――戸惑っていた。智友に急にセフレなんていう言葉を出されて、どうすればいいかさんざん悩んだ。
　自分で決めて智友に電話したときも、やめようとは思わなかったものの、未知のことに対する戸惑いがあった。
　けれど智友に人身御供みたいな気持ちかと問われて、反射的に違うと強く思った。
　人身御供とか、犠牲とか、そういうつもりなんかじゃない。自分でたくさん考えて自分が智友のことが知りたくて決めたことなのだ。驚きはしても、智友に無理を強いられているつもりはなかった。智友は何度も何度も、引き返す機会はくれていたのだから。
　そして勇気は、自分がこのまま戸惑ってばかりいたら、智友にそういう誤解を与えてしまうのだと気づいた。だから智友に、自分の意思をはっきりと伝えたのだった。抱かれたい、と。
　――とはいえ。
　実際にそのときが迫っているとなると、やはりどうすればいいのか迷う。智友に返事をする前に男同士のそういうものについていろいろ調べてみたが、得た知識だけで自信を持てるほどには至らなかった。
　後悔しないという覚悟だけは、ずっと持ち続けているけれど。
「勇気？」
「な、なに？」
　智友に名前を呼ばれて振り返る。智友が自分を見ているのに気付き、慌てて視線をはずした。
「あっ、ごめんな。トモを部屋に入れたままぼーっとしちゃってて。適当にそこら辺に座っててくれよ。今飲み物でも持って……」
「勇気。別にそんなのはいらない。ベッドはこっちか？」
「あ、ああ…」
　勇気が答えると、智友はさっさとリビングから寝室に続くドアを開けた。勇気は数瞬ためらったものの、智友のあとに続いて寝室に向かった。
　ここは、勇気が一人で借りているマンションの一室だった。智友に電話した日、三日後の夜という時間と、勇気の部屋という場所を指定された。ホテルではなく、智友の部屋ではなく、勇気の部屋。それは智友に、自分のテリトリーでそういうことができるのか問われているかのようだった。
　勇気が了承すると、智友は勇気の住所を聞き、直接部屋に向かうと言った。
　そして三日後、実際にその日がきたのだった。
　智友は寝室に入ると、すぐにベッドの布団をめくった。そしてドアのそばで足を止めていた勇気のところまで戻ってきた。その手が勇気の髪に伸ばされる。
「髪、濡れてる。ちゃんとシャワー済みなんだな」
「う、うん…」
「俺も来る前に入ってきた。じゃあ勇気、後ろは？」
「え？」
「後ろの準備。シャワー浴びたなら自分で、って、まあ、今日はいいか。勇気は初心者だし、それはおいおい教えるけど」
「――」
　勇気の髪から手を離して智友が背を向ける。勇気はその背中に、智友はこういうことに慣れているのか、という疑問が浮かんだが、口にすることはできなかった。
　勇気の目の前で、智友の手が自分の服にかかる。
「俺このあと用事があるから。勇気もさっさと服脱げよ」
「…っ、わ、かった…」
　勇気も智友に背を向けてから、自分のシャツのボタンに指をかけた。自分たちは恋人同士とは違うのだから、甘い言葉のやりとりも、じゃれあうようなスキンシップのあとで服を脱いでいく過程も不要なのだと勇気にもわかっていた。ただそれでももう少し、友達としての会話や自然な流れがあると思っていた。
　しかし本当に自分たちは、もうこんなふうに始める関係に変わったのだと痛感させられる。
「勇気、時間かけすぎ」
「トモ…っ」
「昔、一緒に風呂に入ったときはもっと素早く脱いでただろ？　俺が手伝ってやろうか」
　ズボンのボタンをはずした勇気の手の上から、智友の手が重ねられた。背中に智友の肌が直接触れ、耳に智友の息がかかる。
「い、いいよ。自分でできるから」
「でも勇気は、まずズボンを脱いでそれから順番に下着をって考えてるだろ。そんなまどろっこしいことしてないで、俺が一緒に脱がしてやるよ」
「いいってっ」
「シャワー浴びたあとまた服を着るところが勇気らしいよな。俺が部屋に行くって言ってるんだからシャツ一枚で待ってればいいのに」
　智友に抱かれるために下着すら身に着けず。勇気はそんな自分を一瞬だけ想像し、すぐに頭の中で否定した。いくらこれから行うことにかわりはないとしても、そんなふうに智友を待ちたくないと思った。そうしてしまったら、今とは違う自分になってしまいそうで。
　――今までと違う自分になるのには、もう変わりはないけれど。ただそれでも、勇気の中の矜持がシャツ一枚で待つような割り切った行動を押しとどめる。
