ベルリバティを卒業したあとも学園に遊びに行ったことは何度かあったが、わざわざそこに勤めている教師に連絡を取ったことはなかった。遊びに行ったときに偶然会えばいくらか話をする。元担任とはいえ、榊宗司朗ともその程度の繋がりだった。卒業生何人かで集まるときに彼に連絡が回っていたときもあったが、ガキ同士の集まりに用はないと、榊が一貫して不参加を決め込んでいたせいもある。
　だから勇気はこんな突然に榊に連絡を取ることに対して、いささかの心の準備を必要とした。それでもどう考えても彼と連絡を取るのが一番確実だと思え、勇気は自分の気持ちを奮い立たせて榊に連絡を取った。
　きっと最初は相手にされないだろうが、必死で頼み込めば少しの時間なら会ってくれるかもしれない――そういう覚悟で榊に連絡を取った勇気は、だから榊が勇気とわずかな言葉のやり取りで簡単に会うことに応じてくれたのが不思議でならなかった。
「……榊先生、本当にいいんですか？　先生、すごく忙しいんじゃ……」
「勿論忙しいに決まっているだろう。だが、いい。笠原の兄の写真を見たいんだろう」
「えっと、写真をメールで送ってくれてもいいんですよ。先生が忙しいんなら……」
「メールで済むんなら初めからそう言え」
「えっ、いえ、そりゃあ会ってもらえるならその方が……」
　電話の向こうにいる榊に対して言葉を発しながら、勇気は脳裏に智友のことを思い浮かべる。以前、理事長をおりる際のいきさつを話してくれた智友のことを。
「……写真を見せてもらうのが一番の目的ですけど、もし先生に時間があるなら、先生と少し話がしたいです……」
　何が聞きたいというわけではなかった。はっきりした質問は浮かばない。それに智友のいないところで智友の話を聞き出すことにもいくらかの抵抗を感じる。自分がどうしたいのかつかめていなかったが、それでも今話をしているのは、自分の知らない智友の数年間を知っている人なのだ。智友の兄のことだって、知っているかもしれない人。
「それは朝比奈が、急に笠原の兄の写真を見たいと言った理由に関係する話か？」
「……そうとも言えますし、そうじゃないとも……」
「――まあいい。時間と場所はこちらで決めさせてもらうからな。こっちも多忙でな、わずかな時間だけだからな」
「はい、ありがとうございます」
　榊から約束の時間と場所が知らされる。忙しいという割には榊はすぐに時間を作ってくれ、約束したのは金曜日の夜――おそらく次に智友と会うであろう日の前日――だった。



「朝比奈」
　用事のついでもあると、勇気が勤めている職場の最寄駅まで来た榊が、車を停めて待ち合わせ場所にいた勇気に声をかけた。
「先生！　お久しぶりです。今日はありがとうございます！」
　勇気がすぐに振り向いて明るく挨拶をする。
「こんな路上で悪いな。急用が入ってほんとに時間が取れなくなってな」
「いいんですよ、俺が無理やり頼み込んだんですから」
「そんなわけでもないがな」
「え？」
　待ち合わせたのは都心の駅前広場の一角だった。きらびやかな明かりに囲まれた歩道に立つ勇気が、まじまじと榊を見返す。
「どういう……？」
「少し前に鷺森からメールが来た。最近会っていないらしいな？」
「え……」
「おまえたちは割と頻繁に会っているそうじゃないか。城河とかあのあたりとよく遊んでいるんだろう」
「遊んでいるっていうか、たまに連絡は取ってますけど……」
「だが最近誘っても断られると鷺森のメールにはあったぞ」
「ちょ、ちょっと最近忙しかったから……。それより先生、空也さんとメールのやりとりなんかしてるんですね。もしかして他の人ともしてるんですか？　だったら今度俺にもプライベートのアドレスを教えてくださいよ」
