甘い甘い恋をしよう １ 空は、食い意地が張りすぎていると、思う。 それはもう若いからとか、それだけ体を動かしているからだとか、そういった理由とは別のものとして、とにかくいつも腹をすかせている印象がある。食べることに意欲的なのはオレも同じだし気持ちはわかるのだが、せめて状況を考えてほしいと思うのは、オレの勝手な言い草なのだろうか。 ――思えば、空はガキの頃からそうだった。 『わっ、すっげー兄ちゃん！ かっこいい！！！』 目をキラキラ輝かせて、よく空はオレのことを見ていた。空の目の前でやってみせることに、空はいちいち素直に感嘆してくれた。別にさほど難しいことをやっているわけではなくて、どれもこれも誰にでもできるものなのだが、それでも小学生の空からすれば〝すごいこと〟に映るらしかった。 ま、オレも空が驚くことを見越してやっていたんだけどな。 もちろん、祭や直に賞賛されるのも嬉しいんだが、空に言われると、昔からなんか格別に嬉しかったんだよなあ。 『すげえなあ、やっぱ兄ちゃんだよなあ。なあなあ兄ちゃん、今のどうやんの!? オレも兄ちゃんみたいにできるようになるかな!?』 『もちろん。空だって簡単にできるようになるさ。オレが教えてやるよ』 『ほんと!? やったあ、早く教えてよ、兄ちゃん！』 『そんなに急かすなよ。いいか、まず、手はこうだ。それからこっちの腕はこの向きでこんなふうに動かして・・・』 純真な空にせがまれて、オレはよくいろいろなことをあいつに教えてやった。空は一つのことに夢中になると他のことなんか目に入らないやつだったから、様々なことを伝授する謝礼の代わりに、ちぃとばかり空の肩に手を置いたり、腰に触れたりしてもあいつは全然気がつかないようだった。いや、別に小学生の空を本気でどうこうしようというつもりはなくて、ただ空の体って体温が適度で気持ちいいし、肌触りとか筋肉のつきかたとか、こう、なんか手にしっくりなじんでいいかんじだったからさ。 とにかくオレはよくそんなふうにして空とじゃれあうように過ごしていた。 そして、人がいいかんじで空と遊んでいるときに限って、いつも邪魔が入るのだ。 『空くん、今日はスコーンを作ってみたんですけど、少し食べてみませんか？』 『七海ちゃん！ なになにおやつ!? もちろんオレ食うよ！』 七海が食い物の匂いをさせて空に声をかけると、空はそれまで食い入るようにずっと見続けていたオレのことを見捨てて、さっさと七海のところにいってしまう。 『あとででもいいですよ？ ちゃんと空くんのためにたくさん作りましたから』 『だって今出来上がったばかりなんだろ!? だったらオレ今すぐ食うよ。出来立てのやつが食べたい！』 『そうですか？ じゃあまず手を洗ってきてくださいね。テーブルの上にスコーンと、ジャムを用意しておきますから』 『うんっ！！！』 元気よく返事をして、空が七海のいうことを聞いてすぐに行動する。オレに対しても素直な空だが、まだオレに対するときの場合、からかわれたりするとムキになってつかみかかってきたり睨んでくるということもあるのだが（もちろんそれはそれですごくかわいいのだが）、七海に対してはほとんどそういった態度をとったことがない。七海の言葉は絶対で、空は尻尾をふらんばかりになついているようだ。 『うわあ、おいしいなあ～。やっぱななちゃんのおやつおいしい！ オレ、すんごく好き！』 『そうですか？ 空くんに喜んでもらえてなによりです。あ、ほっぺたにジャムがついていますよ？』 『え？ どこどこ？』 『ここに』 『！！ わ、びっくりした！！ い、いきなりそんなことしたらびっくりするじゃん、ななちゃん』 『ふふ。指ですくうより、手っ取り早いと思ったんです。ジャム、ちょっと甘すぎたみたいですね』 七海の真意を問いただしたことはないが、なんだかあいつも空のことを特別視している節がある。弟をかわいがる気持ちでそうしているのか、それ以上の気持ちがあるのかはわからないが。 