夏休み２ （後） 智友の指が勇気の胸に触れる。すでに固くなっていたそこをほんの少し押し潰されただけで、勇気の身体にもう馴染みになった甘い感覚が駆け上る。勇気の膝を割ってきた智友の足に擦られるのもたまらなくて、勇気は自らも腰を揺らした。 「…は…っ…トモ…」 視線だけでねだると、智友がそれに気づいて再びキスをくれた。ついばむようなキスと、ときおり舌も触れる深いキス。その繰り返しだけでも、頭の中が快感だけに染まっていく。 思えば遊びに出かけた先や勇気の部屋で何度かキスはしたけれど、お互い止まらなくならないように、ここしばらくはセーブしたキスしかしていなかったことに気づかされる。吐息をかわし、相手の咥内を舌で探り、互いの唾液すら交わらせるようなキスを繰り返すのは本当に久しぶりだった。智友の手に肌を撫で上げられるのも気持ちよくて、自分の身体がもっとと求めているのを勇気は感じていた。 「…勇気、すごい敏感…。本当に溜まっていたんだな」 「…そんなの、トモだって…人のこと、言えないだろ…」 「まあな」 そう言って、智友がずっと流れていたシャワーを止めた。流れる水滴にすら感じていた勇気がそれに気づいて智友の顔を窺う。 「トモ？」 「そろそろ邪魔。お前がシャワーにすら感じてるのも妬けるし、お前の声が聞こえづらいからな」 「え？」 「せっかくなんだし、勇気の声、いっぱい聞きたいよ。ここなら遠慮しなくていいだろ」 「……あっ！」 智友の口づけが胸の方に降りていく。それとともに勇気自身を直接触れられて。 「あっ、トモ、急に激し……っ。あっ……んっ……」 「そのまま、声抑えるなよ。勇気の声がよく聞こえるのがたまらないよ」 「……っ…ここ…っ…ふぁ……っ」 智友の言葉で、勇気は自分の声がここでは反響して聞こえることに気づいた。普段とは違う自分の声が、バスルーム内に響いて聞こえることに恥ずかしさを覚える。 「大丈夫。俺しか聞いてないし、それに勇気もすぐにわけわからなくなって意識しないですむだろ」 実際、智友の手がすごく甘くて、勇気は恥ずかしさが少しずつ快感に押し流されそうになるのを感じた。シャワーは止まったのに響く粘ついた水音が、聴覚からも勇気を刺激する。高まる快感に声も、さらにあふれて。 「は……。ヤバいから一回抜いとこう。勇気、手貸して」 言われるままに智友に自分の手を差し出した勇気は、次の瞬間自分の手に触れた熱に驚いて、慌てて手を引こうとした。快感に朦朧としはじめていた意識が覚醒する。 「なっ、トモ、これ……っ！」 勇気の手に触れた熱がなにか、触れた瞬間に勇気は悟った。すぐに手を引きたかったが、智友の手がそれを阻み、そのまま触るように促す。 「ん……このまま、だよ、勇気」 「このままって、こんな…っ」 「だから離すなって。そのまま自分でするみたいに動かして。俺もするからさ」 「……っ」 「そんな困ったような顔しても、ますます俺を煽るだけだぞ。ほら、勇気」 「……んっ…」 「一回抜いておこうって。このままじゃ俺ももたないし」 宥めるような軽い口づけのあと、智友が視線で勇気を促した。今、勇気の手の中にあるのは智友の昂った熱だった。そして智友の手の中にあるのは勇気の。 「あっ……トモ…っ」 「こういうのもたまにはいいだろ。視覚的にもぐっとくるよ」 「……恥ずかしくて、見られないよ…」 「ちゃんと見ないと俺のいいところがわからないだろ。勇気が俺をイかせるんだよ。ほら、頑張れって…」 楽しげにそう言う智友に促され、勇気は少しずつ自分の手を動かしていった。自分の手の中で智友の熱が反応し、智友の息があがる。それとともに自分自身も智友の手にだんだん追いつめられていた。勇気がもう手を離さないと確信した智友が、再び勇気の肌や胸に触れてくる。 互いに熱くなる吐息と、聞こえてくる濡れた音。 「…っ…刺激、強すぎて…頭、わきそう…っ」 久しぶりの行為の上に、バスルームという電気が煌々とついた場所で、二人で全裸になり立ったまま。お互いの手で扱きあっているこの状況に、勇気は自分の頭がショートしそうな感覚に陥った。