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　そう口にした途端、和希の唇が啓太の唇に重なってきた。啓太はすぐに目を閉じ、今度は自分からも唇を開いて和希を受け入れる。先程のキスは和希から強引に仕掛けてきたもので気持ちがまだついていけなかったが、今は啓太も和希の気持ちに自分の想いを乗せた。
　顔を合わせて吐息が届くほどの距離にいても、もっと近くにいきたい気持ちがある。くちづけて互いを密着させ、そうして心と身体を高めあって、そのまま溶けてしまいたいような心地になる。
「んっ･･････あ･･･ふ･･･っ」
　和希の肌や指を意識して感じた息苦しさも、和希によって別のものに変えられていくようだった。先程と同じ激しさが、今度は明確な甘さをともなって身体を煽り立てていく。
「啓太･･･俺だって、本当にずっと会いたかったよ。俺が決めたことだけど、仕事で会えないときよりももっとずっと啓太が欲しかった」
「ん･･･っ」
　和希のくちづけが唇だけでなく、至るところに移っていく。くちづけの合間に紡がれる和希の声やこぼれる吐息はどれも熱く、啓太の心を揺さぶった。
　啓太を抱き寄せていた手が啓太の制服のネクタイに移り、それをするりと緩めた。
「あ･･･っと、ちょっと待った。ま、まだ俺和希に聞きたいことがあるんだからな」
「ん、いいよ。続けて」
　ネクタイを緩める手は止めずに、和希が啓太の頬にくちづけた。
「･･･っあ、だから、が、学生会からの要望書の返答のこと聞いた」
「うん、それで？」
「理事長からの返答、和希の直筆だったって･･････でも内容は嘘つきだったって。さっきは和希、学生たちに誠意を持って対応しようと思ったって言ってたけど、それと矛盾してないか？」
「王様にも言ったけど、俺は学生に手を出しているつもりはないからな」
「ベルリバティの理事長として学生に顔向けできないような行動は一切していない、とも書いてあったらしいな･･････」
「うん、事実だからな」
「･･････学生の前に姿を現したことがないっていうのは、完全に嘘だろ和希」
「でも俺が学生たちに姿を見せているときはいつも一年の遠藤和希としてなんだから、完全な嘘とも言いきれないだろ。ベルリバティの理事長が姿を見せているわけじゃないからな」
「そういうのは詭弁ていうんだぞ･･････あっ」
　ネクタイを解きおえた和希の指が、今度は啓太のジャケットのボタンにかかった。難なくそのボタンをはずしていく指を、啓太が慌てて上から自分の手で押さえた。
「和希。まだもう一つ質問があるんだからな」
「なに」
　啓太の手をかいくぐって、和希がジャケットのボタンをすべてはずす。
「うちにっ、理事長から手紙が来たって、母さんから電話があったよ」
「･･････ああ。やっぱり驚いた？」
「驚くに決まってるだろっ！　理事長の名前まで書いてあったっていうし、しかも突然だしさ」
「名前、全部は書いてないけどな。ただ啓太の両親には一度ちゃんと挨拶しておきたかったんだ。俺がそこから逃げずに向き合うために」
「逃げずにって･･････」
　和希の言葉を聞きとがめて、啓太が繰り返した。和希の真意が知りたくて、くいいるように和希の顔を見つめる。啓太の頭の中では、数日前この部屋でかわした和希との会話がフラッシュバックしていた。今啓太を見つめ返す和希は、あのときと同じ顔をしている。
　和希が啓太の制服から手を離し、そしてずっとつないでいたもう片方の手も離した。和希と共有していた熱が離れ、啓太の中に寒気に似たものが這い上がる。
