告白 「和希、誕生日おめでとう！」 「ありがとう、啓太」 「今年の誕生日のプレゼントは……」 「おっと、そのまえに。啓太からのちゃんとしたプレゼントをもらう前に、俺から一つプレゼントの催促。啓太は俺のどこが好きか聞いてみたいな」 「えっ」 「啓太は俺のどこを好き？」 「そんなの……」 「ん？」 「……全部としか言えないよ……」 「啓太は俺によく、過保護だとか職権乱用して不真面目だとか臆面がなさすぎだとかいろいろ言うけど、そういうところも含めて、なんだ？」 　和希の冗談めかした問いに、啓太は素直に頷いた。 「…そうだよ。……和希？」 「――驚いた。そういうところは嫌いだって言われるかと思った」 「そういうところは嫌いだ。…って言いたいけど言えないよ。だって、和希のそういう部分も含めて、和希を構成している全部が大好きだから」 「啓太……」 「――俺は、でも、和希の中で好きになったところと、俺が和希にたまらなく惹かれているところはちょっと違うと思う」 「そうなのか？」 「好きなところは全部だけど、わかりやすい言葉でいえば、かっこいいとか優しいとかだけど、俺が和希に強く惹きつけられるのは――」 「惹きつけられるのは？」 　和希の、心の奥。 　一人でなんでも背負って、啓太はなにも心配しなくていいんだよと笑ってしまうところとか、和希の家族の話をするとほんの少し声のトーンがかわるところとか、明るく笑っていてもどこかカズ兄のときから変わらない硬質な雰囲気を感じさせるところとか、和希が見せている部分の奥にある本質。和希のそばにいるだけで、肌で感じて無性に惹かれてたまらなくなるもの。 「啓太？」 「……」 　啓太はそれを言葉にはできなかった。きっと言葉を費やして和希に伝えたところで、自分が惹かれている気持ちは和希には伝わらないだろうと思う。 　ただいとしくていとしくて、いとしすぎてせつなくて。 「……俺は、本当に和希のことが好きだよ。そして和希にうーんとうーんと幸せになってもらいたいと思ってる。勿論、俺だって幸せになるけど！　でも本当に和希が好きで、誰よりも和希が大切で、誰よりも和希を――」 　――愛してる、なんて、言葉にすると陳腐な気がして、啓太は再び口をつぐんだ。 　それでも和希には伝わったらしく。 「……うん。ありがとう啓太」 　和希が静かにそう言った。 「……まったく。啓太がそうだから俺もずっと昔から啓太を手放せないんだよ」 「そんなの、もう一生離されてなんかやらないんだからな！　――和希、改めて誕生日おめでとう。和希と過ごす時間が積み重なるほど、俺の中で和希への想いがふくらんでいくよ。もう、『伊藤啓太』を形作るものの大半が、和希への想いで占められているんだ。俺の中に、和希を好きだっていう気持ちがたくさん詰まってる」 　その気持ちを和希に伝えるように、啓太が笑顔で和希を見つめた。 　啓太の表情に眩しさのようなものを感じながらも、和希は口に出しては、 「――ああ、そうだな。まあ、啓太の中に俺の愛の証をたくさん注いできたし？」 と言った。 　その意味に気づいた啓太が顔を赤らめて声を上げる。 「和希っ!!」 「冗談冗談。……啓太、ありがとう。啓太のその言葉と笑顔と伝わってくる気持ちとで、俺は十分幸せを感じることができるよ。今の俺は、啓太に愛されてるって心の底から実感してるよ」 　啓太に向けて和希も笑顔を見せた。その優しいまなざしを受け止めながらも、啓太はそっと唇をかんだ。 　和希は「今の俺は」と言った。 　――では、昔の和希は？ 　啓太は自分の中にある気持ちを、もっともっと和希に伝えていかなきゃだめだと思った。 「和希、今だけじゃなくて、この先があるんだからな！　来年の誕生日覚えてろよっ！」 「うん、楽しみにしてる。啓太、幸せな誕生日をありがとう」 「今日だって、もっとこの先があるんだからな。俺の中の気持ちが和希に伝わるように、ちゃんとお祝いさせて。……和希、本当に生まれてきてくれてありがとう。俺と出会ってくれてありがとう。和希の誕生日は、俺にとっても本当に特別な日だよ」