今まで何度も智友に抱かれていても、こんなに五感で刺激を受けたことなどなかった。 「ん……気持ちいいよ、勇気…。今度からたまにしてもらうかな……」 「……っ」 智友のかすれた声に甘さがにじんでいる。自分が智友を追い詰めていることを感じて、勇気の身体までが熱くなる。 「……トモっ、俺、もうっ…」 「じゃあ、一緒にイこう。勇気、今度はこっちも……」 「！」 智友が勇気に腰を密着させ、互いの昂った熱をこすりつけた。そのまま自分自身にも指をかける。 「トモ……っ！」 「勇気も。…は……ほら、これで一緒にイきやすいだろ…？」 「――っ」 智友と勇気の身体の間で、それぞれの昂った熱がこすれあい、互いの手に刺激を受ける。勇気の手は自身が受ける快感に意識を取られてときおり止まりそうになるが、その手を智友の手が一緒に動かす。 自分の手と智友の手が二人分の先走りで濡れ、よりいっそう淫らな音を立てるのを、勇気は目を閉じて聞いた。 もうすでに自分の力だけでは立ってはいられず、壁に背中を預けてようやく体を支えていた。 「……あっ…あっ、トモ…っ、もう、俺、ほんとに…っ…ぁっ…！」 「うん…いいよ、俺もイく……」 勇気のこめかみに軽く口づけたあと、智友は手にかけていた互いの先端にぐっと力を込めた。 「――……っ！」 そしてそのまま、二人で精を吐き出した。 「……――」 その余韻がおさまる前に、壁に背を預けていた勇気の足から力が抜け、勇気はそのままずるずると勢いよく座り込みそうになった。 「勇気っ!?」 慌てた智友が勇気の身体を支え、勢いを殺してゆっくりと二人で床に座り込む。 「大丈夫か、勇気？」 「……だいじょーぶじゃ…ない……」 「勇気」 声に元気はないものの、智友を見上げる勇気の赤くなった顔に、智友はその感情を察して笑みを浮かべた。 「……いろいろ、濃厚すぎ…。…もう俺、いっぱいいっぱいだよ……」 「いっぱいいっぱいの勇気がかわいい。でもこれで終わりじゃないだろ。勇気、つ・づ・き、な？」 「……ここでベッドに行く気は？」 「ない」 「……なんでトモ、そんなに楽しそうなんだよ……」 「そりゃあ楽しいからな。いつにも増して勇気がエロくてかわいいし、それに溜まっている分、全部すっきりしたいし」 「……雨止んだら帰るんだろ。さっき、トモがそう言ったんだぞ」 「忘れてた。じゃあ今日はもうここに泊まろう。あとで、お前のリクエストにこたえてベッドでもしてやるからさ」 「リクエストなんかしてないっ。それにあとでって……」 何回する気なんだよ…とは、なんとなく怖くて勇気は口にすることができなかった。だが智友は、勇気の内心での問いが伝わったかのように笑みを浮かべた。 「勇気。ほらタオル」 智友が床に落ちていたタオルを一枚を拾って勇気に渡した。 「トモ？」 「手。汚れただろ」 「……！」 なにで汚れたかをすぐに思い出す。それとともに少し前までなにに触れていたかを。自分のだけならともかく、その前は智友の、熱を。 「――っ」 改めて刺激が強すぎた直前の出来事が頭の中に甦ってきて、勇気はタオルを受け取ったまま再び顔を赤くした。今日はまだそれから先もあるのだ。 「思い出し笑いはやーらしいぞ、勇気」 「わ、笑ってないだろっ」 「でも思い出してたんだろ？」 「……っ」 「まあ、ちょっと待ってろよ。取ってくるから」 「取って……？」 勇気の疑問を置いてきぼりにして、智友は勇気から離れると、バスルームの入り口に向かった。そこにある棚から、なにかを取り出す。 「トモ…？」 最初は純粋に疑問符だけを浮かべていた勇気だったが、智友が取り出したなにかがピンク色のいかにもいかがわしそうな容器であるのを見て、顔をひきつらせた。 「…トモ……。それ……」 「部屋にもあったけど、やっぱりここにも置いてあったな。ピンク色だなんて、まさにそのためのものって感じだよな」 「……」 「そんな顔しない。今日はもうとことん楽しもうぜ。汚れてもそのままシャワーで流せばいいんだし」 勇気のそばに戻ってきた智友がそう言って、憮然とした表情を浮かべていた勇気に軽く口づけた。 