「――啓太！　啓太じゃないか！」 　突然後ろから大きな声で呼ばれ、啓太と和希は足を止めた。 「･･･啓太の知り合い？」 　和希が啓太をうかがうと、啓太は強く頷き、「前の学校の友達なんだ」と言った。 　そして驚きに満ちた表情のまま、啓太はその友達の方へ駆けていった。 　和希が見ている先で、啓太と見知らぬ少年が話している。はじめは二人で話していたが、そのうちそこにまた別の少年が二人加わった。やはり啓太の友達らしく、啓太の声がさらに興奮して大きくなっていくのが、少し離れた場所に立つ和希の耳にも届いた。 　知らない少年たちに囲まれて、楽しそうに笑っている啓太。 　その瞳がなつかしさに輝き、ベルリバティでクラスメートたちと話しているときとはまた違った表情に見えた。 　それはおそらく、啓太がベルリバティに編入していなければ、今も当たり前の情景として啓太の中に刻まれていたはずのもの。 　和希は一度目を伏せた。 　この当たり前の情景を。 　自分が、壊したのだ。 　ＥＧＯＩＳＴＥ 「ちょ、ちょっと和希っ。和希、いったいどうしたんだよ!?　急いでいるのはわかるけど、ちょっと引っ張りすぎだって！」 　和希に腕をとられた啓太が声をあげたが、それでも和希は歩調を緩めなかった。 「和希！　和希ってば！　そんなに引っ張るなよ。つかまれた腕が痛いんだって」 「･･････」 「――和希っ!!」 　啓太が大声をあげると、ようやく和希が足を止めて啓太の腕を離した。 「あ･･････」 「あ、じゃないだろ。急に人の腕を引っ張るなよ。時間気にしているのはわかるけど、そんなに急に引っ張られたら俺がびっくりするし、第一そんなに強くつかんだら腕が痛くなるだろ。･･･ほら！」 　啓太は今まで和希につかまれていた手首を示した。そこは和希に強い力で引っ張られたために少し赤味を帯びていた。 「こんなに赤くなっているなんて、いくらなんでも強くつかみすぎだろ」 「そうだな･･･。ごめんな、啓太」 　和希が啓太を気遣うような表情で謝罪の言葉を口にする。啓太はしばらく和希の顔を見上げ、それから溜息をついた。 「もう･･･どうしたんだよ和希。急に俺の手を引っ張ってさ。そんなに映画の時間が気になってたのか？」 　今日は休日で、啓太と和希は二人で買物をしたり映画を見るために学園島を離れ、街に出てきていた。映画が始まるまでまだ時間があるからと二人は適当な店を見つけて先に昼食をとることにした。そして食事を終えて店を出たところで、啓太は偶然前の学校の友人たちに会ったのだった。 　なつかしい顔を前にして自然啓太もはしゃいでしまい、時間も忘れて立ち話に夢中になってしまった。変わらない友人たちの近況を聞き、この場にいない他の友達のことを話し、ベルリバティでの生活ぶりを伝える。立ち話をしているうちに刻一刻と時間は過ぎ、確かに映画がはじまる時間は近くなっていた。 　それに業を煮やしたのか、少し離れた場所で啓太を待っていたはずの和希が啓太のそばまで来て、言葉少なにその手をつかんだのだった。 　いきなり割り込んだ和希を見て、啓太の友人たちは一様に驚いた顔をしていた。 　今の学校の友達だと早口で説明し、映画の時間が迫っているからまた今度と、慌しく挨拶は済ませたけれど、それでも啓太の腕を取った和希はしばらく啓太の手を放さなかった。 　啓太が友達と立ち話をしていた場所からだいぶ離れて、今ようやく和希は啓太の手を解放したのだった。 「映画･･････。そうだな」 　啓太に映画のことを持ち出され、和希はいまさらのように腕時計で現在時刻を確認した。 「急がないと始まっちゃうな。じゃあ行こうか」 「･･･ちょっと待てよ、和希」 　当たり前のように手を引こうとした和希の手を、啓太は振り払った。 「啓太？」 「和希、今なにを考えていたんだよ」 「なにって･･･」 「映画のことじゃないんだろ？　和希、俺に言われて映画のことを思い出したって顔したしな。今、和希はなにを考えて俺の手を――その･･･」 「･･･啓太の手をとっていきなり引っ張ったのはなんでか、か？」 「そっ、そうだよ。いきなり俺の手をつかむからみんなびっくりしてただろ。