「啓太。王様や他の学生にはあんなふうに言ったけど、啓太には嘘偽りなく懺悔するよ。確かに啓太のことを学生として見て手を出したわけじゃない。俺にとって啓太は啓太で、最初から俺の学園の学生なんて枠には入れていない。けど、俺が現に学園の理事長を勤めながら、伊藤啓太という学生を抱いているのは事実だ。理事長として恥ずべき行動はしていないだの、学生たちに顔向けできないことはしていないなんていうのは本当は嘘で、俺は全部自覚していて、その上でまだ未成年の啓太を俺の欲望でよごしている」
「和希っ！」
　啓太が悲鳴にも似た声をあげた。すぐさま和希の両腕をつかむ。
「だから俺たちはそういうんじゃないってこの前も言っただろ!?　どうしてまた同じこと言うんだよっ。俺たちは対等に恋愛しているだけであって、そうやって和希が一方的に俺に手を出しているような言い方はするな！　俺が和希を好きな気持ちを無視するなよ！　――開き直るって、このまえ言ったはずだろ!?」
「俺はもう開き直っているよ。誰に咎められたって啓太とのことをやめるつもりはない。嘘だって平気でつけるし、啓太を離さないためだったら俺はなんでもする。とことん開き直るための準備はこの数日で全部やり終えた。今だって自分の立場をわかっていながらも、俺は啓太の甘さを求めてる。啓太が好きだから、俺たちは恋人同士だから･･･その言葉を免罪符にして啓太を俺の思うとおりに抱こうとしている。年齢も、立場も、世間の目も、良心すらも、俺の気持ちの歯止めにはなりえない。――だけど。理事長が自分の学園の学生に手を出している、俺はそういう見方も完全には捨てきれない」
「和希･･･っ。それが、結局和希の答えなんだな。俺がなにを言っても和希は･･･！」
「啓太。俺と啓太は対等に恋愛してるし、身体のことだって俺だけが一方的に啓太を求めているわけじゃないのはわかってるよ。でも事実は事実で、そして啓太を守るためにそれは忘れちゃいけないことなんだと俺は思ってる。なにもかも忘れて俺たちだけの世界にいるのはとても幸せで楽なことだけど、将来のことや世間のこと、啓太と俺の家族のこと、そういうことを忘れていつか取り返しのつかない事態になるのはいやだ。だから俺はその考えをやっぱりずっと持っておこうと思う。その事実があるからこそ、俺はよりいっそう啓太を守るために気をつけることができる。だから少なくとも啓太の卒業までの数年間、啓太との幸せのために事実は事実として忘れちゃいけないことなんだ」
「･･････」
　優しく説くような和希の言葉に、黙り込んだ啓太の目元から涙があふれた。
「俺はちゃんとわかってるよ啓太。俺たちの関係は啓太が言ったとおり今たまたま理事長と学生だっただけで、本当はそれだけのつながりじゃないってこと。俺と啓太はもっとずっと昔に出会っていて、ベルリバティで再会するまでには互いに長い時間を経ていて。そしてこれからも続いていく俺たちの関係の中で、理事長だとか学生だなんて言葉に縛られるのはこの数年間だけの単なる通過点だってことは。みんな啓太が、俺にそれを思い出させてくれたんだよ。だからもうそれはちゃんと認識してる。周りの目とか立場とか関係なく、俺たちは俺たちだよな」
「･･････でもそこで二人のことだから一緒に考えていこうとか、俺にもこの状況をいつも意識していてほしいとか和希は言わないんだな。俺には、和希を守らせてくれないのか？　俺が和希を守りたいっていう気持ちなんか必要ないって思ってるのか？」
「勿論啓太にも俺のことを守ってもらうよ。俺にしかできないことがあるように、啓太にしかできないこともたくさんある。今回のこともそうだけど、俺は啓太がいないと本当にだめな人間だから、啓太にはちゃんと俺のそばで俺を見ててほしいよ」
　そう言って、和希は啓太の頬に手を伸ばした。途端啓太の瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
