悪戯したいお年頃♪（前） 「兄ちゃんて、なんで〝水都〟なんかやってんの？」 「へ？ なんだ、空。いきなり・・・」 思いつめたような空の声に、リビングのソファに座っていた真一朗は、ソファから反り返るようにして後ろにいる空を見た。 真一朗に見つめ返されて、いくらか勢いを弱めた声がさらに返ってくる。 「だから、なんで〝水都〟なんだよ。理由、なにかあるのかと思ってさ」 「――やっぱいろいろ調べるためには内部にもぐりこんだほうが好都合だったし、一応潜入する身としては素のオレじゃなくて正体を隠したほうがいいと思ってさ。・・・空が聞きたいのはそんなことじゃねえのか？」 「・・・・・・」 空はむっつりと黙り込んでソファを回りこんだ。真一朗の隣にどかっと腰を下ろす。 真一朗は空のその態度に、ソファの背もたれから体を起こした。 「そ、空～？ どうしたんだ、おまえ」 「オレ、水都なんかだいっきれえっ。なんであんなに性格悪ぃんだよっ！」 「性格悪ぃって・・・はは～ん。空クンは昨日の授業中のことを怒っているわけだ？」 前を向いたまま怒っている空の顔を覗き込んで、真一朗はにやけた笑みを浮かべる。前日の数学の授業中、空は〝水都〟に指名されて問題を解くように指示され、そしてうまく解けなかったのだ。そのとき確かに空がムッとくるような嫌味を飛ばしたことを真一朗は覚えていた。 「ちっくしょー、すっげぇ腹立つ！ あんなときにあんな言い方しなくてもいいだろ!?」 空は隣にいる真一朗ではなく、あくまでも〝水都〟に対して怒っているようだ。そんな空だからこそ、真一朗も腕を伸ばして空の頭をぽんぽんと軽くたたいた。 「そうかそうか。めちゃくちゃ腹立ったんだな。でもまあ、気にすんなよ」 そのあとで空の髪をかき回す。自分がしたことでもあるのだが、ついついこんな風に優しく慰めたくなったのだ。空も真一朗の手を振り解かず、素直にそれを受けていた。 「・・・で、どうして兄ちゃんが〝水都〟なんかやっているのかと思ってさ。そりゃあもぐりこんでいる手前そのまんまの兄ちゃんなら都合が悪いことはわかるさ。兄ちゃんのまんま教師になったら生徒たちにすっげえ大人気になって注目されて、こっそり調べるどころじゃねえもんな。・・・オレだって、慕われてみんなに笑顔を返しているような兄ちゃん、見たくねえしさ・・・って、うわっ兄ちゃんっ」 「なんだ～空、それはやきもちか？」 空がポツリと付け足した言葉に、真一朗ががばっと空に抱きついた。 「ち、違うって」 「かっわいいやつ～～」 「だから違うって言ってんだろっ。ちょっ・・・頬摺り寄せてくんなよっ」 「空から見たらオレはそんなふうに、生徒に人気ありそうな教師に見えるのか？」 少しだけ空から顔を離して、真一朗が空に聞いた。 空は素直にあごをひく。 「ん・・・。そのまんまの兄ちゃんなら気さくで、話しやすそうな先生になってたと思う。同性から見てもこの先生いいなあって思えるような先生にさ。面白え話をたくさん知ってて普段のときも授業中も聞いているだけで楽しくなるような感じで、でもちゃらけてねえで、悩み相談したらちゃんと真剣になって話を聞いてくれて・・・。兄ちゃんは素のまんまで教師をやっていたら、絶対、水都の何百倍も好かれていたと思うぜ、オレ」 「ふうん～。それだけ、オレは空から見たらミリョク的に映ってるんだ？」 「そうは言ってないだろ！」 にやつくように真一朗に言われて、空は自分がなにを言っていたかに改めて気づいた。むくれたようにそっぽをむく。 「教師かあ～。こんな仕事についてなかったら、まず経験することさえなかっただろうなあ。けっこうこれはこれで大変だし、そもそも空みたいなかわいい生徒に手を出せねえっていうのが一番の問題だよな」 「・・・・・・教師のクセにしっかり手ぇ出してるじゃん」 「んん？ なにか言ったかな、空クン」 「わ。は、鼻つまむなよ～」 「ああでもこんなに親しみやすくてイケてる人間が数学を教えるっていうのもかっこいいかもな？」 「自分で言うなよ兄ちゃん・・・」 鼻を解放されたあと、空がひそぼそと真一朗に突っ込みをいれる。だが本当は、その姿を想像すると確かにかっこいいかもしれないなとひそかに思っていた。少なくとも数学の授業がとても楽しくて、今以上に成績アップにつながっていた気がする。 それを思うと、空は現状がさらに気に入らなくなった。 「だから、どうして兄ちゃん〝水都〟なんだよ。