映画の時間を気にしてのことじゃないなら、なんで和希は･･･」 「みんな、か･･･」 　和希は啓太の言葉を繰り返すように呟くと、改めて啓太の顔を見つめた。 　――あのとき。 　啓太が前の学校の友人と楽しそうに笑っている姿を見て、いまさらながらにつきつけられた事実がある。本当なら啓太はあの友人たちに囲まれて、今も以前と変わらない生活をしているはずだった。ベルリバティという特殊な環境の中に突然放り込まれることもなく、家族や友人たちと別れることもなく。啓太はそれに対して特に寂しがることもなく、ベルリバティに来られたことを喜んでいるようだが、はたして啓太をベルリバティに呼んだのは本当に啓太にとっていいことだったんだろうか。 　研究所のデータと一緒に啓太の個人データも盗まれてしまったから、啓太の身の安全を確保するためにベルリバティに――自分のそばに呼んだ。啓太になんらかの危険が迫っていてもそばにいればすぐに気づき、対処することができる。だからそれが最善の策のように思えた。 　でもわざわざ啓太の生活を無理やり切り取らなくても、啓太の身の安全を保障することはできたのではないだろうか。啓太のそばに人を配し、つねに啓太の行動やその周辺を気にかけていれば、それで目的は充分に果たせたのではないだろうか。 　ずっと昔の約束を口実にして。 　幼い啓太の希望を叶えるためだと、さも啓太の気持ちにそってやった振りをして。当の啓太は忘れていたほどの遠くてはかない、些細な約束だったのに。 　啓太の身の安全が最優先事項だからと自分に言い訳を重ねて。 　はたして、啓太を強引にベルリバティに呼んだのは自分だけのエゴではなかったと、はっきり言いきれるだろうか。 「和希･･･？」 　黙ったままの和希にしばらく見つめられて、さすがに啓太の顔が赤くなった。 「そんなにじっと人の顔を見て･･･なんだよ」 　和希はその啓太の体をそっと引き寄せた。周囲の目も気にせず、少しだけ腕に力を入れて抱きしめる。 「かっ、和希!?　ここ･･･っ」 「ごめん」 　抱きしめて、啓太には自分の表情を見せずに。 　和希はその言葉を口にする。 「ごめんな啓太。いきなり手を引っ張ってさ。あのとき、啓太が俺の知らない人間と話していてすごく楽しそうだったから、ちょっと、妬いたんだ」 「や、妬いたって」 「啓太があまりにもいい顔してたからなんかさみしくなってさ。それでつい啓太は俺のなんだからなって主張したくなって。啓太の友達にまで妬いちゃうような嫉妬深い恋人でごめんな」 　言葉はよどみなく出てきた。確かにあの光景を見たときに嫉妬しなかったといえば嘘になる。 　だから啓太に話しながら、和希は良心の呵責を覚えなかった。 「単純に、やきもちを妬いちゃったんだよ。話の途中で啓太、頭くしゃくしゃにされたり背中を叩かれたりもしてただろ？　あのとき俺の啓太に触るな！って、もうかーっとしちゃってさ」 　笑顔のまま啓太の体を離すと、啓太は和希の想像通りにさらに顔を赤らめていた。 「や、やきもちなんて和希が妬く必要ないだろ？　あいつらは友達だし、和希は、その･･･」 「そうだよな。ありがとう啓太。俺にちょっと心の余裕が足りなかったみたいだな」 「もういいよ。それより、映画はじまっちゃうだろ。急いで行けば今ならまだ予告編のうちに入れるかもしれないし、もう行こうっ！」 　照れくささを隠すように、啓太が和希に背を向ける。 　和希は目を細めてそんな啓太を見やってから、啓太のあとを追うように歩きはじめた。 　愛しい愛しい啓太。 　だからこそ和希は考えずにはいられなかった。 　もともと啓太と自分の人生はただ一度交わっただけの別々のものだったのに、それを自分が歪めたのだと。 　忘れられていた約束――つまりそれだけ啓太の人生に自分は必要とされてはいなかったのに、自分だけがこの存在を欲していたから。 　――そういえば･･･と、和希は啓太の後ろ姿を見ながらふと思う。 　子供のころ自分と別れるときに大泣きしていた啓太。たった二ヶ月のつきあいでもあんなに離れがたく感じていた啓太なら、ベルリバティにくるときもきっと友達とすごく離れがたかったんだろうなと。