その日以降、和希は気まぐれのように啓太に玩具を使った。和希が言ったように、形状が違うものをいくつも試される。
　機械で強引に引き出される快感は啓太の体を熱くさせたが、それでもどんなに乱れても玩具を挿入されたままいかされるのだけは拒否した。啓太の願いが聞き届けられずそのまま達するのを強要されたことはあったが、啓太としては玩具を受け入れず、和希だけを求めた。
　和希は、あるいは啓太のそのおねだりを聞きたいがために、玩具を使うような節があった。啓太を言葉で貶めて快感を煽る。途中啓太がどんなに意地を張っても、最後には和希の望む行動をするように躾けられる。
　啓太は、セックスの最中、突き放されたように一人で玩具でいかされるより、和希の肌や体温を感じて和希自身でいかされることに安堵を覚えるようになった。和希に挿れられるときは両腕が自由でいる限り、必ず和希の体に手を回して縋るようになり、和希が自分の中に吐精するときは、自分だけが高められているわけではなく、和希もちゃんと自分の身体で感じてくれたことにほっとする。また、事後ベッドで一緒にいるときは自然と和希に身体を摺り寄せるようになった。和希に触れていれば安心でき、離れていると不安を感じるようになった。
　そして啓太はセックスのあと目覚めてから、自分が正気でいることをいつも確かめるようになった。
　このままではいけない、和希の考えを変えさせて和希を元の生活に戻さなくてはいけないと、そう強く思うのに、具体的には何もできないまま時間だけが過ぎていく。
　日に日に和希が与える快感に流され、和希と触れて安堵を覚え、いっそ自分の過去や家族のことなど何もかも忘れてしまいたいと一瞬考えては、そんな自分が怖くなる。
　自分が和希を大切だと思うのは、和希が快感を与えてくれているからか、和希が今の生活のすべてを握っていて、一人では食事すらままならないからか、それともまだ昔通りの友情のままなのか、自分の和希への思いの意味もだんだんわからなくなっていく。
　ただ自分の身体が和希によって、明らかに変わってきていることだけは自覚していた。
「啓太、昨日は無茶なことしてごめんな」
　その日、目覚めた啓太に、食事を運んできた和希はそう言って啓太の頬に触れた。
「……」
「啓太、あんなに泣いていたのに……ついつい調子に乗っていじめちゃったよな」
「か、ずき……」
「ああ、声もそんなに掠れて。啓太の体がだんだん慣れてきたからって、過ぎた快感は啓太によくないよな」
「……っ」
　緩やかに自分の頬を撫でる和希の指先に、啓太の意識が持っていかれる。ただ単に触れているだけなのに、和希の指というだけで体が期待し始めているのがわかる。昨夜は、和希に幾度も挿れられ、中を執拗に責められたのに。
　和希も、啓太の反応を十分承知の上で肌を撫でていると、よくわかっているのに。どれほど優しい声、優しいまなざしであろうと、その内側では今も舌なめずりするかのように、自分で愉しんでいる。
「食事、持ってきたんだ。啓太、起き上がれるか？　体がつらいなら、俺が食べさせてやるから無理しなくていいぞ」
「だ、いじょうぶ…」
「そうか」
　和希は啓太が起き上がるのを手伝ってから、トレーに乗せた食事を啓太に渡した。雑炊とサラダという簡単な食事を、啓太はベッドに座ったまま自分で少しずつ口に運ぶ。そのそばで、和希はじっと啓太を見ている。
「本当にごめんな啓太。昨日、最後には気を失っちゃった啓太を見て、さすがに俺も反省したよ。やりすぎたなって」
「……」
「啓太の体の負担も大きいし……だから俺、啓太のために考えたんだ」
　反省したと言いながら、和希の声は明るい。見せ掛けだけの謝罪なのは明らかだった。啓太はそれを聞くとはなしに聞いていた。
「しばらく、啓太の体を休ませなきゃなって。啓太がゆっくり療養できるように、当分の間俺は啓太に触れないことにしたよ」
「……え？」
　食事を食べ進めていた啓太の手が止まった。和希の顔をまじまじと見返す。
「啓太を無理やり抱いてこれ以上啓太に嫌われたくないしな。啓太は俺のことなんか気にせず、ちゃんと体を休めろよ」
「――」