　少なくとも、今はまだ。
　頑なに断ったからか、智友が勇気から離れていった。それでも背中から智友に早くしろと促されているのを感じ、勇気は手にかけていたズボンを下着ごと一気に脱いだ。それから、俯きそうになる顔を上げたまま、智友のいるベッドに向かう。
　智友はベッドに腰掛けていた。その前に立ち、智友の肩に手をかける。下から、勇気の反応を面白がるような智友のまなざしが勇気を射抜いた。
「勇気は童貞？　男とは経験あるのか？」
「……ないよ。どっちも」
「へえ。じゃあセックスは完全に初めてなんだな。なのに初めてが俺でいいんだ？　それもこんな形でさ」
　智友の両手が勇気の双丘にまわり、尻たぶを揉みだす。
「……っ」
　今までされたことのない触れ方をされ、勇気が一瞬息を飲んだ。
　それでもそのなんとも言いようのない感覚に耐えながら、智友に答えを返す。
「いいよ……トモだから。正直、俺は何も知らないから不安もある……けど、トモの話をＯＫしたときから後悔はしないと決めてる。…もう一度、今度こそ本当の意味でトモと向き合いたい」
「たとえそれがセックスでもって？　勇気は本当に短絡的だよな。それとも、実は興味があった？　だれかとしてみたかった？　こうやって他人にここを触られて、気持ちよくなってみたかった？」
「……っ…！」
　智友の手が前に回り、勇気のペニスに触れた。そのまま手で包み、勇気の反応を窺いながら、弄ぶように揉みしだく。初めて他人の手に性器を触れられ、勇気の身体に快感が走り抜けた。
「……ま、どうでもいいけど。じゃあ、ベッドに寝て」
　勇気から手を離した智友が、勇気をベッドに乗るように促した。勇気がベッドに乗り、智友があけたスペースに身体を横たえる。
「言っとくけど、初めてだっていうのは勇気の事情であって、俺には関係ないから。俺が求めているのは面倒のないセフレであって、勿論セフレがマグロじゃ意味がないってことは勇気だってわかるよな」
　小馬鹿にしたような目でそう言いながら自分に覆いかぶさってきた智友に、勇気は戸惑う気持ちを押し込めて強い視線を返した。
「じゃあどうすればいいかトモが教えて。俺がトモのセフレとして充分役目を果たせるよう、トモのいいように俺を変えて」
「――」
「トモが教えてくれたことはちゃんと覚えるから」
「は……教えてって、教えてくださいだろ勇気。自分の立場わかってない。……けど、いいよ勇気。お前が望んだとおり、お前を俺のいいように仕込んでやるよ。……自分の言葉にはちゃんと責任持てよ」



「まず、最初に約束。いまさら勇気に恥じらわれてもつまらないだけだから隠さないこと。それから声も殺さない。俺をちゃんと耳でも楽しませてくれよ？」
「…わ、かった」
「それからいやなことはいやだって言っていいけど、それも程度の問題で、俺が興ざめするぐらい拒否したらそれは本当にそこでおしまいってことだからな。自分で考えて言えよ」
　つまり勇気が強く拒否したら、智友との関係はそこで完全に終わるということなのだ。このつながりを持ちたがっているのは智友じゃない。あくまでも勇気だけの一方的なもので、だから智友の要求を拒否して関係を切るか、その要求を受け入れるかはすべて勇気にかかっているのだ。
　その言葉を聞いて、勇気は多少嫌がっても、最終的には自分はすべて智友の望みどおりにするのだろうと思った。
　ここで終わりにする選択肢は浮かばない。
「……嗜好はノーマルだから、そこは安心していい」
　黙り込んだ勇気をどう思ったものか、智友がぽつりと付け足した。そのあとで腕の力を抜き、勇気の身体に密着してきた。勇気の身体に智友の体重がかかる。首筋に顔を埋められて、智友の手が勇気の肌を辿りはじめた。
「……っ」
「マグロじゃ意味ないって言ったけど、最初は勇気の身体を知りたいからそのままでいいよ。ただ感じたときにはちゃんと声をあげて」
　智友の唇が勇気の首筋をなぞり、ときおり舌で舐めていく。それとともに智友の手が勇気の腰や胸を性的な動きで触れていった。智友の吐息が耳を掠め、太腿が勇気に擦りつけられた。
「…っ……あ、トモっ…」
