窓の外では雷が鳴っている。 　まだ雨は降っていないようだけど、この分じゃ時間の問題だなと思ってときおり光る窓を眺めていると、机の上に置いておいた携帯が不意に鳴り出した。 　俺は時計を見てから携帯を手に取る。 　電話に出る前に携帯のディスプレイを見ると、そこに表示されているのは和希の名前だった。 「もしもし？　･･･和希？」 「もしも〜し？　そちらはまいすぃーとはーとけーたくんですかあ？　こちらはきみのいとしの和希おにいちゃんだよ〜」 　電話の向こうから聞こえてきたハイテンションな声に、俺はしばし無言となる。 「ん〜？　もしもしけーたくんどうかしましたかあ？　おにいちゃんの声を忘れちゃった〜？」 「･･････和希、もしかして･･････もしかしなくても酔ってる？」 「ええっ!?　けーたくんはひどいなあ。このくまちゃんさまがアルコールなんかに負けたりするわけないだろ!?　くまちゃんさまはちゃあんとしらふなんだからなぁ。うーん、まっけないぞ〜っ」 「･･･よくわかった。酔ってるんだな」 　受話器から聞こえる浮かれた声に向けて、俺は冷たく言い切ってやった。 　それからちょっと口調をやわらげて和希に聞いてみる。 　今は夜の十時。和希は今日午後から泊まりの出張に行ってて、こっちに帰ってくるのは明日のはずなんだけど･･･。 「それで和希、今どこにいるんだよ。どっかの部屋とかか？」 「さあ、どこでしょう〜？　ん〜、ボクわかんなあい」 「和希！　どこにいるかちゃんと言えよっ」 「りりしー！　啓太クンおっとこまえ〜。･･･あ、おやあ？　なーんかあそこに啓太クンの部屋の明かりが見えるみたいだぞ〜。今頃啓太クンなにしてんだろ･･･って、いとしの和希おにいちゃんと電話中なのかなあ」 「部屋の明かりが見える？」 　俺は電話を持ちながら窓を振り返った。明かりが漏れる窓は一つしかない。この窓が見えるってことは･･･。 「ちょっと待ってろよ和希。俺今からそこに行くから。いいか、そこから動くなよ！」 　俺は和希に念を押してそう言うと、電話を切ってすぐに部屋を飛び出した。 　ＮＥＸＴ