　無理やり抱くだなんて、今まで何度もしてきた行為について和希はなにを言っているのだろうと思う。嫌われたくないなんて、どう考えても和希の本音だとは思えなかった。
　実際和希はそう言いながら、口元に笑みを浮かべていて。
「……かずき、なに……？」
「だから、ずっと啓太の体を好きにして悪かったなって。啓太のために、俺はしばらく啓太に触れないよ。その方が啓太も安心だろ」
「――」
「今まで無茶なことばかりしてごめんな」
　啓太に向けて、和希は愉しげにそう言って笑った。



　――そして五日。
　和希は、啓太に宣言した日から、啓太を抱くことはなくなった。身体に触れることもほとんどなく、昔のように啓太に優しい言葉だけをかけ続ける。
　最初の二日こそ啓太は、それならもう自分にこだわらずに解放しろとか、二人で今までの生活に戻ろうと和希を説得していたが、だんだんとそのような説得はできなくなっていた。和希に説得を試みる余裕が、啓太から失われつつあった。
　――身体が。
　熱くて、どうにかなりそうだった。
　和希は啓太の前に何度も姿を現し言葉をかけたり笑顔を見せるのに、啓太に手を伸ばすことはなく友達としての普通の会話だけで離れていく。はじめはさして違和感を感じなかった啓太だったが、時間が経つにつれ、体が熱くて日がなそのことばかりを考えそうになる。
　理性ではだめだと思っているのに、頭の中では和希に抱かれたことを思い出してしまう。和希のいないところでたまらなくなって自分を慰めてみたが、それだけじゃ物足りないと身体が訴えていた。むしろ中途半端に煽ってしまったために、ますます自分が満足できるくらいの快感が欲しくて欲しくてたまらなくなる。
　啓太は自分の浅ましさに泣きそうになった。あれほどいやだと強く抵抗していたことなのに、だんだんと体が慣れ、最終的には和希に屈服し、ねだるようになっていた自分。そして今、全く与えられないことに、体が疼いている。
　自分の身体の一番深いところが。
「啓太？　今日は食欲ない？　調子悪いのか」
「……和、希…」
「顏も赤いし、呼吸も乱れているみたいだ。熱でもあるのかな」
「あ……」
「食事はもう終わりにして、今日は寝ていた方がいいみたいだな。ほら、食器はこっちに渡して。ベッドに入れよ」
「……和希、俺…っ」
「啓太。今は啓太の体が大事だろ。ちゃんとゆっくり休ませないとな」
　啓太のことを思う言葉を投げかけながらも、これが和希の手なのだと啓太にもよくわかっていた。和希は啓太の今の状態を十分知ったうえで、当たり前の言葉しか口にしない。
　和希は待っているのだ。啓太がつらくなって、自分から和希に堕ちるのを。
「……和希…っ」
　このまま自分の身体の熱に負けて和希に屈服するのが嫌で、啓太は再び自分の気持ちを奮い立たせた。今の和希には何を言っても無駄で、こんなことただ和希を楽しませるだけかもしれないとは思ったが、それでも残った理性をかき集めて自分の気持ちを伝えずにはいられなかった。
「こんなことして、和希は本当に嬉しいのか!?　俺がこれで和希を欲しいって言ったところで、そんなの体だけのことなのに…っ」
「――」
「俺は和希を、俺の体を満足させるための相手として見たくない。ちゃんと、和希を友達として大事にしていきたいんだ…っ！」
「……だから、啓太のきれいな思い出の中だけの友達になんの意味があるんだって。啓太の忙しい現実の中でだんだんその存在も薄れていって、ふとしたときにだけ思い出されて気まぐれに連絡を取って。それだけの存在になるくらいなら、今の方がよほど啓太に熱烈に思われて、必要とされてるだろ？　啓太に忘れ去られるくらいなら、俺は啓太の性欲を処理するためだけの道具だっていいんだよ」
「和希っ！」
「こうして啓太を閉じ込めたところで、元から啓太の全部を手に入れられるとは思ってない。啓太はいつだって俺の手の届かない存在で、いつだって眩しくて……。だから、俺は啓太を俺の好きにできれば満足なんだよ。啓太が身体だけでも俺を求めてくれれば最高だろ。連絡先を交換して放置して忘れられるだけのオトモダチより、俺はその方が嬉しいんだよ啓太」
