密会　〜放課後の保健室〜　（後） 　空はとてつもなく悔しかった。 「ん･･･っ、あ、はぁ･･･っ」 　口の中を七海の指で責められているだけなのに、それに感じて反応してしまっているのは、口の中だけではないのだ。何にも触れられていない部分が熱を帯び、布団がわずかにこすれる刺激すら快楽に変わる。 　七海は感じはじめている自分の顔をじっと観察しつつ、故意に布団の上から胸のあたりを触ってくる。厚い布団は七海の手の動きをダイレクトには伝えてくれず、それがますます体を熱くした。 　もう直接触ってくれたっていいのに、七海はじれた刺激しか送ってくれないのだ。 　先ほどのように離れた場所にいるのならともかく、こんなに近くにいるのに体を放っておかれているのが恨めしかった。 　かと言って、空は自分からその気持ちを訴える気にはなれなかった。それくらいにはまだ少年のプライドは残っていたのだ。 　少年が布団の中で足をもぞもぞと動かす。少年が無意識のうちに布団にこすりつけていることを見てとり、七海はくすりと笑った。 「そんなに感じているのなら、私におねだりしてもいいですよ？　もっとちゃんと触ってください、って」 「･･･だ、だれが･･･っふっ･･･」 「簡単に楽にしてあげないのはどちらにしても同じですから、ねだるだけねだってみてもいいんですよ、羽柴くん」 「･･･っそ、そーゆーとこ、ろが、ふぁ･･･っな、みちゃんて、性格悪いってゆ･･･」 　空がそう言った瞬間、すかさず七海の手によって布団が勢いよくめくられた。空がとっさに押さえ込む隙もなかった。 「　　　　　　　！！！！」 　放課後の保健室のベッドの上、白い蛍光灯の下で少年の体が露になる。上半身はいまだ制服とシャツを身につけており、下半身だけが覆い隠すものがなにもないままさらされていた。 　すでにごまかしようもないほど少年のそこは屹立し、自己主張していた。 「七海ちゃんっ！」 　七海の指から逃れて口の自由を取り戻し、空はそう叫んですぐに自分の手でそこを隠そうとした。だが、その手が両手ともすぐさま七海に捕らわれる。 　けれどそのままさらしておくのも恥ずかしくて、空はとにかくそこを隠そうと今度は両膝を丸めた。 「み、見るなよっ」 「どうして？　私と羽柴くんの仲で、そんなのいまさらでしょう？」 「親しき仲にも礼儀ありっていうだろ。そ・・・そんなに見るなってば･･･！」 「だって、そうやって膝を持ち上げていると、羽柴くんの別の部分もよく見えるんですよ。もう浅く息づいて収縮しているところとかが」 「･･････っ」 「そうして足を下ろすと今度は羽柴くんがよく見えるんですよね。なんだか私が離れる前より元気がいいみたいですけどね？　先っぽだってそんなに濡れていましたっけ？　今にも新たな露があふれてこぼれそうなくらいですものね」 「や、やめろって！」 「あ、ほら。また新たに溢れて･･･ずっと放っておかれて泣いているんでしょうかね？」 「　　　っ」 　七海の言葉に煽られて、空は自分自身でもそこが脈動しているのを感じていた。こんなに感じているのに、七海は言葉と視線だけしか与えてくれないのだ。 　両手は七海に押さえ込まれ、足はいくら自由だといっても、まさか七海を蹴り飛ばすわけにもいかなかった。抵抗らしい抵抗もできないまま、空は七海に嬲られていく。 「も、離せよっ。七海ちゃんがなにもしないのなら、もうオレ一人でするからいい･･･っ」 「一人で？　ああ、その様子を私に見せてくれるんですか？　それはとても心惹かれるシチュエーションですね」 「･･････」 　空は両腕に力を込めると、無理やり七海の手から両手の自由を取り戻した。そして七海の拘束を逃れた手で��自分自身�≠�隠すのではなく、七海の手を掴んだ。 　七海の右手を自分の両手で掴み、その手を･･･��自分自身�≠ﾉ導く。 「･･･っん･･･っ」 「　　　」 　自分ですることさえ相手の目を楽しませてしまうことになるのなら、だったらいっそ･･･と空は考えたのだった。 　思ってもみなかった空の行動に七海が目を瞠る。想う相手が自分の手を導いて、目の前で甘い痴態をさらしているのだ。 