やがて、どのくらい経ったものか。 『ありがとう啓太。もういいよ』 しばらくして和希にそう言われ、啓太はなかばぼーっとした気持ちのまま含んでいた指を口から出した。今行っていた行為のせいで、理性がまだ働かなかった。濡れた指を拭うこともすぐには浮かばない。 そんな啓太に向けて、受話器の向こうから和希が楽しげに聞いてきた。 『啓太の、今どうなってる？』 「･･･え･･･俺の･･･って？」 『熱くなってる？ それとも変わりない？』 「なにが･･････」 『勃ってるかどうかってこと』 「！ か、和希!?」 『啓太の声からして、だいぶきてると思ったんだけど。あたり？』 和希にはっきりと言われて、啓太の意識が現実に戻ってくる。 『啓太のパジャマのズボンを押し上げてるのかなあと想像してるんだけど』 「･･･っそんなの、暗くて見えない」 本当は部屋が暗くても、自分の身体の状態ぐらいよくわかっているのだが、啓太はあえてそう言った。 だが言ったあとですぐに啓太は後悔する。和希の次の言葉が簡単に想像できたからだ。 『暗くて見えない？ じゃあ、電気つけて』 「やだ」 『どうして？ 自分の状態がはっきりわかるのは恥ずかしい？ 俺は、啓太に今の啓太の状態をちゃんと詳しく教えてもらいたいと思っているんだけど。勃っているのかとか、どのくらい濡れているのかとか、啓太のかわいい声で教えてほしいよ』 「馬鹿、そ、そんな変なこと言わすなよっ」 『変なことでもないだろ。啓太が俺の声で感じてくれた立派な証しだろ。俺は俺のことを啓太に言えるけどな。聞きたい？ お互いに教えあいっこしようか』 「いいよ、そんなのっ」 『そんなのって、ひどいなあ。俺も、きてるよ。なんせさっきから啓太、かわいい声いっぱい聞かせてくれたからな。俺も、啓太の声だけで興奮してる･･･』 「･･････」 耳から忍び込んでくる和希のささやきに、啓太はごくりと唾を飲み込んだ。触れてもいないところがまた熱くなって疼く。このままの状態なら、たとえ和希に促されなくても、自分からパジャマのズボンに手を入れてしまいそうな気がした。 「･･････和希･･･」 『なに？ どうかしたの啓太』 「･･････」 『啓太も、やっぱ相当きてるんだ？ もう先っぽぬるぬる？』 「し、知らないよ･･･」 『じゃあ確かめて。電気はつけなくていいから、そのまま、自分で触ってみて。･･････ああ、いっそのこと全部脱いじゃおっか。電気が暗いならできるだろ。よごれちゃう前に、ズボンも下着も全部脱いで』 和希に促されて、啓太がゆっくりとそれに従ってズボンと下着を脱ぎ出す。和希に対して一喝するにも抵抗するにも、もう身体が熱くなりすぎていた。蕩けだした身体が新たなる刺激を求めてしまう。 『全部、脱いだ？』 「･･････うん」 『じゃあ足を広げて。目の前に俺がいると思って･･････俺に、今の啓太の状態を見せて』 「･･･････」 啓太は目を閉じた。たとえ本当には和希は目の前にいなくても、たとえ部屋の中は電気が消えていても、自分から足を開くという行為にたまらない羞恥心を覚える。それでも和希の声にしたがってしまうのは、そうしたほうが自分の身体がより熱くなると知ってしまっているからだ。 ベッドに両足を乗せて足を開く。触らなくても、自分のそこがどういう状態かは啓太は自覚していた。バスルームでしたとき以来そこにはまったく触れていないのに、きっと、あさましい姿を晒している。 『･･･啓太、そのまま触って。もちろん、声を殺しちゃだめだよ』 「･･････」 啓太はゆっくりと自分自身に触れた。思っていたとおり熱くて、自分の手なのに触れた途端ひくついたのがわかった。怖々と指先で触ってみた先端は、やはり先走りの雫でもう濡れていた。 電話越しの声だけで、こんなに。 「･･････っ」 一度触ってしまったあとは、もう理性なんて砕けてしまう。