ベルリバティに入れる喜びとは別に、きっと啓太はその寂しさを抱えて強引にベルリバティに連れてこられたんだろうなと。 　啓太にとって不自然な状態がどちらなのかは、明らかなように思えた。 『和希っ!?　いやだっ、やめ･････っ！』 　夢の中で。 　自分が啓太に対して傍若無人に振る舞っている。 　啓太の意思を飲み込み、啓太の気持ちをせせら笑い、その抵抗を封じる。 　啓太に怯えた目を向けられても、傷つくどころか愉悦にひたっている自分を感じる。 　もともとこんなふうになにもかも征服してみたかったのだ。中途半端に啓太に自由を与えずに、最初から徹底的にエゴイストになりきっていれば、迷うことも悩むこともないのだから。 「――和希？　和希ってば。いい加減起きろよ」 「!?　･･････啓太？」 　体を揺さぶられて、和希は意識を浮上させた。顔を上げると上から自分を見下ろす啓太の目とぶつかった。 「もうとっくに授業、終わったぞ。本当にぐっすり寝てたんだな」 「授業･･････ああ･･･」 　和希は頭を押さえた。今まで授業中だったことを思い出す。昨夜なかなか寝つけなかったせいか、授業を受けているうちに眠気に襲われてそのまま眠ってしまったようだった。 「啓太が起こしてくれたんだな」 「もう昼休みだしな。･･････和希、最近疲れているのか？」 　啓太の声に心配げな響きが加わる。和希はほんの少し笑顔を作って、啓太を見上げた。 「心配させてごめんな。確かにここのところ仕事が立て込んでてさ。ちょっと、睡眠不足だったみたいだな」 「大丈夫か、和希。別に無理して学校に来ることないんだからな。体がきついときは部屋でちゃんと休んだほうがいいんだからな」 「真面目な啓太が俺にさぼりを薦めていいのか？」 　からかいを込めてそう言うと、啓太がむきになって反論してきた。 「だって和希の体のほうが大事だろ！　和希は日ごろから無理してばかりいるんだから、たまには休まなきゃだめだろ！　それはさぼりなんじゃなくて本当に必要なことなんだからな！」 「･･･そうだな」 　純粋に心配してくれる啓太の気持ちがありがたい。 　こちらの体調を気遣って、ときにはこうして叱り飛ばしてくれる啓太が。 　だからこそもっと、と際限なく思ってしまうのだ。 　和希は自分と啓太の周りに目を走らせた。昼休みがはじまってどのくらい経っているのかはわからなかったが、大半のクラスメートは学食に移動したのか、教室の中は閑散としていた。誰も、こちらに注意を向けてはいない。 「昼休みだけど、どうする和希。もう少しここで休んでるか？　俺一人だけちょっと行って、なにか買ってこようか？　それでここで二人で食べるのも･･･」 「啓太」 　和希は啓太の制服に手を伸ばすと、その布地をつまんで引っ張った。 「和希？」 「啓太の言葉に甘えて･･･少し、休みたい。つきあってくれるか？」 「え？」 「横になれるところに行きたいんだ。保健室、つきあってくれよ」 「やっぱり具合･･･悪いのか？」 「別にそういうわけじゃないけど」 「もしかして熱があるとか」 　啓太の手が和希の額に触れた。それから顔をのぞきこまれる。 「大丈夫か和希？」 　和希の視線は少し身を屈ませた啓太の、襟元に吸い寄せられた。それから額から離れた手の袖口にすら目を奪われる。 「大丈夫だって。ただ少し、休みたいだけなんだ」 　啓太にそう返しながら、和希は今の自分の状態を自覚していた。 　あんな夢を見たせいか。 　――飢えている。 　和希の「保健室に行きたい」という言葉で今の和希は体調がよくないと決めつけたのか、啓太は率先して和希を保健室に連れて行った。保健室についたときも啓太がドアを開け、先に中に入る。 　保健医の姿を求めて静かな部屋の奥に入っていく啓太の後ろ姿を、和希はドアの鍵を閉めながら見送った。 　今日は保健医学に関する大がかりなフォーラムが開かれており、保健医は一日不在のはずだった。ここの保健医が、今頃学園を通して送られてきた案内状を持参してそのフォーラムに参加しているであろうことを、無論啓太は知らない。 「あれ？　なんか先生いないみたいだな」 「そうみたいだな」 「とりあえず和希、ベッドで横になるか？」 