その日の夕食後、智友に誘われて勇気は智友の部屋で二人で過ごした。
　智友は最初からその気だったらしく、口実である勉強会のノートを勇気に開かせることもなかった。
　智友に甘く誘われれば勇気に断る理由はない。すぐに智友の背中に手を回し、二人はそのままベッドで抱き合った。
「…んっ、トモ……あっ、そこだめ、だって…あ、やだっ…！」
「やだ、じゃないだろ？　ほんとはもっと……？」
「違っ、や、そこばかりっ……あ、ツメっだめ、俺っ俺、もうっ……あっ、ああ――っ！」
　智友に耳の側で囁かれながら、弱いところを執拗に責められる。
　勇気はたちまち追い詰められ、智友の手の中に吐精した。



「勇気……」
　心地よい快感の余韻にとらわれながら勇気が呼吸を整えていると、手を拭い終えた智友が再び勇気の身体に触れてきた。
「……」
　勇気は体を起こしてその手をつかむ。
「勇気？」
「……トモばかりずるい」
「なにが？　あ、勇気もしたかったのか？　じゃあ次は勇気にお願いするかな」
「そうだけどそうじゃない！　いつもいつも、トモは……っ」
「俺は？」
「……トモばかりうまくてずるい……」
　勇気は智友を恨めしそうに見つめながら、小声でそう答えた。
「……」
　勇気が顔を赤らめながらこちらをじっと見つめるのを、智友はまじまじと見返す。智友に呆れられたと思った勇気が、さらに言い継いだ。
「俺の…よ、弱いところを全部トモに把握されてるし、やり方も…っ、いつもいつもたまらないくらいに上手で……どこで覚えてくるんだよ、そういうの！」
「……どこで、って…勇気とする以外に覚える機会なんかあるわけないだろ。それともなに、雑誌やネットで調べたとでも言えば納得するのか？」
「別にそういうわけじゃないけど…」
「それとも誰かに話を聞いて教えてもらったとか？」
「ううう……」
　本気で智友が他の場所でわざわざ勉強しているとは思わないが、それでも自分とするだけの割には、同じ経験をしている自分以上に智友の経験値が上がり、どんどんうまくなっている気がする――悔しさまじりに思わずうなっていると、勇気の頭にポンと、智友の手が乗せられた。
「本当に勇気で覚えたんだよ。いわば勇気が先生かな。勇気のイイ反応が俺にこんなふうにすればいいとか、ここを責めればいいとか教えてくれてるんだって。それだけ勇気が素直に反応してくれてるってことだな」
「……」
「で、そろそろ続きしたいんだけど……勇気？」
「わかった！　じゃあ俺もトモに教えてもらう！」
「お、おいっ」
　勇気は智友にそう宣言すると、智友の足の上に乗りあげ智友のズボンに顏を寄せた。ゆるく寛いでいるズボンをずらし、下着の中から兆している智友の熱を引き出す。
「勇気！」
　勇気は、そのまますぐに舌を絡めた。
「……」
　智友の熱に舌や唇で触れながら上目づかいで智友を見ると、こちらを見下ろしている智友の顔が少し赤くなっていることに気づいた。自分のつたない技巧でも智友が反応してくれている――そう思ったら、勇気は智友の顔を見つめながら、さらに熱心に智友自身に愛撫していった。
　じっと見つめていると、智友がより反応するところがあることに気づく。体がびくりと震えたり、息が上がったり、瞳が揺れる。そして智友が反応したときにさらにその部分を愛撫すると、ますます智友の昂りが固くなっていく。
「……ゆ、うき……」
　智友からすれば、勇気の愛撫もさることながら、勇気が熱っぽい視線で自分を見つめ続けていることも智友を煽った。こちらが反応すると嬉しそうに眼が細まる。そしてさらに自分をひたむきに見つめて、舌を動かし、唇を開く――。
「勇気、もういいから……」
　智友がストップをかけると、惜しむ感じで勇気が智友から離れた。
「トモ、そのままイってもよかったのに。俺も最後までトモにしてあげたかった」
「もう十分だって」
「だけど、こんな感じだろ？　俺も今トモに教えてもらったよ、トモのいいところ。トモが気持ちよくなってくれたら嬉しいし、これからもっともっとトモに教えてもらうからな。よろしくな、トモ先生！」
「――」
　楽しそうにそう言って笑った勇気に、智友は「勇気、足こっち」と、勇気を促した。智友は勇気の足をつかむと、思い切り引っ張って自分の顏の方に引き寄せる。そのあとで自分の体を横たえた。智友の上に乗ったまま、勇気の体が180度回転し、勇気の視界がかわる。今視線の先にあるのは智友の足だった。
「……え？　ええっ!?」
「今の続きがしたかったんだろ？　じゃあそのまま続けろよ。俺もするし」
「俺もって……えっ、ちょっ、トモっ！　この体勢ってっ！」
「ほら勇気、続きだろ」
