家族の話 　智友と二人で勇気の家に立ち寄った帰り道、智友がぽつりと呟いた。 「勇気の家族はあったかいよな」 「え？」 「いつ行ってもあたたかく迎えてくれるしさ。兄さんのことを話したときも俺のことをすごく心配してくれて、そのあとで力強く励ましてくれて。本当に勇気の家族だなって思うよ。勇気は大事にされて、あの家で育ってきたんだなって」 「それを言ったらトモだってそうだろ？」 「俺？」 「そうだよ！　ナオ兄はすごく優しかったよな。それにトモのことをすごく大事に思ってくれていただろ」 「そうだな。兄さんはいつでもすごく優しくて、俺のことを大事にしてくれたよ。自分のことより、俺のことばかり優先して考えてくれた……」 　兄のことを思い出して智友の声が寂しさを帯びる。それを元気づけるように、勇気の声が一段と大きくなった。 「それに、ナオ兄があんなに優しかったということは、それだけトモの父さんも母さんも、ナオ兄やトモに優しかったからだと思うんだ」 「勇気……」 「トモの父さんと母さんがナオ兄やトモを大事に思ってくれていたから、ナオ兄だって、父さんや母さんの代わりにトモを大事にしてくれたんだよ」 「……兄さんから話を聞いたことがあるよ。父さんと母さんのこと。……うん、優しい人たちだったみたいだ……」 　智友の言葉を勇気は微笑みながら受け止める。 「だから俺だけじゃない。トモはちゃんとトモの家族から愛情を向けられていたんだよ。今は……だけど、だからこそトモが愛情深い、優しい人間なんだってことは、トモに愛されてる俺が一番よくわかってるから」 「俺が勇気をすごく大事にしているしな」 「そうそう。――トモがこんなにいい子に育って、きっとトモの父さんたちもナオ兄もすごく喜んでると思う」 「いい子って……」 「トモは十分いい子だろ」 　‘いい子’の響きにどこか憮然とした智友の頭を、勇気が子どもにするように優しく撫でた。 「トモはいい子で、すごく頑張ってる。……サボることも多いけど」 「それはいい子の基準からはずれるんじゃないのか」 「いいんだよ。俺の基準ではそれでもトモはいい子なんだから。……今はトモには俺しか‘家族’がいないけど、でもトモの父さんや母さんがトモを大事にしていたように、ナオ兄が大事にしていたように、これからは俺がたくさんトモを大事にするし、たくさん愛情をそそぐからな。ちゃんと受け止めろよ」 「……そうして俺たち自身があったかい家族になるってことだな」 「そうだよ。勿論トモの優しさも愛情も俺がたっぷり独占するからな」 　勇気に笑顔を向けられて、智友は改めて勇気が持つあたたかさを感じた。 　愛情深く育てられた勇気はこんなにも人を幸せにする力を持っていて。智友は、自分の一生をかけて勇気に想いを返し、勇気を幸せにしたいと心から思った。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ＥＮＤ