「ああ」 　和希がベッドのそばへ行くと、すでに啓太が布団をめくって枕を整えていた。 「こっちのベッドのほうが日が当たらなくて休みやすいと思う･･････和希っ!?」 　こちらを振り返った啓太を、和希はそのままベッドに押し倒した。両手をベッドに縫いとめると、驚きに満ちた啓太の目が下から和希を見上げていた。 「和希、なんだよ。冗談はよせよな」 「冗談じゃないけどな。保健室っていったら、校舎内でするには最適な場所だろ」 　かすかに笑みをまじえてそう言うと、途端に啓太は戸惑ったように視線をそらした。これが単なる日常的なおふざけやじゃれあいではないと、どうやら啓太にも伝わったらしかった。もうすでにそんな目で啓太を見ていたかもしれないと、和希は内心で思う。 「な、なに言ってるんだよ和希。おまえ、疲れてるんだろ？」 「疲れてるからこそ、たっぷりと甘い啓太がほしいんだろ？　そんなに心配しなくても、途中でだめになるほど疲れているわけじゃないから大丈夫だよ」 「だっ、だめになるって･･･」 「啓太」 　和希は啓太のネクタイに指をかけると、それをゆっくりほどきはじめた。和希の指先がシャツを通して啓太の肌に触れる。 「悪いな。渇いてるんだ」 「･･･っなに言って･･･」 　啓太は戸惑っているようだったが、抵抗する気配はなかった。今の自分がどれだけ啓太を欲しているか、察してくれたのかもしれない。これがただの冗談半分なら、啓太はすぐに身を起こしてふざけるなと一喝しただろうから。 　和希は目を細めてベッドの上の啓太を見つめる。 　そういえば夢の中では忘れていたが。 　あんなふうに扱わなくても、この少年は、もうすでにこんなにも自分のものだったのだ。 「･･････っ」 　ネクタイをほどきシャツのボタンをはずしていくと、啓太は気恥ずかしくなったのか目を閉じた。和希はそんな啓太の様子を楽しみながらゆっくりと啓太の肌に手を滑らせる。 　露になった鎖骨や胸の周辺にくちづけていくと、いくらか緊張している啓太の鼓動がこちらにまで伝わってきた。 「･･･初めての場所だから、もしかして緊張してる？」 「だ、だって、人が来たら･･･」 「それならちゃんと鍵は閉めてあるし、心配することないよ。安心して俺に身を任せて」 「鍵っ!?　鍵って和希、いつの間にっ!?」 「ここに入ってきたときに。まさか人にこんな啓太を見せられるわけないだろ」 　そう言って和希はさらに啓太の肌にくちづけを落としていった。故意に音を立てると啓太の身体がかすかに震える。 　昼日中の保健室。窓から差し込む陽光は、自分たちが今なにをしようとしているかを簡単に暴き立てている。自分の方が先にその気になったのならともかく、一方的に付き合わされた形で、啓太がこの状況の中ですぐに夢中になれるとは和希も思っていなかった。初めてのベッド。いつ人が訪れるかわからない部屋。嗅ぎ慣れない消毒薬の匂い。それらが気になって、啓太はすぐには快感を追えないかもしれない。 　――けれど、結局は啓太はちゃんと自分に付き合ってくれるのだ。どんな場所でも、どんなに恥ずかしくても。本気で自分が抱きたいといえば、啓太は否とは言わない。 　それだけ、心身ともに自分のものだから。 「･･････和希っ、ふ、布団。俺、布団がほしいっ」 「布団なんかかけたら暑いし、よごれるだけだぞ」 「いいからほしいんだって！」 「だめ。却下。啓太の裸なんか見慣れているんだから、隠すのなんか今さらだろ」 「それでも。せ、せめて顔だけでも」 「却下。俺も隠さないから。な、お互い様だろ？」 「お互い様じゃ･･･ないっ」 　ズボンに手をかけただけで、啓太が困り果てて訴えてきた。無論和希はそれを無視すると、下着ごと一気に啓太のズボンを引き下ろした。 　息を飲んだ啓太にはかまわず、和希は啓太の身体の中心に手を伸ばして指を絡ませた。 「か、和･･･っ」 　性急に扱き立ててやるとそこは啓太本人の気恥ずかしさとは無関係に、しっかり反応を示しはじめた。繰り返された愛撫が物慣れない少年の身体を着実に変化させていっているかと思うと、意地の悪い満足感が和希の心を満たす。 