「ふっ、ん････もう、オレ･･･っはぁ･･･」 「･･･これは、私の負けですね。まさかそんなふうに誘われるなんて思ってもみませんでした。いいですよ、羽柴くんの積極性に免じてしてあげます」 　そう言って七海が空の頬に口づけた。それから、露になった空の胸をまさぐりはじめる。 　空の手に導かれた右手にも、七海の意思が加わった。 　今までと違う明らかな愛撫に、空の体がしなる。 　それでも空は納得しがたいものを感じていた。 　なぜなら七海はベッド脇に立って、空の体を責め立てているのだ。ベッドの上に自分は上がろうとはせずに。 　まるでそれはただこちらを焦らしているだけのように思われた。 「な、七海ちゃん･･･そんなこと言って･･･オレのこと、まだ焦らす気だろ･･･!?」 「そんなことないですよ。もうちゃんとしてあげているでしょう？　それとも、もっと別のこともしてほしいんですか？　こんなふうに？」 「･･･ひぁぅ、なっななちゃ･･･っ」 　空自身に触れていた手がそこを離れ、ついっと後ろ側に回った。七海の指先がそこをつつく。胸の昂ぶりをつままれながら後ろも刺激され、いっそう空の声が甘くなった。 「さっき、自分でもここに触れてみたんですか？」 「ンなことしてない･･･っ」 「そうですか？　そのわりにはなんだかここもやわらかくなっていますけど。･･･そうですね、羽柴くんはまだまだ物足りないみたいですから、ここを重点的にかわいがってあげることにしましょうか。勿論、あっさり一人でいくのはなしですからね」 　七海の左手が空の胸から離れ、空の足に回った。片足を思い切り広げ、空の奥のすぼまりを明らかにする。 　そして右手は再び前の空自身を捕らえた。根元をきつく、押さえるために。 「！　七海ちゃん･･･っい、一度くらい先にイかせてくれたっていいじゃん･･･っ」 「いやです。イくときは一緒に、でしょう？」 「オレ、若いんだ、から･･･そんなに、もたねーよっ･･･ああっ･･･」 「それは何気なく自分は若いって自慢しているんですか？　ふふ、若いんですから一度くらい焦らされても、あとで何回もいけるんでしょう？　それは、すごく楽しみですね」 　広げた空の足を肩に担ぎ上げ、七海は空のそこに舌を這わせる。また足を担ぎ上げたことで自由になった指先は、空の蕾の周りや、裏側の筋を焦らすように幾度も往復させた。 　そのたびに空自身が震え、少年の唇から甘い声がこぼれた。 　空は別に七海のこの責め方を許容しているわけではなかった。七海の手を導きはしたけれど、それはさっさと楽にしてほしいからであって、こんなふうに焦らしてほしくはなかった。 　覆うものがなにもない状態で自分の下半身を七海の目に触れられ、どうにか堰き止めている七海の手をはずそうとあがけば、ますます七海の手に握られている部分をくすぐられて手に力が入らなくなってしまう。体を起こしてこの体勢をどうにかしようとも思うのだが、自分の中を駆け回る快感が空の意思をときおり薄れさせた。 　熱く濡れたものが奥を刺激し続ける。硬く天に向けて張り詰めているそこも相手の手に押さえ込まれ、ときおり先端を指がくすぐっていく。そこからあふれ出した先走りの露は、七海の手を充分に濡らしてしまうほどだった。 　そして双丘をたどる悪戯めいた左手の指先は、自由自在に肌に触れ、思ってもいなかった強い刺激を突然に与えてくる。 「いや･･･あっ、も、オレ限･･･だからぁ･･･っ」 「大丈夫･･･人の限界なんてまだまだ先なんですよ？」 「よせってば･･･ふぁっ、ん･･･っ･･･や･･･もうこれ以上やらしいカラダにすんなよ･･･っ」 「･･･��いやらしいことをしないで�＝H」 「ち、違う。七海ちゃんが････オレ、をこんなにいやらしいカラダに、したんだろ･･･っ」 「･･･羽柴くんの才能でしょう？」 「ぜって、違う･･･っ。七海ちゃんがオレを慣らした、から････はっ･･･」 　空の言いように、七海は思わず吹き出してしまいそうになった。 　少年は自分で自分の体をいやらしい体だと言ったのだ。 　それは際限なく感じて、際限なく快感をほしがっているということだ。 