　勇気はことさら明るい声を出して話を変えようとした。確かに最近はベルリバティの人間からの誘いも断り、連絡もあまりとらないようにしていた。自分の周りにいるのは鋭い観察眼の持ち主や勘の良い人たちばかりで、会えば自分の変化に気づかれてしまいそうな気がしたからだ。今まで当たり前のように連絡を取っていた自分が仕事を理由にあまりメールを返さなくなったことだけで、周囲には訝られていることを改めて知る。
「鷺森のはあれが一方的に送ってくるだけだ。だが、おかげでおまえたちの情報には事欠かないな。……卒業生の集まりに笠原が顔を出したことはないと聞いていたが、朝比奈は笠原と会っているのか？」
「ト、トモとはこのまえ、偶然街で再会したんですよ。ほんとお互いにびっくりするくらい偶然に！　それでちょっと話をして、そしたらその話の中でトモが言ったことがすごく気になってきて……だからトモのお兄さんの写真をもう一回見たくなったんです。忙しい榊先生には時間を作ってもらって、本当に申し訳ないんですけど」
　なぜ突然智友の兄の写真を見たいのか――きっと聞かれるであろうことを予想して、あらかじめ用意していた答えを勇気はつらつらと口にする。
「本当はトモに見せてもらうのが一番なんですけど、でもちょっとトモには言いにくいことなんで。トモとお兄さんがどのくらい似ているのかってことを、トモに内緒で確認したかったんですよね。トモが、髪型を変えれば双子みたいにそっくりなんだって言うから、本当にそうなのかなって」
「笠原は……ベルリバティの人間とは学生時代だけの付き合いだから、もう誰とも会うつもりがないと言っていたな」
「――」
「朝比奈はいいのかと聞いてみたが、誰ともだと繰り返したな。笠原とは、俺が理事長になってからはしばらく会っていないが……」
「……そうですよね。榊先生は、少し前のトモを知っているんですもんね。こんなめちゃくちゃな嘘話作ったって、すぐにばれますよね……」
　自分の知らないところで簡単に智友に切り捨てられている――そのことを改めて痛感するのとともに、榊に久々に会ったことで懸命に取り繕っていたメッキがぽろぽろと剥がれ落ちていくのを勇気は感じていた。今の智友と自分の関係を知らない榊に本当のことは話せない。けれどもう、普通の友達の話として語れやしないのだ。
「……朝比奈、お前、顔つきが変わったな」
「はは……社会人になって老けましたか？」
「昔はそんな表情はしなかっただろ」
「そんな表情ってどんな表情ですか？　自分じゃわからないですよ、先生」
　自嘲的な気持ちが増してきて、口元に笑みを浮かべて榊を見返す。榊が、勇気の顔を見て目を細めた。
「――俺としたかった話はなんだ？　笠原のことなんだろう」
「……トモは、今はベルリバティの理事長をやめてるけど、しばらくしたらまた戻るんだって言ってました。榊先生と内々でそういう約束をしてるって……。それは本当ですか？」
「ああ。俺としては理事長なんて面倒な仕事に就くよりも、教師だけでいた方がよっぽど気楽で楽しいんだがな。だからずっと笠原に任せるっていう手もあったんだが――だがそんな理由で笠原の将来の可能性をつぶすのは違うだろう」
「……」
「今の笠原を知っているようだから言うが、笠原はベルリバティの理事長を続けることを望んでいるが、あれは本気で学園経営の仕事に興味があるわけじゃない。もし笠原が意欲的に理事長をしたいと言うなら、俺だって万々歳で譲っている。しかしそうじゃないから、とりあえず他の世界を見てこいと追い出したんだ」
「相変わらず優しいですね、榊先生は。トモは先生に感謝していると思いますよ」
「どうだかな。追い出したことを恨んでるかもしれん。……笠原はまたベルリバティに戻ってくるつもりなんだな」
「はっきりとは聞いてませんけど、多分このままいけばそうなるだろうとは言ってました」