「勇気と一緒に過ごしてるだけで幸せだけど、俺は欲深だからな、やっぱりお前とこうしてたくさん触れ合っていたいよ。勇気のこと、ほんとにほしくてたまらなくなるんだ。際限なく」 「俺もそうだよ。さっきもトモがほしいって言っただろ。ただ……久しぶりだし、場所が場所だけにちょっと恥ずかしいだけで…。見慣れないもの使われるのも少し緊張するし……。でも」 そう言ったあとで勇気は持っていたタオルを置き、智友に向けて両手を伸ばした。 「このままじゃ風邪をひいちゃうし、ほらトモ、つ・づ・き、だろ？」 「……いっぱいいっぱいだったんじゃないのか？」 勇気の言葉に口元を緩めた智友が、持ってきたローションの容器を手にしたまま、勇気の腕を引き寄せた。 「いっぱいいっぱいと満足は違うんだよ」 「そうなのか？ 勇気のココが物足りないって？」 引き寄せて膝立ちになった勇気の双丘に手を回し、智友が指を滑らせる。 「……そう、だよっ」 顔を赤くしながら、勇気が智友を軽く睨みつけた。 「最後にしたのいつだと思ってるんだよ。そりゃあ俺だって……物足りなくなるよ」 「あんなにヤりだめてたのにな？ 今まで毎日のようにしてたから、ちょっと間を置いただけでも勇気は足りなくなっちゃうんだな」 「毎日のようになんかしてないだろ。……もうちょっとは少ないだろ」 「はいはい。じゃあはりきって勇気を満足させてやらなくちゃな」 そう言って笑った智友が、勇気の背後でローションの容器を開ける。手のひらに出したそれを、人肌の温度にあたためたあとで。 「……っ……トモ、なんか……変…」 「初めて使うものだから？ 確かになんか濃厚そうって感じはするけどな」 智友の手が再び勇気の双丘に触れ、手についたものを勇気の身体になじませていく。智友の手にもまれる感覚とぬるついた粘液の感触と、ときおり指先がかすめる感覚に、勇気の身体が甘さを感じてぞくぞくと震える。 「…はっ…あっ……」 「……これ、すごくすべりがいいみたいだな…。勇気、指挿れるよ…」 「んっ……」 勇気は小さく頷いて、智友の首に回した腕に力を込めた。すぐにぬるりとした感触とともに智友の指が勇気の中にもぐりこんでくる。 「――っあっ…やっ！ トモ、いきなり深……っ」 「…っ…指が、滑った……っていうか…」 勇気の中を犯す指をそのまま動かしながら、智友が勇気の耳元で囁いた。 「――勇気が俺の指を誘い込んでるかも…？」 「っ、そんなことしてな…っ、あっ…あ、トモっ……！」 「久しぶりだからよく慣らさなきゃって思ってるんだけど、勇気の方が我慢できないみたいだ……ほら」 「……っ!!」 智友の指が増やされ、それが複雑な動きで勇気の中をかき回す。いつもよりすべらかに動く指に、久しぶりに触れられる‘中’が敏感に反応して。 「あっ…あっ、や…なんかおかし……っ」 後ろからの刺激と、智友の手がときおり肌を滑らせる感覚だけで、勇気は自分の熱が再び昂っているのを感じていた。確かに久しぶりではあるのだが、一度出したのに、すぐにこんなにたまらなくなるなんて。 「このままだと、勇気一人でイっちゃいそうだな。でもそれは俺がさみしくなるからなしだからな」 「……ん…っ」 そう言った智友が、勇気の中から指を抜いた。その動きだけで、勇気の身体がまた甘く反応する。 「勇気、座っていいよ」 促されて床に座り込むと、そのまま優しく後ろに倒された。バスルームの冷たい床の温度さえも、勇気の熱くなった体には刺激になった。そのあと智友の手に足を開かされて。 「……あ…」 「勇気のナカ、いやらしすぎて指じゃもう我慢できない。だから挿れさせて…」 「……」 快感になかばぼんやりしたまま、勇気がさらに自分から足を開いた。 ここがホテルのバスルームで、自分たちを明るく照らしている電気の真下だということも、もう勇気の意識からは飛んでいた。いつもの流れで、そうすることが自然だというように、熱っぽく智友を見上げる。 「……ほんとに、今日の勇気はエロくてクセになりそう……」 智友が故意に昂った自分自身を勇気の太腿にこすりつけた。 