夏休み２ （おまけ） 結局そのまま雪崩れ込む羽目になり、二人はホテルに泊まることになった。 「トモぉ〜……この一食の恨みは果てしなく大きいからな〜……」 ベッドに裸で横になったまま、勇気は恨みがましげにベッドに腰掛けている智友を睨みつけた。掠れた声で智友に文句をぶつける。 「うちに帰れば母さんの作った夕飯が待っていたのに。今日の焼肉〜っ！」 「泊まるって連絡したら、夕飯になるはずの材料は明日に回すって言ってくれたんだろ？ なら明日の楽しみにとっておけばいいって。代わりの夕飯は今食べたんだし。俺が勇気のためにここまで運んで、勇気のために食べさせてやっただろ？」 「恩着せがましい言い方するなよ。俺が起き上がれないのはトモのせいだし、俺の家に帰る予定をやめたのもトモだろ。母さんの食事とここの食事とじゃ比べ物にならないよ」 「はいはい。俺が悪かったって。その分俺の分も半分近くお前にやっただろ？」 「トモの分までもらって悪かった……とは今日は言わないからな。今日のは俺の当然の権利なんだから」 じとーっとこちらを睨んでくる勇気に、智友が身をかがめて軽く口づけた。 「ん…カレーの味だな」 「トモ」 勇気の咎める口調に智友は苦笑する。 「まあ確かに食事の内容が悪くなったのは俺のせいだけどさ、でも俺は勇気のおかげで欲求不満が晴らせてとっても満足、だよ。願わくば勇気も満足してくれてるといいけどな」 「それは……。――そんな言い方ずるいぞ」 そう文句を言いながらも、智友があまりにも満足そうに笑っているのを見て、勇気は溜息をついた。 確かに欲求不満が解消できたという点では、勇気だって否やはないのだ。 元々するつもりがなかったらバスルームにいたときにはっきりそう言っている。勇気自身だって今日は智友に抱かれたかったからこそ、その先を促したのだ。 「……でもやっぱり納得がいかない…。トモ無茶ばっかりするし、背中痛かったし、風邪ひきそうだったし、恥ずかしい思いさんざんっさせられたし」 「俺が抑えきかなかったのは勇気がエロかったからだろ。それにベッドでは勇気のペースに合わせたし」 「あれは俺のペースに合わせたんじゃなくてトモがっ」 「俺が？」 「……言いたくない」 「なんだよそれ」 吹き出した智友が勇気の髪をぐしゃぐしゃと撫でまわす。 勇気は不満そうな顔でそれを受け止めた。 確かにベッドに移ってからは智友は本当に丁寧に勇気を抱いた。三回目だし、これ以上は勇気に負担をかけないようにと、あれこれ気遣ってくれたのだが。 （……でもあれ、俺のペースに合わせたんじゃなくて、トモに故意に焦らされただけじゃ……） なにせ勇気がもういいって言ってるのに与えてくれないし、ようやくと思ったらバスルームでの激しさとは一転して、こちらがじれったくなるほどゆっくりで――。 （……って、なに思い出してるんだよ、俺……） 「勇気…。もしかして…」 「うわっ、さすがにもう無理だって！」 智友の言葉の先を察した勇気が慌てて声を上げた。 「勇気がそんな顔するからだろ。俺は勇気のことは際限なく欲しくなるんだってさっきも言っただろ」 「そんな顔って……。っていうか、トモ。俺一つトモに聞きたいことがあるんだけど」 「聞きたいこと？ なんだよ」 「……トモ、さっき……使ったよな？」 勇気の指がベッドサイドのテーブルに置いてあるものを示す。智友は勇気が示すものを振り向いて確かめてから頷いた。 「使ったな。勇気だって俺がつけるとこ見てただろ」 「……でもバスルームじゃ使わなかったよな？ 部屋に置いてあるの気づかなかった…からなのか？」 勇気が言わんとすることに気づいた智友が、勇気に向けて笑みを見せた。 「いや、ローションと一緒に置いてあったけどただ取らなかっただけ」 「〜〜〜〜やっぱりっ！！ トモっ！！」 「だって汚したって平気な場所なんだし、あの場ですぐに流せるし、そこまで条件そろってたらそこはやっぱナマでやるだろ、ふつー。勇気を感じるの久々なんだし。それとも勇気はいやだった？」 「……俺だってそりゃあ直接トモを感じたい……けど、そのあと俺、自分でするからいいって言ったのに、結局トモがしたよな…」 「ま、そこはほら、俺が出したものだし、責任取らないと。お前疲れてきつそうだったし、早く流してベッドで休ませたかったしな」 「……」 智友の親切めいた言葉に勇気が黙り込む。 