「そうか。まあまだ時間はあるが、あいつが他の道を見つけるのもいいと俺は思うがな。やりたいことでも行きたいところでも見つけられれば、少しはあの無気力さがなくなるだろうな」
「無気力……確かにそうですね」
　今の智友をあてこすった榊の言いように、勇気が吹き出す。実際には無気力なんていう単語一つで今の智友を語れないのは、榊も承知の上なのだろう。
「でもトモ、相変わらず面倒くさがり屋だからなあ、自分のことでも新しいことをはじめるの面倒がりそうですよね」
「……誰か人でもいいんだがな。笠原が本気でそばにいたいと願う人間がいれば、あいつも変わるだろ」
　榊の呟きに、それまで笑っていた勇気がたちまち笑みを引っ込めた。うつむいて地面に視線を落とす。
「……それなら、時間の問題かもしれませんよ榊先生」
「そうなのか？」
「トモ、今好きな人がいるって言ってましたから。トモにとってすごく特別で、ずっと想い続けている人がいるって……。だから、大丈夫ですよ」
「――それを笠原が、朝比奈に言ったのか？」
「ええ。……トモが本当にその人のことが好きなんだってことが、俺にもよく伝わってきましたから」
「……それでその顔か」
「え？」
「なんでもない。……ったく、おまえらはほんと、いつまでたってもガキだな」
「なっ、ガキってなんですか。俺もう、社会人なんですよ！　そりゃあ、三十路の先生からすればまだまだ若いのかもしれないけど」
「言ってろ。青臭くてなによりだって言ってるんだよ、俺は」
「それ、全然褒めてないです……」
「ま、なるようになれ。俺は知らん。それよりメインの要件は笠原の兄の写真だったな」
　榊はそう言うと、着ていたスーツの内ポケットから一枚の写真を取り出した。
「ほら、これだ。ちょうど笠原も写っている写真があったから持ってきてやったぞ」
「ありがとうございます！　あ、そういえばトモのお兄さんの名前ってなんて言うんですか？　俺、今まで一度も聞いたことがないんですよね」
「そうなのか？」
　榊が取り出した写真を受け取ろうと、勇気が手を伸ばす。
　その写真には、智友と、眼鏡をかけた青年が並んで写っていた。――視界に入れたときの違和感。頭の中が刺激されるような。
　勇気は写真を受け取って、それを間近で見つめた。昔見たことがある写真とは少し違う写真。けれど、やはりどこか引っ掛かりを覚える写真だった。
　そして、榊の声が勇気の耳に届いた。
「笠原の隣に写っているのが笠原の兄で三代目理事長の、鈴菱尚央だ」
「――」
　耳から入ってきた音が、見つめている写真と繋がり、勇気の記憶を刺激した。
「……え……？　な、お……？」
「鈴菱の遠縁ということで養子に入ったから笠原と姓は違うが、正真正銘それが笠原の兄だ」
「――な、お……ナオに、い……？」
　写真に写る人物の、昔の姿が勇気の脳裏に思い浮かんできた。そして隣に写る智友の、子供時代の姿も。
　勇気は呆然と呟く。
「――ナオ、兄……ト、モ……」
　勇気の手から写真が離れ、ひらりと落ちていった。勇気はそれに気づかず、微動だにしないまま目の前の空間を見つめ続けていた。
「……っ！！」
　記憶がはっきりと呼び覚まされる。昔住んでいた近くの公園で、出会った兄弟。兄の尚央はいつも木陰にいて、本を読んだり、勇気たちにいろんな話をしてくれた。そのそばには自分と同い年の日焼けした少年がいて、追いかけっこやサッカーなど体を使って遊んだり、ときには三人で簡単なゲームをして遊んだ。そして気がついたときには、少年がいつも口にしていた――飴。
「……朝比奈？」
「あっ、す、すみませんっ。写真落としちゃいましたね」
　榊に呼びかけられて写真を落としたことに気づき、勇気は慌てて拾った。
「すみません、せっかく見せてもらったのに…」
「それはいいが……どうかしたのか」