ともかく空は昔から七海が用意する食い物には目がなくて、なにをしているときでもすぐにそっちの方が優先されてしまうのだ。 オレはひそかにそんなとき、七海はそういう空の性格をわかっていて餌付けしているんじゃないかと思う。 そう、まさに餌付けだ。 だから空は七海には逆らわないし、あそこまでなついているのだ。七海の餌付けは、ほぼ成功しているといえるだろう。 そしてそれは、今でも変わらないと思う。 ２ オレが午後の授業をすべて終えて数学教諭室に戻ってくると、部屋の中央にあるソファでくつろいでいる生徒がいた。この学校内で陰険教師として恐れられているオレの部屋にそんなふうに呼ばれもしないのにここに入ってくるような生徒なんか、もちろん一人しかいない。 「おっかえり～、兄ちゃんｖ 勝手にお邪魔してるぜ」 ソファに座っている空が、オレを見て笑顔を浮かべる。その天真爛漫な笑顔はオレの気持ちを和ませるが、いかんせん、今は状況が悪かった。空が座っているソファの前にあるテーブルの上に、香ばしい匂いのするものが置いてあるのだ。 それは、どう見ても買ってきたものではなくて。 オレは空から視線をはずして背を向けた。 「生徒が勝手に教師の部屋に入るな。テスト問題でもあったらどうする気だ」 「今はテスト期間じゃないだろ。・・・悪かったよ、勝手に入って。でもちゃんと、誰にも見つからないように中に入ったぜ？ 廊下で待っているより人目につかなくていいと思ってさ」 「羽柴。私はおまえに勝手に入っていいと、許可した覚えはないが？」 「！！ だって兄ちゃんに会いに来たのに兄ちゃんいなかったんだからしょうがねえだろ!? オレだってしばらくは人に見つからねえように待っていたさ。でも全然帰って来なかったからっ」 「今日の三年の授業はおまえたち二年より一時間長いんだ。自分だけの都合を人に押しつけられても迷惑だ」 オレはことさら冷たい声で空に言った。いくら相手が空だとはいえ、ここは学校なのだ。公私の区別はつけなくてはいけない。 ――というのは建前で、オレの行動にはおもいっきり私情が入っていた。 「なんだよ、兄ちゃん！ オレ、兄ちゃんが仕事で疲れているかもって思って、せっかくもらった食いもんを持ってきたのにさ。ほら、七海ちゃんが焼いたマドレーヌだぜ。甘みが抑えてあってすっげえうまいから、兄ちゃんと一緒に食べようと思ってきたのにさ」 空がオレのことを考えてわざわざここに来てくれたのは、本当は嬉しい。だが、悪りぃな空。今のオレはめちゃめちゃひねくれているんだ。 「・・・七海は確か、午後は出張だったな」 オレは持っていた教科書や資料を自分の机の上に置き、それぞれを所定の場所に戻した。そうしながらオレは、全意識を後ろにいる空に向ける。 「え？ ああ、そうだよ。なんだか研修があるって言うんで、〝よかったらこれ食べて〟って言ってオレにこれを渡して、忙しそうに出かけていったぜ」 くそっ。じゃあやっぱり空はここにくる前に七海のところに行ったんじゃないかよ。そして七海が出張だからここに来たわけだ。つまり空は七海が出かけなければ、保健室で七海と過ごしていたってことじゃないか。――ここには来ないで。 そう考えるとめちゃくちゃ腹が立った。授業がようやく終わって、腹をすかして七海のところにたかりに行っただけかも知れねえ。だがオレより七海のほうを優先したというのは事実だ。いくら七海の餌付けの成果にしろ、それに順応している空にむかつく。 嫉妬なのは百も承知だ。オレはすっげえ心が狭いんだよっ。 「・・・なあ兄ちゃん。勝手に入ったのは悪かったよ。ほんと、それはマジ謝るからさ。だからもうそれは置いといて、ここで一緒に食おうぜ？」 空が今どんな表情をしているかは、見なくても想像がついた。 「もう、ちょっと冷めちまったけど、兄ちゃんと一緒にあったかいやつを食べたくて、わざわざ学食のおばちゃんのところにいってレンジで温めなおしてもらったんだぜ。なあ、兄ちゃんてば・・・」 きっとオレの機嫌を窺いながら、空がオレをじっと見つめていることだろう。