悪戯したいお年頃♪（後）



「痛って～～～～っ！　そ、空っ。おまえなんてことすんだよ。いくらイきそうになってたからって、人の手に爪を立ててつねるなよっ。背中に爪を立てて引っかき傷を作るほうがまだ一般的でかわいげがあるぜ!?」
「かわいげなんかなくったっていいよ！」

　真一朗の体をドンと押しやって、空がその反動のような形でソファから降りる。
　さきほどよりももっときつい視線が、ソファにいる真一朗に注がれていた。そしてその目尻に浮かんでいるものは。
　さすがに、真一朗が愕然とする。

「空・・・。なんだおまえ、泣いてんのか・・・？」
「兄ちゃんなんか嫌いだっ！　人のことをからかったあげく、なしくずしにしようとしやがって。オレの気持ちなんか全然考えてないのなっ。んな兄ちゃんにされるくらいなら、自分でしたほうが何十倍もましだね！」

　そう言って空は真一朗に制止させる隙も与えず、強引に自分のズボンを整えた。そのあとで再び真一朗を睨みつける。

「いくらオレの体がどう反応しようと、オレがしたいと思うのは私立探偵してて、オレがガキのころから憧れてた兄ちゃんだけに決まってんだろ。オレは数学教師の水都になんか、触られるのもいやなんだからなっ。たとえ同一人物だとわかってても、仕事のために仕立て上げた架空の人間じゃなくて、兄ちゃんとしてオレに触るんじゃなかったらオレは絶対にいやだ！！！」
「空・・・・」

　言っているうちにさらに悔し涙があふれてきて、空は手の甲で目元を拭いながら真一朗に背を向けた。この怒りと悔しさで多少は萎えたとはいえ、ズボンの中はまだ熱を持っている。絶頂を間近に感じながら無理やり引き離した快感は、空の中でくすぶっていた。
　けれどこのまま、真一朗に触られたくはなかった。

「～～～ほんとに一人でしてくるっ」
「ちょ、ちょっと待てよ空」
「待たない。離せよ、兄ちゃん。今の兄ちゃんになんか、もう指一本触られたくねえからっ」
「――そぉら～～～～～」

　真一朗につかまれた腕を、空が勢いよく振りほどいた。そのうえ空に指一本でさえ触れることを激しく拒否され、真一朗はソファに座ったままがっくりと体を落とした。前のめりになってうなだれる。
　真一朗の声に引き込まれて思わず振り向いた空は、一瞬の間のあと、再び怒りの感情を思い出した。

「オレがそんな手に乗ると思ったら大間違いだからな。ンな演技なんかしたって・・・」
「空・・・・・・兄ちゃんマジ・・・。いやほんと、今のはすげえきたって。指一本て空クン・・・」

　真一朗の口調はまだ余裕がありそうだったが、少しだけ顔を上げた真一朗の表情を見た空はそのまま足を止めた。片手で半分だけ顔を覆うようにして、真一朗が苦々しい笑みを浮かべていた。

「空を抱く抱かないより、それ本当にきついわ・・・。空に触れられないということより、空がオレに触れられたくないということがさ。そこまで完全に拒絶すんのは勘弁・・・」
「だ、だってオレのことをからかった兄ちゃんが悪いんだろ!?」
「ハイ、そのとーりです。オレが悪うございました。本当に悪かった、反省してマス」
「それ、全然誠意が感じられねえよっ」
「だからさ・・・ほんとに悪かったって・・・。ちょっとおふざけしすぎたよな。そして空のことをからかっただけでなくて、そのまま強引に事を運ぼうとしたよな。確かに今、空の気持ちを置き去りにしてたよな」

　手を顔から離し、真一朗は足の上で両手の指を組んだ。前に重心を預け、目の前にいる空に語りかける。真一朗に苦笑いとともに上目遣いで見つめられると、空としてはそれを邪険にしてまでこの場を立ち去れなかった。
　足を止めさせるなにかが、今の真一朗の表情には見え隠れしていた。

「オレが抱きたいのは空の心という中身があってこそで、空の体だけを抱きたいわけじゃないんだよな。空がオレのことを受け入れてくれなかったら、そんなの無理やりヤってるのと同じだよな。空は、ニセモノのオレに触れられるのがいやだったんだろ？　おふざけの延長のまま抱かれるのがいやだったんだよな」
「・・・・・・」
「ちゃんともうわかったからさ・・・だから、指一本触れられたくないっていうのは撤回してくれよ。それとも――」