ここでやめなきゃいけないなんていう考えは微塵も浮かばなかった。啓太はなにかに急かされるように自分の手をスライドさせていった。 『啓太。気持ちいいのはわかるけど、一人だけで楽しむのはなしだよ。俺がいること、忘れちゃだめだよ』 「和、希･･････」 『声、ちゃんと聞かせて。俺を意識して。俺がここで聞いてるって意識しながらしてごらん』 〝そのほうがずっと啓太も気持ちいいから〟――和希にそう言われて、啓太は声をこぼす。 「･･････んっ･･･あっ･･････」 動かす手をだんだん早め、行為に夢中になりながらも、持っている電話を意識する。ここでこぼす声が、自分が快感のままに喘ぐ吐息が、すべて受話器を通して和希に筒抜けかと思うと、一人でする以上の甘さに包まれる。 「･･････はっ、和、希･･････っ」 『啓太は、ほんとにかわいいな』 「ん･････っ」 和希の声が聞こえるたびに、一人でしているわけじゃないことを教えられる。部屋の中で和希を思い出して一人でしているときとは違う。二人で抱き合っているときとも違う。最初はあんなにいやがっていたのに、今ではもう、自分でも止められないほどこの快感に溺れている。 「あっ、和希･･･っ」 『啓太、聞かせて。啓太のが今どんな状態か、どんなふうにしているのか音で聞かせて』 「･･････」 和希に言われて、啓太は電話を耳から離した。自分で自分自身を慰める手は止めず、そこに電話を近づける。本当に電話を通して音が聞こえるのかどうかはわからなかったが、啓太は故意に濡れた先端を弄り、音が立つようにした。 「･･････っ」 音を立てるために荒々しく動かした手はそのまま強い快感となり、啓太の身体を追いつめる。 「和希、和希、もう俺･･････我慢できない･･･」 電話を再び耳に当て、啓太が泣きそうな声で和希に訴える。だが返ってきたのはかすかな笑い声だった。 『早いよ、啓太。まだだめ。一人だけで楽しんで、俺をおいてきぼりにするなんて啓太はずるいなあ･･･』 「だって、だって俺･･････」 『手を止めればいいんだよ啓太。簡単だろ？ 手を止めて、続きはしないこと。少しおあずけ』 「や･･･。だって･･･っ」 『けーた。手、離して』 「･･････」 電話越しの声に有無を言わせない響きを感じ取り、啓太は反射的に自分自身から手を離した。このまま和希に黙って続けてそのまま達してしまうことも、強く反抗することもできなかった。離れているのに、まるで和希の手で本当にストップをかけられているように手を動かすことができない。 「･･････っかずき･･･っ」 『そのまま、だよ。そのまましばらく我慢。どこかに擦りつけたりするのもなしだよ。もちろん足も閉じたらだめ』 「･･････っ」 『･･････我慢してる啓太、とってもかわいいんだろうなあ･･･。きっと今、いきたくて泣きそうなんだろうな』 「ほんとに･･･泣きそうだよ。和希、性格悪すぎ･･･！」 『そう言われても、この場合それはほめ言葉にしかならないよ。･･････ね、啓太。そのまままた胸を触って。啓太のでべたべたに濡れた手で啓太の胸を触って、胸になすりつけて。･･････自分で』 「そ、そんなの、きたないよ･･････」 『でもきっと気持ちいいよ』 「･･････っ」 『啓太が感じて濡れてしまったものを自分でぴんと立ってる啓太の乳首になすりつけるんだ』 「いやだ･･･っ」 『そう言ってても、啓太はしてくれるんだろ。そろそろ啓太だって、また胸のほうも触りたくなってきたと思うけどな』 「･･････和希のばかっ！ あとで覚えてろよ･･･」 『勿論。こんな楽しいこと忘れないよ』 「そういう意味じゃない･･･っ」 電話の向こうから聞こえる楽しそうな声に文句を言ったあと、啓太は先ほどまで自分自身を触っていた手を、そっと胸に近づけた。