その表情はきっとかわいくて、振り向いたらオレは相好を崩してしまうかもしれなかった。 だが、それでも心にくすぶる気持ちがあるのは確かなのだ。 「お前はここをどこだと思っているんだ？ ここは教員室であって休憩室ではないんだ。飲食は当然禁止に決まっているだろう」 「固いこと言うなよ、兄ちゃん～」 「羽柴。お前、なにか勘違いしていないか？」 オレは意識して冷淡な表情を作り出してから、空を振り返った。空の前には食べかけのマドレーヌがある。オレが来る前に食べていたようだが、それだけ空はここで、七海が渡した食い物を食べるということに罪の意識がないということなのだ。その認識は、改めてやらねばならない。 「私がおまえを特別視していると思うのか？ たかが一生徒に、そんな風になれなれしく呼ばれる筋合いはないな」 「・・・っ！」 ま。本当は思いきり特別視しているんだけどな。 だが人が激しく嫉妬しているっていうのに、のほほんと兄ちゃん兄ちゃんて呼んでくる空に無性に腹が立つんだよな。 なんだか思いっきり傷つけてみたいような、暗い感情にかられる。 「今の兄ちゃん、すげえ、最低っ。人の気持ちを全然わかってない！ オレ、兄ちゃんと七海ちゃんのくれたおいしいものを食って、ここでたくさん話したいって思ったからここに来たんだろ!? そんなに兄ちゃん、オレと話したくないのかよ！ そりゃあ事務所でだって会えるし話せるけど、もっともっと、学校でも話したいって思っちゃだめなのかよ!?」 ああ、その気持ちはオレも一緒だよ空。オレだってもっともっとお前といたいし、話したいさ。特にこんな、邪魔な人間がいない場所で空と話すっていうのはすごい貴重だしな。 そうは思ったが、ひねくれたオレの性格はオレ自身でもどうしようもなかったらしい。 気がつくと、眼鏡を中指で押し上げながら、オレは空になおも言い継いでいた。 「別に仕事の邪魔をされてまで話したいとは思わないな。それに、七海が作るものなら食べ慣れているしな。いまさら菓子の一つや二つ食いたいとは思わん」 「――兄ちゃんのばかやろうっっっ！！！！」 空の叫びとともに、オレに向けてマドレーヌが降ってきた。空がオレをめがけて、マドレーヌの入った袋をぶちまけたのだ。オレの体に当たって、マドレーヌが床に落ちていった。あたりに、さらに甘い匂いが広がる。 その向こう側に。 オレを睨みつける空がいた。 「兄ちゃんのばかっ！ ほんとに、すんげえ最低っ！ 陰険！ 冷血漢！ 鈍感！ ああそうだよ、兄ちゃんは七海ちゃんの作るものなんか食べ慣れているだろうさ。オレが知らない間も、ずっと二人で生活してきたんだもんなっ。だけど今そんなこと言うことねーだろう!? なんでここで七海ちゃんの名前なんか出すんだよっ!?」 おいおい、空。七海の名前を連呼していたのはお前だろう？ それを言うならオレだって、せっかくオレのところに来たのに、七海の作ったものを食って嬉しそうに笑ったり、七海の名前をここで出したりするなよ。やるせなくなるだろ。 「兄ちゃんはオレの気持ちなんか全然わかってないのな！ オレ、兄ちゃんと少しでも長く二人きりになりたかったからここに来たのに。放課後を兄ちゃんと二人で過ごして、いっぱい話したくて。なのに・・・ちきしょーっ、オレだけばかみてぇじゃん・・・っ」 オレから目をそらして拗ねたように言う空はあまりにもかわいくていたいけで、オレはそのまま空を抱きしめたい気持ちにかられた。だが、オレの中にある暗い気持ちがそんな欲望に歯止めをかける。 「・・・おまえは、七海がいなかったらここにはこなかったんだろう？ 七海が出張だったからその代わりに・・・」 「七海ちゃんには、ただ呼び出されただけだよっ」 「・・・え？」 「朝寮の前で会ったときに、放課後保健室に来てほしいって言われたから、ここに来る前にちょっと立ち寄っただけだよ。七海ちゃんが、作ったお菓子をくれるって言ったから。