むらさきいろのクスリ（中） ２ 「ん･･･っ」 抵抗するために動かした左手は、後ろから難なく手首を押さえこまれた。 押しやろうとした右手は、体内を駆け回る快感のために、そのまま相手の服をつかむ羽目になっている。 ジョギングで鍛えた足は蹴り一つ入れることも、足を踏んでやることもできずに、ただ自分の体重を支えるのが精一杯だった。 「きつそうだな、空･･･」 そう言いながら、声に笑みがこもっている。 空の左手を拘束した真一朗の手は、空の一番敏感なところをズボンの上から撫でさすっていた。かすかな圧迫感と布越しのじれた感覚が、空の中の快感をより高めていく。いまだ直接触れない意地の悪い手。 その一方で空はシャツをめくられ、胸の突起もいじられていた。すでに固くなっているそこを細い指でくりくりと刺激されると、空はますます前にいる相手の服をつかむしかなかった。 本当は引き離したいのに、引き離せないまま。 「･･････っ」 空は自分の中の嵐と格闘しながら、懸命に声を噛み殺す。そんな空の耳元に、真一朗が吐息を絡ませながら囁いた。 「そろそろ、直接触ってほしいんじゃないのか、空･･･。触ってほしいって空が言ったら、すぐにここのファスナーおろして直接かわいがってやるぜ？ ん？ 言ってみろよ」 「･･･だ､だれがっ･･･。もうやめ・･･ろって・･･言ってんだろっ･･･っ」 熱い息をこぼしながらも、空は懸命に自分の意志を貫き通そうとする。そんな空の様子に､真一朗はつい苦笑を誘われた。 ここで素直に言うことを聞くような性格なら、きっと、ここまで夢中になってはいないのだろう。 「空、知ってるか？ そういうふうに反発する方が人の気持ちを煽るってこと･･･」 そう言って真一朗が空の頬にくちづけた。 「ま、今は強情な空クンに特別にサービスしてやるよ」 「！」 カチャリとした金属的な響き。 「よせ･･･っ。に、兄ちゃん･･･っ」 そちらを見なくても、真一朗が今なにをしているかはよくわかった。ズボンのホックがはずされ、次にファスナーがおろされる。そのかすかな振動にさえ、空のそこが敏感に反応した。 続いて感じさせられた開放感と、肌に触れる涼しい空気。 「――っ」 空は思わず目を閉じた。自分が今どんな格好をさせられているかなんて、とてもじゃないけど正視できなかった。 「けっこう元気になってんじゃん､空」 「ずっと、外に出たかったみたいですね」 真一朗の声にかぶさって、七海の声まで聞こえた。それが、いよいよ空の羞恥心を煽る。わざわざ言われなくったって、自分の体が今どんな状態かはいやでもわかっているのに。 そして。 「･･････っ！」 空は咄嗟に自分の唇を噛み締めた。そうしないと、あられもない声が自分の口から飛び出してしまいそうだった。真一朗に直接触られて、巧みに嬲られる。もともと薬の効果で体が熱くなっているのに、さらに追いつめられるかのようだった。 そんな空の頬に、優しい手が触れた。空自身を嬲る手とは別の滑らかな手が頬に触れ、唇に流れていく。そのやわらかい感触に空の意識が一瞬ゆるみ、そして唇に触れていた指はその瞬間を逃さず噛みしめていた空の口の中に侵入した。 「あ･･･っ」 「羽柴くん、声、聞かせてください。私、羽柴くんの声好きなんですよ？」 しっとりとした落ちつきはらった声が、空の意識の中に心地よく響いた。それとともに空の口腔がおかされる。二本の細い指が空の舌を刺激し、内側をなぞり、それすらも快感に変えていく。 