　和希はゆっくりとその涙を指で拭った。
「･･････また、泣かせちゃったな。ごめんな。啓太は俺といると泣いてばかりいる。泣かしたいわけじゃないのに･･････これから先もずっとそうかもしれないな･･･」
「だってそれだけ、俺が和希を好きなんだからしょうがないだろ！　和希の言葉の一つ一つが俺に与える影響が大きいから、いつもこんなふうに･･････。俺だって泣きたくて泣いているわけじゃないんだからなっ」
「啓太が俺に与える影響も大きいよ。――初めからそうだった」
　和希は数瞬懐かしむように過去に思いを馳せたあと、改めて啓太を見つめた。
「啓太。俺はこんなふうに情けない人間で、俺の過ちでこれから先も啓太を怒らせることや啓太を悲しませることがあるかもしれない。それに今回のことはうまくおさまっても、もしかするとこの先、俺と付き合うことでもっと大きな問題が起こるかもしれない。俺の力が足りなくて啓太をつらい立場に立たせることだってあるかもしれない。それでも俺には啓太が必要なんだ。どんな状況になったって、絶対に啓太を手離したくないんだ。この先どんな道が待っていようと、俺と一緒に歩いてほしい。俺には啓太のいない人生なんて考えられないから。――だから、ずっと二人で生きていこう」
「･･････」
　和希の言葉に啓太は息を飲んだ。
　それから泣き笑いのような表情を浮かべて呟く。
「なんだかそれじゃ、俺には選択の余地がないみたいに聞こえるぞ」
「実際啓太には選択の余地がないんだよ。俺に、捕まっちゃったときから」
　和希が啓太の手をとり、その指先に軽くくちづけた。
「どんな状況になっても離さないなんて、なんか、遠回しに脅かされているみたいだ。このまえは和希のほうから気持ちの整理をしたいって言って、俺を突き放したくせにさ」
「あのときだって、本当に啓太を手離すつもりなんかなかったよ。ただ、一時的に離れたほうがいいって思っただけだ」
「でもそこで気持ちの整理とやらをして、やっぱりもっと距離をおこうってことになったかもしれないよな、あのときの和希なら。和希は、そういうところが本当に信用ならないんだよな。俺に対しても和希はどこか不誠実で俺を不安にさせる。俺に隠していることだって他にもまだあるだろうし、一人で考えて決めてしまうことだってたくさんある。一緒に歩くって言うんなら、そういうの全部直さないとだめなんだからな」
「俺はいつだって、啓太に対しては誠実でありたいと思ってるよ」
「そう思うことと実際そうなることは全然別のことだろ。たぶん和希はずっと今のままで･･････そうして俺はそんな和希に怒ったりいらいらしたり不機嫌になりながらも、結局は和希のことを許して、またさらに好きになっちゃうんだ。なんか、そんな気がする･･････」
　そう言うと啓太は左手で和希の腕をつかんだまま伸び上がり、和希の唇に自分の唇を押し当てた。
「･･････啓太」
「わかったよ和希。もうわかったから。確かに和希がベルリバティの理事長で俺がベルリバティの学生であることは事実だもんな。和希がそのことを覚えていたいって言うんならもう俺はなにも言わないよ。和希の好きにすればいい。和希が俺とのことをちゃんと対等な恋愛だって忘れないでくれれば、もういいよ」
　唇を離したあとで和希に向けて笑いかけると、すぐさま和希の両腕で抱きしめられた。無言で、ただ強く抱きしめられる。
　啓太は和希の腕の心地よさを感じながら、自分も両手で和希を抱き返した。
　再びこの腕で抱きとめたぬくもりに、啓太の胸の中に甘い熱がともる。この先なにがあっても、どんな大きな問題が起こったとしても、このぬくもりがあるかぎり大丈夫だと、啓太は泣きたくなるような想いとともに自分自身に確認した。
