない。俺にとってとても魅力的な身体です。…ほら、ここ、でしたっけ？ 先生のイイところ。……熱いですね」 和希の指が啓太の昂りのくびれをそっと撫で、すぐに離れようとする。 「…なんで…っ」 啓太は慌てて和希の手を押さえた。 「だって俺、人のを触るのなんて今日が初めてですから。そんな急にはいっぱい触れないですよ。童貞の俺に少し時間をください」 「――っ！」 和希の嘘くさい言葉に、啓太は和希を睨みつけた。だが和希はそれに臆することなく。 「さすがに他の男のはいやですけど、先生のなら触れますよ。ほら、こんなにかわいい。俺が触るとぴくぴくしてますね」 「……っ」 「もっと触ってって先生の体が言ってる……」 「っ、そんな余裕ありげな言い方する童貞なんかいないだろ！ 和希！」 「えー？ そんなことないですよ。初めてだからドキドキしてるんですって。じゃあ少し触りますから、先生手を離して。俺の自由に触らせてください」 「……」 啓太が手を離すと、和希が自ら手を動かし始めた。右手は啓太の昂りに触れ、左手は啓太の足や腹や胸などに触れていく。 それは本当に初めて触れるようなたどたどしさで、啓太はますます恨みがましく和希を見下ろした。じれったい動きなのに啓太自身が動かすよりも、やはり和希が自分で動かしている方が気持ちよく、嬉しさも感じてしまうことがさらに腹立たしい。 久々だからこそ余計に、和希に触れられていることを体が悦んでしまう。 「先生の肌、触るととても気持ちいいですね。それに俺に触れられて嬉しそうだ。あと、ちょっと物足りなさそう…ごめんね先生、俺慣れてなくて」 「……」 自分の弱いところを知り尽くしている指が、自分の弱いところを避けて触れる。じれったくなって体を動かせば、下から楽しげな目で見られる。 「経験豊富な大人の先生には足りないですよね？ だから先生、先生のイイところをもっと俺に教えてください。場所とか、触り方とか、伊藤先生が俺におねだりして示して。でないとずっとこのままですよ？」 たとえば乳首は、どうやって触られるのが伊藤先生は好きですか？――胸のすぐそばを指でそうっと辿りながら和希が聞いてくる。啓太は反射的にその手をつかまえて自分の望むところにあてようとしたのだが、その手がするりとかわされた。 「せっかちですね伊藤先生。だめですよ、今度は言葉で教えてください。どこをどうされたいですか？」 「…あ、もっと早く、ちゃんと触って、ほし……っ」 「俺も触りたいです。だから先生、教えて？」 「――」 自分の体に触れているのに、こちらがはっきり言わないと自分のいいところにちゃんと触れてくれなさそうな和希に、啓太の体がますます疼いた。先程から身体と気持ちは煽られているのに、実際には大したことはなにもされていなくて、早く訳が分からなくなるほど快感で流してほしいのにと思う。 本当に和希が童貞で未経験ならばともかく、現実にはこの身体のことも快感を感じるところもやり方もよく知っているくせに。 「ほら、伊藤先生…」 「……俺の、もっと触って…ちゃんと力、いれて…」 「こう、ですか？ 力はこれくらいかな。で、それから？」 「先、っぽも……指で触って……」 「こんなふうに優しく……？」 「ちがっ…もっと指で…強く……いつもみたいにクリク、リ…って――」 「先生胸は？ 押し潰されるの好きですか？ それとも舐められる方が？ それとももう後ろに触れてほしい……？」 「――っ！」 啓太はたまらなくなって、自分の手を和希の昂りの上に置いた。下着ごしにぎゅっとつかむ。 「っ！ け…せ、先生!?」 「もう、いいっ。ど、童貞なんだったら俺が本当にちゃんとリードするから！」 そう言って啓太は和希の下着に手をかけた。そして下着の中から和希の熱を引き出して手で触れる。 「先生、もう我慢できなくなったんですか？」 「いいから黙れって。お、俺が全部するから！」 「全部って……」 啓太は位置をずらして体を起こすと、引き出した和希の熱に自分の両手を絡めた。目の前でちゃんと反応していくことを確かめる。 