「……先生、俺は、本当にどうしようもないやつですよね。俺はベルリバティで過ごした三年間、いったいなにをやってたんだろうって、最近よく考えるんです。そのときは何事にも一生懸命に取り組んで充実した毎日を過ごしていたと思っていたけど、実際には中身がなくて浮ついた毎日しか過ごしていなかったんでしょうね。だから俺は三年間ずっと隣りにいたのに、トモのことに何も気づかず、一人でバカみたいに親友気取りで過ごしていたんだ……。俺は本当に鈍くて気づくのが遅くて、後になってからようやく理解することばかりで。……エースだなんだって言われてたって、本当の俺はちっぽけな人間で、周りの人の力がなくちゃ何もできなくて、こんな俺じゃ、トモに見限られたって当然ですよね……」
　話しているうちに目元が熱くなってきて、涙が浮かんでしまう。こんなところで、元担任の榊の前で泣くつもりなんかないのに、泣いちゃだめだと思うほど涙があふれてきた。
　頭に浮かぶのはたった一人の人物で、過去のことを全然思い出しもしない自分を、智友はどんなに呆れて見ていただろうかと思う。なにも気づかないまま友達だなんて、平気な顔で言えていた過去の自分を殴ってやりたいと勇気は思った。
　写真の中の智友は兄の横に並んではにかむように笑って写っている。でも今の智友は、あんなに冷めた目をしていて。
　自分の力で智友を変えられたはずだとは思わないけれど、でももっと早く過去のことを思い出し、智友の本心に気づけていたら、違う関わり方があったんじゃないかと思う。今となっては遅いことだが。
「……そんなに卑下するものでもないと思うがな。周りの協力を仰げるのもお前の力があってこそだし、今もあいつらと繋がりを維持していることこそが、お前の三年間の証明の一つだろう。中身がなくて浮ついた毎日なんて言ったら、あいつらにこっぴどく叱られるぞ？　笠原のことも含めてな」
「……だってトモは、卒業したら俺のことを切ろうとしていたじゃないですか。榊先生もさっき言ってたでしょう。卒業したら誰とも会わないだなんて、俺はトモに特別に思ってもらえるような関係を築けなかったっていうことですよね。ただすれ違うだけの他人となにも変わらない程度の……」
「すれ違うだけの他人を切るのに、あんな思いつめた顔はしないだろうよ。言葉はどうあれ、俺からすれば笠原は必死に朝比奈のことを切ろうとしていたように見えたがな」
「……嘘ついて慰めてくれなくてもいいです……」
「お前、捻じ曲がったところが笠原に似てきたじゃないか」
「痛っ！　い、痛いです、先生っ」
　頬をいきなりつねられて勇気が声を上げる。
　その頬をつねる手が離れたあとで。
「笠原は朝比奈と連絡を取ってないし、会うつもりもないと前に言っていたが……その笠原と、今は会っているんだろう？　笠原が連絡してきたのか？」
　榊が勇気に聞いてきた。
「……さっき先生に言った架空の話の、最初の部分だけは本当ですよ。しばらく前に、偶然街中でトモに会ったんです。トモは……迷惑だったみたいですけど」
　涙で濡れた目元を拭いながら勇気が話す。
「でも朝比奈の方は笠原に会いたかったんだろ。少なくとも関係を断ち切りたくはなかったんだろ」
「そりゃあ勿論。……トモが理事長を辞めて、連絡先まで変わって、俺にはトモと連絡を取る手段がなくて。だからあのとき偶然会えて、俺はとても嬉しかった。……その直後に、トモに思ってもみなかったことをたくさん言われましたけどね」
　智友と再会したときのことを思い出す。あのときは友達としての思いだったが、智友に再会して話せたのは本当に嬉しかった。そのあと智友が故意に自分と連絡を断とうとしていたことを知らされたが、それでもあの再会がなければよかったとは思わない。智友との関係が変わり、智友を好きになって一人涙した夜があっても、智友の本心をまったく知らないまま、普通の友達でいたかったとはけして思わなかった。