「本当に･･･羽柴くんの体はいやらしいですよね･･･。ここはもっと別のものがほしくてひくついているし、こっちはとろとろだし、さっきからひっきりなしに声を上げているし･･･淫乱、という言葉は、羽柴くんのためにあるのかもしれませんね？」 「だからっ、そんなの七海ちゃんのせいだろ･･･っ七海ちゃんの前じゃなかったら、こんなになるわけな･･･っ」 　あまりにも焦らされ続けて、少年の瞳に涙が浮かんでいた。 　こんな状況のときに聞いてしまうのはずるいことだと自覚しつつも、七海は、一つの問いを口にした。 「私の、前でだけですか？　それはつまり、羽柴くんの体が私を求めているということですよね。私がいなくてはもう生きていけないくらいに？」 「･･･ん･･･心と、体で･･･も、オレ、七海ちゃんなしじゃいられ、な･･･」 　ゆるく首を振って少年が喘ぎ声とともにそんな言葉を吐き出す。 　おそらく自分がなにを言ったか半分意識が飛んでてわかっていないのかもしれないけれど。 　それでも。 　七海の心に充足感が広がる。 　 「･･･私も、羽柴くんの前じゃなかったらこんなに意地悪になりませんよ。知ってました？」 「･･･う･･･れしくない･･･」 「今度は体の方で正直に甘えてくださいね。私を取り込んでしぼって、離さないでくださいね」 　そう言って七海は少年自身を堰き止めていた手を緩めた。それと同時に少年の秘所にゆっくりと指を挿入させていく。背後での異物感と慣れた快楽に、たちまち空の体が大きく震えた。 「･･････っ」 　空は必死に手を伸ばして七海の服を掴み、そうしてようやく許された瞬間を迎えた。 「･･･だから、どうして流されるかなあオレ。そりゃあ七海ちゃんのことは好きだけど、やっぱりかなりまずくないか・・・？」 　脱ぎ散らかした制服を身につけながら、空がぶつぶつと呟く。ベッドでの行為に巻き込まれたジャケットはくしゃくしゃだったが、それについては気づかない振りを通すことにした。 　さっさと脱いでいた下着やズボンはよごれてなくて履き心地に影響がないことが、空を複雑な心境に陥らせた。よごれなかった代わりに、ものすごく恥ずかしい状況におとしいれられた気がする。･･･いろいろと。 　七海に抱かれるたびに自分が深みにはまっているのは気のせいではないだろうと空は思う。 　心もそうなのだが、体が、本当に戻れないところまできてしまっている気がする。 　もう充分��クセ�≠ﾉなっているのだと思えた。 　一方七海はとても楽しそうにベッドのシーツを交換している。 　体がすっきりしたからかもしれないが、その表情が今までのどのときよりも楽しそうだった。 「･･･なんで七海ちゃん、そんなに楽しそうなんだよ・・・」 　空が憮然とした顔で聞くと、七海はシーツから顔を上げ、にこやかに一つの単語を口にした。 「ぶくぶく、ですよ」 「え？」 「今羽柴くんに、思いっきりおぼれているところなんです」 　ベッドからはがしたシーツを腕に乗せて、七海が優麗に微笑む。 　��おぼれている�＝B 　それはいつか七海から聞いた言葉だった。 　そうして七海は今、おぼれている最中だと言うのだ。･･･自分に。 「あ･･････」 　空の顔が真っ赤になった。 　それを視界に入れた七海の笑みがいっそう深くなる。 「羽柴くんの中、すごく甘くてぐずぐずで、本当に理性が蕩けそうなんです。これからももっと羽柴くんに･･･そしてこの幸せに、おぼれさせてくださいね」 　空のそばに寄り、七海は奪うようにキスをした。 　空は一瞬の躊躇ののちにそれに応える。 「そんなことを言ったらオレだって･･･もう、頭ン中七海ちゃんだらけで社会復帰できねーよ･･･」 「じゃあこのままともに二人で堕ちましょうか。二人なら、それも幸せですね」 「･･････うん･･･」 　七海の言葉に、空が小さく頷いた。 　その呟きを耳に入れて、七海が再び空の唇に自分のそれを重ねる。甘く･･･優しく。 　ありったけの想いを込めて。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ＥＮＤ