「――俺が和希を友達として大切にしたい気持ちとか、和希に今までの生活に戻ってほしい気持ちとか、そんなのどうでもいいってことなのか？　俺がただ和希に抱かれることを望んで和希を求めれば、それで…っ」
「だから、さっきからそう言ってるだろ」
「そんなのっ、俺を馬鹿にした話だろ!?　俺の中身なんか関係なくて、頭なんかからっぽで、ただ動物みたいにサカっていればいいだなんてっ！」
「違うよ、啓太。啓太は啓太だからいいんだろ」
　和希の声が、ふとやわらかくなった。
「啓太の心は昔からずっと変わらない。だから俺がこんなに手に入れたくなるんだよ。……手に入れたくても手に入らないままで、だから啓太の体だけでも俺だけのものにしたいんだ。俺が啓太に飽きることは本当に一生ない。なぜなら、本当の意味で啓太が俺のものになることは永遠にないからな。俺はただ、ずっと啓太を求めるだけだよ」
「――」
　啓太は和希を見つめた。和希からは穏やかな視線が返ってくる。自分を見つめている瞳。
　けれど、ある意味自分を見ていないような。
「もう話は終わりか？　じゃあ食事はこれで終わりにして、もう横になるといいよ。俺はもう行くからゆっくりおやすみ」
「和希」
　食器の乗ったトレーを手にして立ち去ろうとする和希を、啓太は呼び止めた。
「なに、啓太。俺にまだなにか話？」
「……は、なし…じゃない」
「じゃあなに？」
　体が火照っている。喉が渇く。
　和希が部屋に入ってくる前からそうだったが、今はそれ以上に。
　和希の姿を見たからじゃない。和希の声や匂いにあてられたわけじゃない。
『本当の意味で啓太が俺のものになることは永遠にないからな』
　身体と――心が疼く。
　和希に抱かれたくて。
「啓太？　どうかしたのか」
「か、ずき。俺…」
　和希を見つめたまま、自分が一枚だけ身につけているシャツの胸元をぎゅっと握りしめる。
「和希に、抱いてほしい……」
　これが和希の手なのだとしても。屈服することの悔しさよりも。
　ただ体に煽られているだけかもしれなくても。
　でも今は、和希に触れたかった。
　心は遠くても身体だけは。漠然とそんな思いが啓太を包んでいた。
「突然なんだよ、啓太。俺、このまえ言っただろ？　ちょっとやりすぎちゃったから、今は啓太に触れないって。啓太にとってもその方がいいだろ？」
　先ほど道具でもいいなんて自分から言ったくせに、和希は今は状況を愉しむかのようにそんなことを嘯く。
　少し前なら和希の言葉に悔しさを覚えただろうが、もう、そんなことどうでもよかった。
「やりすぎてもかまわない。和希に触れてほしいんだ…」
　啓太は握りしめていたシャツから手を離すと、シャツのボタンを一つずつはずしていった。
「――」
　すべてのボタンをはずし終えたあと、シャツを自分の身体から落とす。啓太のそんな様子を、和希は黙って見つめていた。
「和希……」
　全裸になった啓太が和希を見ると、和希は口元に笑みを浮かべたまま一歩も動こうとはしなかった。ただ啓太の表情や身体を見ている。反応しかけている啓太自身に視線を注がれたときは啓太の中に羞恥の気持ちがわいたが、それでも隠そうとは思わなかった。
「和希に抱いてほしいんだ…。俺の体が、和希を求めてるから…」
「確かに啓太の浅ましさが身体に表れてるけど」
「……」
「でもだったら余計に、俺が今触れちゃだめだと思うんだ。これ以上なにも知らなかった啓太を浅ましくていやらしい人間にするのも忍びないしな。啓太だって、俺に抱かれるのずっといやだっただろ」
　和希の本心じゃないのはわかっていたが、同意すれば和希は本当に部屋を出て行くのだろう。啓太はそれを悟った。
　そしてまた、今の啓太はもう二度と、『和希に抱かれるのはいやだ』と言う気はなかった。もしここで和希に抱かれ、数日抱かれていなかった身体の熱さが落ち着いたとしても、次のときに望まれれば、もう抵抗なく和希を受け入れるだろう。
　体を変えられてしまったことでの屈辱も哀しみももう感じない。せめて触れ合ってでもいなければ、この距離は縮まらないとそう思う。