　智友は勇気の体を引き寄せて位置を調節すると、自分の顔のすぐ近くにずらした勇気の昂りに手を伸ばした。いくらか扱いて刺激したあとで、舌で舐めはじめる。
「ト、トモっ、これっ……んっ…！」
　初めて行う体勢に混乱する勇気を、智友の愛撫が甘く責めはじめる。勇気の目の前には先程と変わらず昂った智友自身があって、今自分のは智友に舐められている。
　いわゆるシックスナインの体勢に、勇気はまだ反応できなかった。
　相手の反応が性技の教師だと、そんなやりとりをして、ならば自分もと智友にフェラをしかけた。智友の反応を見ながら行い、確かに相手の反応でいいところややり方がだんだんわかっていく――と知ったあとで、どうしてこんな体勢になるのだろうか。今の体勢では、智友の表情はまったく見られない。
「ト、トモっ、ちょっと待った…っ！」
「ん…だめ…待たない…。ほら勇気早く、俺にもしてくれよ……」
「……っ」
　智友が一度腰を揺らして勇気に催促してくる。自分の弱いところは先程から智友にじっとりと責められ、故意にあげられたものか、いやらしい水音がかすかに聞こえ聴覚をも刺激する。
「…あ…っ…」
　勇気は熱に浮かされたように、目の前の智友に手を絡め、先程の続きを始めた。
　―― 一心不乱に舐めたりしゃぶったりして智友をイかせようとするのだが、ときおり智友から与えられる刺激が邪魔をする。
「…ぁっ…ああっ……トモ…そっちまですんの、なし…っ。や、俺もたないから……っ！」
　智友に後ろまで触れられ声を上げると、智友が笑う気配がして勇気の昂りをきつめに握りこまれる。
「……っ、トモ……っ！」
「勇気が頑張らないと、ずっとこのままだろ。一緒にイきたいんだから、頑張れって」
　笑いながら声で応援されるが、そのわりには智友の与える愛撫は変わらず刺激が強すぎて。
「俺を焦らすなんて、勇気もなかなかやるようになったよな」
「……どっちが……っ！」
　智友にからかわれながら、意地悪をされながら。そうして勇気は、ほうほうの体でどうにか智友を追い上げ、自分も達することができたのだった。



「勇気、よく頑張ったよな。えらいえらい」
「……っ」
「また一つ覚えて勉強になっただろ。シックスナイン」
「……トモっ、こんなの、いきなり…っ」
「だって勇気が続きをしたいみたいだったから、させてやっただけだろ。俺も、また勇気を気持ちよくさせたかったし」
「……っ」
「まあ、お互いいい機会だったよな。また今度やろうな。勇気はいい生徒だから俺もセンセイとして教えがいがあるよ」
　智友が勇気に笑いかけると、勇気が困り果てたように智友を見返した。頬を赤らめ、その瞳が潤んでいる。
「……勇気？」
「…トモ……俺、頭溶けそう……。トモが、あんないきなり、シ…シックスナイ…ンなんか、やるから……。あんなの、ハードル高すぎ……俺……」
「――」
「トモばかり余裕あってほんと、ずるい…。先、生…なんて、そこまで濃いの教えてくれなくていい……。少なくともまだ……俺……頭の中も体もヘンになりそうで、すごく…困るから……」
　勇気が智友に訴える。だが勇気の言葉は智友の耳をあっさりと通り過ぎていた。言葉は理解しているのだが、その意味を本当には把握しないまま、ただただ勇気の自分を見つめるその表情に釘付けになる。先程まで口と舌で懸命に頑張っていたせいでか、いつもより舌足らずな言い方で、智友をじっと見つめている勇気。
「――っ」
　智友は無言のまま勇気の腕を強くつかんだ。
「え、トモっ!?」
　そのままさっきとは逆に智友が勇気の上に乗り上げる。
「トモっ!?」
「勇気、続き。我慢できない」
「えっ、な……ん…っ…ちょ、トモ……あっ…んんっ……」
「――」
　一言そう告げただけで、智友は再び口を閉ざし、性急に勇気の肌に触れていく。
　智友の中の衝動が、とにかく今は勇気を欲していた。
　勇気は智友はずるいと言った。自分だけうまくなってずるいと。
　確かに勇気の反応が良くてそれを見ながら覚えていったのもあるが、結局は勇気が好きでたまらなくて、ただ単にもっと勇気を乱れさせたくて自分が夢中になっているだけなのだと智友は思う。
　今だってこんなにも余裕がなくなって、早く勇気の中に入りたくて仕方なくなっている。
　勇気こそ自分と同じ回数しか機会がないくせに、どこでそんなふうに無意識に人を煽る仕草や艶めいた表情を身につけてくるんだと智友は言いたかった。
　こんなにも人を夢中にさせ、ほしくてほしくてたまらなくさせているくせに。――ずるいのはどちらだか。
　勿論。
　自分の方が負けている気分になっているだなんて、悔しくて絶対勇気には言いたくなかった。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終