「やっ･･･な･･･ン･･･っふっあ･･･っ」 七海の一方の指は空の胸をまさぐっていて、自分自身と口腔と、三ヶ所を責めてくる甘い刺激に、空の開いた口から抑えられない声がこぼれた。 「空。七海の指なんか噛み切ったっていいぜ？――痛っ！」 真一朗が空にこそこそと耳打ちしたが、途端に空自身に触れていた手を七海につねられて声を上げた。 「んっ・・・あふ･･･っ」 空の口から甘い声がこぼれる｡七海に抵抗してこの声を抑えたいのは山々だが、噛むなんて、実際にできるわけはなかった｡真一朗はともかく、この細くて綺麗な指を故意に傷つけるなんて空にはできない｡ そしてそのことにより、空の意識がますます追いつめられていった｡ 「あっ･･･やあっ･･･兄、ちゃ･･･七海ちゃん･･･もう、離し･･･っ」 七海の指が引き抜かれても、もう空は声を抑えることなどできなかった｡二人から送られる刺激に、どうしようもなく感じさせられて喘ぐしかなかった｡ 空の足から力が抜け、すでに空一人では自分の体を支えられなくなっていたが、それを真一朗と七海が前後から空が倒れこまないように支えていた｡ あまりの快感に、足がガクガクと震える｡ なのに、二人は座らせようとも寝かせようともしてくれなくて｡ さすがに空自身にも、二人がこのままの姿勢で空を達かせようとしているのはわかった｡ 「もうイきたくてイきたくてたまんねえんだろ？ いいぜ、イけよ」 「や･･･離して･･･っ」 「一度ここで達っておいたほうがいいですよ？ 大丈夫｡勿論これだけで終わりにしませんから」 そう言った七海が空の胸の飾りを口に含んで軽く歯を立てた｡また七海の片手が空の双丘にまわり、じっとりと撫でさする。 そして真一朗の手はだんだん早く動き、空自身を複雑な動きで追いつめていった。 こんな、立ったまま他人に追い上げられるなんて冗談ではなかったが、それでも｡ さすがにもう、限界だった｡ 「あっ、ああ･･･――に、兄ちゃんたちの馬鹿ぁ〜〜〜っっ！！！」 目に涙さえ浮かべながら、空はこの日初めての絶頂を迎え、自分ではどうすることもできないまま思いきり放ったのだった｡ ３ 一度達かされたあと、真一朗の腕が空を解放した｡七海の服からも手を離し、空はへなへなとその場にしゃがみこむ｡ズボンは膝に引っかかっている状態で汚れた下半身は露だし、とても情けない格好ではあったのだが、そんなことにかまってはいられなかった｡ 何度も呼吸を繰り返して、自分の中の熱を追い出すことに夢中になる。 「空･･･兄ちゃんはおまえを、こんなに色気のないやつに育てた覚えはないぞ？ 初めて聞いた空のアノ声が兄ちゃんの馬鹿とは、なんつー嘆かわしさ･･･」 額に手を当てて、真一朗が呆れた声で呟いた｡それに対してしゃがみこんでいた空がキッと顔を上げる。 「兄ちゃんに育てられた覚えなんかねーよっ！ だいたい、兄ちゃんがオレを騙すようにしてあんなものを･･･んっ・・・」 真一朗に文句を言っていた空の意識が甘い刺激に反応する｡ 七海が、床に膝をついて露な空自身に指をかけたのだ｡ 「羽柴くんのここ、汚れちゃいましたね･･･ちゃんと、綺麗にしてあげますからね」 「な、七海ちゃんっ」 「はい、邪魔なものはさっさととってしまいましょうね」 座っていた空の体が七海の手に押しやられる｡重力に引かれて、そのまま床に倒された｡咄嗟に腕でかばったものの、そのままなら頭を打ちつけそうなくらいの唐突さで。空はすぐさま七海に対しても文句を言おうとした｡ 