「やっぱり隠したらもったいないよな。こんなに感じやすい身体してるのにさ」 「･･････っ」 「ちょっと刺激しただけでこんなに素直な反応を返してくれるなんて、俺も嬉しいよ。啓太は顔でも声でも身体でもわかりやすいからな」 「･･･わ、かりやすいってなんだよ･･･っ」 「感じていることが丸わかりってことだろ。啓太の場合意地を張っても声を殺しても、全然隠しきれてないんだよな。･･･だったらいっそのこと、隠そうとしないでもっと大胆になって全部見せちゃえばいいのにな。どうせ啓太は夢中になっているときはすごく大胆なこともしているんだからさ」 「大胆て、なんだよそれ･･････あっ、かず、き･･･っ」 　和希の指に煽られてだんだん勃ちあがってきた啓太自身に、和希はさらに刺激を加える。啓太自身からあふれた先走りのぬめりを借りて先端を丹念にかき回し、またもう片方の手で後ろの窄まりをくすぐる。急激に高まる強い快感に啓太が身をひねるようにして逃げようとしたが、和希はそれくらいでは啓太を解放しなかった。啓太が身体の向きを変えたところで和希の指は容赦なく啓太を追いかける。 「ほらな。啓太はやっぱり大胆だろ？　こっちもちゃんとしてほしいって誘ってるんだもんな」 「ちが･･･！」 「前よりもここのほうが気持ちよくなった？　それとももうほしいってねだってるのかな」 「だから違うって。和希、わかってて･･･っんっ･･･っ」 「いいよ。こっちもちゃんとしてやるから。膝を立てて」 「･･･やっ･･･」 「俺に全部見えるように足も開いて。啓太のひくついているところを俺に見せて」 「･･････っ」 「啓太」 「や、やだっ。なんで俺ばかり･･･俺ばかり恥ずかしい格好させるのは、ず、ずるいだろ」 「――ああ」 　和希はかすかに笑うと啓太の身体から手を引いた。 　それから自分が身に着けていたジャケットやネクタイ、シャツを順番に脱ぎ捨てていく。 「やっぱりねだってたんだな。俺に早くこいって誘ってるんだ」 「そうじゃな･･･っ」 「ほら。俺も脱ぐから。だから啓太も全部脱いで･･･そうしてちゃんと膝を立てて」 　啓太の前をはだけただけだった制服をすべて脱がすと、和希は再び啓太を促した。ためらう啓太の腰を持ち上げ足を曲げさせると、啓太はそれ以上いやがらなかった。 　無論本当に啓太の身体が和希を欲している段階にまで昂ぶっていないことを、和希はよくわかっていた。むしろ明るい保健室のベッドでこんな恥ずかしい体勢をとらされ、気持ちは少しひいているかもしれない。それでも恥ずかしい気持ちに耐えて、啓太は付き合ってくれるのだ。こんなわがままにさえ。 　――なんて愛しくて、かわいそうな啓太。 　一瞬、和希の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。 「啓太、今自分でどんな格好しているかわかってるか？　本当に全部見えててすごく大胆。写真にとっておきたいくらいだよな」 「和希･･･っ」 「わかってるって。ちゃんと啓太が望んだものをやるよ」 　和希は自分のズボンのバックルをゆるめると、啓太の身体に改めて近づいた。屹立したままの啓太自身に指を絡ませ、啓太の秘所に顔を近づけていく。 「！　和希！」 「渇いてるって言っただろ。すぐに終わらせるつもりはないから、よーくほぐしとかないとな」 「･･････ふっ････ぁ、あっ････っ」 「ほんとに啓太は気持ちいいことに弱くて素直だよな」 「ん･･･っあ、かず、き････っ」 　指と舌で啓太のそこをゆるゆるとほぐしていくと、啓太の唇からはいっそう甘い声がこぼれた。 　その様子を耳でも楽しむ一方で、和希の頭の中ではもう一つの意識が冷ややかに告げる。 　――本当なら。 　啓太はこんなところで男に組み敷かれて喘いでいるような少年ではないのだと。 　陽の光のように明るい啓太にはもっと清らかで純粋なものだけが似合うのだと。 　その運命を狂わせ、本来あるべき姿を歪めて穢れた欲望を叩きつけているのはまぎれもなく自分なのだ。 　そして罪深さを熟知していてさえ、さらなる快感を与え手放そうとしないのも、また。