スィートホワイトデー（後） 「･･･はぁ･･･あっ･･･ふぅんっ･･･」 数学教諭室内に、甘い嬌声が散っていく。間断なく響くそれは、無論、空の声だった。 勢いに任せて思いきり口を滑らせたあと、空はしっかり体でその返礼を受けさせられていた。手加減なしの強引なやり方に、男の怒りが感じ取れるようだった。 そのくせ交わりは一方的なものではなく、ちゃんと――空にとっては余計なことに――快感を伴うものだった。巧みに追い上げ、理性を溶かす。 「あっ・・・ああん・・・っ」 冷たい床にひざをついて揺れる腰で男を受け入れながら、空はその口から甘い声をこぼすしかなかった。 こうなってしまうと逆らいたくてももうどうしようもなく、抵抗することも、文句を言うこともできない。体が男の指を舌を目を、充分覚えてしまっているのだ。些細な愛撫ですらもう、何倍もの甘さに変わっていく。 すでに今日、幾度達かされているかわからない。男に貫かれたことももう何度目だか――。 「ん･･･ふっ･･･。あっ･･･ああ――っ!!」 より強く男の腰が押しつけられ、空は何度目かの絶頂を迎えた。男もほぼ同時に放ったらしく、しばらくして抜かれるときには、空の内股をとろりとした液体がつたっていった。 「はあ・・・っ･･･」 空は息を整えるように荒い呼吸を繰り返す。快感に我を忘れていたときは感じなかったが、床に押しつけられていた膝が痛みを訴えた。 それでもあまりの強い快感に空の思考力は麻痺していた。 それを、覚醒させるように。男の声が空の耳朶をうった。 「ああ、やはり私も若くはないみたいだな。おまえと違って、そろそろきつくなったようだ」 その声に、空が少しだけ顔を上げて振り向く。 水都はズボンからさらけ出した己自身を見つめて愉しげに呟いた。 「せめてもう一度くらい、今日の分としてお前に返しておきたいからな。羽柴に――協力してもらおうか」 「･･････！」 男の真意を理解して、空が息を飲む。 確かに放ったばかりで猛々しさはわずかに薄れていたものの、それでも充分男のそこは力を持っていたからだ。もう少し経てば先程の状態まで戻りそうに見えた。 「案ずるな。ちゃんとやり方は教えてやる」 「な、なに言ってんだよ!? あんた、精力絶倫じゃん。全然する必要なんかねえくらいにっ」 「いや。もうかなりきているな。羽柴の口でしてもらわないと、おまえをかわいがってやることができないようだ」 「も、もうオレいいって。今日はおしまいっ。つ、続きはまた明日ってことで！」 慌てて体を起こして、男からあとじさる。下半身に何も身につけてない状態でその姿はかなり情けなかったが、このときの空には我が身を振り返る余裕はなかった。 「遠慮するな。それに･･･ちゃんとできたらたっぷりとご褒美をやるぞ？」 「い、いらねーって。もうほんとにオレ･･･」 「くく･･･羽柴のここはさすがに若い分、もの足りないようじゃないか」 「！」 男が手を伸ばし、空自身を捕らえた。大きな手が包み込み、指先が複雑にうごめく。それだけで空の意識が、再び快感にとらわれそうになった。 「よせ･･･も、触るな･･･」 「あんなに何度も達かせてやったのにな。それでも、物足りないとは貪欲なやつだ」 空は男の体を押しやるように手を伸ばすが、体の中を走る快感に力がぬけ、ただ男のシャツを握りしめるだけとなった。 「･･････っ」 「そう、いい顔だ。おまえは本当に男を誘う顔をするな。いや、顔だけでなく声も体も。全身でしてほしいってねだっている･･･」 囁きながら、男の指の動きが速くなる。単にしごかれるだけではなく、先端を撫で上げ、ときに爪を立てられ。 その一方で男の手が再び胸に触れると、さらに空の息が上がっていった。 「違う･･･あんたが、オレをこんなにしたんだろ･･･。･･･ち、きしょ･･･。んっ･･･」 「責任転嫁をするな･･･と言いたいところだが、まあ教え込むのは教師の仕事の一つだからな」 「･･･ンなこと、生徒に仕込む教師なんて、あ、あんたしか･･････ふっ・・・ん・・・」 本当は思いきり反論を叩きつけたいのに空の声には甘さが伴い、吐息に混じったかすかなものとなった。 その様子に、男が愉悦に満ちた笑みを浮かべる。 「くく。羽柴、そろそろこっちもほしくなってきたんだろ？」 「･･･やっ･･･」 体を強く引き寄せられ、男の指が背後に回る。男の滴りですでに濡れているそこは、男の指をあっさりと受け入れた。しかし浅くうずめられた指はすでに今日最奥を刺激されている空からすれば、あまりにももどかしすぎた。水都は、たった一本の指をやわやわと動かす。故意に男が指を進めないのは明白だった。 そしてまた、前を責めていた水都の手が離れた。その代わりに、そこに水都自身が押しつけられる。 「――」 固くなった自分自身がなにに触れているかに気づき、空は瞬時に顔を赤く染めた。指とは違い明確な愛撫はなにもない。けれど、触れているというだけでなぜかそこから熱が広がる。 水都がかすかに体を揺らすとそこがこすりあわされた。 空は生まれた熱に感応したように、水都のシャツを掴んでいた手を離し、男の首に両腕を回した。男の背中にしがみつき、もう一方の手を男の髪に伸ばす。 ――無意識にかき回すように、男のやわらかい髪に指を絡めた。 奥を攻めるたった一本の指。感度の高い前には、こすりあうことから生まれる鈍い快感しか味あわせてくれない。 なのに、空はなぜか無性に男にしがみついて身を任せたい衝動にかられる。しなだれかかって体重を預けて。 もっと、こうして触れ合っていたいと感じる。快感がほしいからじゃなくてもっと別のなにかを味わいたくて。 さほど激しく攻めていないのに自分に体重を預けてきた空に気づき、水都は唇を落とした。 従順な仕草を見せる空に褒美だという意味合いはなく、ふと思い立った行動だった。 互いにキスの甘さに酔うように舌を絡める。意図的なものはなく、ただ衝動のままに。 「――え･･･」 だが途中で水都に思いきり体を引き離されて、空は戸惑ったように声を上げた。 水都はにやりと笑って空を見やると、自分自身を空に示した。 「さて。そろそろ約束どおり、羽柴にしてもらおうか？」 「や、約束なんてしてねーだろ!? そっちが勝手に･･･っ。わ、よせって・・・！」 だが空の反論など水都は意に介さず、強引に空の頭を下げさせた。 目の前にそれが示されて空は息を呑む。自分と同じモノのはず、だが、やはり容量が違う気がする。 それに･･･。 （って･･･こんなん正視できるわけねーじゃん〜） 空はたまらず顔を背けた。自分のモノだってあまりまじまじと見ることがないのに、ましてやそれが人のモノだなんて。 「どうした。おまえがいつもよがってるものだぞ? たまには日頃の感謝をそれに向けてみてもいいんじゃないのか？」 「日頃の感謝どころか、恨みばっかしだよっ！」 「おまえの恨みとは喘いで腰を振ることか？」 「――くそ･･･」 反論したいのに、今の自分が必ずしも水都に貫かれることを嫌がっていないのは自覚しているので、空は舌打ちしかできない。体の奥で感じる悦びを覚えこまされているから。 「で、いつまでもこのままじゃ仕方ないだろ？ おまえのほうだって我慢の限界だと思うがな？」 「だからっ。今のあんた、全然元気じゃん！」 「それはおまえの目が悪いんだろう？ そうして顔を背けているからちゃんと見えてないんだ。ほら」 無理やり顔を元に戻され、口に、水都自身を押しつけられる。とっさに目はつぶったものの、口にあたる生々しい感触は拭いようもない。 「舌を使ってなめてみろ。いつも、私がおまえにしてやっているだろう？ それとも、初めからしゃぶってみるか？」 目を閉じているので水都の顔は見えないが、声が、これまで以上の愉悦に満ち溢れている。それだけで水都が今どんな表情をしているかわかるような気がした。 己自身を口に含ませるなんて、それは相手を征服した証しのようなものだ。させられるほうからすれば、とても屈辱的な行為。 だからそんな行為など、冗談ではないのだが――。 ふと、空の手に先程触れた男の髪の感触が蘇ってきた。しっとりとしたやわらかい質感。指を絡めるだけでなぜかどきりとした。 そして今目の前にあるそれは、先程自分自身とこすりあったもので、あの、よくわからない不可思議な熱を生み出したもの――。 空は頑なに閉じていた目を開いた。 そして口を開き、おずおずと舌をそれに触れさせる。自分の両手で包み込みながら、舌を動かしていった。 水都はいつものように今日もズボンの前を開けただけだ。だからそんな相手にそうすることは本当に屈辱的なことのはずなのだが、今の空はなかば無意識にその行為に没頭していた。 早くそれがほしいとか、相手を気持ちよくさせたいとか、そんな感情は浮かばない。ただ自分がしたいだけだ。してあげたいのではなく、心にある思いのままに。 水都の目から見ても、自分に強制されて空が仕方なくそれをしているふうには見えなかった。快楽に夢中になっているのとも違う。その目がどこか正気ではないようだが、自分から進んで舌を絡めている。 本当は無理強いさせて、屈辱感でいっぱいの空が自分に奉仕するところを見てみたいと思っていたのだが。 それでも、こういうのも悪くないと水都は思った。 「そう･･･舌を使って･･･くくっ、さすがになかなかうまいじゃないか羽柴」 「――」 「口に入れるときは口を大きく開けて･･･そうだ。ああ、歯は立てるなよ？ 舌を使いながら口を動かしてみろ」 男の指示が耳に入っているのかいないのか、空は黙々とその行為を進めている。 水都はそんな空の頭を左手でかき回してやりながら、その一方で右手を伸ばした。 「･･････んっ･･･」 四つん這いになった空のそこに男の指が触れると、空の体がびくりと反応した。 「おまえはそのまま続けてろ。ちゃんと、限界がきたら挿れてやるから」 「･･･はぁ･･･」 甘い吐息を一度ついて、空は男の言葉に従ったように再び舌を絡めはじめた。 そんな空の表情を見ながら、水都が指を動かす。今度は故意に焦らさずに、指を何本も挿入して複雑に動かした。 静かな室内に、空の声と、互いの息遣いと、空が没頭する行為の水音が広がる。いつもなら空にとって耳をふさぎたくなるほどのそれらが、なぜか、今はさして気にならなかった。 「･･･あっ･･･みな、と･･･も、オレ･･･限･･･」 やがて、空は口に含んでいた水都自身を出してそんなことを言った。 「だ、から･･･っ」 じわりと腰を揺らしてそこを示す。しかしそれに対する水都の返答はとても意地の悪いものだった｡ 「ほしいなら挿れればいいだろう？」 「みなと･･･？ だって、さっきあんた･･･限界がきたらって･･･ふっ･･･ん･･･」 空の言葉の途中で、水都はまた指を動かす｡けれど、それ以上動こうとはしなかった｡ 姿勢は変えないままで｡ 「やはりおまえの言うとおり私も若くはないんだろうな。もう挿れてやる体力はなくてな」 「――!?」 体の中の甘い感覚が、一瞬吹き飛んだかのようだった｡ 空は激しく感情を昂ぶらせる。 「てめ･･･っ」 「ほしいなら自分で挿れてみればいいだろう？ 足を開いてほしい場所に誘導して。それとも、このまま終わりにするか？」 「ほんとにあんた･･･最低、だよな･･･っ」 そう言いつつも空が身を起こす。 本来なら快楽とプライドをかけて、自分で処理する羽目になってもいいから、ここで終わりにする方を選択するのだが。 でも、なぜかこのときは水都自身を受け入れてみたかった。 ちゃんと、自分の中に相手を感じながら達きたいと思ったのだ。 それは、体が慣らされてしまっているせいだと空は思った。一番奥を貫かれる快感を覚えこまされているから、こんなふうに屈辱的な方法でも、自分は足を開いてしまっているのだ。 だからこんなふうな体にした相手をこれまで以上に恨むべきなのだ。 足を開いて相手の体をまたぐ。それから、空は先程まで自分が口に含んでいたそれに指を絡めた。こんなふうにするのは勿論初めてで、欲しいという気持ちより戸惑うほうが先に立つ。 そんな自分の様子を男が逐一見て楽しんでいるのならなおさらだ。 それでも心の奥にある渇望する気持ちのままに、空は水都自身をそこに導いた｡ 「・・・・・・っ」 先端が触れただけで、体に甘い熱が走る｡ これから起こるであろう快感を、体が期待しているのがわかる｡ 幾度も味わった、男自身｡ 「自分でしゃぶって昂ぶらせてから自分で挿れるとは、淫乱もここに極まれリだな、羽柴？」 低い声で笑いながら、水都がそんなことを言う。それでも空はその行為をやめようとは思わなかった。 男のそれを自分の秘所にあてたまま、ゆっくりと体を落とす。じわじわと押し寄せてくる異物感に、空がきつく眉根を寄せた。 普段の空とは違うその表情が、いっそう水都自身を煽った。上気した頬も吐息をつく濡れた唇も、額から流れ落ちる汗でさえ、少年を煽情的に演出する。 「はあ・・・」 とりあえず挿れたところで空が大きく息を吐き出す。だが相手は当然のように動こうとはしなかった。 「･･･もう動く体力もねーってことかよ･･･」 「よくわかっているじゃないか」 「あんた、つくづく使えねーよな」 「強がりを言ってないで、続きをしたらどうだ？ ここまでやったのなら、最後まで徹底してもいいだろう？」 「あんたのためにやってんじゃねーよっ」 「無論だ｡おまえが欲しくてやっているんだろう? ほら、もうなにもかも忘れて達きたいだろう？」 「――んっ･･･」 水都がわずかに腰を動かしただけで、空の敏感な部分に触れた。空の意識がまたそちらに傾きかける｡ 「そのまま、自分で腰を動かしてみろ｡自分で思うとおりに動いてイイ場所にこすりつけるっていうのも、なかなか愉しいものだぞ？」 空にきっかけを与えるように、水都がまた体を揺らした｡空は水都の振動に同調するようにやがて自分も腰を使いはじめた｡ 腰を動かすたびに体の奥にこれまで以上の快感が走る。水都の言葉を認めたくはなかったが、一方的にされるいつものやり方とは違う快楽がある｡ 乱れる自分を意識しながら、それでも空は体が動くのを止められなかった｡ 「あっ・・・・ん・・・・ふっ・・・」 自分がどういう体勢でいるのかも、相手が今どんな表情をしているかなども忘れて、空は快感を追った｡男の肩に手を置き、淫らに腰を使う｡ 夢中になっている空をさらに追いつめるように、水都が空自身や胸の突起に触れた｡ 自分の奥にある、男の熱い圧迫感｡それがこすれるとさらに内部から甘い熱を生み出す｡ 相手が自分を奪っていくのではなく、自分こそが相手を侵蝕しているのだという実感が働く｡ 思いきり腰を振って自分の中を全部相手で満たして｡そうすると体だけでなく別のなにかにも充足感を得られるような気がした｡ 「気持ちよさそうだな羽柴･･･」 目を閉じて行為におぼれていた空が、男の笑みを含んだ声に、ふと目を開けた｡ 「――」 そのまましなだれかかるように男の胸に体重を預け、空が、自ら唇を落とす。 水都の、唇に｡ そしてそのまましゃぶりつくように舌を絡めた｡ 空に不意をつかれ、水都がわずかに目を見開く｡どう見てもそれは、意識がなかばとんでいるがゆえの行動に見えた｡ 予想もしてなかった空のくちづけに、やがて水都もこたえはじめた｡空自身を弄びつつも、もう一方の手をその頭に回す｡空を自分のほうに引き寄せるようにして腕に力を込め、幾度もくちづけを繰り返した｡ キスのあと、再び空が激しく腰を動かす。 