身体検査(後) 「くっ･･･」 椅子の後ろに回された腕を拘束したネクタイが、空の手首にきつく食い込む｡空の自由を奪うだけではなく、それは明らかに故意に痛みを与えるものだった｡ 「さて･･･」 水都は椅子に座らせた空――これからしつけるべき対象――を見下ろす｡水都が指示棒を何度か振り、そのたびに棒の先端が水都の左手の中で見え隠れした｡ 「まずはどこを検査するかな。やはり以前と同様、こっちが先か」 指示棒の先が空の首筋を通り、制服のチャックに触れた｡それだけで空は顔を背けずにはいられなかった｡こんなシチュエーションも、別に二度目というわけではない｡さんざんここで嬲られてきたのだ。水都愛用のその道具の冷たさも固さも、体中でいやというほど知っている｡ 静かな部屋に、チャックがおろされる小さな音が響く｡チャックをはずしたあと、指示棒が空のシャツの上をすいっと滑った。 「！」 空が一瞬息をつめる｡ 無意識の動作のような気軽さで、指示棒の先が空の胸の一点をかすめたのだ｡すぐに空から離れたが、その動きが偶然でありえないことなどとうに空にはわかっていた。 男の性格からして。 「どうした？」 「･･････」 あえてなにも言わない空にかすかな笑みを向けると、水都はすぐさま棒で空のシャツをめくった｡空の引き締まった若々しい肌が露になる｡今の一瞬の動きですでに立ち上がりかけた小さな突起も、水都の目にさらされた。 「ふん･･･なるほど、跡は残していないというわけか」 「!! まさか本気で疑ってんのかよ!?」 「検査をすると言っただろう｡おまえの体に他の男の痕跡がないかくまなく見てやる｡すぐに目につかない場所に、残っているかもしれないしな」 「だから、オレは全然そんなことしてねえっ! あ、あんたにしか触れさせてねぇよっ」 顔を赤く染めながら、空が仕方なくそんなことを言った｡身の潔白を証明するには、それしかないと思えた｡ だがその言葉は水都の冷笑で報いられた｡ 「さてどうだろうな。おまえみたいな敏感な体は、私でなくても簡単によがるんだろう? どこででもだれにでも足を開いて、腰を振ってねだるんだ」 「違うっ！ これまで一度も･･･」 「でも藤守とは寝たんだろう?」 空のシャツを手で押さえ、水都が指示棒を空の肌に這わせた｡浅く息づく肌をすべり、脇腹を通り、胸の突起を通過する｡ 「あれはっ･･･でも最後までヤってないっ」 「じゃあ、七海とはどこまでいったんだ？」 「だからっ」 「この肌を見せたのか? こんな色づいたところを見せて、触って欲しいとねだったのか?」 「違・・・っ。ん・・・よせ・・・っ」 棒の先がくりくりと動いてそこを責める｡それだけで空の体が熱くなっていった｡男によってさんざん慣らされた体は些細な愛撫にすら反応し、思考を奪い、蕩けそうになっていく｡ 「こんなふうに立ち上がらせて｡おまえの体は男を誘うようにできているんだな｡こんな体を見せられたら、だれだってしゃぶりついてくるんだろう? ああ――こっちも、か？」 指示棒がすいっと動いてもう一つの胸の突起に触れた｡ぷつりと立ち上がったそれに冷たい金属が触れると、さらに空の体に甘い痺れが走った｡ 「やめっ･･･」 「体は全然そうは言ってないだろう? もうわかっているくせに、それもおまえの手なのか? おとなしそうな顔でなにも知らないふりをして」 「・・・っ・・・」 同じ箇所を執拗に責められて、空の息が上がる｡いまだ金属の棒にしか触れられていないのに、空の体の中では嵐が渦巻いていた。嘲りをこめた視線と、男の低い声。嘲笑のまじった水都の声で責められるだけで、煽られていく｡ 頭の中では違うと否定したくても、言葉で責められれば責められるだけ体のどこかに熱が集まっていくのがわかる｡ 