「……本当は和希だってもっといろいろしたいくせに……絶対先に降参させるからな」 「…どう見ても我慢がきかなくなって、先にギブアップしてるのは先生の方でしょう…？」 「そんな余裕ありげな言葉づかいも、忘れさせてやるからな」 啓太はそう宣言すると、和希の根元をくすぐりいくらか扱いたあとで、今度は体を屈ませて和希の熱に舌で触れた。そのまま手を動かしながら和希自身を高めていく。 「…は…さすがに伊藤先生経験豊富なだけあって…。慣れてますよね…」 「…ん…だって…俺にたっぷり教え込んだやつが…いたからな……。もう躊躇なくできるくらいには……んっ、慣らされた…」 そして幾度となく教え込まれたイイところを指や舌で触れていく。 「先生をそこまで仕込んだ人間がいるわけですね…」 「……そう…高校生だった俺に…んっ……一から十まですべて…手ほどきした人間が……」 和希の熱に刺激を与えながら啓太がそう言うと、和希から笑い声が聞こえた。 「な、なんだよ」 「これは俺の推測ですけど…いくら大胆な先生でも、十までは知らないと思いますよ」 「……え？」 「まだまだ先生の知らない世界もあると思います。これは俺の推測ですけど」 「……」 「勿論いつか伊藤先生は新しい扉の向こうを知ると思いますけど。……楽しみですね」 「楽しみ、じゃないっ。もう十分だろ」 「またまた。伊藤先生も本心では楽しみにしてるはずですよ。まっ、そんな境地は童貞の俺には知るすべもありませんけどね」 「……」 目の前にあるこの凶悪な形のシロモノのどこが童貞なんだと突っ込みたかったが、啓太はそれを言葉にするのはやめて、愛撫に集中した。 本当に、もう躊躇いなく口淫できるようになってしまった。初めは慣れなくて歯をあててしまったときもあるし、くすぐったいと笑われたこともある。自分がされて気持ちいいし、なにより一方的にされるばかりなのは悪くて、気持ちと勢いだけだった昔。そんな幼かった自分に一つ一つ技巧や、相手を気持ちよくすることで得られる喜びを教え込んでいったのは、まさに今、自分を楽しげに見つめているこの男で。 口で咥えているうちに体の奥が疼いて欲しくなってしまうほど、自分を浅ましい体に変えたのも、すべてが一人の人間の手によるものなのだ――。 啓太は一度口を離すと、自分の指を数本まとめてしゃぶり、そこにたっぷりと唾液をからめた。そのあとでその手を腰を上げた自分の背後に回し、再び和希の昂りを咥える。 自ら触れることの恥ずかしさがだんだん薄れてきたその場所に指で触れ、求める気持ちのままに少しずつほぐしていく。啓太の脳裏に、これも教えられたことの一つだとの思いが頭をかすめた。慣れないうちは手を添えられて一緒にやり方を教え込まれたこともあった。啓太が自分でも慣らせるようにしてみたい――そう言ったあとで、でも一人でするときには、こっちは弄ってはだめだよとそんなことまで言った自分勝手な男。 「うわあ、今の伊藤先生、すごく刺激的ですよ。俺のをしゃぶりながら自分で後ろまで触っちゃうなんて。後ろに鏡があったらいいのにって思うくらいですよ。先生のそこが俺を欲しがってだんだん蕩けていく様子を間近で見たいなあ」 「……」 「先生の指、今どのくらい入ってるんですか。自分で慣らせるなんて、先生って、ほんと大人ですよね」 なにも知らなかった一高校生を、ここまでできる大人にしたのは誰だか。啓太は和希から口を離し、そんな気持ちを込めて和希を見つめる。 「先生、最後まではしてくれないんですね。あ、先生がもう、俺のが欲しくて我慢できなくなっちゃったから？」 「……それもあるし、ここでイかせちゃったら体力を使っちゃってあとがつらいんだろうなと思って」 故意に挑発的な言い方をすると、和希の顔がわずかにひきつったようだった。 「…その言葉、あとで後悔しますよ先生」 「あ、高校生の若い体力なら平気か。十年以上ずっと働いている社会人と違って」 「……先生」 勿論若い高校生でなくとも、和希がそういう意味で体力があるのはわかっているのだが、啓太としてはささやかに反撃してみたかったのだ。 