　全身からじわじわと浸食してくる初めて知る感覚に、勇気はたまらずに熱い息を吐き出した。強い刺激を感じているわけではないが、今まで一人で簡単な処理しかしてこなかったこの身体が、今、本格的に抱かれようとしているのだ。どうにか知識だけは入れ込んだけれど、すべてが未知の感覚で。それも、今自分を抱こうとしているのは、学生時代をともに過ごしてきた相手で、その裸も見たことがあったし、多少のスキンシップなら日常的に行ってきた。そんな相手にこんなふうに触れられるなんて。
　初めて知る智友の唇の感触と密着する肌の熱さ。優しく追い詰めようとする指先と遮るものなく触れ合う互いの性器。
　覚悟はしてきたつもりでも、勇気は軽いパニックに陥りそうだった。
「…んっ…」
　智友の指が勇気の胸に触れて先端を指でひっかいた。そのあと両方を同時に強めに押し潰されて。
「あっ…！」
「…へえ、初めてなのに乳首で感じるんだ？　勇気、けっこう素質あるのかな」
　そう言った智友の唇が勇気の乳首の片方を軽く挟み込む。
「ふぁっ……あっ…トモ…っ」
　勇気はそれを止めたいのか押さえたいのかわからないまま自分の手を智友の頭に回した。
「うん、いいよ勇気。勇気もそういう声出せるんだな。…俺にもっと聞かせて」
　喋りながら智友が勇気の乳首に舌を絡めていく。もう一方も指で責められると、明らかな快感が勇気の身体を昂らせた。
「そのまま俺の頭や背中に腕を回して。時々撫でるだけでいい。感じたら髪引っ張っても爪立ててもいいよ」
「んんっ…」
　慣れないはずの乳首を執拗に責められ、勇気が目を閉じて快感を逃がすかのように首を振る。
　智友はそんな勇気の様子を上目づかいで見つめながら、さらに勇気を追い詰めるべく愛撫をおこなった。
　部屋の電気は落としていない。勇気も消されない明りに気づいていただろうが、電気を消してほしいとは口にしなかった。それは智友が消そうとしなかったことで、言っても拒否されるだけだと予測していたからかもしれない。
　だから今智友の目には、慣れない行為に感じはじめている勇気の表情や体が遮るものなく映っていた。いくらか紅潮した顔も、感じて固くなりはじめた胸の尖りも。
　高校時代何度も夢見た体が今目の前にあり、自分の好きにしていい。勇気も、自分に腕を回して受け入れてくれている。
　この関係はセフレであって、自由に快感だけを追いかけていい。初めにかわした言葉がある以上、快感を得るために無茶なことを要求しても、勇気は関係を続けたいのならば受け入れるしかない。
　けれど青くさい昔の意識が、勇気に大切に触れ、ゆっくりと感じさせたい気持ちにさせる。
　夢見ていたのは両想いで、一つ一つの過程を大事に、全身くまなく口づけるみたいに愛撫して自然な形で結ばれること。何度も甘いキスをかわして、睦言をささやいてじゃれあうみたいに。
　――でも、現実は違うのだ。
　この勇気は自分を好きなわけではなくて、状況によっては途中で音を上げるかもしれない。だったらどこまで許されているのか試してみたい気持ちに駆られる。
　智友はそれまで舐めていた勇気の胸の尖りに軽く歯を立てた。
「…あっ！」
　そのあとでまた同じところを舐めると、頭に置かれていた勇気の手が智友の髪を軽く引っ張った。
「やっ…トモっ。さっきからそこばかり……っ…」
　智友は少し顔を上げると、勇気の乳首を指ではじいた。
「ひぁっ！　あっ、トモ……っ！」
「勇気が自分を変えてって言ったんだろ。俺は、男なのにここだけで感じちゃう身体に勇気を変えてみたいよ。ほら、赤く充血してだんだんいやらしい形になってきた」
「あっ…！」
「それになんだかんだ言いながら、勇気だって反応してるだろ」
「……っ」
　智友の膝で反応しはじめていた勇気自身を明確な動きで刺激され、勇気が息を詰める。
「ほら、勇気。気持ちいい、だろ？」
「トモ……っ」
「それとも『イヤ』？」
「――あ……」
　勇気は智友の顔を見た。今の言葉にあった、智友のからかうような声の響き。ここでいやと言ったら……そんな怖れにも似た気持ちがせりあがる。
「……気持ち、いい、よ…」
「へえ？　手で触ってないのにな？　こうして足で擦られるだけで気持ちいいんだ？」
「ん……っ」
「本当に勇気は今まで機会がなかっただけで、実はこっちの素質があったんじゃないか？　普通は男にされても気持ちよくはないし、そもそも嫌悪感で勃たないだろ。それがこんなふうに感じちゃうなんてさ」
「だってそれはトモだから…。俺だって、誰にでも許せるわけじゃない」
