ベッドに倒れ込んだあとで、智友はまた勇気にキスをした。それが合図であるかのように、勇気の体に触れていく。
　勇気はまだ夢を見ているようだと言ったが、今の状態を夢のように感じているのは自分の方だと智友は思う。迂闊に力を込めれば今触れているものがたちまち儚く消えてしまいそうで、ともすれば手が震えそうになる。智友は勇気にできるだけ優しく触れていった。勇気の肌の感触を楽しむように撫で、服の中に手を忍ばせる。
「……トモ…っ」
「なに？」
「なんでそんな…」
「なんだよ」
「時間かけすぎだろ!?　そんなじわじわ触れるやり方……うちに来て即行でやろうとした人間とは思えない…」
「あのときはあのとき、今は今だろ。今は勇気の体のいろんなところに触れたいんだよ」
「トモはほんとに勝手だ…！」
「勇気の熱烈な告白のあとだと、なにを言われてもそこも好きだと言われているようにしか聞こえないな」
「それはトモの耳がおかしい――あ、そうだ、服！　俺、今日はまだ服脱いでない」
「いい。俺が脱がすから」
　そう言った智友が勇気の体を手や唇で辿りながら勇気の服を少しずつめくっていく。
「勇気の服をゆっくり脱がすのも楽しいんだよ。とっておきのプレゼントの包装を少しずつといていくみたいで」
「なんだよそのたとえ…」
　服を一枚脱がすだけで時間をかけられると、勇気としては余計恥ずかしくなる。そのくせ智友が触れる指先は甘く、いつもより自分の肌が敏感になっているのを感じた。
「…っ、トモ……」
　勇気は快感を逃すように首を振ったあと、智友の背中に回していた腕を解き、智友の服に手をかけた。
「勇気？」
「じゃあトモの服は俺が脱がす」
「別にいいって」
「誰かさんにマグロじゃだめだって教え込まれたからな」
「それはセフレの場合だろ。今は恋人だからいいんだよ」
「こ……っ!?」
　智友の服を脱がそうとしていた勇気の手が思わず止まる。
　そんな勇気に、智友が口元に笑みを浮かべながら聞いてきた。
「俺の認識なにか間違ってるか？」
「ま…間違って、ない、けど」
　確かに言われてみればその通りなのかもしれないが、勇気は無性に恥ずかしくなって、智友から視線をはずした。
「じゃあいいだろ。でもまあ、勇気が我慢できないなら脱がせてもいいよ。勇気が早く俺とちゃんと触れ合いたくて我慢できないっていうなら」
「……」
　数秒ののち、勇気の手が再び智友の服を脱がそうと動き出した。そのたどたどしくも素直な手に、智友が今度は声を出して笑った。
「笑うなよっ。いいだろ、別に」
「誰もだめとは言ってない。ただ……正直だなと思っただけ」
「正直は美徳だろ。トモ笑い過ぎ！　今までそんなに笑ってなかったくせにっ！」
「勇気だっていい顔たくさんしてるだろ。さっきは泣いてたくせに」
「あれは……トモがあんなこと言うからだろ」
「涙、消えちゃったな。あれ、すごくそそられた。……また泣かしたくなるよ」
　智友がそう言って、勇気の目元にキスを落とした。
「トモっ。また泣かせたいって…」
「嘘。いつだって俺にとっては勇気の笑顔が一番だよ」
「――」
　そう言った智友の表情にたまらなくなって、勇気は再び無言で智友の服を脱がしはじめた。智友が言ったように、本当に早く智友と直接触れ合いたかった。
　智友の服を脱がして上半身を裸にすると、勇気は次に中途半端だった自分の服を指して智友に訴えた。
「トモ、早く俺の服、脱がせて」
「そう言われると俺は天邪鬼だから焦らしたくなるな」
　服をめくり上げたもののそれ以上脱がすことはなく、智友は勇気の胸に口づけた。勇気の胸の尖りを唇でついばみ、もう一方に指で触れる。
「……っ」
　敏感なところをいきなり触れられて勇気の息が乱れはじめる。智友の天邪鬼さを恨めしく思いつつも、服をめくられたところは智友の肌に直接触れ、智友の体温を感じてそれだけで嬉しくなる。もうとっくに慣れた行為のはずなのに。
「ん…勇気…」
「…っ、やっ…あっ……」
「勇気の声、本当にたまらない。もっと聞かせて。勇気の弱いところ、たくさんかわいがってやるから」
「…んっ！　……あっ……トモ、もっ…」
「俺は、勇気が感じてくれれば、それだけで充分気持ちいいよ」
「でも…あっ…んんっ…！」
　勇気の反応を見ながら、勇気が感じやすいやり方で責めていく。乳首だけを執拗に愛撫すると、やがてたまらなくなったのか、勇気の腰がもぞもぞと動き出した。
「…トモ、しつこい…」
「なんで。優しくしてるだけだろ。…ん…」
「…っ…もう…そこ、いいからっ……」
「勇気の反応がかわいくて止まらないんだよ。こんなにかわいい反応する勇気がいけない…」
「そんなの…っ。あ、もうっ、他のところも…っ」
「他のところって、ここ？」
「……っ！」
　智友が指一本で、勇気のふくらみを押す。
「もういやらしく先っぽも濡れちゃって、早く触ってほしくてたまらないんだ？」
「……！　そんなの俺だけじゃ、ないだろっ」
　智友の言い方にムッとして、勇気は手を伸ばして智友のズボンに触れた。やり返すつもりでズボンの上からやわやわと揉んでみる。
「……ほら、トモだって人のこと言えないだろ。充分きつそうなくせに…」
「…は……そりゃ、好きな子抱いてたらそうなるの当然だろ」
「〜〜もう、さっきからトモ、恥ずかしい言葉安売りしすぎ……」