「笠原は避けていただろうに、街中で会うなんて……ふ、朝比奈の強運は健在というわけか」
　かすかな笑みを浮かべて榊が呟く。
「……え？」
「その再会があったから、今も笠原と会っているんだろう？　お前の力だな」
「――俺の運…だなんて……もう尽きたと思ってましたよ。トモに関することは本当に……なにもかも、うまくいかなくて…」
　昔は自分の運を信じていられた。自分は強運の持ち主だと自信を持ってはっきり言えた。
　今も人より運がいい方だとは思うけれど、でも智友に関することには自分の運は働いていないと思っていた。それほどに自信が持てなくて。
「終っていたはずのものが繋がっているというだけで、お前には充分なんじゃないのか」
「先、生……？」
「可能性があるなら絶対に諦めないと、昔はよく口にしていたがな」
「――」
「詳しい話は知らんし聞きたくもないが、朝比奈の強運が笠原にも働いて今の状況を作り出しているんだろ」
「……あの再会は、俺にとっては確かに幸運なことでしたけど、トモにとっては不運なことで……」
「まあ、笠原ならお前にはそう言うだろうな」
「でもゼロじゃないなら、可能性はあるってことですよね」
　本当に可能性があるのかはわからない。取りつく島のない智友の背中を思い出せば、今はただ会えている――ゼロではない――というだけで、その先に自分の願う未来があるとは容易には考えられない。それでも何事も、諦めていたら事態はけして好転しない。
　勇気は持っていたままの写真を改めて見下ろした。写真の中では尚央が笑顔を浮かべている。昔出会った優しい人、そして智友の大切な家族。
　いまだ楽観的にはなれないけど、それでも自分は今、智友との大切な思い出を一つ取り戻したのだ。智友が怒っていた原因が自分が過去を忘れていたことなのか、他にも何かあるのかはわからないけれど、でもこれで智友に向き合って話をすることができる。――まずはそこから。
「先生、ありがとうございました！　先生と久しぶりに会えてよかったです。ちょっと気持ちが軽くなりました。写真もお返しします」
「その写真はお前にやるよ。お前の鼻水や涙がついた写真を返されてもな」
「鼻水なんかつけてません！　……涙は、ついちゃったかもしれないですけど」
「それより俺の貴重な時間を使わせてちょっととはなんだ」
「痛っ！　いっぱい、いっぱい気持ちが軽くなりました！　だから先生、手、離して…っ！」
「まったく。社会人だというなら、社会人らしく周りを心配させるな」
　榊の言葉に、勇気は改めて榊に向き直った。
「先生…先生も、俺のこと心配してくれたんですね。ありがとうございます。先生は本当に優しい人ですよね」
「違う、俺じゃない。鷺森たちがうるさいだけだ。そのうちあれはお前のところに押しかけるぞ」
「ううん、俺のことだけじゃないですよね。トモのことも心配してるんですね。先生は、やっぱり卒業しても俺たちの先生ですね！」
「お前、人の話を聞け」
　榊はそう言うが、その真意ははずれていないだろうと勇気は確信していた。ベルリバティを卒業してもう何年も経つのに、自分たちを心配してこうして時間を作ってくれた榊。榊自身が言ったように、それもまた自分たちが過ごしてきた三年間で築いた繋がりの一つだとしたら、本当に中身がなかったなんて言ったら誰に対しても失礼だと今は思えた。
　いまだ想いを告げる勇気は持てない。智友に繋がりを完全に断ち切られるのが怖い。
　でも今はまた新たな気持ちで智友に向き合ってみようと思えた。
　――智友と再会したことが自分の運の強さの表れなら、その与えられた幸運を前向きに、もっと生かしてみようと勇気は思った。

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