そのまんまの兄ちゃんではまずいにしろ、なにもあそこまで陰険じゃなくてもよかったんじゃねえの!? もっと別の人格でもよかったはずだろ!?」 〝水都〟への怒りを思い出した空が真一朗の体を無意識に押しやって、再び声を大きくして不満をぶつけた。 「そう言うなよ。いろいろと動くには、生徒にいつもじゃれてこられたり、同僚から気さくに話しかけられるようなタイプじゃないほうが都合がよかったんだよ。現にそれが功を奏してかなり自由に動けているしな。まあ近くに〝水都〟と似たような人間がいたから、イメージしやすかったっつーのもあるだろうな」 「それはそうだけど、でもどう考えてもあれは行き過ぎだろっ!?」 別の人間を思い浮かべて苦笑した真一朗の呟きに、空の力のこもった声がかぶさる。 「あいつは人をいじめるのが趣味としか思えねえよっ！ ぜってぇ性格が捻じり曲がってるって！」 「――ほう・・・。羽柴はそんなふうに私のことを考えていたのか」 「へ？ わ、兄ちゃん!?」 「いじめるのが趣味、か・・・。ふ。あながち間違いとも言えないな。それを、ここで証明してやろうか？」 唐突に口調を変えた真一朗の顔を空は凝視する。目の前にいるのはちゃんと真一朗で、だから全然怖がることはないのだとわかっても、声だけで体に緊張が走ってしまう。ほとんど条件反射だった。 「に、兄ちゃん、冗談よせよ。オレが水都の悪口ばかり言うから怒ったのか？ わ、悪かったよ兄ちゃん。でもオレ、兄ちゃんのことは悪く言ってねえだろ!? あくまでも水都のことを・・・んっ！ あ、兄・・・っ」 「――そんな言葉よりも、もっとおまえに似合う声があるだろう、羽柴。私はそちらのほうを聞きたいがな」 あごを持ち上げられ、真一朗に唇を重ねられてしまう。しっかり舌を絡めてくるキスは、なんだか〝真一朗〟のキスとは違うような感覚で。空は、身震いする。 体の中でざわめく甘さと同時に、血の気がひく思いがした。 そして目の前にいる男は空の体を強く引き寄せると、空の耳に低い声で囁いた。 「なんだ・・・震えているのか？ そんなにこれから起こることを期待しているのか？ 仕方のない体だな」 「違うっ。よせってば。離せよ、兄ちゃんっ！」 そんなふうに抱きしめられて相手の顔が見えないと、なおさら怖くなる。真一朗は本気で怒ってはいないようだが、なんとなくただのおふざけという気配もなくて、空は必死になって真一朗の体を突っぱねようとした。しかし相手の体は全然離れることはなく、むしろ背中に回された手が背中や腰を撫でてくると、逆に空自身から抵抗する力が奪われていった。 「私の腕の中にいながら、別の男の名前を口にするとは感心しないな、羽柴。それとも私を煽って、怒らせようとしているのか？ この体をよりかわいがってもらうために」 「やだって言ってんだろ！ いい加減離せよ。人の体撫で回すの、気色悪いからよせ・・・っ」 「そう言いながら、私が触るたびにびくびくと反応しているようだがな。服の上から触るだけでこれなら、直接おまえの吸いつくような肌に触れたとき、おまえはどんな反応を返してくるんだろうな」 その声と同時に背中のシャツがめくられた。じかに触れてくる男の手に、空の体が敏感に反応した。 「や・・・っ」 「ああ、やっぱりすべらかないい肌をしているな。男の手を誘って、離さない肌だ」 空をなかば自分の膝の上に乗せた体勢で、手馴れた男の手が背中や脇を這い回る。ときおりからかうようにズボンの上から空の双丘のくびれを辿った。 「・・・・・・っ」 「くく・・・そろそろこれだけじゃ物足りなくなってきたか？ もっとイイところを触ってやろうか。すでに立ち上がりかけている胸とか、膨らみはじめた前とかな。私の手で、じかに触れられたいだろう？」 「違う・・・」 かすかに空の息が上がり、体が熱を帯びてくる。唇からこぼれる甘い吐息交じりの声も、だんだん弱々しくなってきた。 空から見える光景は明らかに真一朗の家のリビングで、自分が身につけているものも制服とは違う。そう認識してさえ、顔が見えない相手の声が、空に錯覚を与える。触れ合っている体も触ってくる手も、よく知っているもののはずなのに、別の男のものであるように感じられた。 そしてそれにより、心と体が徐々に追い詰められていく。 空は男の体を押しやることも忘れ、体の熱さに耐えるように手に触れている男のシャツを握り締めた。 「ああ、本当にもう芯が入っているじゃないか。ココをこんなにさせて、そんなに触られるだけで悦かったのか？」 