夢中になって抱き合っているときは、きれいとかきたないなんて全然考えもせずぐちゃぐちゃになるときもあるけれど、それでもさすがにまだ少し理性が残っているこの状況で自分の先走りの雫を自分の体につけるという行為は恥ずかしかった。 「和希･･･や、やっぱり･･･」 『うん、いいね。啓太に焦らされると俺もぞくぞくするよ。――で？』 「･････････んっ」 諦めたように啓太は自分の胸の突起に触れる。濡れた指が敏感なところをつーっと滑った。 「･･････っあ･･･････っや･･･」 滑りのよい指で幾度も往復させると、羞恥とあいまって甘い快感がわきあがる。湿った指の感触に背徳感をそそられ、ますます興奮してしまうのが自分でもわかった。 『ん･･･いいよ啓太。すごいそそられる』 「は･･･っあ･･････っ」 『啓太。両方とも濡らした？』 「･･････う、うん」 『そう。じゃあ――俺が舐めてあげるよ』 「！」 電話の向こうから濡れた声が聞こえた。まるで和希がキスしたような音が、啓太の聴覚を犯す。 「か、和希」 『ん･･･やっぱりおいしいな。啓太のそこ、ぴんと立ってて、俺の舌に･･･あたるよ』 「･･････っ」 断続的に聞こえる水音の合間に、和希のくぐもった声が聞こえた。 和希が実際にはどんなふうに音を出しているのかわからなかったが、その音と声だけでまるで本当に和希に胸の突起を口に含まれているような感覚に陥る。 現実にはそんな刺激などまったくないのに、頭の中で和希に本当にされているときの様子が再生され、胸にその感覚がよみがえる。さっき、和希が部屋にいたときにも、たっぷりとそこを口に含まれたのだから。 『ん･･････啓太･･･気持ちいい･･･？』 「･･････っ和希、もう本当に俺、いきたい･･･。もう我慢できない」 『でも啓太、一人だけで先にいかれたら俺が寂しいよ』 「でもっ」 『じゃあ俺のために、後ろもほぐして』 「和希･･･」 『啓太が、俺のために準備をして。俺が啓太にさわれない代わりに、啓太が自分でさわってごらん』 「･･･もうこれで、和希のいうことを聞くのは最後だからな。この次になにか言われてももうやらないし、もう我慢できないんだからな･･･」 『うん。いいよ、それで』 「・・・・・・・」 啓太は自分の唇を一度噛んだ。 思えば今こんな事態に陥っているすべての原因はここ、なのだ。 先ほど和希を受け入れて幾度もこすられたそこから、こんなおかしな夜がはじまったのだ。 啓太は自分の双丘の奥にそっと指を這わす。さっきはここから和希の残滓が足を伝って流れてきた。それに煽られて、バスルームでは一人でしてしまった。 そのあと自分で洗ってきれいにしたはずだけど、それでももしかするとまだ奥に和希が出したものが残っているのかもしれない。 だから和希に抱かれたあとでも、またこんなにも体が熱くなってしまっているのだ。 『啓太のそこ、どうなってる･･･？』 和希が、電話の向こうから聞いてきた。 「･･････熱いよ」 それに対して啓太は、ゆっくりと指を這わせながら答えた。指先で辿るだけなのに、敏感になった身体はそこからも簡単に快感を拾う。 『そんなに感じてるんだ？ やっぱりあれだけじゃ物足りなかったのかな』 「違う･･･」 『そう？』 「和希のが･･･和希のが俺のここに残ってたから、だから俺、こんなにおかしくなっちゃったんだからな」 『――俺のせい、なんだ』 「そうだよ。みんなみんな和希のせいだよ！ 俺の中にどれだけ出したんだよ。和希のが俺を、中から煽ったんだからな」 『催淫剤みたいに？ だからシャワーを浴びたときに一人でしたって？』 「･･････そうだよ」 『俺を思い出して、自分でも後ろをいじったりしたんだ？』 