そんな啓太の唇に、和希の指が伸びてきた。 「先生の唇てらてら。俺のでよごしちゃいましたね。でもそんな伊藤先生の顏も色っぽいですよ」 「――」 啓太は和希にふっと笑いかけると、体を起こして和希の腰の上に乗り上げ、和希の頭を引き寄せながら自分からくちづけた。すぐに口を開き、今まで和希の昂りを口淫していた舌を和希のそれに絡める。和希が苦笑したような気配が伝わったが、引き離されることはなく、和希もさらに積極的にキスに応えてくれた。 そのあとで啓太は腰を持ち上げて自分の位置を修正する。まだ充分ほぐしたとは言えないところに、和希の昂りをあてた。和希の硬度を確かめるように――あるいは煽るように和希の先端をそこに幾度もこすりつけた後で、ゆっくりと自分の腰を落としはじめた。 「んっ……っ」 早く和希と深く繋がりたい気持ちを抑えながら、体を慣らすようにだんだんと侵入させていく。 「先生、いい顔…。俺のをおいしそうに食べてくれるんですね。先生のナカが早く欲しいっておねだりしてるのがよくわかりますよ。生徒のモノをしゃぶって自分で勃たせてから食べている気分はどうですか？」 今は繋がろうとするだけでいっぱいいっぱいなのに、和希は楽しそうにそんなことを聞いてくる。本当に学園の生徒をそんなふうに扱ったら大問題だが、実際は違う――のに、和希の言葉が啓太の背徳感を煽る。脳裏に、生意気な自分の生徒のモノを欲しがり、口で咥えて固くさせたあとで食んでいる淫乱な教師――というイメージが浮かんできて慌てて否定した。 「はぁ……生徒、だなんて、そんなのほんとは……っ」 「あっ！ 先生待って。ちょっとストップ。気持ち良すぎてすぐに出ちゃいそうだから、先生、そんなにがっつかないで」 「……！」 「先生のナカうねってほんと気持ちいい……。全部食べられたら、俺すぐにイっちゃいそう。そんなことになったら先生も困りますよね？ 俺、初めてなんですからもっと優しくしてください……」 しおらしい声でそんなことを言う和希を殴りたくなったが、両手は自分の体を支えるのに精一杯でそれはかなわなかった。 だから啓太は言葉と腰で応酬する。 「は……そんなこと言って、全然、んっ、余裕、そうだよな。態度も……こっちも。……ほら」 挿れている途中で少し腰を揺すると、中の和希自身が少し反応したのがわかった。それでもすぐにイってしまいそうな気配はなく。 「先生っ……俺のこといじめないで」 「……」 啓太は無言で腰を落とした。全部おさめてからまたいくらか腰を揺らす。本当は和希を受け入れたのは久々で体がちゃんと慣れるまで待ちたかったが、和希の言動に、出せるものならさっさと出してみろという気持ちがわいていた。自分が多少動いたところで、そう簡単にイったりはしないくせに。 「あっ、だから先生、早いからっ。伊藤先生ほんとに貪欲……そんなに俺の、早くナカに出してほしいんですか？」 「――そうだな。欲しいかも。俺で簡単にイっちゃえるものなら見てみたいよ。そうしたら本当に初めての和希としている気がして……これからずっと、知らないその相手に妬かなくてすむからさ」 「……先生、本当に俺を煽るの上手で……困っちゃいますよね」 「えっ…あ、ひぁっ、和希…っ！」 自分の方が腰を使っていたのに下から急に突き上げられて、啓太は声を上げる。そのあとも今まで動いてなかった腰がゆるゆると啓太の中をかき回し、弱いところに熱い昂りを幾度もこすりつける。 「あっ、待った…やだ、俺が動く、のにっ…」 「勿論。どうぞ先生、好きに動いてください。自分でイイところにあてて俺の、たっぷり味わって。こんな感じに」 「…ひゃぁんっ。あっ、だめ…っ！ 和、希…から動かれたら、俺っ……」 今まで和希を感じさせることに一生懸命で自分の快感は二の次だったが、和希に弱いところを責められ、和希と久々に繋がっていることでの快感を体と頭がはっきりと認識したようだった。 「やっ……あっ、俺がリードす……なにも、しないって……ぁんっ…」 和希はまだ演技が続いているのか、いつもと比べて全然激しくはなかった。