　真一朗が、より強い視線で空を見つめた。そこにあるのは真剣で、そして深い翳りを帯びた瞳だった。
　唇から紡がれる、重々しい声――。

「それともやっぱり、自分から家族とか普通の生活とか、そういうものを奪った男には触れられたくねえか・・・？」
「――っ」

　真一朗の声を聞いたとき、空は衝動的に真一朗の胸に自分から体を投げ出していた。真一朗が組んでいた指を離し、慌てて空の体を抱きとめる。
　空は真一朗の首に腕を回してぎゅっとしがみつくと、胸の中にある恨みの言葉を真一朗にぶつけた。

「卑怯だ、兄ちゃん。すっげーずりぃじゃんっ。そんなことを言われたらオレ、もう怒ったままじゃいられねーじゃん!!」
「・・・事実は事実だろ。空がいつそれを言い出したっておかしくなかったんだ。指一本触れられたくない・・・そう言われてみればそのとおりなんだよな、オレの立場はさ」
「んなこと考えたこともねーよっ！!　いい加減にしないとまた怒るからなっ！」

　真一朗からいくらか体を離して、その表情を見つめながら空が言う。真一朗は腕の中にある大切な存在のぬくもりを強く意識しながら、さらに苦笑した。

「・・・空に怒られるのはきついな・・・」

　それは本当に、実感として思う。ただのじゃれあいではなく、本当に徹底的に怒られて嫌われたら。いつか、自分が切り離されてしまったら。
　そう、もしいつか自分と別れるときがくるとしたら、自分が彼を離すのではなく、それはきっと未来あふれる少年のほうが自分を必要としなくなる形だと思うから。
　そんな未来を怖がる気持ちもあるのについつい遊んでしまったり悪戯を仕掛けてしまうのは・・・自分としてもどうしようもない性格だとは思うけれど。それはやはり、それだけ少年が愛らしすぎるのだと原因をそこに押しつけたら、よりむくれられてしまいそうな気はするが。

「嘘ばっかり・・・。オレが怒ったって、兄ちゃんには全然効かねえじゃん。一人で拗ねて一人で怒って、まったく空ってばガキだよなって、呆れられるだけじゃん・・・」

　そう言って、空が真一朗の唇に自分の唇を触れ合わせた。重ねるだけの軽いくちづけを落としたのちに、つたないながらも舌を侵入させてからめていく。真一朗の心の奥にあるものを知って、自分はそんなことを思ったことなどないのだと、指一本云々もただその場限りの勢いで言ってしまっただけなのだと改めて知らせたくて。
　空が一方的にくちづけをした後で唇を離すと、細い唾液の糸が二人の唇をつないでいた。それが途切れたころ、真一朗は自分の首に回されていた空の片腕をつかんで前に持ってきた。そうしてズボン越しに、自分自身に触れさせる。

「あのなあ、空。ほんとのガキ相手に、オレがこんな気になるわけないだろ？」
「に、兄ちゃん・・・っ」

　真一朗が空に触らせたそこは、しっかりその気になっていて。空は改めて真一朗から求められていることを実感する。そして先ほど無理やりズボンの中に収めた自分自身が、再び熱くなってきたのを感じた。
　先ほどはあんな悪戯の延長で抱こうとしたから拒否したけれど、やっぱり自分もほしいのだと悟る。
　ちゃんと、体でも目の前にいる大好きな存在を感じ取りたくて。

「兄ちゃん、オレ・・・」
「空。もうあんな冗談ではなくてただの〝真一朗〟として・・・オレが空に触れたいんだが、やっぱりだめか・・・？」
「――」

　空が意地や悔しさを脇において真一朗を求めようとしたとき、それより先に真一朗が空に言った。それはいつもの真一朗らしくなく、どこか気弱な感じがして。
　空の中でなおさら抱かれたい気持ちが増した。
　心の中の愛しさと、体の中が疼く感覚が重なって。

　空は真一朗の手をはずすと、自分が着ていた服に手をかけてそれを脱ぎ落とした。
　服越しなんかではなく、直接この肌に触れてほしいと思う。その手が、彼の愛撫が恋しくて。

「・・・〝兄ちゃん〟として、オレのこと、ちゃんと気持ちよくしてくれたら許してやるよっ」
「――ＯＫ、任せろよ。あんなやり方をしなくても、しっかり空を達かせてやることはできるさ」

　空の許しを得て、真一朗が膝の上に乗っている空の肌を、今空自らあらわにした胸や脇を優しく撫でていく。肌を這うその手だけで空の体が甘く揺れ、空が心底その気になっているのを知った。