「･･････そうだよ」 『俺の指を思い出したり、俺に挿れられたときのことを思い出したりして？ 啓太が誰もいないところで、一人でいやらしいことをいっぱいしたんだ？』 「――そうだよ。全部和希のせいなんだからな。俺が今、いきたいのにこんなに我慢させられているのも。俺の中が疼いて、和希がほしいって思っちゃうのも！ 人の身体をこんなにしといて、ほんとにどうするんだよ和希･･･っ」 電話を通して昂ぶった自分の状態を訴えると、和希がため息をつくのが聞こえた。 『･･････まいったな。本当、啓太かわいすぎ。さっきしたばかりなのにな･･･。こんな離れたところにいないで、ちゃんと啓太のそばにいたいよ。今のかわいい啓太をこの目で見てみたい。そして啓太の中にまた挿れたいよ･･･』 「か、和希っ」 『啓太の中に挿れて、思いきり突いてみたい。啓太の中を思いきりかき回したい。そしたら啓太のそこがきゅっと俺を取り込んで啓太がもっともっと感じて乱れて･･････ああ、啓太の中を思い出すだけで頭の中がとろけそうだよ･･･。全然足りてないのは俺のほうだな･･･』 「――っ」 聞こえてきた和希の声に反応して、啓太の身体がいっそう熱くなる。少しかすれた和希の声の合間に和希の抑えた息遣いまで聞こえてきて、啓太は電話の向こうの状況を瞬間的に悟った。今まで自分の身体の昂ぶりでいっぱいいっぱいで深く考えていなかったが、和希も電話の向こうで、この声を聞きながら――。 「和、希･･･っ」 『ん･･････いいよ、啓太。我慢しなくて。自分で触って、いっていい。その代わり啓太のかわいい声をもっと聞かせて』 「･･････んっ」 『もっと。だから･･･声を抑えちゃだめだって･･･』 「あ、和希っ･･････んんっ･･･」 和希に促されて啓太はしばらく触れられなかった自分自身に手を移した。指で包み込み、限界に近い自分自身を擦りあげる。 「･･･俺、ほんとにもう、限界だから･･･っ」 『うん･･･いいよ。俺ももう限界が近いから･･･一緒に、いこう･･･』 「ん･･･っ和希、和希、あ、もうだめ･･･っ」 『啓太･･･っ、好きだよ･･･』 触れているのは自分の手なのに、それでも耳から聞こえる和希の声が錯覚を起こさせる。ただ一人で自分を慰めているわけではなく、今は和希としているんだという認識が啓太の頭の中をよぎった。 「俺も、和希が･･････あっ、ああっ･･････んん･･････っ！」 『――っ』 啓太の中で急激に快感が高まり、啓太はそのまま一気に昇りつめた。啓太の手の中のものが強すぎる快感に震え、欲望の証を吐き出す。 「･･･ん･･･っふっ･･･」 そうして啓太は完全に吐精が終わるまで、甘い余韻に浸るかのように自分の手で自分自身を慰めた。 「･･････」 身体の熱が落ち着いてきた啓太は、今までの事態を振り返り、どっぷりと自己嫌悪に陥っていた。 今夜は和希に普通に抱かれたあとにも関わらず、バスルームで一度一人で抜いてしまい、そのあともう一度ここで和希と電話をしながらしてしまったのだ。今夜一晩で自分が達してしまった回数を思うと、本当に自己嫌悪に陥らずにはいられなかった。 和希の言葉巧みな誘いもさることながら、それに乗ってしまうほど快感を欲していた自分に恥ずかしさを覚える。今夜はどうしてこんなに身体が熱かったのだろうかと自分の身体を恨んだ。 やはり原因は和希のあれにあるんだ･･･と八つ当たりじみたことを思う。 自分への恥ずかしさから溜息をつこうとした啓太の耳に、だが電話の向こうからそれを上回る和希の大きなため息が聞こえた。 いつもならこんな状況ならすぐにこちらをからかってきたはずの和希がずっと黙っていたことに、啓太は改めて気づかされた。 「･･････和希？」 そっと名前を呼んでみる。 『･･････啓太』 すると和希からは少し疲れたような声が返ってきた。 