体のどこか――自分の、分身に。 「じれったそうだな」 空が両足をこすり合わせたのを見逃さず、水都が言った｡ 「ここだけじゃもう我慢ができないみたいだな｡今度はこっちも調べてやろうか？ ん？」 めくれたシャツをそのままに、指示棒が胸から離れた｡ 空の腹部を滑り降り、そこに辿り着く｡布越しに形をなぞるようにじわじわと動かされ、特に敏感な場所を棒の先端で幾度も引っかかれると、鈍い甘さがさらに広がった｡ 「ちゃんと、じっくり、調べてほしいんだろう? 羽柴」 「――」 「おまえはおとなしい顔をして淫乱だからな。ちゃんと見てみないとそこにどんな跡があるかわからないしな」 「だから･･･ほんとに･･･だれとも、ヤってない･･･っ」 水都が力を入れて指示棒でそこを突付くたび、空は無意識に腰を揺らしそうになる｡実際そんな自分を軽蔑しつつも、頭の片隅でいいかげんもっとはっきりした愛撫を施してほしいと思ってしまう｡こんな、焦らすようなやり方なんかしないで｡ 「信じられんな――と言いたいところだが、じゃあ見せてみろ羽柴」 「!?」 「服は脱がしてやる｡そしたら、おまえが自分で足を開いて私に見せるんだ」 「じょ、冗談･･･っ!?」 「見せられないということは、やっぱり他の男を咥えこんだんだな」 決めつけた言い方をする水都の真意を測るように、空は食いいるように男の顔を見つめた｡ 本気で自分のことを疑っているのだろうか。自分がいつだって逆らえずに、結局意のままにされてしまう様子を幾度も見てきているはずなのに｡ 二十四時間ずっと支配され続けて、他の人間と関わる余地なんてどこにもないというのに｡ 「どうした羽柴｡図星か？」 「･･･オレが、ほんとに今、あんた以外のヤツとヤると思ってんのかよ･･･っ」 「開き直りか？ 上等だな」 「なんでそんなふうに曲がってとるんだよっ!?」 「つまり･･･私に、信じてほしいのか?」 「･･････っ」 「だったら自分で証明してみるんだな｡おまえがちゃんと自分で見せられたら信じてやってもいいが?」 そう言ったあとで水都は空の耳に口を近づけた｡低いかすれた声で囁く｡ 「ほんとは私に見られたいんだろう、羽柴･･･？ 自分から、どんなふうになっているか私に見せてみろ。ん？ もう勃ち上がっているんだろう? もしかして先端ももう濡れているのか？ とろとろと雫をたらして･･･？」 「･･･やめっ･･･」 水都が耳から吹き込む淫猥な言葉に、いやいやするように空が首を振る｡言葉のイメージだけで、気分がますます煽られるうえに、水都はタイミングを図ってときおり指示棒でそこを強くこすりあげた｡ まだ空のそこは水都の目にさらされていない｡ さらされていないのに･･･さらされていないからこそ｡ 焦らされてますます敏感になる空の反応を目で楽しみつつ、水都は指示棒で器用に空のズボンのホックをはずした｡それからファスナーをゆっくりと下ろしていく｡ ズボン越しではない指示棒の刺激に、空がますます熱い息をついた。 ファスナーをすべて下ろし終えると、水都は指示棒を持ち替え、自分自身の手で一気に空の下着ごとズボンを脱がした｡空自身が外気に触れ、びくんと震える｡ 「ほう･･･やはりな･･･」 「・・・・・・っ」 すでに勃ち上がりかけたそれは確かに先端がすでに濡れそぼっていた｡布越しに多少いじられただけで｡ 胸の突起もなにもかも、ほとんど水都自身の指にも唇にも触れられていない｡ ただ男の視線と声が、空の体を甘く蕩けさせていく｡ 「まだ、こんなふうに少し触れただけだろう? そんなにイイのか?」 水都の持っている指示棒が、直接空自身に触れた｡これまで以上に強く押されて、それがたちまち甘い刺激に変わる｡ 