ただ自分の体を知り尽くした的確な動きが、じくじくと自分を追い詰める。腰だけでなく、しばらく何もしなかった乳首にも指で刺激を与えられ、啓太は翻弄された。 「…っひぅ！ そこも、されたら……ぁ、もう…っ、俺っ…！」 先ほどまで和希をイかせるという話をしていたのに、今イきそうになっているのは自分の方で。もう自分からは腰を動かせないまま、啓太は快感に煽られ上りつめようとしていた。 だが。 「あっ、和希…やぁっ…！」 イきたいと思った直前で和希の手に止められる。きゅうっと握りこまれて、啓太の中でギリギリまで膨らんでいた快感の逃がし場所を塞がれた。 「伊藤先生、一人だけでイっちゃだめですよ。大人として、初めての俺を一緒に導いてください」 「……っ！ 童貞はこんなことしない…っ！」 「じゃあ先生、俺の名前を呼んでください」 「さ、さっきから呼んでるだろっ。和希…っ！」 「ファーストネームもいいですけど、今は姓の方が嬉しいです。ね、先生。生徒の俺の名前を呼びながらイって？」 「……っ」 快感に追い詰められた頭でも、和希の言わんとすることが啓太にも理解できた。 こんな設定、本当に冗談ではないのに。和希だけが楽しそうですごく腹が立つのに。 でも啓太がイきそうになるのを手でしっかり制止しながらも、指でとろとろの先端を刺激し、乳首にも触れ、腰もゆるく動かし。そのうえ、下から目を細めて愉しそうに見つめられたら、もう意地を張り続けられなくて。 「ほら、伊藤先生…」 「っ……え、遠藤くん、お願いっ…俺、もう…イきたいから…っ。遠藤くん…はぁっ、もう…っ」 「――伊藤先生、ほんとかわいい……」 そうして堰き止められていたところからようやく和希の手が離れて。 「――っ！！」 啓太はもう何も考えられず、ただただ自分の中の快感に翻弄されるままに絶頂を迎えた。 「……はぁ……はぁ……」 達したあと、啓太はそのままの体勢で呼吸を整えた。少し落ち着いてから下にいる和希を睨みつけると、和希はよごれた自分の手を舐めているところだった。 「ん……先生の味ですね」 「……」 その態度はやはり余裕ありげで、啓太の中で再び腹立たしさがわいてきた。一緒に導いてとかなんとか言いながら、啓太の中にある和希に変化はない。今イかせられたのも自分だけで。 「……一緒に、じゃなかったのか」 「伊藤先生がかわいすぎて、ドギマギしてたら一緒にイくのを忘れちゃいました」 てへっ☆という語尾がつきそうなくらいの明るさで和希がそんなことを言う。 「……」 啓太は再び自分の腰を揺らめかせた。今度こそ和希を追い詰めてやると自分に誓う。 啓太の決意を読み取ったのか、下からは、「なんか、先生に喰いちぎられそう…」との声が返ってきた。 「喰いちぎれるものなら喰いちぎってやるよ」 「先生、だからいじめないでくださいって」 「俺は和希にさっきの仕返しをしないと気が済まない。…俺だってこんな反撃ぐらいできるようになったんだからな…」 はからずも和希に先にイかされたせいで、啓太の体の中はすっかり和希の屹立になじんでいた。まださほど激しい動きの和希を受け止めていないものの、自分で体を支えて腰を持ち上げ、ゆっくりと和希の先の方を刺激してまた腰を落とすぐらいの動きは容易にできるようになった。啓太は自分の中にある和希を意識しながら、腰をうねらせ、あるいは上下や前後に揺すってみせた。 「は、先生、上手……」 和希の声から少し余裕がなくなっているような気がして、啓太は和希に向けて笑みを浮かべた。 「……いつの間に覚えたんですか」 「そんなの、勿論和希として覚えたに決まってるだろ。んっ……俺のなにもかもは、和希に教えられたんだから」 そう、この体位だってもう何度目かわからないほど経験を積んできた。初めてのときに感じた羞恥心も、今は少し薄れて。 『俺は遠藤和希。伊藤、だったよな。よろしくな』 ベルリバティで再会したばかりの、なにも知らなかったときとはこんなにも違う。自分のすべては、なにもかもただ一人の人に手ほどきされて。 こうして繋がりながら相手を気持ちよくさせようとする動きも、相手に気持ちよくなってほしいという思いも。 