「七海ちゃん、いきなり人のこと押すなよ･･･って、ちょ、ちょっと七海ちゃん、人のズボン脱がすなよ･･･っ」 「だって続けるのには、これ邪魔ですよ？ 私、なにか間違ったこと言ってますか？」 「いや、この場合七海が正しいな」 「間違ってる！ 思いっきり間違ってるだろ〜っ！」 慌てて脱がされそうになるズボンを両手で抑える｡だが、空の頭の方からさかさまに顔を覗き込むような形で、真一朗がその両腕を掴んだ｡ 「に、兄ちゃん、離せよっ！」 真一朗に手首を捕らえられて、空はさらに慌てる｡振りほどこうと思いきり抵抗するが、悔しいことに真一朗につかまれた腕はびくともしなかった｡ 「へえ･･･空の胸ってこうなってんのか。今までまじまじと見たことがなかったよなあ」 「！ よせ・・・見るなよっ」 空が恥ずかしさに顔を背けた｡上から空の両手を拘束したまま、真一朗がめくれたシャツからのぞく空の胸の突起をじっくりと見つめたのだ｡ 「いい色に染まって、固くなってるみたいだな｡もっともっと触ってって、言ってるみてえだな。空･･･触ってやろうか？」 「ふ･･･ざけんなよっ」 そんなやりとりの合間にも、七海がさっさと空のズボンと下着を剥ぎ取った｡別に空もおとなしく脱がされるのを待っていたわけではないのだが、空の抵抗を七海は七海で簡単に抑え込んだのだ｡ そして、再び空自身にかかる指｡ 「あっ･･･七海ちゃん触るなよ･･･っ」 「どうして？ 今綺麗にしてあげるって言ったでしょう？ 空くんの名残が残っている姿もそそられますけどね･･･でも、私も味わってみたいですし」 「味･･･って･･･。うわ･･･っ、だめだめだめだめ〜。それマジでヤバイからやめ〜〜〜っ」 子供のように足をバタバタと動かすが、七海に、あっさりと捕らえられて開かされた｡そして放ったばかりの空自身を綺麗にすると言った七海の言葉どおり、七海の舌が空自身を｡ 「あっ･･･っ。だめっ･･･やあ･･･っ」 指でしっかりと捕まえた空自身を、七海の舌が行き来する｡濡れた感触が敏感な場所ばかり流れ、たちまち空自身が七海の手の中でびくびくと元気を取り戻す。 「こうして舐められるの初めてですか？ なかなか･･･イイでしょう？」 「も、だめだって･･･七海ちゃん、頼むから･･･っ」 「空、おまえの中にはまだまだクスリが効いているんだぜ？ ここでヌくものちゃんとヌいとかないと、あとでとんでもないときに急にきたりするかも知れねえぜ？」 「クスリって、ンなの、兄ちゃんが勝手に･･･飲ませ･･･んっ･･･ああっ･･･」 ぴちゃぴちゃとした水音が聞こえ、空は身をよじる｡これが真一朗なら遠慮なく足で蹴飛ばすのに、七海だとどうしてもつい本気で抵抗できないからよけいに困るのだ｡ 「クスリ？ なに言ってんだ、空｡おまえが勝手に飲んだんだろ？」 「!! な、なに言ってんだよっ、だってさっきっ」 拘束していた空の手を片手にもちかえ、真一朗はそのまま床に縫いとめた｡そしてあいた手で空の胸をまさぐり始める｡真一朗の指の動きにも、空がぴくんと反応した｡ 「おまえが勝手に、飲んじゃいけないっていうのを飲んだからこうなったんだろ？ 勝手に飲んだあげく体が反応しはじめて･･･それでオレたちに助けを求めてきたんだろ。楽にしてほしいって」 「なに言ってんだよ、勝手に、でっち上げるなよ。ん・・・っに、兄ちゃんが･･･っ」 真一朗の指が空の胸をつんとつつき、それから指の腹で焦らすようにこすっていく｡はっきりとした刺激でないだけに、もどかしいほどの快感がそこからも生まれた｡ 