「――和希」
　だが、不意に啓太の口から冷めた声がこぼれた。
「おまえ、即物的すぎるぞ。人が･･･っ」
　密着している体の間をもぞもぞと動いて、和希の指が啓太のシャツのボタンをはずしはじめていることに気づいたのだ。
　人がしみじみと物思いに耽っているときに、どうして和希はこう――。
　啓太がさらに口を開いて文句を言おうとした矢先に、和希が一度手を止めた。
「じゃあ啓太はこのままなにもしないで帰れるのか？　ここまでお互いの愛情を確かめあったのなら自然な流れだろ？　･･･それとも、やっぱり俺が一方的に啓太を欲しがっているだけなのかな。俺だけが一方的に啓太を抱いているに過ぎない･･･」
「そ、そんな言い方は卑怯だぞ、和希！」
　啓太が言い返すと、和希が少し身体を離して無言で啓太の顔を見つめてきた。
　啓太は和希の視線から感じる圧迫感に戸惑いながらどうにか言葉を紡ぐ。
「･･････っだから、そりゃ、俺だって･･･和希がほしい、けど。でも･･･うわっ、和希！」
「ならもう問題はないだろ」
　楽しそうにそう言うと、和希は啓太と自分の位置を入れ替え、啓太の身体を机に押しつけた。和希と机に挟まれて、啓太にはこの状況から逃れるすべはなかった。和希の足が啓太の足を割り、絡みを深くする。先程とは違い、そういう目的を感じさせられる密着度の高さに、今度は啓太の手は和希を抱き返すことができずに机に置かれた。
　和希の指が再び啓太のシャツのボタンをはずし、あらわになった啓太の肌にその手を滑らせる。
「･･････っ」
「久しぶりに味わう啓太の肌の感触だな。触っているだけでたまらなく心地いいよ」
　ボタンをはずし終えたあと和希は身をかがめ、啓太の肌を撫でながら胸に軽いキスを落とした。
「久しぶりって･･･そんなに経ってないだろ」
「でもあのときは最後までできなかったからな。それに人目も気になって思いきり堪能できなかったからさ」
「あのときの和希が人目を気にしていたようには思えないけどな。それに、あのとき最後までしなかったのは和希が勝手にそうしなかっただけだろ」
「啓太は充分その気になって誘ってくれていたのにな」
　啓太の顔を上目遣いで見て、和希が笑う。
「･･･そうだよ･･･」
「あのときはその気だったのに、今は少し照れが入るんだな。それも啓太らしくて好きだけど、あのときの積極的な啓太をもっと楽しんでおけばよかったかな。ちょっともったいないことしたな」
　そう言って和希は啓太から身体を離すと、自分が着ているスーツの上着に手をかけた。あっさりとそれを脱ぎ捨て、次にネクタイをとき、シャツのボタンに指をかける。
「か、和希!?」
「ん？　ああ、だってこのまえ啓太が言ったんだろ。自分だけ脱がすのはずるいって。だから今は俺も期待にこたえて脱ごうと思ってさ」
「誰も別に期待なんかしていない･･･っていうか和希･･･ほんとにする気満々なんだな。がっつきすぎ･･･」
「俺は何度も、啓太が足りない、我慢できないって言ってきただろ」
　自分のシャツのボタンをすべてはずし終えると、和希は今度は啓太が着ているジャケットやシャツを肩から滑り落とした。啓太の腕に引っかかるのはそのままに、啓太のズボンのバックルに手をかける。
「だからってこんなの･･････」
「正気のうちに脱がされるのは恥ずかしい？　でも俺としては正気の啓太が俺によってだんだん蕩けていくところが見たいよ」
「バカ、本当になに言って･･････っ」
　和希が啓太の肌に再び唇を寄せた。くちづけて、あるいは舌で舐めとり、濡れた感触が柔肌を滑っていく。それとともに啓太のズボンのバックルがはずされ、ファスナーが下ろされた。
「か、和希･･･」