「んっ・・・っ。さ、触るな。あ、離・・・っ。ふっ・・・んんっ・・・」 密着する体の間をすべらせて前に回った男の手が、ズボンの上から力をこめてそこを揉みしだく。これまで以上の強い刺激に、空はたまらず乱れた声を上げた。 その手がたちまちズボンの前を開き、下着の中に侵入してくる。 「ふ、ぅん・・・ああっ・・・ん・・・」 「そう、その声だ羽柴。本当におまえはそういう声が似合うな。で、おまえは今誰にかわいがられているんだ？」 「か、かわいがられてなんか、いな・・・。おまえが勝手に・・・あ、よせよ水都・・・っ」 「〝水都〟？」 男に確かめるように繰り返されたと同時に、空自身の先端を相手が重点的に指で責め立てはじめた。空の体がさらにびくびくと揺れる。 「はぁん・・・っ。もっ・・・も、いいから離せってばっ、あ、水都、も、よし・・・」 快感と悔しさで空の瞳が潤んでいた。無意識のままそれぞれの手で男のシャツをさらに強く握りこむ。 そして、一瞬の間のあと。 「――うっは～、これマジでクセになんなあ～」 突然口調を変えた男が自分の手から空自身を解放し、空に密着させていた体をも離した。 「あー、これだからやめられねえんだよな、〝水都〟で空をかまうことって。それはそれで、独特のおいしさがあるよな♪」 「あ・・・」 空は呆然と相手の顔を見つめる。錯覚が深すぎて、一瞬、現実を認識できなかった。 そうだ、確か自分は。 自分が一緒にいたのは。・・・もともと。 「抵抗する空ってめちゃめちゃそそるんだよなあ。ついついこっちも本気でいじめちゃうぜ」 「――・・・に・・・兄ちゃんのばかやろ～～～～～っ！！！！」 心底楽しそうな真一朗の顔を見てようやく現実を思い出した空は、自分が前を寛げた状態であることも忘れて、おもいきり声を上げた。 潤んでいた瞳のまなじりを吊り上げて、真一朗を睨みつける。 「人のことをからかうにもほどがある！ あんなこと急にすることねえだろ!? オレ、本気でいやだったんだからな！ もう兄ちゃんなんか大っ嫌えだっ！！！」 「ん～でも空クンのココは、オレが手を伸ばしただけじゃ、こんなに早く大きくならなかったよな。思いがけず〝水都〟に触られて、それでこんなに感じちゃったんだろ。ほら、空のツユ、こんなにあふれてるぜ？」 空の大嫌い攻撃にも動揺せず、真一朗が悪びれずに空自身を再び触り、自分の指に空の先端についていた先走りのしずくを絡めた。それをわざわざ空に見せつけるように掲げる。 「ばっ・・・、そんなもん見せるんじゃねえよっ。もういい、シャワー浴びてくるっ」 「おいおい。まだなんも汚れてねえだろ？ これからこれから。空だって、このままじゃつらいだろ？」 ソファから下りようとする空の体を、真一朗は再び抱きこむ。片手で難なく空を抱き寄せたあと、若さの象徴のように勃ち上がりかけているそれに、また手を這わせた。 「離せって言ってんだろっ。あんなことする兄ちゃんなんてだ、い・・・んっ・・・っ」 「あ、もしかして風呂場でヌいてくるつもりだったのか？ そんな勿体ねえことするなよな、空」 いくら正気に戻っても、先ほど煽られた体は簡単には熱が引かないようだった。真一朗が手で空自身を押し包みゆるく扱きはじめると、たちまち空の唇から甘い吐息がこぼれた。空を抱き寄せた手が、さらに煽り立てるように肌を滑っていく。 「あ・・・ふっ・・・・っ」 「そうだな、まずは一度ヌいとかないときついよな」 真一朗の両肩に手を置き、空がその肩口に顔を埋める。人をからかった今の真一朗に感じている自分を見られたくなかったからだが、それでも声が空の気持ちをおもいきり裏切っていた。 「いいぜ、イけよ空。ほら、自分でも積極的に動いたらもっと早くイけるって、空はもうわかっているはずだろ・・・？」 自分に顔を隠す空の頭を楽しそうに眺めながら、低い声で真一朗が囁く。わざと空に淫蕩な気分を味あわせるように、故意に声をかすれさせた。 「やっ・・・んんっ・・・・兄・・・っ」 「大丈夫だ空。ちゃんと、最後まで責任持ってヤってやるから」 空を追い詰めるように、空自身に絡めた指をひときわ早く動かす。 空を絶頂に導くために手淫に夢中になっていた真一朗は、だから、空の片手が自分の肩から離れたことに気がつかなかった。 ――やがて。 「い・・・・痛って～～～～～～～～っっっっ！！！！！」 室内に、なんとも情けない男の声が広がった。 つづく |