甘さを抑えてあるからそういうのが苦手な人間でも食べられる・・・適度な甘さは働いている人間が疲れを取るにはいいって、七海ちゃんがそう言ったから。だからオレ、兄ちゃんに食べてもらいたくて保健室に寄ってからここに来たのにさ・・・」 え!? じゃあ空は、もともとオレのところに来ようとしていたのか？ それにこの菓子も、自分が食べたいからじゃなくて、オレに食わせるために!? 「だけど、もういいっ。悪かったよ、仕事の邪魔してっ。じゃあもうここには来ねえよ！ オレ帰るっ！」 そう叫んで身を翻そうとする空の腕を、オレは慌ててつかんだ。 うわっ、ちょっと待てよ空っ。 空の腕をつかんで、それから自分のほうに引き寄せた。思い切り力強く空の体を取り込んで、オレの胸に押しつける。 あ～・・・もっと早くこうすりゃあよかった。ごちゃごちゃ拗ねてねえでさ。 「ぶ・・・なにすんだよ、兄ちゃんっ！」 「悪かった。ほんと、マジ、悪かったよ空・・・」 オレがいつもの口調でそう言うと、空の体が小さく震えた気がした。オレはますます腕に力を込める。 「その、妬いてたんだよ、七海に。お前が、オレのとこよりも先に七海のところに行ったかと思うとさ。無性に腹が立ってな。七海が出張でなければずっと保健室にいるつもりだったのかと思って、まあ、その・・・いろいろとな」 畜生、七海のやつ、オレの反応を見込んで空に声をかけたんじゃないのか？ そもそも話の発端からして、なんか意図的なものを感じるぜ。 「オレは、兄ちゃんのところに来ようとしてただけだよ。今日は夜、祭と約束してて、事務所には帰れないから。だからどうしても学校で兄ちゃんと話したいって思っただけだろ」 「そっか。空のその気持ちは嬉しいし、オレも、二人っきりになりたかったよ」 ああ、ほんとにバカだなあ。空はこんなかわいくオレのことを考えてくれてたのに、勝手に妬いて時間を無駄にしちまうとはな。 もちろん、これから取り返す気だけどな。 「ほんと、ごめんな空」 「も、いいよわかってくれたんなら。それより兄ちゃん、離せよ。オレもうどこにも行かねえからさっ」 空がオレの腕の中で身じろぎをした。オレはそんな空を見下ろし、そして、思わず吹き出してしまいそうになった。 今まで気がつかなかったが、空の顔をよく見ると唇の脇にマドレーヌのかけらがくっついていた。 まったく、ガキのころからかわんねえなあ。自分の顔についているのも気がつかずに食っているなんて、それだけ食い意地が張ってることの証拠だよな。 「兄ちゃんてばっ。人の話聞いてんのかよ！」 悪りぃな空。ちゃんと聞いているけど、オレがこのまんまお前の体を離せるわけねえだろ？ オレは当然空を解放しないまま、空の顔に口を寄せた。 「空。お前の顔に菓子がついてる。味見、させてくれよな」 「兄ちゃん!?」 唇で空にくっついているかけらを拾い、そのまま空の唇に重ねた。驚いた空の動揺が、オレの腕を通して伝わってきたけど、それがますますこっちの気分を煽った。すっげぇ初々しい反応でほんと、たまんねえよなあ。 空の口の中はほんのりマドレーヌの味が残っていて、オレは本当に味見をするような感覚でそれを追った。舌を差し込み、空の口の中を自由に動かす。空の舌は驚きに萎縮しているようだったが、オレはそれを宥めるように優しく絡めていった。 「ん・・・っふぅっ・・・」 舌で空の口の中をなぞり、あるいは唇をついばんでやる。そして再び深く口づけた。 もともとはここまで濃いのをするつもりはなかったのだが、空の唇はとろけそうに甘くて、途中で止めることなんかできやしなかった。 「はっ・・・に、いちゃ・・・」 「ん・・・七海の菓子、まだ甘みが強すぎるんじゃねえのか？ 今のめちゃめちゃ甘かったぜ」 もちろん正確な味なんてわからなかったけど、キスのことを揶揄して言ってやると、鈍い空にしては珍しく気づいたようだった。 途端に顔を真っ赤にさせて、「兄ちゃんっ！！」なんて、叫んでくる。だからそういうところがかわいいんだって。 オレは眼鏡を引き抜いてスーツの胸ポケットに納めると、さらに空にねだった。 