　ファスナーを下ろしたあと、ズボン越しに和希の右手がそこに触れる。形をなぞるように触れられただけで、啓太の中にじんわりと甘い熱がうまれた。そのまま和希の指が強弱をともなって幾度かこすりつけられる。ときおりファスナーの金属の固さが指とは違う快感を引き出した。
「･･････っ」
　思わずこぼれそうになった吐息を飲み込むと、啓太の身体にくちづけを落としていた和希からかすかに笑う気配がした。
「やっぱり俺だけじゃないんだな。啓太ももう充分その気になっていたんだ。もしかして最初のキスから？　なんだか今日の啓太、すごく敏感になってるみたいだ･･･」
　啓太の背中を撫でていた和希の左手が啓太の胸の突起に触れた。指先でそっと撫でられたあとでかすかに爪を立てられる。
「ん･･･っ」
「こことか、過敏に反応してる」
　再び和希の舌にもう一方の胸の突起を舐められ、啓太の腰が反射的に揺れた。だんだんと高まっていく身体の熱さをどうにか逃がそうとしても、一番熱いところは和希の指が押さえていてさらに追いつめられる。
「っ･･･はぁ･･･っ」
　啓太はそこに熱がたまっていくのをいやでも自覚せざるを得なかった。
『もしかして最初のキスから？』
　脳裏に浮かんだ和希の笑いを含んだ先程の言葉に、啓太は心の中で悪態をつく。
　――最初のキスから煽られていたに決まっている。あんなに激しいくちづけを与えられて熱をわけられれば、どうしたって引きずられて甘く過敏に反応してしまうのだ。
　ズボン越しの和希の手を意識する。いっそ中途半端な触れ方をしないで、そのまま下着をおろしてもう直接触れてほしい。そうして早く思考をぐずぐずに溶かしてくれればいいのにと啓太は思う。
「啓太･･･かわいいよ」
　啓太の気を知ってか知らずか和希がくちづけてくる。熱を引き出すように舌を絡ませられ、下半身を熱くする刺激に煽られて啓太もそのくちづけにこたえた。
　集中できないと楽しめないと言ったキス。集中すれば、溺れてしまえば楽しめるだろうか。
　こんな恥ずかしさも感じずに。
「ん･･･っふ･･･っ」
　形を変えつつある啓太自身を緩く撫でる手はそのままに、和希の手がゆっくりと肌を滑っていく。優しくて意地悪な愛撫。
　感じているのは明らかなのに、それでも直接的な刺激は与えられなくて。
　がっついているのなら、我慢できないのならもっとさっさと･･･するべきじゃないかと頭の隅でちらりと思う。どうして引きずられたほうがこんなに焦らされて追いつめられているんだろうか。
「････和希、俺･･･」
「なに？」
　余裕がうかがえる和希のその声に、啓太は今すぐ和希の足を蹴ってやりたい衝動に駆られた。
「もっとちゃんと･･･和希と触れ合いたいよ･･･。もう和希に直接、触って･･･ほしい･･･」
「うん、でも。俺はもう少し啓太を見ていたいよ」
　そう言うと和希は啓太から少し身体を離し、啓太のズボンと下着を一気に下げた。
「･･･････っ！」
　足にたまったズボンと腕に絡んだ服が枷になり、啓太にはあらわになる自分の身体を隠すすべはなかった。
　すでに反応しはじめていたそこが和希の目に晒される。
「か、和希っ！」
　全裸も同様の自分の格好に今まで以上の羞恥心がわく。なまじいまだ正気を保っているだけに啓太は自分自身がいたたまれなくなった。
「そのまま感じて啓太」
「･･････っ」
「ほら、啓太が望んでいた俺の手、だよ」
「あっ･･･っ」
「ずっと触ってほしかったんだろ？　このままやらしくなる啓太を見せて」
　和希の手が啓太に直接絡む。焦らされていたそこに一気に強い刺激を与えられて、啓太は声を抑えることができなかった。
「んっ･･･あ、和希･･･っや･･･っ」
「いや、じゃないだろ？　そういうときはいいとかもっとって言わなきゃ」