今、自分だけ先にイかされて悔しいと思いながらも、結局は抱かれていることに幸せを感じてしまうのも。 「――遠藤くん」 啓太は先程はギリギリまで口にしなかった呼び方を自ら相手に向けた。腰を揺らして自分の中にいるその人を感じながら、まるで本当に自分の生徒に対するような口調で語っていく。 「俺には大好きな人がいて、俺が今こんなふうにできることも、他のことも、全部その人が教えてくれたんだ。遠藤くんが今気持ちいいと思ってくれているなら、それは俺がその人をどんなに好きかという表れだよ」 「――」 「大好きな人が教えてくれたことだから俺も懸命に覚えて、その人に応えたかった。恥ずかしいことも常識的にどうなのかってこともいろいろあったけど、でもその人も俺のことが好きで、俺とたくさん抱き合いたいって思って教えてくれたことだったから、俺もどこか嬉しかったんだと思う。俺が覚えたことでその人が気持ちよくなってくれたら、本当に俺は満たされるんだ。だからもし‘俺の知らない世界’があるとしたら、新しい扉を開けるのは怖い気もするけど、でもやっぱりその人が俺で気持ちよくなってくれるのなら、またその人に導いてもらってもいいかなって思うんだ。だって俺がその人を、本当に大好きだから」 「――っ」 自分の中を想いを込めて啓太がそう言った直後、強い力で和希に腰をつかまれた。 「え？ あっ！」 下から容赦なく穿たれ、急激に何度も突き上げられる。 「やっ、遠藤くんっ、激しすぎ…っ！ ひぁっ…あっ…!!」 「和希、だろ。啓太」 「あっ…あっ！」 「はあ……降参。ヤラレマシタ。啓太、ほんとかわいすぎ」 ――だからしばらく俺につきあって。 啓太が和希のその声を聞いたときには、視界が反転し、体勢が入れ替わっていた。 「あ、和希、深い…っ。それにさっきより大き…っ…！」 「は…啓太が俺を煽ったんだろ。それに、今の俺に体力があることを、ちゃんと啓太に証明しなくちゃいけないしな」 「……！」 「とりあえずこのまま二回連続で。あ、啓太はイきたかったら何回でもイっていいよ。ただし途中でへばるのはなしだからな？ まあ十年以上働いている俺と違って、社会人一年目の啓太には当然余裕の話なんだろうけど」 「〜〜〜〜！」 腰を大きくグラインドしながら、和希が先程啓太が使った言い回しを持ち出す。啓太の脳裏に、『その言葉あとで後悔しますよ』と言ったときの和希の顔が思い出された。 「あっ…は…っ、和希、そこ、だめ…っ、ほんとにまたイく…っ！」 「だから、遠慮しなくていいって…は…久しぶりなんだし、啓太をもっともっとぐちゃぐちゃにしてみたい…。俺だって、啓太が俺で気持ちよくなってくれたら嬉しいよ。これからも、啓太を飽きさせないように頑張るし……いろんなプレイで感じさせてやるからな」 そっちはいいと思ったが、啓太には冷静に反論する余裕はなく。ただ過ぎる快感に、和希に縋りつきたくて両腕を伸ばした。和希がそれに気づいて身を寄せ、啓太は汗や浮かんだ涙で霞む視界の中、すぐに和希に抱きついた。 「…あっ、和希…っ、俺…」 「ん？ なに、啓太？」 「和希、俺っ、昔、も幸せだったけど、今はもっと幸せ、だよ…っ」 甘い熱に浮かされ理性が飛びそうになるが、それだけは和希に伝えたくて啓太は懸命に言葉を紡ぐ。 「だからこれから先も、もっと…っ、んんっ…」 「うん、そうだな。俺も、今すごく幸せ。勿論これから先も…な」 和希は少し身を離し、啓太にくちづけた。 そのくちづけがたちまち深くなっていく。互いに七年分の想いを込めた――そして想いを伝えながら互いの性感をも高める、七年前にはできなかった濃厚なくちづけをかわした。 「は〜。本当は最後まで、生徒と教師プレイを堪能するつもりだったんだけどな。でも啓太のかわいさに負けました」 抱き合ったあと、ベッドに身体を横たえた和希が呟く。 「あそこまですればもう充分だろ。最後までなんて……それじゃあ俺が……つまらないだろ……」 「ん？」 