「そんなこともう関係ないんだ。和希に、抱いてほしい」
　和希に動く気がないのならばと、啓太の方が和希に近づいていく。和希は啓太からさらに距離をとって離れようとはしなかった。
　和希の目の前まできてから、両腕を伸ばして抱きつく。和希は面白がっているような表情は変わらないままで、啓太がするのに任せていた。
「和希」
「俺は啓太のためを思って言ってるのに、それでも啓太が俺に抱かれたいって言うなら、その分啓太が俺をその気にさせてみないとな」
「…え？」
「啓太の痴態で。俺を誘惑してみせてほしいな。たとえば……そうだな。おもちゃを使って、一人でするところを見せてくれるとか」
「和希っ！」
「おもちゃを嫌いな啓太が自分から使ってくれるなら、俺もその気になるかもしれないよ？　ね、啓太」



「……は…ぁ…っ。あっ…ひぁ…っ…んっ…」
　自分を犯すローターの音が、啓太の理性をさらに失わせていく。
　和希に促されて初めて自分で挿れたローターは、容赦なく啓太を責め立てる。
「んっ…んんっ…ふぁっ…ああっ……」
　スイッチを持っているのは啓太で、だから本当につらくなるとスイッチを切ることもできた。だがそうしてもまたスイッチを入れてしまうのは、ここでそれをやめて楽になっても、和希が部屋を出て行く結果にしか繋がらないのがわかっていたからだ。和希はなにも言わない。止めたら部屋を出て行くとは一言も言っていない。けれど啓太にはわかった。ここで自分の姿で和希をその気にさせなければ、和希が自分を抱くことはないのだと。
　ベッドの上に座って自分で思いきり足を開いて玩具を使うことの恥ずかしさはある。その様子をなにもしていない和希に見おろされていることは、どんなに感じていても慣れることではない。
　それでも自分がここで和希を求めていることを証明してみせなければという気持ちで、啓太は懸命に耐えていた。
「…かず、き……和希……もう、俺…っ」
「うん、一人で楽しそうだよ啓太。俺なんかいらなさそうなくらい」
「ちが、う…和希じゃなきゃ……んっ…！」
「そんな小さいのじゃなくてもっと大きいのにすればよかったのに。そうすれば啓太もおもちゃだけで充分だってわかるよ。ほら、大きくてゴツゴツしたやつがあっただろ。あれなら…」
「いやだ、和希じゃなきゃ…っ、俺……っ」
「そんなこと言ってもうとろとろのくせに。啓太は本当に淫乱になったよな。俺に見られてると興奮するんだろ？　俺も、啓太がかわいくて見てるだけで充分だよ」
「やだ、和希…っ！」
　見てるだけで充分だと言った和希に怖くなって、啓太は声を上げた。このまま本当になにもされない可能性は十分にあった。今の和希の性格は、ここに連れてこられてからの経験でもうよくわかっている。
　だから啓太は必死になって訴えた。
「……俺を、和希のものにして。もっと…もっと…俺に和希を教えて……和希じゃなきゃ、いやなんだ……っ！」
「俺が、そういうふうにしたからな」
　和希はそう言うと、啓太がいるベッドに近づいてきた。
　立ったまま啓太の顔に手を伸ばし、顔を上げさせた。そしてそのまま啓太の口の中に自分の親指を押し込んだ。
「……っ、は……」
　口を閉じられない啓太の口腔内を指で思うさま触れていく。和希の指にかき回され、擦られるだけでもそこから快感がわきあがった。
　口の端から唾液がこぼれても、和希の指が離れることはなかった。
「……っ」
　まともに声を出せない代わりに、啓太は和希を見上げる。
　そして自分からも和希の指に舌を絡めた。最初はおずおずと、やがて大胆に。舐めるように、あるいはしゃぶり、甘噛みする。それは以前、和希に無理やり教え込まれた、和希の昂りを頬張らせられたときの動きだった。そのときのことを思い出しながら啓太は舌を動かす。自分の気持ちを伝えるように懸命に。
「……へえ。そんなことも覚えたんだ。なかなかおねだりが上手になったよな啓太。別のところを突っ込みたくなるよ」
　和希のもう片方の手が啓太の頭を数回撫で、そのあと耳におりていく。耳たぶに触れ、耳の中を指が幾度となくくすぐる。
　啓太は和希の手に、さらに自分の耳を押しつけた。