「でもまあ、確かに疲れは取れそうだよな。空、兄ちゃん疲れてるからもっとｖ」 「ばっ・・・！」 「もっと口開けろよ空、奥まで味わえねえだろ？」 「ざけんなよ、兄ちゃん、も・・・・んっ・・・・」 オレは逃げようとする空の腰をしっかり捕まえて、頭も抱え、再び空の唇をむさぼった。先ほどのキスでいくらか慣らされたのか、空はさっきよりもリラックスしているようだった。もしかすると、体が煽られてきたのかもしんねえ。 先ほどよりも空の唇を味合うように、丹念に丁寧に口づけを繰り返す。ほんの瞬間唇を離したときにこぼれる空のせつなげな吐息がオレの顔に触れ、オレの頭の中を痺れさせた。 おまえ、そんな無防備に誘ってくるんじゃねえよ。ほんとに止まらなくなるだろ。 空の頭を支えていた手を離しても、空には逃げる気配はなかった。今の空にはそこまで余裕がないかも知れねえなあ、オレ、けっこう本能のままに暴走したしな。 空の意識が現実に戻ってこないのをこれ幸いと、オレは自分のネクタイに手をかけた。ネクタイを緩めてから、空の背中側にソファが来るように位置を調整する。 頃合を見て、そのまま空を押し倒した。 「わっ、兄ちゃんっ」 さすがにソファに倒されて、空がはっきりと現実を認識したようだった。 「ちょ、ちょっと待てよ、兄ちゃん」 「いや、待てねえな」 お前がいけないんだぜ、空。あんなふうに誘ってくるから、気分がすっかり盛り上がっちまったじゃねえか。 「兄ちゃん、腹減って死にそう。空のめちゃくちゃ甘いのが食いたいな」 そう言って押し倒した空の首筋にキスを落とすと、敏感な空の体がわずかに反応する。 空は慌ててオレの顔を押しやってきた。 「だめだって、兄ちゃん。こ、ここは飲食禁止、だろっ！」 「そんな固いこと言うなよ、空。・・・・・・な？ オレ、疲れて甘いのに飢えてんだからさ」 ねだるように上目遣いで言うと、空は困ったような顔を見せた。拒否したいけど拒否できないってかんじの顔だ。これは、もう一押しと見たね。 「・・・んなことしたら、兄ちゃんもっと疲れるじゃん・・・」 「なになに、オレの心配してくれてんの？ 大丈夫さ、かわいい空クンを満足させてやるだけのことはできるって。兄ちゃんの体力を見損なうなよ」 「そ、そんなつもりじゃないって・・・あっ・・・っ」 いつまでしゃべっていても埒があかねえ。オレは強引に空の首筋にまた顔を埋めた。静止しようとする空の手をかいくぐって制服の内側のシャツをめくり、その肌に手を這わせる。それだけで空が身じろぎし、ちゃんと感じていることをうかがわせた。そして空の胸の先端に辿り着くと、オレはすぐさまそこを指の腹でこすってやった。 「ひゃっ・・・あ、にぃちゃん・・・っ」 空の体が跳ね、空の下半身が一瞬オレのほうに強く押しつけられる。もちろんそれは反射行動みたいなものだが、触れられた空のそこはすでに硬度を持ちはじめているようで、オレはさっさとそっちにも手を伸ばした。 ズボンの上からいくらか撫でたあと、ファスナーやホックに手をかけ、空のそこを開放していく。 空自身を引き出して直接触れると、ますます空の体がオレの下でかわいい反応を示した。 「くぅっ・・・んんっ・・・」 「空。声、抑えんなよ。兄ちゃん、空の声好きなんだからさ」 「ばっか・・・っ。兄ちゃんの変・・・た・・・っ」 あ、そんなこと言うんだ、空クンは。 オレは空自身を手で握りこむと、幾度か性急に扱き上げた。 「あっああ・・・っ・・・んなこと、きゅ・・・に・・・っ」 強い刺激に驚いた空が、オレの胸元に当てていた手で服を握りこんできた。 ほんと、かわいいよなあ、空は。 ガキのころからかわいかったけど、今のほうが何倍もかわいいね。 ほんと、何度貪り食っても飽きやしないんだろうなあ。 オレはそんなかわいい空の顔に何度もキスの雨を降らせる。 そうして、オレはふと気づいた。 なんだ、オレも空のこと言えねえんじゃん。 ――オレも、やっぱり食い意地が張りすぎているらしい。 おわり |