青

「く…っ。あ…も、よ、せ…っ」
　空は目の前にある松の木にしがみついて、自身の中にある熱に耐えようとした。背後から貫いてくる男の昂ぶりは、空のことなどお構いなしに挿入を繰り返す。そのたびにすでに一度目の行為の名残で濡れているそこが、粘ついた音を出した。
　振動に揺れる空の足元で、しきつめられた玉砂利がかすかな音を立てる。
「水…都っ。いい加減、離…っ」
「なにを言っているんだ羽柴。離さないのはお前のほうだろう？　私のを咥えて引き絞って、もっともっとってひくついてねだっているんじゃないか。ほら、お前のココがもっと奥までほしいって私を誘導しているぞ？」
「ン…っ。違う…。はっ…ふっう…ん…っ」
　頬に当たる木肌のざらついた感触さえ、空の中の官能を煽る。中途に脱がされた制服から露になっている部分が緩やかな風にあたるたび、それだけでさらに快感が増した。
　ここが教科書にも載っているような古式ゆかしい寺院の庭園で、通常はこんなことをしていい場所でないという意識が、空を背徳的な気分に追い詰める。手入れの整った観賞用の松の木にしがみつき、すでに白い玉砂利の上に白濁した液体を幾度も散らせていた。
　人気のない閑散とした庭園に響く、淫らな自分の声。
「くく。どうやら相当たまっていたみたいだな。ここのところ準備に追われてちゃんとかわいがってあげていなかったからか？　ほら、久々に味わう〝私自身〟はどうだ？　貫かれて、ずっとこれがほしかったことを思い出すだろう？」
「ああっ…」
　水都が一度己を引き出し、そうしてさらに圧迫感をこめて空を刺し貫く。ずっちゃ…という音が空の耳にも届き、続いて内部を激しくかき回された。空の奥にある熱い部分にそれが強く押し当てられると、あまりの快楽に頭の中の理性がぐずぐずに溶けていく。
　――当初から、いやな予感はしていたのだ。
　この修学旅行に、クラス担任ではない水都が同行すると聞いたときから。
　きっとなにか仕掛けてくると思い、できるだけ避けるように過ごした。すでに直や祭と決別した空にとって、男だけを意識して避けることは難しいことではなかった。二十四時間男のことだけを考えて、その動向を探って避ければよかったのだから。
　初日、二日目と、男からの接触は一切なかった。だから、油断していたのかもしれない。この三日目、自由行動である今になって、こんなことになるとは。
「こっちももうこんなに育っていたのか。さっき放ったばかりなのにもうこんなになるとは、際限がないんだな」
「あっ…」
　空の耳元でしのび笑いをしつつ、水都が少しの間触れていなかった空自身に再び手をかけた。先端の濡れているところを握りこみやわやわと揉み扱く。シャツの下からのぞく胸の粒にも触れられると、空自身がさらに体積を増した。
「達きたいのなら達っていいぞ羽柴。なに、これだけでは終わらせないから安心しろ。時間はたっぷりとあるんだからな」
「……っ」
　いつもなら爆発寸前になると故意にじらす水都だが、このときはそのまま素直に空を追い上げるように手と腰を動かした。そんな水都に流されるように、空もたまらなくなって自分からも快感を追い求め始める。自ら腰を揺らし、水都のほうに押しつけた。
　快感を追うことに夢中になりはじめた空を、水都は愉悦に満ちた表情で見下ろす。
「外で見るとお前の淫蕩さもひとしおだな。それとも名前のごとく、空の下でこそ本領を発揮するのか羽柴？」
「あっ、んっ…っはぁ…っ」
「青空の下で足を開いて己自身をさらして。自分はこんなにすきものだと、全世界にでも知らしめるつもりか」
「ふぅん…あ、みな…んっ…」
　水都の言葉が聞こえているのかいないのか、空の唇からひっきりなしに甘い声がこぼれる。
　なかば意識を朦朧とさせはじめた空に、水都は唇を歪めて呟いた。
「まさか、こんなところで偶然お前に会うとはな。自由行動時間にホテルから離れた場所で会うとは…お前の体が私を導いたか」
「――ん…っ」
　偶然。
　その単語が空の意識をほんの少しだけ現実に引き戻した。
　この時間にここで水都と会ってしまったのは、べつにもともと水都が自分の後をつけてこうする機会を窺っていたわけではなくて。
　何万分の一かの確率のもとで行われた偶然。互いに相手の行く先などまったく知らずに。
　空の脳裏に一瞬だけ離れられない運命という言葉が浮かんだが、次の瞬間爆発するような激しい快感に押し流されて、空の意識はたちまち混濁する渦の中に巻き込まれていったのだった。