「んっ……っ」 「どこもかしこも敏感で、たまらないな…」 勇気を見下ろした智友が無意識に自分の唇を一舐めした。――そのあとで。 「勇気、挿れるよ」 「…っ…」 「ん……やっぱこれ、すべりがいい…みたいだな。今度からこれ使うかな…？ ほら勇気、どう…？」 「……っや…、ちょっ、トモっ…止ま……あっ…！」 「これでも…ゆっくり挿れてる、つもり…だけどな。……いちおー」 「どこ、がっ…んんっ……！」 「あとは勇気のナカが…おねだりしてる、から…？ きゅって俺の取り込んで…早く動けって、せっついてる？」 「してない…っ、あ、トモ、早い…っ」 「…ダメ。もう完全に我慢がきかなくなった……。ん…勇気のナカ、気持ち、よすぎ…」 「…っ、トモ……っ！ …ひぁっ……ああっ……！」 久しぶりに受け入れゆるゆると動いていた智友の動きが、だんだん速度を増していく。そのたびにあたりに粘ついた水音や体が触れ合う音や自分のあられもない声が響いて、勇気は耳をふさぎたくなった。そしてそれとともに自分の中で強烈に高まる快感。 「…あっ…ああっ…激し…っ…！」 久々だからか、初めて使った物のせいなのか、いつもより強く深く突き上げられ、勇気は手を伸ばして智友の身体を叩いた。もう少し手加減してほしいと伝えたつもりだったが、上からは熱い吐息とともに、智友の楽しげな声が下りてきた。 「でも、それがイイって…勇気のカラダが…言ってる、けど？」 「……っ…！」 智友の言葉におもいきり反論したかったが、もうそれ以上舌をうまく動かすことができなくて。 そのうえ智友の手に先走りに濡れた勇気自身を扱かれると、勇気としては全身に襲いくる快感に身を任せるしかなく。 「…あっ、あっ、もう…っ……――っ!!」 激しく揺さぶられたまま、勇気はこの日二度目の精を放った。そしてさほど間を置かず、勇気の中で智友が達したのがわかった。 「――っ…」 互いに手で扱いて先に一度出していたにも関わらず今また強烈な絶頂感に導かれて、勇気はしばらく声を発することもできず、ただひたすらに呼吸を整えていた。 勇気の上で智友も息を整えているようだった。 だがだんだん息が楽になってくると、勇気は自分の体の中の違和感に気づいた。 「…ト、トモ……っ」 困り果てて智友を見上げると、勇気の言いたいことを察した智友が、ニッと勇気に笑いかけてきた。 「んー？ 余韻？」 「よ、余韻て……」 「すごくすごく気持ちよかったから、名残惜しくてさ」 そう言って少し自分の身体を揺らす。 「…っ、ちょっ、トモ…っ！」 ほんの少しの振動ですらも勇気には強い刺激になった。いまだ“ナカ”で智友と繋がったままの勇気には。 「……トモ…まさか、このまま…なんてことは……」 一つの可能性を思いついた勇気が引きつりながら言うと、 「ん？ どうするかな？ 勇気がこのままもっとほしいっておねだりするなら、頑張ってみるけど？」 と、さらに腰をゆるく揺すりながら智友が言った。 「言わないっ。絶対言わないっ！ だからもう…っ」 「でも今日ならこのままいけるかも。何事も経験だしな。勇気の中だって、まだ物足りなさそうにひくついてる」 「してないっ……あっ…トモ…っ…！」 智友の腰の動きがさらに執拗なものになる。先ほどより中にあたっている気がするのは、気のせいだと思いたい勇気だった。 「勇気……こういうのも夏の思い出だな」 「えっ」 勇気が智友の顔を見上げると、智友はいっそう楽しそうな笑みを浮かべていた。 「本当にお前のおかげだよ。俺に楽しい夏休みの思い出をくれてありがとうな、勇気」 「――っ!!」 勇気の顔がかーっと一気に赤くなる。そして快感とは別の理由から体に震えが走った。 「こ、こんな状況で言われても嬉しくないっ。それに俺は、こういう意味で楽しい夏休みになるって言ったわけじゃないからなっ!!」 「まあまあ。俺にとってはこっちも充分楽しい夏休みだよ。だから、やっぱり今はこのまま、‘抜かずの’に、チャレンジな」 「〜〜〜〜トモ――っ!!」 勇気は声を上げて抗議したが、智友にその抗議は受け入れられなかったのだった。 ＥＮＤ |