「トモ」 「！」 　勇気に急に後ろから抱きつかれて、智友は驚いた。 　抱きつかれたまま少しだけ首を動かす。 「なんだよ勇気」 「へへっ、なんでもない。ただトモにくっつきたかっただけ」 　智友の背中に頬まで寄せて密着してきた勇気に、智友の顔がわずかに赤くなった。 「いきなりなんだよ…」 「たまにはこんなときがあってもいいだろ」 「……誘ってる？」 「誘ってない。そういう意味では。ただ、俺はトモが好きだなあって、大好きだなあって思ったんだ」 　勇気の声に込められた想いの深さにたまらなくなって、智友は強引に勇気の手をはずすと体ごと後ろを振り返った。そしてそのまま自分も勇気の身体を強く抱きしめる。 「なら俺もお返しな」 「わっ。くすぐったいって」 　勇気がもぞもぞと身じろぎする。智友は勇気の顔が見えるように少しだけ腕の力を抜いた。 　二人で顔を見合わせて笑みを浮かべ、そのまま軽いキスをする。勇気としては一度だけのつもりだったが、智友が再び腕に力を込めてキスをせがみ、勇気はそのまま智友のキスを受け入れた。くっついては離れるキスが何度か繰り返される。 「ん……」 　やがてついばむような口づけがだんだん深くなっていった。 「トモ…」 「ほら……やっぱり誘ってた」 　二人をつなぐ濡れた糸が途切れたあと、智友が勇気の顔を見て軽く笑った。 「違う…。トモが煽ったんだろ」 「勇気にくっつかれたら、俺はもっと欲しくなるよ」 「俺はこうしてくっついてるだけで満足だけどな」 「本当に？」 　智友が勇気の足の間に自分の足を割り込ませる。 「……っ。トーモ」 「俺ばかりじゃずるいだろ。俺、勇気の物欲しげな顔好きなんだ」 「も、物欲しげって…。俺は、トモとこうしてくっついていられるのが嬉しいから、もっとトモに甘えていたいんだよ。だってこの距離は特別な距離だろ。俺とトモだけの、恋人としての特別な距離だ。いつか恋人ができたらとはぼんやりと思っていたけど、今こうしてトモにいつでもくっついていられるのが嬉しいんだ」 「いつかはかわいい女の子を抱きしめたいって思ってたんだ？」 「誰もそんなこと言ってないだろ」 　むくれて勇気が顔を上げると、智友から宥めるような口づけをされる。 「…トモ」 「俺も、勇気とのこの距離が嬉しいよ。勇気の顔を側で見られるのも嬉しいし、こうして簡単にキスもできるし、勇気の体温を感じられる。このまま離したくないって思うよ」 「じゃあ離さなければいいだろ。俺はトモのものだし、トモは俺のものだよ」 「確かにな。俺のすべては勇気だけのものだよ」 「……」 「どうした、勇気？」 「トモが俺のものなら、見えるところに俺の名前を書いておきたいなあって今ちょっと思っただけ」 「マジックとかで？」 「そうそう。黒くて太いマジックで顔に大きくな」 「それはさすがにいやだけど……俺の顔には、もう俺が勇気のものだって書いてあるのも同様だと思うけどな。勇気だって、俺の顔見てわかるだろ？」 　智友にじっと見つめられて、勇気は照れつつも頷いた。 「確かにわかる……かも」 「だろ？　でももしそれでも足りないんだったら、ここに今、勇気の名前を書けばいいよ」 　智友は片手を勇気から離すと、自分の首の横を指で示した。 「……でもそれはすぐに消えちゃうだろ」 「消えたらまた‘書けば’いいって。ほら、俺は勇気のものなんだろ？」 　智友に促されて、勇気は智友の首筋に顔を寄せてチャレンジする。一度目ではうまくつかなかったが、何度かするうちに赤い跡が残った。 「できた！　……けど、勢いでしちゃったけど、トモ、これちょっと恥ずかしいかも……」 「なんでつけた勇気が恥ずかしがるんだよ。俺は別に恥ずかしくないけどな」 「……そういうトモの言動がなおさら……」 「それより勇気」 「わっ！」 「もうくっつくのはいいのか？」 「……もうちょっと」 「ＯＫ」 　智友に了承されて、勇気は再び智友に強く抱きついた。 　そしてしばらくの間智友と抱き合い、勇気は、そして抱きつかれた智友も幸せを満喫したのだった。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終