「ん・・・っ」

　ここでからかうとすぐに許可を撤回されそうで真一朗は黙っていたが、その気になっている空の体はいつもにも増して敏感で、そしてなにより目元をほんのりと染めて快感に耐えている表情は、あまりにも愛らしすぎた。さらに肌を滑らせていくと空がゆるく首を振ったり、甘い声をこぼして喉をさらす。
　しどけなくて淫蕩的で、ついついもったいなくて手加減してじんわりと触れてしまう。空の体も真一朗自身ももっと強い刺激がほしいのを知りながら、この時間が過ぎてしまうのを惜しむように。

「あ、どうし、て・・・」

　いつまでも緩やかな刺激しか与えない真一朗にじれたように、空が問いかける。そんな声もちらりとこちらを窺うまなざしもたまらなく色っぽくて、真一朗はにやけてしまいそうになるのを抑えて、空の頬に軽くキスをした。

「そーらクン。さっきの、空クンからのキス、もう一回してくれねえ？　ちゃんと舌を入れてくるヤツ」
「・・・・・・」
「空からンなことされると、兄ちゃん空に襲われているみたいでドキドキ。な、もう一回頼むわｖ」

　空はしばらく黙って考えているようだったが――恥ずかしさから実行に踏みきれないのはその表情で容易にわかった――しばらくして、先ほどのように真一朗の唇に唇を落としてきた。
　存外簡単に受けてくれた空に驚きつつも、真一朗は空からのキスを堪能する。
　空のキスを純粋に味わうように、真一朗はしばらく自分からは積極的に動かなかった。ただ少年の気持ちを煽るように、肌に触れるだけの愛撫を続ける。
　そしてそれに感応した空のキスがさらに深くなった。

「はぁ・・・。も、いいだろ、兄・・・んんっ・・・っ」

　離れようとした空の頭を抱えて、今度は真一朗が自分からくちづけた。それと同時に空のズボンに触れ、先ほども触っていた空自身を引き出して指をからめる。
　ゆるく扱いてやると、それだけで空自身が元気を取り戻した。思えばずっと熱をくすぶらせたままだったのだ。自分が空を怒らせなければもっと早く快感を与えてやることができたのかと思うと、そんなところにさえ罪悪感がわいた。そしてその罪ほろぼしのように、だんだん強い刺激を与えていく。

「はっ・・・に、ちゃん・・・っ」
「ずっと放っとかれてつらかったよな、空のココも。待ってな、今すぐイかせてやるから」
「あっ、ちょっと待・・・っ」
「遠慮すんなよ。まずは一度イっといたほうが楽だろ？」
「や、ただイくだけじゃなくて。もう、兄ちゃんのがほしい、から・・・っ」

　真一朗の肩に頭を預けて顔を隠し、空が自分の気持ちを訴える。
　その空の甘えたような声に、さすがに真一朗が驚いて手を止めてしまった。

「空・・・？」
「・・・っ手、止めんなよっ。もしかしてこれ以上オレのことじらす気かよ・・・」
「いや、そんなつもりはねえけど。・・・いいのか？」
「だから、一人だけでイかされるより、中で兄ちゃんのを感じながらイきたい。――そりゃ、兄ちゃんがまだその気になれないっつーなら諦めるけど・・・」
「ばーか」

　空自身に触れていない真一朗の手が空の肩を押して、空の顔を上げさせた。空の顔を覗き込みながら、真一朗が本音を伝える。

「オレがさっきからどれだけ我慢していると思ってるんだ。空ン中に突っ込みたいけど、それでもちゃんと空に充分気持ちよくなってもらってからと思ってるからずっと我慢してたんだろ」
「だったら、突っ込んでいい、よ。オレがそう望んでいるんだから・・・」
「空・・・。兄ちゃん今、幸せすぎて泣きそう・・・。っつーか、空クンそんなに男殺しに育っちゃって、兄ちゃん完全に骨抜きにされそうだわ・・・」

　照れて横を向きながらも自分を求めてきた空に、真一朗は本気で感動する。あまりにもかわいくてあまりにもいじらしくて、ただつながるだけじゃ収まりそうもないこの気持ちをどこに持っていけばいいのか。幸せとか好きとか愛してるとか、そんな言葉だけじゃとてもこの気持ちを表現できそうになかった。
　そして愛しいからこそ、やはりついつい甘えたくなってしまうのだ。

「なんだよ、男殺しって・・・」
「そのまんま言葉どおりだって。じゃあ空の希望にそってありがたくすぐにいただかせてもらうけど、そのためにはズボンが邪魔だよな、空」
「え・・・？」
「さっきの、空が自分で脱いだとこも見ててくらくらしたよなあ。あーいうの、兄ちゃんもう一回見たいなあｖ」