「ああっ・・・」 「さあ、見せてみろ羽柴。いつまでもそのままじゃつらいだろう？」 「い、やだ・・・っ」 「ならこのまま私は帰るが？ あとで、人を呼んで自由にしてもらうか?」 「!?」 空がはっとして顔を上げた｡水都が空から離した指示棒の先端を手のひらに当て、伸縮自在のそれを短く縮めようとするところだった。 脅しじゃないかもしれない｡やるといったら、本当にやる男なのだ｡ 「･･･んなことになったら、マズイのはそっちだろ･･･っ!? ここに人を呼んだら、あんたのやってきたこと全部・・・っ」 「ふ。私が世間体や醜聞を気にする人間だと思うのか?」 空が対抗するように叫ぶと、水都はまったく動じない態度で返してきた｡その表情に変化はない｡どこにも虚勢を張った様子など見られないのだ。 「そう思うなら実際に試してみるか? 私が帰ったあと、おまえが声を上げて人を呼ぶ｡羽柴が私の名を口にする前に、その姿が他の人間の前にさらされることになるんだ｡騒ぎになれば一人や二人というわけにはいかないだろうな｡何十人もの人間が集まって、おまえのその姿を見るわけだ」 「――っ」 「ああ、それもいいかもしれないな。何人もの人間に視姦されているおまえの姿を想像するだけで愉しくなる｡おまえだって、何対もの目に射貫かれたらそれだけでイくんじゃないか？」 「もうっ、よせよ･･･っ」 「想像するだけで感じるか? さっきよりもさらに濡れてきているじゃないか･･･ほら」 再び伸ばされた指示棒の先が、空の濡れた先端をかき回した｡濡れているだけによくすべり、空の感度を高めていく。 「・・・っ･･･やめ・・･･･んっ」 「違うだろう羽柴? もっと、だろう？ もうこんなになっていてつらいから、早くしてほしい、だろ？」 「ちが・・・っ」 「くくっ･･･本当におまえは損な性格だな｡まあ、そこがいいんだがな･･･」 でないと面白味がない･･･そう呟いて、水都が指示棒をとじられた空の腿に這わせた｡故意に空自身の周りを幾度も往復させる｡直接的な刺激が離れ、じわじわとしたもどかしいそれに変わったとき、空は男が本当に自分が足を開くまで焦らしつづける気であることを悟った。 自分で触れられない分、刺激に対して貪欲になる｡いくら自分で否定しようと、本当は水都の言うとおりもう我慢の限界なのだ。泣いてねだってもいいから、もっと、ちゃんと触ってほしい。 もっとめちゃくちゃに、荒々しくてもいいから｡ そんな空の心を見透かしたように、水都が眼鏡を押し上げてから囁いた｡ 「･･･正直に言ってみろ、羽柴｡おまえ、本当は他の男を咥えこんだんだろ?」 「違うっ｡･･･ンなに疑うなら、自分の目で見てみれば、いいだろっ･･･!?」 敗北宣言代わりの言葉とともに、空が椅子の上に足を乗せて膝を大きく開いた｡勝ち誇った男の顔を見るのがしゃくで、顔を背けた上に目を閉じる｡しかし勃ちあがった自分自身に注がれる男の熱い視線は、目を閉じていてもいやでも感じられた｡ 「――そんなんじゃ肝心な部分は見えないな」 「!! ・・・っくしょ、てめぇ･･･」 文句を言いながらも、空がさらに足を開いて腰を浮かせる｡ 「これで、いいんだろ・・・っ!?」 足を開いて猛りきったものを自分の目の前にさらした空を、水都は満足げに見下ろす｡薄い色をした秘所が浅く息づいているのまで見えた｡空自身が言明するとおり、本当にだれにもそんな姿をさらしていないことはよくわかる｡だれにも触れられていない体。 すべては、自分一人のものなのだから。 しかし口に出しては水都は、「見るだけじゃわからないな」と言った｡ 「なっ!? ･･･んっ、あっ、ああ・・・っ」 「ちゃんとこうして中も確かめてみないとな。ひくついているおまえのここに、他の男の名残がないかちゃんとかき回してみないとわからないだろう？」 空の秘所に金属製の棒の先端が埋め込まれる｡空自身の汗と滴りが伝わっているとはいえ、そこはまだまだ固く閉じていた｡だが細い先端は、空の意に反して簡単に侵入を果たしてしまう｡するすると入れられたそれが、空の敏感な部分を的確に突いた。 「やっ・・・あっ、ああっ・・・んっ・・・」 「こうしてかき回して、それでもなにも出てこなかったら、おまえが私一人のものだと信じてやってもいいがな」 「そんなの・・・んっ、て、てめぇの、口実っ･･･ふっ･･･うんっ･･･」 中をえぐられるようにかき回されて、空が甘い声を上げる｡幾度も味あわされた指示棒の感触だが、いまだに空には慣れなかった｡ 喘ぎ声とともに空の口腔から唾液が溢れても、目から涙がこぼれても、空にはそれを拭う自由さえなかった｡ただ足を広げて男の愛撫に耐えるのみだ。 「いい格好だぞ、羽柴･･･｡おまえは今、自分で足を広げて私を誘っているんだからな｡そんなふうにかわいい声で鳴いてよがって」 「･･･あ･･･はぁ･･っ、ん、みな、と･･･っ、も、よせ・・・っ」 緩急をまじえて襲ってくる快感の波に耐えながら、空は懸命に声を絞り出した｡砕けかける理性を必死で引き戻し、男に自分の意思を伝えようとする｡ 「ほう？ このざまでまだ粘るのか？ 強情だな」 「違、う・・・っ。も、それ、やめっ・・・。棒ですんの、よせ･･･っ。も、いい加減・・・っ、んん」 「棒？ ああこれか。じゃあどうしてほしいんだ羽柴」 「――あ、あんたの･･･み、水都の指、手、口･･･なんでもいいから、直接触ってほし･･･っ」 「――」 水都は指示棒を空の最奥から引き抜くと、それをすぐさま床に投げ捨てた｡ そして自身の指で空のあごをとらえ、上向かせる｡ 両手を拘束し、椅子に縛りつけるとき以外ほとんど触れていなかった水都の指に肌を辿られ、それだけでさらに空の体が熱くなる｡温度のない固い金属とは違う、吸いつくようにやわらかくて熱を持った、男の指｡ 「あ・・・みな・・・んっ・・・」 「まさに天性だな、羽柴? 自然体で男を誘うすべを心得ているじゃないか･･･」 そう呟くと、水都はこの日初めてのくちづけを空の唇に落とした。 水都の舌が空の唇をなめとり、口をこじ開ける｡侵入してくる舌に、空は自分も積極的に舌を絡めた｡相手の熱を感じ、ぬめりとしたその感触をむさぼるように｡ 「ん・・・んんっ・・・」 従順なその動きに、水都が御褒美とばかりにずっと触れていなかった空の胸をまさぐった｡男の指にこすられ、たちまち胸の突起から快感が走る｡体だけでなく、心までも男に惹きつけられていくかのようだった｡ 単純な甘さではなく、もっと深いところで自分自身が悦んでいるのが空にもわかった｡男の指に、唇に、触れられるたびに悦びが増す。あんな一方的なやり方ではなく、ちゃんと互いを高めあうやり方で触れているのがわかる｡ 早く達したいと思うよりも、もっと触って欲しいと空は思った｡もっとその指で熱をわけてほしい｡鼓動を感じて、男の体温に包まれて。 自分自身を押しつけるように、空は腰を揺らした｡相手の服にこすれていると感じるだけで昂ぶりが増す。 無我夢中で快感を追い求めている空には、理性などほとんど残っていなかった｡自分がどれほどあさましいことをしているかも、まるっきり頭の中からとんでいる｡ただただ全身で、相手に直接触れられることがこれほど気持ちいいものなのだと実感していた。 ――それが他の人間ではなく、今こうして触れ合っている男だからこそ、とは認識しないまま、空は男の与える愛撫に無心におぼれていったのだった｡ 終 |