七海は空自身を丹念に舐めあげるだけではなく、空自身に絡ませた指も同時に動かしているようで、放ったばかりなのにすぐにまた激しい快楽が空の意識を席捲しはじめる｡ 「や･･･あっん･･･ふっ･･･」 「空が、飲んだんだろ？ そうしてオレたちにイかせてほしいってねだってきたんだろ？」 「違･･･っ」 「自分のしたことをちゃんと認めないやつには、イイものはあげらんねーぜ？ な、なな」 真一朗がそう言うと、七海が空自身を口から離した｡高まっているそこを置き去りにしたまま、空の太腿を撫で上げていく｡ 「そうですよ。羽柴くん、もう忘れちゃったんですか？ あのとき、羽柴くんが自分から瓶を手にとってクスリを飲んだんですよね？ いろいろと好奇心を持つのはわかりますけど、今回のは羽柴くんの自業自得なんですよ？ なのに自分の都合の悪いことは忘れてしまうなんて･･･だめですよ？」 もっともらしくいつもの声で七海が言う｡七海にまでそう言われて、空は、なんとなく二人の意図が見えた気がした｡ 「ずる･･･っ、な、七海ちゃんの、嘘つき･･･っ。さっきだって･･･ひ、どいことしないって･･･言ってたクセ、に･･･」 直裁的な強い刺激をお預けされて、空は本当に二人を恨めしく思った｡体内にクスリの名残があるのは明白で、それが、肌に触れるほんの少しの刺激でも甘い快感に高めていく｡七海の両手と真一朗の片手が肌をすべるたびに空の口から甘い吐息がこぼれた｡ 「ひどいことなんかなにもしていないでしょう？ 羽柴くんを気持ちよくさせてあげるって言ったじゃないですか」 「そうだぜ、空｡こんなの全然ひどくないぞ。七海はけっこうえげつないこと平気でやるからな、七海のひどいことなんて言ったら、空マジで泣いて失神するぜ？」 「･･･真一朗サン･･･推測でものを言わないように」 「いや、こいつほんとにサドっ気あるから」 「ん、もう。優しい私がそんなことするわけないじゃないですかね。ねえ羽柴くん？」 「･･･な、なちゃん、全然･･･優しくな･･･っ。すっげ、意･･･」 二人の会話の間にも嬲られていた空が、自分の気持ちをそのまま口にした｡七海は優しいときはすごく優しいけど、けっこう性格が悪いと空は今回のことで教えられたのだ｡ 「ほら、空がこう言ってるぜ、なな」 「――羽柴くん。私、素直な羽柴くんが好きなのに、そんなひねくれたことを言ったらだめですよ？」 「えっ･･･やっ､七海ちゃん――っ」 空が足を引きつらせる｡七海は空自身に再び手をかけたけれど、それと同時にもう片方の手が空の背後に回ったのだ｡双丘の奥まったところに。 七海はさして遠慮なくそこに触れて、指を浅く侵入させた｡ 「んっ、だめっ、あっぁふっ･･･ん･･･っ」 「クスリの効果みたいですね。羽柴くんのここ、もういい感じにほぐれているじゃないですか。簡単に指が入りますよ？ ほら、中でも自由に動かせますしね」 「あっ･･ああっんっ･･･や･･･ふぅ･･･っ」 侵入した七海の指が空の中をかき回す｡前と後ろを同時に責められて、空の中の快感が一気に高まった｡ このまますべてを忘れて快楽に身を任せてしまいたい･･･空がそう思った矢先に、また、七海が動かしていた手を止めた｡ 「あ･･･っ」 早く達きたくて、空が無意識に腰を動かす｡そんな仕草を見つめながら、真一朗が言った｡ 「ほら。空もう認めちまえよ。クスリ、おまえが自分で飲んだんだろ？」 「――っ」 「自分一人じゃどうしようもなくて、それでオレたちに助けを求めてきたんだろ？」 