　じらすつもりはないと言いつつも、そう言った真一朗の手はまだ動いてくれなくて、空は真一朗の意図を知らされた。
　お互いに求め合っているのはわかっているのに。真一朗の方だって、かなり我慢しているようなのに。
　それでもこんなとき忍耐力もなくて折れてしまうのは自分のほうで。空はいまさらながらに悔しさを感じた。相手の余裕ぶりを憎らしく感じる。

「きょ、今日だけだからなっ！」

　空はそう言って真一朗の膝の上から降りると、真一朗の目を意識しないように気を逸らしながら、すばやくズボンと下着を脱ぎ捨てた。
　そうして全裸になったあとで、再び真一朗の膝に乗り上げる。

「そのまましばらくそこに立ってて、目の保養をさせてくれるのも嬉しいんだけどなあ」
「調子にのんなよ、兄ちゃんっ。・・・これ以上じらされたら、オレ、正気を保てなくなるだろ・・・」

　ぼそぼそと付け足された空の言葉に、真一朗はたまらなくなって空を抱きしめた。

「わ。兄ちゃん！」
「それもそうだな。オレも、やっぱこれ以上は我慢がきかねえや。はあ・・・どうして空ってなにからなにまで男心をくすぐるかねえ」
「あ・・・。・・・・ふっ、んん・・・っ」
「待たせたな空。今度こそ本当にイかせてやるぜ。・・・すぐに、挿れてやるからな」

　空自身への愛撫を再開するとともに、真一朗は空の後ろにある蕾にも指を這わせた。ゆるゆるとほぐしながら、空を追い上げていく。

「ん・・・兄ちゃん、もういいから、早く・・・っ」
「じゃあいくぜ、空。悪いが兄ちゃん、今マジで加減できねえから、耐えてくれよ？」

　そう言って真一朗が自分自身を引き出した。空の体をいくらか浮かせながら、空の秘所に固く張りつめた自分自身をあてがう。それから空の体を支えていた腕から力を抜き、一気に貫いた。

「あっ、くぅっ・・・んんっ・・・っ」

　異物を挿入されることに慣れきっていない空のそこが、きゅうっと収縮しながら真一朗を受け入れる。だが挿入の衝撃も、空の中でたちまち甘い快感にすり替わった。無意識のうちに、空の腰が揺れる。

「はっ、んっ・・・・にいちゃ・・・・ふぅん・・・っ」
「空・・・。今のおまえ、すっげえ最高だぜ。本当になにからなにまで・・・。なんだか最短記録を作っちまいそうだ」
「も、オレ、イく、から・・・っ」
「ああ、しばらく挿れといてやるから、何度でもイっていいぜ」

　空の汗ばんできた肌に唇を押し当てながら、真一朗が空を促す。真一朗が空の胸の突起に舌を這わせると、空の体が一段と大きく跳ねた。

「んんっ、あ、に、兄ちゃ・・・・――っ」

　そうして。
　空はようやく、この日最初の頂点に達することができたのだった。



「ん・・・・・」
「ったく、幸せそうな顔して寝やがって・・・」

　あのあと真一朗と幾度もつながったあと、空は疲れてしまったのか、裸のまま眠ってしまった。
　そんな空の寝顔を眺めているだけで、真一朗は幸せを満喫する。
　空に許されなかったら、永遠に手に入ることがなかった幸せ。自分が巻き込んでしまった空の過去のことで拒絶される可能性も皆無ではなかっただけに、本当にこの心地よい幸せを貴重なものだと感じる。この世の中で、なによりも大切なもの。

「空・・・。ほんとに、オレをここまでめろめろにしやがって・・・。この責任を取って、ちゃんと一生面倒見ろよ？」

　眠っている空の頬に優しく手を滑らせながら呟く。

　〝っていうか、もうオレがぜってぇに離さねえけどな〟――などと心の中でひそかに付け足した。

「しっかしよく眠っているよなあ。このまんまもう一回しても、こいつもしかして起きないんじゃないか？　・・・あ」

　ふとした自分の呟きで、真一朗は新たな悪戯を発見した。先ほどついつい悪乗りしてしまった、〝水都〟としての遊び。

「そうか、目隠ししてっていうのはありかもな。寝ている空に仕掛けちゃえば、夢の延長かもしれないってことでうまくごまかせそうだしな・・・。へへ、試してみる価値はありそうだな」

　自分で思いついた悪戯に、にやりと相好を崩す。その隣で、空は相変わらずなにもしらなげにすやすやと寝息を立てていた。
　空にばれたときにはかなり怒らせることになりそうだとわかっていても、空がいとしすぎて、そしてさらにかまいたくて、ついつい新たな悪戯を仕掛けてみたくなる真一朗だった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわり