「羽柴くんは、なにも考えなくていいんですよ」 そんなことを言って、七海が空の着ているトレーナーをめくる。あらわれた胸の突起に唇を落とした。 「んっ・・・！」 舌で形をなぞるようになめとりつつも、内側から腕のほうに七海の両腕がそれぞれ差し入れられる。舌でせめられぞくりとした快感に意識をとられているうちに。 「・・・え？」 するりと首からはずされて。たちまちのうちに空はトレーナーを脱がされてしまった。 続いて七海の手が流れた場所は。 「うわあ、ちょっと待った！」 「いやです。待ちません」 ズボンのボタンが容易にはずされて、ファスナーまでもが下ろされる。 「な、七海ちゃん、兄ちゃん相手にされる方だったんだろ〜!? なんでンな、手馴れてんだよ〜。・・・っ・・・。あっ･･･だから、どうしてそんな・・・」 下着の中に差し入れられた指が、またたく間に空を捉えた。それから、自由自在に弄ばれる。 いつも優しく手当てしてくれる、細くて綺麗な七海の指。それが今自分をとらえ、快感を与えていることが、空にはどこか信じられなかった。 熱に浮かされたまま七海の服を掴み、緩急をまじえて襲ってくる波に、甘い吐息をついて耐える。こんなときの自分の声など聞きたくもないのに、空は抑えるすべを知らなかった。唇を噛み締めても、そのうちたまらなくなって自然ともれてしまう声。 「や･･･っ、な、なみちゃ・・・。 ・・・ん・・・っ」 「・・・私と真一朗は、そういう意味でもパートナーですからね。そりゃあ体力差もありましたし、最終的には私が真一朗を受け入れてましたけど、その前にお互いを高めあってましたから。どっちがどうでも、さほど変わらないですよ羽柴くん。ああ、勿論羽柴くんは私のことなんか気を使わなくていいんですよ。ちゃんと私、自分で楽しませていただきますから」 そうして、さらに七海の指が複雑に動く。一方で唇が空のやけた肌をすべり、ところどころ赤い跡をつけた。 「でもっ・・・男のプライドとしては、やっぱり違う・・・っ。オレだって、七海ちゃんのこと･･･っ」 「抱きたいですか？ 困りましたね。・・・ああ、一つ条件を出しましょうか。羽柴くんの体力が真一朗を上回ったらいいですよ」 びくりと、空の体が震えた。自分が行った愛撫での反応でないその空の様子に、七海が顔を上げる。空は七海の服を掴んだまま、つらそうに目をそらしていた。 「・・・やっぱり七海ちゃん、兄ちゃんのこと･･･」 「・・・やきもちですか？」 七海は再び空の胸に唇を落とした。右手で空自身を嬲りながら先程よりも執拗に胸の突起を責めたてる。ときには軽く歯まで立てた。 七海は、自分の中のうら暗い気持ちを止められなかった。真一朗のことを口にした空。 やきもち？ ――どっちに？ 幼いころ、誰よりも真一朗になついていた空を知っている。真一朗の存在を気にするのは、あるいは空は、本当は真一朗のことを。 「!! な、七海ちゃん!?」 空の上にいた七海の体が動いた。位置をずらし、今まで指で嬲っていた空自身を。 「・・・っ・・・ああっ・・・そこ、だめ・・・っ」 突然訪れたあまりにも強い感覚に、空の口からもひときわ甘い声がこぼれる。空は七海の頭の動きを止めるように柔かい髪に手をうずめた。 七海の髪を結んでいたゴムがほどけ、流れた髪が空自身の上にさらりとかかる。 そのわずかな刺激さえ拾った空の腰が、ぞくぞくと背筋を這い上がる快楽に揺らめいた。 空自身を包む熱く濡れた七海の唇の中で、さらに熱い舌がうごめく。空自身の敏感な先端を掠め、ときにははぐらかすように脇を通り。 耳から聞こえた湿った音が、空の羞恥心をあおった。 「ななみ、ちゃ･･･それ、もうやだ･･･」 空の声に懇願の響きが混じるが、七海は聞こえなかったふりを通して空のズボンと下着に手をかけた。空への愛撫を続けたまま、あっさりとすべて脱がしてしまう。 そして一度空自身から離れると、ゆっくりと空の足を押し広げた。 「！ 七海ちゃんっ！」 「大丈夫。恥ずかしがらなくていいですからね。ただ羽柴くんを全部見せてもらうだけですから」 声だけ聞くといつもの七海で、それだけに空はなおさら恥ずかしくなった。 「やだ！ だめだって、七海ちゃん。もう･･･」 「真一朗の名前を先に出したのは羽柴くんでしたよね。それなのにあんなことを言うなんて、勝手だとは思いませんか？ だからやめません。それに・・・」 空が足を閉じられないよう、自分の体を間に割り込ませ、七海は再び空自身を指で包んだ。上下にしごき上げながら、先端を指で優しく引っかく。 「･･･あっ、ああん・・・ん･･･っ・・・な、な･･･」 おそらく、限界が近いのだろう。わずかな動きにすら、空が過敏な反応を示す。七海の髪にうずめた指がせつなげに動き、七海の髪をかき回した。なかば無意識のうちに、空の唇から甘い声が絶えずこぼれていく。 「それに、不安を忘れさせてくれるんでしょう？ これだけじゃまだまだですよ、羽柴くん。もっと乱れて私を夢中にさせてくださいね」 「！」 空自身を捕らえた七海の指が、空のくびれの部分に爪を立てた。 びくりと空の全身がひきつる。 そして。 「やっ･･･七海ちゃん・・・・っ」 泣きそうなほどせつない声とともに、空は絶頂を迎えた。 ――憧れの人の目の前で達してしまったことに、快楽に溺れていた空の意識がたちまち羞恥という感情を思い出す。 あられもない声を上げ、現実を忘れていたが、目の前にいるのはいつも優しいその人で｡ だから空が荒い呼吸を幾度か繰り返して息を整えていたとき、聞こえてきた水音が信じられなかった｡そして再びじわりと広がる熱をもった甘さ。 「!? な、七海ちゃん!?」 今自分が解き放ったものを、彼の人は舌で丁寧になめとっていたのだ。上半身を起こし、その光景を見た空は、一瞬めまいを起こしそうになった｡ それは、あまりにも淫蕩な光景、だったのだ。およそそういうものと無縁と思える人が、自分のを舌を使って処理している光景は｡ 「ん・・・っ」 七海の舌が、やがて空自身からつたって別の場所に移っていく｡今までより足を開かされ、七海の舌の目的地を知った空はわずかに身を竦ませた｡ 「ふふ･･･やっぱり固いですよね｡もっとなじませておかないと、羽柴くんが、あとでつらくなりますよね」 「･･････っ」 空の淡いピンク色をしたその部分がなめとられながら、やわらかくほぐされてゆく。今まで経験したこともない奇妙な感覚が、七海があいた手を空自身に伸ばしたことで生まれた甘さと合わさり、快感へと繋がっていった｡ 「ななみ、ちゃん・・・」 不思議と、怖さは生まれてこなかった｡七海の愛撫が丁寧で優しいというのもあるが、やはり根本的に嫌えない人間というのはいるものだと、空は思う｡人徳であり、それがずるさだとも思うが、こんなふうにされても心の底から拒絶しようとは思えなかった｡ 七海の指がそこに触れる｡じょじょに柔かさを増していたそこに、ゆっくりと指が挿入された｡そしてさらに愛撫を加えられ、増やされる指｡ やはり、いくら人より細く綺麗な指であっても、異物感は相当なものだったのだが｡ 「――!? やっ、な、七海ちゃん・・・そこ、や・・・っ！」 指が増やされてさほど経っていないうちに、七海の指がそのポイントに触れた｡空は七海の確信を込めた指の動きなど知らなかったが、医学に通じている七海にとって、そこを見つけ出すのは容易なことだった｡ びくびくっと空の体が大きく震える｡たちまち先程のように元気を取り戻した空自身に、七海は軽くキスを落とし、そのまま先端をなめとる｡空の背後に回した指の動きはゆっくりだったが、確実に空を追い詰めていった｡ 「あ･･･っああんっ・・。は・・・・ふ・・・んんっ・・・」 空の中にうずめられた七海の指が複雑に動く。強い刺激を与え、理性を砕けさせたかと思うと、次の瞬間には指が引き抜かれ、こちらを肩透かしさせるように官能の波を引かせていく。交互に与えられるその刺激の強弱に、先程以上に空の思考が溶かされていく｡ 自ら腰を動かし、ねだるような甘い声をこぼすのも、空には無自覚なことだった｡ ふっと、七海が離れた｡ 七海の重さがなくなったことで、空は目を開けてそちらを見やる｡ ベッドの上に膝をついた七海が、自分が着ていた服を脱ぐところだった｡ 服を脱ぎ捨て、あらわになった七海の上半身につうっと汗が伝い落ちるのを見たとき、空は自分自身がなにものにも触れられていないのに、かすかに脈動したことを感じた｡ ほんのりと赤く染まっている七海の体｡予想よりはしっかりした体つきであるものの、どちらかと言うとやはり細身のすらりとした肢体｡ほどけた髪がさらりと肩を流れ、濡れた唇から吐息がこぼれている｡気だるげな表情と潤んだ瞳は、彼のいつもの爽やかさを払拭し、凄絶なほど艶めいていた。 空は思わずごくりと喉を鳴らす｡ 大人の色香とでも言うのだろうか、かわいい印象を与えるはずの顔がこのときひどくなまめかしく映ったのだった｡ 本来なら、抱きたいと思わずにはいられないほどに｡ しかしそうではない自分の立場に空はひそかに溜息をつく｡ 「どうかしたんですか？ じらされてつらい、とか？」 「ちが･･･っ」 顔を真っ赤にした空が慌てて顔を背けた｡しばらくの間、つい七海の体に見とれてしまっていたことを、いまさらのように照れる｡ 「待っててくださいね｡ちゃあんと、導いてあげますから。ただ二人で楽しむためには、服が邪魔でしょう？ 私だって、羽柴くんの体温を感じたいんですから」 そう言って、七海が再び空の上に体を重ねた｡直接伝わる七海の熱に、空の胸の鼓動が早くなる｡ 再び空の意識を奪うように、七海が深いくちづけを繰り返した｡ 「ん・・・あふ・・・」 耳に届く互いの唾液が交じる音に、気持ちが煽られこそすれ、空にはもう恥じる気持ちはわかなかった｡ 背中に回した腕からも、すでに立ち上がったままの胸の突起からも、甘い刺激を受けつづけて固くなった自分自身からも、相手の存在をじかに感じ、それが更なる快感を呼ぶ｡ 「ふ･･･ん･･･っ、な、ななみちゃ･･･ああっ･･･ん・・・」 無我夢中で相手にしがみつき、うわごとのように名前を呼ぶ｡足を開かされ、複数の指でせめられても、空は自分を絶頂に導くかのように腰を揺らした｡ そして熱い塊がそこにあてがわれたときも、空の意識はどこか非現実を彷徨っていた｡ 「あ・・・ああっ・・・ななっ・・・」 「ん･･･大丈夫です、羽柴くん・・・｡力を抜いて･･･そう･･･」 「・・・・・っ」 「爪、立ててもいいですよ・・・。――ああ、本当に･･･」 無理強いしないようにとゆっくりと腰を進めつつも、七海自身も空がもたらす甘さを実感する｡心の方が重要で、快楽なんか二の次だったはずだが、思った以上の熱さと甘さに年長の経験者としての余裕も薄れていく｡性急にそれだけに没頭したくなる自分をどうにか抑えるだけで精一杯だった｡ まだ、空は初めてなのだ。 たとえ今こちらにどれほどの熱をもたらしているとしても、それは少年の無意識の行為であるのだから。 「な･･･ななみちゃん、オレ・・・もうっ・・・」 「・・・いいですよ。私も、そろそろ、ですしね･･･」 涙さえぽろぽろとこぼす空に優しいキスを降らせながら、七海は自身と空とを臨界点へと導いた。 二人で間を置かずに達したあと、ひそかに心の中で七海が呟いた言葉を空は知らない。 ――羽柴くん･･･これからゆっくりとおぼれさせてもらいますから。覚悟、しててくださいね――。 「えっ!? この学校の保健の先生なの!? マジ!? オレ生徒かと思ったー。へへっ、オレ一年三組の羽柴空っていうんだ。今度からちょくちょくここに来させてもらうかもしれないな。なんかここ、すっげえ居心地よさそうｖ」 「羽柴、空くん、ですか・・・」 「そう、空はそのまんま青空の空！ よっろしく！」 「こちらこそ、よろしくお願いします。･･･羽柴くんみたいな元気な男の子と会えて、とても嬉しいです」 「え？ そ、そう？ なんか照れちゃうなあ･･･」 「ふふっ。本当ですよ。･･･会えて･･･よかった・・・」 「え――」 「あ、これ予鈴ですよね｡羽柴くん、急がないと授業に遅刻しちゃいますよ」 「あ、うん。じゃあまたな、七海先生――七海ちゃん！」 「本当に会えてよかった･･･元気そうな姿を見られて･･･」 「ななちゃん。これ、そらのひみつなの。あのね、みんなにはないしょだよ？ あのね、そらね、ななちゃんのこと、だーいすきなの――」 |