口では何と言おうと――あるいは本当にそういう理由もあったかもしれないが、あのときの智友が楽しんでいたことを勇気は疑ってはいなかった。 そのまま‘抜かずの’にチャレンジされたあとで、勇気の中に放ったものを指でかき出した智友。最中の熱に浮かされていたときならともかく、終わったあと、いくらか冷静な思考が戻ってきたときに。 『勇気、ほら。もっと足開いて腰上げて』 『トモっ！ ほんとにいいって、俺、自分で…っ』 『いいから任せとけって。遠慮なくたっぷり出しちゃったしな、早く流さないと』 『できるからっ。ちゃんと自分でするからっ……ひぁっ』 『指、すんなり入ったな。勇気、シャワーあてるよ』 『……っ！』 『そのまま力抜いてて…背中俺に預けて。……ああ、ほら、出てきた。勇気もわかるだろ、流れてる感覚』 『――っ』 複数の指で中を犯されて背中で智友と密着して。耳から吹き込まれる声は甘く、体にあてられるシャワーは故意に敏感なところばかりに向けられているかのようで。 いくらほんの少し前に智友と一緒に吐精して一時的に体がすっきりしていても、そんなことをされたらまたすぐに体が熱くならないわけはないのだ。 『……ト…モ…っ…』 『……なに、勇気？』 『ダメだって、これ……。ほん、とに…俺が自分でする、から…』 『俺の目の前で？ 勇気がかき出してるとこ見せてくれるんだ？ それはそそられる話だけどな』 『違っ…！』 『じゃあこのまま俺に任せて。あと少しで終わるからさ。終わったら――』 ‘ベッドでもう一回、だろ？’ 智友に楽しげに囁かれて。もう勇気としては、それを拒絶することなどできなかったのだ――。 「……ほんとーにっ、納得がいかないっ！」 ベッドの上で、勇気は再度むくれて智友に訴える。 「はいはい。それはわかったって」 「……トモのどこまでが計算で、どこまでが素だったのか、わからないのが余計にずるいっ。全部トモの計算通りだった気もするし、単なる思いつきと偶然でたまたまそうなっただけのような気もするし……」 「俺はただ、勇気のことがすごく好きで、今日はいつも以上にお前が欲しかっただけだよ」 「……だからトモのそういう言い方もさあ……」 「全部本当のことだけどな」 「――ああ、もうっ！」 勇気は突然声を上げると、自分の顔を交差した腕で隠した。そのあとで勢いよくその腕を広げる。 「勇気？」 「もういいよ。そんな顔で見られたらなにも言えなくなる…」 「そんな顔って…」 勇気はゆっくりと体を起こすと、疑問符を浮かべている智友の頬に両手を伸ばした。智友の頬を手で優しく挟んで、そしてその目をまっすぐ見つめてから再び口を開く。 「トモ、全部許すけど、その代わりに今日はこれからトモに罰を与えるからな」 「…罰？」 「そう。今日はもう俺になにもしないで、ただただおとなしく俺の抱き枕になること。俺からトモにくっつくのはいいけど、トモから俺に触るのはなしだからな。指一本でも余計な動きしたらすぐにベッドから蹴り落とすからな！」 「……それが罰？」 思わず、といったふうに、智友の表情が柔らかく緩む。 「そう、罰。俺はこのまま裸で寝るけど、トモは抱き枕なんだからなにもしちゃいけないんだからな」 「それはきついな。俺に裸の勇気にくっつかれておとなしくしてろって？」 「だから罰なんだろ。――ここは寮と違って周りの様子とか時間とか完全に気にしなくていいし、うちとも違って誰に気兼ねすることもない。そんな場所でトモとふたりっきりで過ごせるんだから、めーいっぱいくっついていちゃいちゃしてないともったいないだろ。欲求不満を解消するのもいいけど、俺はトモとそういう時間の使い方だってしたいよ」 「わかった。勇気の抱き枕になるよ」 智友の返事を聞いて、勇気が満足そうに微笑む。そのあとで智友に顔を寄せ、自分から軽く口づけた。勇気の手が智友の両頬から離れ、智友の首に回る。 「じゃ、抱き枕開始な。ほら、トモもベッドに入って」 「どうせなら俺も服脱ぎたいけどな」 「それは危険だからだめ。それに、トモは明日の朝、俺のために朝食もここまで運んでくれるんだろ？」 「――仰せのままに」 そう言って智友も勇気がかけていた布団に身体を滑り込ませ、ベッドに横になった。すると勇気は一度自分の腕をとくと、智友の両手を自分の背中に回させ、そうして改めて自分も智友に抱きついたのだった。 ＥＮＤ |