男は少年の頭から手を離すと、その大きな手で空の額に張りついた前髪をかきあげた｡ そのことにより、空の顔がはっきりと水都の目に映る｡普段憎まれ口を叩いている少年が、今はこうして自分自身をその中に取り込んで喘いでいる｡元気で闊達でどこか粗暴さが残る成長過程の少年を、今自分は、己という鎖でつなぎとめているのだ｡ 水都の手が少年の前髪から離れ、少年の頬を滑った｡ 親指が、空の唇に触れる｡ 理性を忘れて夢中になっている少年に向けて、男は届くことのない呟きを口にした｡ とても短い、たった一言。 「･･･空――」 「んっ･･･やっ･･･あっ、ああ――っ！」 そして少年はこの日何度目かの絶頂を迎えた｡ 「ちくしょー、オレ、ぜってぇもうあんなのはやだからな。あんたズボン脱がねえから、あんなやり方するとファスナーとか生地とかにすれて痛いんだよっ」 ぶちぶちと文句を言いながら、空が制服を身につける｡いつものこととはいえ、シャワーも浴びずにまた服を着なければいけないというのはいやなものだ｡制服もシャツも、妙にしわが多くなっているのも気になる｡ 「だったら脱がせばよかっただろう？ どうせ私は動けなかったんだ｡おまえが好きなようにすればよかったじゃないか｡それにあれだけ激しく腰を使っていればすれもするだろうさ」 すでにさっさと身支度を整えて自分の椅子に優雅に腰かけている水都が、空に向けてそんなことを言う｡ それだけ自分がほしがったんだろうと言わんばかりの水都の言い草に、空がさらに不機嫌になる｡ 「あーそうですねえ。誰かさんは年だから後半全然役立たずでしたしねー。若いオレが動くしかなかったですからね」 大袈裟な表現を用いてあてこすってやるが、「その分羽柴が好きに咥えこめてよかったじゃないか」などと、切り替えしてくる｡ それによってさらにさらに空の機嫌が下降線を辿り、空は水都に背中を向けた｡ 「――羽柴」 そんな空に、水都の声が再び届いた｡ 水都の声はなぜかこれまでと違うような響きで｡空は着替えていた手を止めて、振り返って水都の顔を凝視した｡ 「今日は早く体を休めるんだな･･･」 水都がじっと空を見つめて、囁くように言った｡ まっすぐ切り込んでくる男の瞳に、空は戸惑ってしまう。そんなふうに見つめられると、いつものように強く言い返せなくなる｡ 「み、水都･･･」 「でないと、明日がきついぞ｡これからたっぷり一週間、こんな毎日が続くんだからな」 そう言って水都はたちまち表情を崩して、にやりとしたいやな笑みを見せた｡ いつもと違う水都の様子に戸惑わされた分、無性に空の中の腹立たしさが増した｡ 「ちくしょー、もうぜってぇ、二月十四日はあんたになんにもやんねえからなっ！ もともとしてやったつもりもねーけど、とにかく二月十四日はぜってぇあんたとは関わらねえからっ！ あんたに会わねえようにどっかに逃げ込んでやるっ」 着替え終えた空が、右手の人差し指を水都に突きつけて宣言した｡だがその宣言の内容のある部分にふと気づいた水都はやわらかい笑みを浮かべた｡ 日頃彼が見せるなにか裏がありそうな笑みではなく、ごく自然に浮かんだ穏やかな微笑｡ 「よくわかっているじゃないか羽柴」 「なにがだよ!?」 「そうだな、来年もその先も、今と同じようにずっとおまえとこうしているんだろうな」 「!! ンなはずはねえっ｡オレはぜってーてめえとは、さっさと縁を切るんだからなっ!」 「来年の二月十四日か･･･一年近くあとの話だな」 「てめえ、人の話聞けよ！ オレはあんたと縁を切るって言ってんだろ!?」 「そのときは･･･そうだな――たまには愛でも囁いてやろうか？」 「――だからっ、人の話聞けよバカ水都っ！」 再びにやりと笑ってそんなことを言った水都に、顔を真っ赤にさせて空が叫ぶ。 そうして少年の叫び声は、薄暗くなりはじめた放課後の校舎に虚しくこだましたのだった｡ 終 |