（年始ＳＳ庵野×彰人「おいで･･･」のシーンの続きです） 「ん･･･っ･･･」 先程のキスとは違う慈しむようなくちづけ。 ただ貪るのではなく思いを確かめ合うために。 庵野が姿を消した後――姿を消す前からもつかめなかった庵野の心を与えられて、彰人はそのくちづけとくちづけが与える幸せな心地に酔いしれた。 このまま、この時間が永久に続けばとそう思うほどに。 「･･････っ」 だがセーターの中に庵野の手が滑り込んできたときには、さすがに彰人も現実に立ち返らされた。 くちづけはいまだやまない。 だから庵野にすれば自然な行為なのかもしれなかった。 しかし彰人にもそのまま受け入れたい気持ちはあるものの、六年ぶりのその行為とこれまでに積み重ねてきた一般常識がそれに歯止めをかけた。 「･･･先生っ」 男の身体を軽く押しやると、庵野からは問うような視線が返ってきた。 「どうした？」 「あ、あの･･･」 単に雰囲気で流されただけではない。また彰人が本気で拒否するとは思っていないらしかった。 なにを言うべきか戸惑っている彰人の腰を引き寄せ、庵野が耳元で囁く。 「成嶋」 「･･････っ」 すぐに耳朶を甘噛みされ、セーターの下に滑りこんだ手に直接肌を撫でられる。 それだけで六年前の身体の記憶が思い出された。 今度はあのときのように成嶋への復讐の道具としてではなく、成嶋彰人として求められている。庵野の行為にそれが読み取れ、彰人はこのまま流されてしまいたい気持ちにも駆られた。 けれど六年ぶりだからこそ。 「先生っ。あ･･･あの･･･ここで、ですか？ あの、あの、それにシャワーだって浴びてないですし･･･」 けしてこの行為自体には抵抗していないのだけどという気持ちを込めながらも、彰人は庵野に制止の声をかけた。 「ああ･･･」 彰人の制止の声を受けて、庵野が手を止める。 だがそれもわずかな間だけだった。 「･･･先生!?」 「いまさらだろう成嶋。ベッド以外でしたことなら何度も･･･と言いたいところだが、本当はそんな余裕はないんだ」 「･･･あっ」 「本当にいやなら突き放せばいい。もう無理強いはしない」 「そんなこと言われて･･･僕が、先生を突き放せるわけないじゃないですか･･･」 この人はどうして相変わらずこうなのだろうと、彰人は思わずにはいられなかった。 いつだって自分の気持ちなんか簡単に見透かしている気がする。 「先生･･･六年後の僕に失望しないでくださいね」 「それは六年前は充分満足させてくれていたような言い方だな、成嶋」 「先生っ」 「くくく、冗談だ。――六年後の成嶋が楽しみだよ」 そんな態度のどこに余裕がないのだろうと思いながらも、彰人は庵野のほうへ腕を伸ばし、おとなしく身を任せた。 |