「･･････ず･･･るいぞ和希、こんなの一気にされたら俺･･･っ」
「いきそうになる？　でもそんなに早すぎるのは男の子としてどうなのかな啓太。我慢できないのは恥ずかしいよ？」
「だ、だって･･･っ」
「『和希がうまいからもう我慢できない』？」
「っ･･･そんなの･･･」
　揶揄する和希の声に啓太はゆるく首を振る。
　和希は少し身を屈めると、啓太自身に絡ませた指をさらに丹念に動かした。啓太の弱いところを指先でこすり上げ、先端からあふれはじめた啓太の先走りを故意に絡ませ音を響かせる。
「啓太、聞こえる？　この音、啓太のだよ」
「･･･やっ･･･」
「もうこんなに濡らして。もしかして俺と会っていない間、啓太は一回もしてなかったのかな。だからこんなに感じて･･･もしかして、たまってた？」
「･･････っ」
「一回や二回ぐらい自分でぬいておけばよかったのにな」
　そう言ったあとで、和希は不意に声を落として囁いた。
「それとも俺のために我慢してくれていたのかな。俺にされたとき、うんと気持ちよくなれるために。俺に、感じすぎていやらしくなる啓太を見せてくれるために」
「っ･･･かず、き･･･っ」
「啓太が俺を目でも楽しませてくれようとしてるんなら、俺は嬉しいけどね」
　啓太を責める手はそのままに、和希が啓太の胸の突起を舌で捕らえた。それだけで啓太の熱がさらに高まる。和希の手の中で解放を求めてひくついた。
「･･･あっ･･･んんっ･･･」
「だったら、とことんまで見せて啓太。俺によって啓太が感じているところを。啓太も俺をほしがってるって、身体で証明してみせて」
「･･･っ･･･」
　和希が喋るたびに歯や舌が啓太の濡れた突起にあたり、啓太は息を詰めた。
　そのあとで和希は啓太の身体を抱き上げて机の上に座らせると、啓太の左足からズボンと下着を引き抜き、そのまま机の上に乗せた。啓太の身体のすべてをあきらかにするように足を開かせる。
「･･･かっ、和希･･･っ」
「そのまま、だよ啓太。やっぱりこんなにかわいい啓太を手離すことなんてできないなって、目で確認しているところなんだからさ」
「そんなの･･･っ」
「勿論これだけで啓太を好きなわけじゃないけど、啓太のここも愛しいよ」
「･･････っ」
　啓太の足から手を滑らせ、和希は目の前の勃ち上がりきった啓太自身の奥、双丘の割れ目に指をくぐらせた。指の腹で啓太の窄まりをそろりと撫でる。
「啓太のここ、もう熱くてひくついてる。俺を待ってるのかな。まだ濡らしてもほぐしてもいないのに、俺の指を咥えたがっているのがわかるよ」
「･･････っじゃない、だろ」
「え？」
　思わぬ強さで返ってきた啓太の声を聞きとがめて、和希が聞き返した。
「啓太？」
「･･･指なんかじゃない、だろ。俺が･･････しいのは」
「･･････聞こえないよ啓太。もっとはっきりと言わなきゃ」
「･･････っ。俺がっ、欲･･･しいのは和希の指なんかじゃない･･････」
　和希の意地悪にも負けずに、目元を赤く染めて啓太が言う。小声ながらもちゃんと聞こえてきた啓太のその言葉に、和希は思わず吹き出した。
「･･･まいった。降参。そんなに煽られたら、俺も限界だよ」
「和希？　うわっ！」
　いきなり机の上から抱き下ろされて、啓太はそのまま床に押し倒された。すぐに和希が啓太の身体に覆いかぶさってくる。今までは自分の快感で気づかなかった和希の今の状態を、啓太は重なり合った身体ではっきりと感じた。
「か、和希･･･」
「まずは啓太を一度いかしてからとも思ったんだけど、気が変わった。今日は前だけじゃいかさないことにする」
「えっ」