本当は、あのとき真一朗が強引に飲ませたことを、七海も真一朗もよく知っているはずだった｡いくら強い快感に流されそうになっても、空自身もそれは覚えている｡ だからここでそんなことを言う二人を本当に卑怯でずるいと思う｡姑息な手段で人を追いつめるなんて。 けれど、ここで意地を張っていたところで、二人が空の望むものを与えてくれないのはもはや明白だった｡いくら嫌がっていても、もう体はここでやめられたらおさまりがつかなくなっているのだから。 自分が絶対に正しいのに。 「ほら、空･･･」 「あ･･･オレ･･･オレが、自分で･･･飲･･･」 敗北宣言として、空が口を開いた｡ 「ああ、そうだったよな。それで、オレたちのとこになんて言ってきたんだっけ？」 「ら、楽にして･･･オレの体を、早く･･･」 「それじゃあ今おまえが言うべきことが、もうわかるよな？」 真一朗が意地の悪い笑みを浮かべている。空は、これを自分から引き出したかったのだと悟った｡ 強引に真一朗たちがこうしたわけではなくて、自分も、自らの気持ちでもって参加したのだという体裁を整えるために｡ 「･･･おね、がい･･･」 空が普段とは違うかすかな声をその唇から紡いだ｡ 「お願いだから･･･っ、もう、早く･･･っ」 「よく言えました。えらいぞ、空」 真一朗がそう言って、上からかぶさってきた｡空の唇に自分の唇を重ね、舌を押し進める｡本来抵抗の証しとして噛むこともできるのだが、自ら真一朗の手に乗ってねだってしまったあとは、空にそんな気持ちはわかなくなっていた｡真一朗もそれを見越してキスしてきたのだろう｡ そう、認めてしまったのだ｡自分が正しいことはよく知っているのに、その上ではっきりとした快感がほしかったから。 真一朗が空の舌を煽るようにを口腔を犯し、空もなかば無意識のままそれに従った｡真一朗の手が空の胸を中心に肌を滑っていく。 七海も、空の下半身への愛撫を再開していた｡ 「んっあっ･･･ああっ･･･」 「認めちまうとすっげえ楽だろ空。なんにも気にしないで気持ちいいことだけ考えればいいんだからな。あとのことはあとのこととして、思いきり愉しもうぜ？ ちゃんとよくしてやるからさ」 勿論、こっちもよくしてもらうけど――そう言って、真一朗が床に縫いとめていた空の手を解放した｡そして今までキスしていた空の口の中に自分の指を入れて動かす。 「あっ･･･んっ･･･」 「なな、そろそろおまえ自身きついんじゃねえの？ 順番こだわらねえからヤるのはいいけどよ、一人だけで愉しむなよな」 真一朗の手の動きとその言葉で、七海は真一朗が何を言いたいのか察する｡一度溜息をついてから、「羽柴くん、それこそ噛み切っていいんですからね」と呟いた｡ 「七海サン･･･」 「え･･･」 空の体がぐいっと動かされた。自分の体がひっくり返されてうつぶせにされたと気づいたときには真一朗の指が空のあごにかかっていた｡顔を上げさせられたまま、同様に口の中の指を動かされる。 「空ク〜ン。教えてやるからよ、ここ上手に使ってみ？ 適当に舌使えばいいんだからさ」 「あ･･･？」 「かわいい空クンのおかげで、もうオレ自身もたまらなくなっちゃってるわけよ｡それでその空のかわいい口でしてもらいたいなあ、なんて。お兄ちゃんのお茶目な願い、叶えてくれるだろ？」 「それって、まさか･･･っ」 真一朗がなにを言っているかを悟り、流されていた空の意識がはたっと現実に返った｡ 「あとで、オレもおまえに同じことしてやるからよ｡よろしくな、空」 |