　和希の手に触れているところからさらに快感が広がっていく。そして自然に揺れる腰。
「啓太、もうイきそう。前も触ってやろうか？」
　口の中を犯していた手が離れ、啓太の昂りに伸ばされる。
　だが啓太はその手をつかんで止めた。
「今はいい。それよりも和希、早く……」
「どうして？　腰も揺れて、もうイきたいんだろ？」
「和希でイきたいから。和希じゃないと本当にはイけない……」
「イくのに本当も嘘もないだろ。啓太は今までにもおもちゃで何回もイってるんだから、今度だって気持ちいいよ。ほら、手離して」
「いやだ。身体だけじゃいやだ、和希……っ」
「身体だけって、快感を感じるのは身体だけだろ？」
「……」
「ああ、啓太は自分一人だけイかされるのが恥ずかしいんだな。それで俺も巻き込みたいんだ？　啓太は、俺と一緒にイきたいんだろ？」
　和希に問われ、啓太は頷いた。
「和希と…一緒に、イき、たい……」
　和希の手をつかんでいたままの自分の手にさらに力を込める。
　この言葉が、本当の意味では和希に伝わらないだろうと感じながらも、それでもとにかく和希にその気になってほしかったから。
　一人でローターでイかされることが恥ずかしくて和希を求めているわけじゃない。和希に見られたくないから一緒にと望んでいるわけじゃない。
　でも今の和希にそのことでどんなに言葉を費やしても伝わらない気がした。
　だから啓太は懇願する声と和希を見つめる瞳に気持ちを込める。
「かず、き……おね、がい……」
「……じゃあそのおもちゃをとって、啓太の俺がほしいところをよく見せて」
　啓太はローターのスイッチを切ると、自分の中からそれを引き抜いた。そして自分で自分の両膝に手を置き、さらに足を広げた。
「啓太のそこがひくひくしておねだりしてる。ほら啓太もっと足を広げて。濡らすからさ」
　和希はベッドサイドにあったローションを手に取り、啓太の足の間に垂らした。いきなり感じた液体の冷たさに身体が驚いたが、それでも啓太は耐えた。ようやく欲しいものが得られそうな状況に少し安堵の気持ちが芽生える。
　そして和希は啓太の体をベッドに横たえると、自分の準備を済ませてからさして慣らすことなく、啓太に挿入した。
「……っ！　あ、ああ……っ！」
　それまで小さいローターしか入れていなかった身体に、一気に体積のあるものが押し込まれて啓太の中を圧迫する。充分にほぐされていないそこはいくらかの痛みも感じたが、それよりも和希だという気持ちの方が強かった。
　あんな機械などではなく、ちゃんと体温のある生身の体。ずっと欲しいと言っていた和希がようやく与えられて。
　啓太は自分の両腕を和希の背中に回した。
　数日ぶりに触れた和希の身体、和希の体温。
　間近で聞こえる和希の息遣いと、そして和希が与える快感。
「んっ…あっ、はっ……ひぁ…ん……」
　自分の中に、和希によって満たされる気持ちがあって。
「どう、啓太。ずっと、俺がほしかったんだろ？」
「ん…うん…ほしかった…んっ…ずっと、待ってた……」
「気持ちよさそうな顔。これが、すごくイイんだな」
「うん、いい……気持ち、いい……和希……っ」
「今日の啓太はほんとに素直だな。……そこまでになっちゃったんだな」
「――」
　快感に流されていないとは言えないかもしれない。
　ここには和希しかいないから、ただ縋って素直に従って、自分の身の安全を図っているだけかもしれない。
　同じ毎日の繰り返しの中で、自分の中のどこかが壊れてしまったのかもしれない。
　――それでも。
　自分の身体にかかる重みが、触れる肌が、心の奥から喜びを感じさせてくれた。
「和希…和希……っ！」
　啓太は和希から与えられた快感をさらにねだるように、自らも腰を揺らした。
『本当の意味で啓太が俺のものになることは永遠にないからな。俺はただ、ずっと啓太を求めるだけだよ』
　それはまた、逆も然りなのではないだろうか。
　過ぎる快感の中、啓太は頭の片隅で思う。
　本当の意味で、和希が自分の――。
　啓太は和希に抱きつく腕にさらに力を込めた。
　いつしか自分の瞳が濡れていることに、啓太が気がつくことはなかった。