「啓太にそんなかわいいこと言われちゃったら、恋人としては期待にこたえてあげなきゃいけないだろ？　しばらくぶりなんだし、今日はたっぷりと後ろで感じてもらうよ啓太。俺とつながってないときにいったらだめだよ」
　心底楽しそうにそう宣言する和希に、啓太は少しばかり自分の言動を後悔した。さきほどの言葉は自分の素直な気持ちの表れとはいえ、和希の言いようだと一度や二度の話ではないような気がする。
「な、何度もする気なら、加減しろよ･･･っ」
「それは啓太次第かな。啓太の反応と、ここの具合次第」
「･･････っ」
「啓太のここが俺を離さないで絡みついてきたら、俺もどうなるかわからないよ。だから」
　“啓太こそ、加減しろよ？”――そう言って和希は啓太の身体から身を起こし、啓太の足を割り開いた。指でつついていたそこを露にして顔を近づける。
「そんなの、加減できるわけ･･･ふぁっ･･･あっ、んん･･･っ」
　和希の舌と指が啓太の窄まりをほぐしはじめる。濡れた生暖かいものが這い回り、固い指が恥ずかしいところを無遠慮に捏ねくり回す感覚に、啓太はたまらず声をあげた。
　さきほどまで和希の手で煽られ屹立している啓太自身は放置され、ときおり和希の髪があたるのだけが唯一の刺激になる。それでも自分自身がさらに昂ぶっていくのが啓太にもわかった。
「ん･･･啓太、ほんとに俺を待ってたんだな。蕩けるの早すぎ･･････ほら、もうこんなに指が動くよ」
「あっ･･･そんなことしたら、俺･･･っ」
「いきそうになる？　でも一人でいったらだめだよ」
「･･･っだったら、和希が早くすればいいだろ。も、いいから･･･っ」
　ジャケットやシャツが引っかかっていた腕の自由を自分で取り戻し、啓太はその手で和希の髪を軽く引っ張った。顔をあげた和希が自分の唇を舌で濡らし、身を乗り出す。
「もう、挿れていい？」
「だから、そう言ってるだろっ」
「じゃあ遠慮なく」
　そう言って、和希は自分のズボンを寛げる。
　その和希に向けて、啓太が両腕を伸ばした。
「･･････啓太？」
「･･･和希、ただつながるだけじゃなくて･･･俺を抱きしめて。俺の全身で、和希を感じさせて。和希がここにいるって･･･この先なにがあってもそばにいるって俺を安心させて･･････」
　唇からこぼれる甘い吐息をやり過ごしながら啓太が和希を見つめて呟く。
　和希はその手をつかんで自分の背中に導きながら、ゆっくりと肌を重ねた。
「だから俺はさっきも言ったようにもう啓太を手離す気なんてないよ。もう二度と啓太と距離をおこうなんて考えない。――ちゃんとそばにいるよ」
　それから啓太の足をさらに開き、和希は昂ぶった自分自身を啓太のそこに触れさせた。
「･･･っ･･･」
　和希の熱を感じ、啓太が息を飲む。和希に導かれて背中に回した手で和希のシャツを思いきり握りしめた。
　そして。
「･･･あっ･･･か、和希･･･っ」
　啓太のそこを押し開くようにして和希がゆっくりと中に入ってくる。
「んっ･･･あっ、あ･･･っ！」
　啓太は両腕に力を込めて和希を抱きしめながら、自分の中の和希を懸命に受け止める。身体の内部から蕩けるような熱さが広がり、痛みと快感が混ざり合って啓太の頭の中をかき回す。
「和希っ･･･和希っ･･･かずき、もっと･･･俺･･･っ」
「け、いた･･･っ」
「んっ、はぁ･･･あっ、和希･･････っ」
　重なった互いの肌がこすれ合う。啓太は和希の汗ばんだ身体と、そして早く脈打つ鼓動を感じ取った。互いにかわす激しい呼吸、そしてつながりあっているところから生じる快感。自分の中を貫く生々しい感覚が、それだけ和希がちゃんとそばにいることを実感させてくれた。
　啓太は和希のシャツをつかむ指にますます力を込めた。
　熱くて甘い快感の中、このまま二人溶け合ってしまえばいいと思った。