「和希、溜息なんかついてどうかしたのか？」 『･･････啓太、俺、仕事頑張るよ』 「？ うん、頑張れよ」 『でもってすぐに帰る。朝になるかもしれないけど、そしたら･･････』 「･･･････････そしたら･･･って俺学校行くからな！ 授業受けるからな。和希はその間ちゃんと寝て身体休めろよ！」 和希の言葉の先を推測し、啓太は声を張り上げた。だがすぐに和希からは「だめ」の一言が返ってくる。 『だめだよ啓太。学校になんか行かせないよ。だって啓太の声を聞いて啓太のことを思い出せば思い出すほど、やっぱり本物の啓太がいいよ。今のもよかったけど、でもやっぱり俺は本物の啓太がいい。ちゃんと啓太のことを抱きたいよ。明日の夜までなんて我慢できない』 「和希･･･。そりゃあ、俺だって声だけより本物の和希に会いたいと思うよ。でも和希はここでそんなことのために無理して仕事することないし、俺は逃げないんだし、別に明日の午後でも夕方でも･･････」 『そうかそうか。やっぱり啓太も本物の俺がいいって思ってくれてるんだな。じゃあ仕事終わらせて朝一で帰るよ。またな啓太』 「えっ、和希!?」 和希の声に通話を終わりにしようとする響きを感じ取り、啓太はあわてて和希に呼びかけた。だがそのときにはすでに電話は切られていて、啓太の声に応えたのは虚しく響く機械音のみだった。 「ちょっ、和希なんだよそれ！ 一方的過ぎるだろ!?」 通話が切れているとわかっても、言わずにはいられなかった。だがそのために電話をかけなおす気にもならず、啓太は自分も通話を終わらせ、携帯電話を閉じた。 「和希のやつ･･････」 呟いて、深い溜息をつく。 おそらく和希は本当に急いで仕事を終わらせて帰ってくる気なのだろう。そして帰ってきたら、時間に関わらずすぐに――。 「･･････もう。これ以上おかしなことに俺を巻き込むなよな･･･」 ここにいない和希に対して文句を口にする。やっぱり電話より本物がいいっていう気持ちはよくわかるし、自分でするんじゃなくて、今すぐにでもちゃんと二人で抱き合いたいっていう気持ちもよくわかるけれど。 ――そう、よくわかってしまうのだ。いくらどれほどの快感があったとしても、やっぱり和希の体温を感じて本物の和希に抱かれたいと思う。 今、すぐにでも。 「･･････本当にどうなんだよ、そういうの･････」 啓太は再び溜息をついた。 それから今の自分の状態と、ベッド付近の惨状に思いを馳せる。 怖くてまだ電気はつけられなかったが、おそらくベッドの下にはさっき脱いだ下着とパジャマのズボンが転がっているだろう。またベッドの上は先ほど取り替えたばかりのシーツが、今出したものでべっとりとよごれているに違いない。 それから自分を振り返ればパジャマははだけ、足や腹は濡れている。胸も、冷静になってみればきれいとは言い難いものでよごれていて。 これからしなければいけないことの数々を思い、啓太は少し憂鬱になった。まずはもう一度シャワーを浴びるのが先決だろうか。 「･･････今度は、中になにもないんだし、さっさと身体洗って出てくるからな」 パジャマの上を脱ぎながら、啓太は小さく呟いた。 「早く寝ないとほんとに疲れちゃうし、今度は絶対にもうあんなことはしないんだからな」 それからベッドから降りて立ち上がる。 そう、たとえ身体の奥がまだ快感を求めて疼いているようでも。 和希と話していろいろなことをさせられて、そのことで先ほどシャワーを浴びたときより身体が熱い気がしても。 「今度は、変なことなんかもう考えないんだからな･･････」 啓太は自分に言い聞かせるように呟いた。 ――身体の熱が、まだ燻っている。自分一人だけの中途半端な快感じゃ、本当には満足できない。 きっと。 この身体はもうとっくに、芯まで白い媚薬に侵されているのだ。 ＥＮＤ |