　智友の言葉と表情に煽られて、勇気は自分の身体がますます昂ってくるのを感じた。単に反撃するためだけの手が、別の目的をもって智友のズボンに触れ、前を緩める。
「勇気…？」
「やっぱり俺もトモにしたい……トモに気持ちよくなってほしい」
　思えば今までも智友の熱に触れたことはあるし、口で咥えたことだってある。でもそれはいつも智友に言われてしていた行為ばかりだった。行っているうちに夢中になったことはあっても、自分からしたいと思ったことは一度もない。
　けれど今は、智友に促されなくても、自分から智友を気持ちよくさせたいと思う。
「あー…嬉しいけど、今はいいや」
　智友のズボンを寛げて手を下着の中に入れようとすると、智友からストップがかかった。
「俺だってトモにしたい」
「だから……」
「そりゃあ俺、トモみたいに上手くないけど、でも」
「勇気はそれでいい…じゃなくて。今勇気に触られたらやばくなるからだめ」
「やばくって…？　あ…トモ、イきたいのなら無理せずイっていいよ。俺気にしないし…」
「ゆ、うき〜〜…っ」
　智友に低い声で名前を呼ばれて、勇気は慌てて付け足した。
「じゃなかったら、もう挿れていい。俺だってトモに触られてイくより、挿れられてイきたいから。……初めてトモとちゃんと抱き合っているんだから、俺だって一人で先にイかされたくない。トモと……繋がって、トモを俺の中に感じて一緒にイきたい」
「――」
「だからトモ…早く、きて……？」
「――っ、勇気それ最悪……！」
　勇気の両手首を強い力でつかみ、智友はその手をベッドに縫いつけた。
「人がっ、せっかくっ、勇気に優しくしたいとか、ちゃんといっぱい感じさせたいって思ってるのに、そんなふうに煽られたら」
　そう言ったあとで自分の体を起こし、勇気のズボンを慌ただしく寛げて下着ごと一気に脱がした。
「うわっ！」
「どうなっても知らないからなっ」
　勇気の足を割り開いてから、自分の昂りを下着から引き出し、勇気の秘所にあてる。そのまま挿れるそぶりをしても、勇気から制止の声は上がらず。
「トモに抱かれるのは嬉しいからかまわないよ」
「……っ」
　むしろ笑顔で受け止められた。
「…だからそれは、勇気がセックスにハマっているだけじゃないのか!?」
　智友は少し身体を離すと、自分自身の代わりに勇気の中に指を挿入した。脅したつもりが難なく受け入れられ、腹立たしい気持ちのまま指で中の具合を確かめる。準備してあると言った勇気の言葉に嘘はなく、確かにそこはすぐに柔らかくほどけて智友の指を迎え入れた。
「違…、そ…じゃな…んんっ……！」
　荒々しく指を動かすと、勇気の体が震える。本気でもう挿れたい気分になりながらも、智友は指を増やした。すぐにまた勇気の中が反応し、智友の指を誘い込む。
「あっ…あ、俺は…っ…」
　勇気が両腕を伸ばして智友の肩に触れる。そして自分の中を蕩かす指に感じながらも、智友に笑いかけた。
「…んっ……大好きなトモとの、セックスにハマってるだけ…だよ……」
「――恥ずかしい言葉安売りしてるのはどっちだよ…！」
　智友はすぐに指を引き抜くと、今度こそ本当に昂った自身を勇気の秘所にあて、そのまま押し入った。
「――あ、ああっ…トモ…っ！」
「――っ」
　勇気を傷つけないようにと思いながらも勢いは殺せず、智友は一気に腰を進めた。勇気と智友によってほぐされた中は勇気を傷つけることなく、智友を受け止める。だがその分ダイレクトに強い快感に襲われ、挿入のあと、しばらく二人は身動きできなかった。
「……なんか今、挿れられただけでイきそうになった…」
　智友を見上げて、勇気が照れたように笑う。勇気と同様だった智友は、無言でその言葉を流す。こらえていなければ、本当に挿れただけで達してしまうところだった。勇気の中があまりにも気持ち良すぎて。
「やっぱり今まで抱かれた中で、今が一番嬉しい。トモは？」
「……勇気に騎乗位してもらったときかな。楽だったし」
「トモ！　……あのときは欲求不満になるって言ってたくせに」
「じゃあ勇気に初めて口でしてもらったときかな。勇気の口をよごしてるっていう征服感があったし」
「……」
「嘘だって」
　勇気に軽く睨まれて、智友がゆるく腰を揺らす。
「…ん…っ。トモ…っ」
　智友は、自分の身体に触れていた勇気の手をはずさせ、先ほどのようにベッドに縫いつけた。そのあとで勇気のそれぞれの手に自分の指を絡めて、勇気の手を握る。
　それから、初めてされた行為に驚いている勇気に軽く口づけた。
「俺も、今まで勇気を抱いた中で今が一番幸せだよ」
　自分の言葉と智友が口にした言葉の違いに気づいた勇気がさらに驚く。
「…トモ……ずるいそんな言い方…。そんなの俺だって…」
「勇気。幸せすぎて今はもう限界だから、まずは一回、一緒にイこうな」
「うんっ…俺ももう限界……トモ……っ」
　智友の腰の動きに合わせて、勇気も自分から身体を揺らしはじめた。
　自分の中の快感を追いながらも、ときおり目を見交わしあって。そして繋いだ手をしっかり握りしめて。
「…勇気…、勇気…っ」
「あっ、トモ…俺、もうイく……」
「ん、俺も…っ」
「…トモ、大好き…っ！」
「勇気……っ！」
　――そして初めて、二人で想いが通じたことでの幸せと快感を分かちあった。

→