「……和希に、ちゃんと啓太って呼ばれないと……」 「……ほんと啓太は俺のこと大好きだよな」 「……」 和希が緩んだ笑みを浮かべて言った言葉に、啓太はなにか反論したかったができなかった。事実だけに何も言えないまま黙り込む。啓太のその態度が、ますます和希を増長させるとわかってはいたが。 啓太の想像通り、和希が啓太が黙り込んだ理由に気づかないわけはなく、『俺も大好きだよ』と、隣りにいる啓太の頬に軽いキスを落とした。 「でもやっぱり俺は最後まであの設定で楽しんでみたかったな。敗因は啓太のかわいさもあるけど、ここが学園の教室じゃなくて、俺が着ている服が制服じゃなかったからだよな。小道具とかも用意してもうちょっと雰囲気作りに凝ればよかった」 「……は？ 教室って、制服って冗談だろ!?」 「制服はとってあるし、教室の方も……夜間ならベルリバティの教室にもぐりこめるかな」 「はあっ!? なに考えてんだよ、和希。夜間なんて、セキュリティに引っかかっちゃうだろ!?」 「でも昔は俺が制御していたんだから、今でもちょっと弄れば可能だと思うんだ。それに俺だとわかったら笠原くんも見逃してくれるって」 「馬鹿っ！ そんなことのために笠原くんの手を煩わせるなよ！ いい大人がそんなくだらないことで人に迷惑をかけるなっ！」 「でも啓太だって結構ノリノリだったし、今度またやろうな」 「絶対やらない！」 啓太は大きな声でそう言ったが、和希の耳にはまったく入っていないようで、和希はあっさり話題を変えた。 「それにしても……確かに啓太にいろいろなことを教えたのは俺だけど、啓太は自分で目覚めてきているような気がするよ。元々持っていた才能というか素質？」 「……なんの話だよ」 「だから、俺が開発しただけじゃなくて、啓太自身の素質で今のテク持ちの淫らな啓太になったんじゃないかってことだよ」 「テク……!?」 「そのうち俺より啓太の方が新しい世界を拓いて、本当に先生として俺に手ほどきしたりして。な、啓太先生」 「そんなことになるわけないだろ。……それに、先生呼びはいやだって言ってるだろ。和希だってあのとき……結局遠藤くん呼びを否定したじゃないか」 「んー、まあな。やっぱり俺も啓太に名前を呼ばれるのが好きかな。和希がだーい好き、和希愛してる〜とかな」 和希の冗談めかした言葉に、啓太は少し照れながらも、まったく茶化すことなく、 「……和希がだーい好き。……本当にすごく好き。和希愛してる……」 と、口にした。啓太としてはちょっとしたいたずらのつもりでもあったのだが。 「――」 それを聞いた和希がすぐに、横に寝ていた啓太の両肩を手で押さえた。 「……和希？」 「啓太。じゃあ少し休んだし、これから第二ラウンドな」 「えっ!? 第二ラウンドって、さっき何回したと…！」 「んー、全部まとめて一回、かな」 「それじゃあ計算がめちゃくちゃだろ!?」 「まあまあ。いいからいいから。ほら、久しぶりだし、啓太はかわいいし」 「確かに久しぶりだけど――ちょっ、早いっ。和希はいい大人なんだから少しは落ち着けよ！」 話している途中で起き上がった和希に強引に足を開かれそうになって、啓太は慌てふためく。 「簡単に人のリミッターはずす啓太がいけない。啓太はいろいろなことを覚えて上手になったけど、七年経ってもそういうところはなかなか学習しないよな。…ま、それでいいんだけど」 つかんだ啓太の足の内側を唇で辿りながら、和希が笑う。 「…っ、和希のリミッターの方がおかしい……。そのうちそっちだって学習して…んっ、和希のこと、手のひらで転がしてやる…からな……っ」 和希の唇が与える刺激に足を震わせながら、啓太が和希に宣言する。 「手のひらで転がすって、啓太が俺のこと自在に煽ったり、焦らしたりとか？」 「そ、そうだよ。故意に煽ったり、ギリギリでとぼけてかわしたりして……和希のこといっぱい振り回してやる……んっ…」 「へえ……」 啓太が無自覚にする行動ではすでに充分振り回されているけどな――と内心で思いながらも。 「それはこれから先も楽しみだな」 和希はそう言って年下の恋人をさらに堪能すべく、啓太の体へと手を伸ばした。 終 |