「……は。どうだか」
　智友はそう言うと勇気の腕をほどいて体を起こした。それから勇気の足の膝を立たせて思いきり足を開く。
「…トモ…っ…」
　智友に強引に膝を割られて勇気の中で羞恥心が膨れ上がる。でも最初に隠すなと言われたことが、勇気の声から力を失わせた。
　自分の反応しはじめていた昂りを智友にまじまじと見つめられて、勇気は目を閉じてこの状況を視界から追い出すほかはなかった。それでも智友の灼けるような視線を肌に感じた。
「勇気。あとでしてもらうから、俺のすること見てちゃんと覚えろよ」
　智友の手が勇気自身に触れ、吐息がかかった。
　はっとして勇気が目を開ける。
「……あっ！」
　勇気が目を開けたとき、智友の唇が勇気自身の先端に触れたところだった。
「トモ……っ！」
　勇気の先端に口づけてそれから舌で舐めていく。それと同時に指が根元や裏側を刺激していく。
「ちょ、ま……あっ、あぁっ……！」
「ん…ちゃんと、見てなきゃ…覚えられない、だろ。勇気にはこの先、シックスナインだって……ん…してもらう予定、なんだからな……」
「……っ」
「ちゃんと手と…舌を使って…。俺のいいところは、あとで実地で、教えてやるからな」
　そう言ったあとで智友が口を開けて勇気の先端を咥えこむ。そのまま舌で刺激を受けて。
「あっ、トモ…っ。ひぁっ、あっ、あっ……」
　強い刺激に勇気の口からひっきりなしに声がこぼれる。本当は声を抑えたいのに、抑えてはいけない約束が、勇気をさらに辱め、煽り立てる。
「あっ…それ、もう……トモっ、あっ、あん…っ」
「……イきたい？」
　智友の舌が勇気の先端をほじるようにちろちろとつつく。
「あっ…！」
「ほら…勇気、俺は聞いてるんだよ」
「んっ……イき、たい。も、俺、我慢できな…っ。…イかしてトモ…っ」
　もっと刺激がほしくなって自分の腰さえ少しずつ揺れ始める。
　だがそこで、智友は勇気から唐突に手を離した。伏せていた顔を上げ、口元を手の甲で拭う。
「……え…？」
　急になんの刺激もなくなって、勇気は呆然と智友を見た。
「勇気。自分ばかりじゃ意味がないだろ。縛ったりはしないけど、その代わり勇気が自分で我慢して。今度は勇気が俺にする番だよ」



「ん……っ」
　勇気は智友と体勢を変えて智友の昂りを口に含んだ。
　初めは人の昂りを正視することなどできなかったが、智友に顔を撫でながら促されて覚悟を決めた。人の性器に触れ、それに口をつける行為なんて、いつもの自分ならとても考えられなかったことだ。だが熱くなった身体と、智友が作った濃密なこの空気が、勇気から困惑をなくさせる。他の同性の性器なら触れることさえ厭うのに、不思議とこの相手ならば構わないという気持ちがわいた。
　智友に教えられながらつたない動きで懸命にほおばる。勇気にやり方や自分のいいところを教える智友の声は今までになく優しく、ときおり勇気の髪や顔を智友の手が撫でていく。自分の行為によって智友の息が少しずつ上がっているのに気づき、それとともに中途半端にされたままの勇気の身体がさらに熱くなった。
「勇気、さっきから腰が揺れてる。自分でシーツにこすりつけるのはなしだからな」
「…は…ぁ、トモ……っ」
「我慢だって言っただろ。今にも自分で触りたそうな顔してるけど」
「だ、だ…って…俺……」
「だからだめだって。ようやくやり方を覚えて勇気が‘使える’ようになってきたところなんだからさ。ほら、勇気が自分で俺が挿れられるところまで高めなきゃな」
　智友が勇気の顔を自分の昂りに押し付ける。そうして続きを促しながら、もう片方の手は勇気の身体の下をくぐり、勇気の胸の尖りに触れた。
「……っ！」
「勇気、続きは？」
「――っ」
　智友に乳首をいじられながらも、勇気は再び智友の昂りを口に含む。自分と同じ男のものを口に含んで唇や舌を動かしながら、その相手に胸を愛撫され、体がますます熱くなって腰が揺れる。勇気は今している行為に夢中になりながらも、早くイきたくてたまらなかった。許されて、もっと強い快感を与えてほしい。こんな中途な状態ではなく、もっと明確な愛撫が。
「……トモ…っ、俺もう……っ」
　先ほどより熱くなってきた智友自身から口を離し、勇気は智友を見上げて訴えた。智友の手が勇気の耳に触れ、耳の中を指で優しくかき回す。
「……んっ…！」
　そんな些細なことにすら感じている勇気を見て、智友は息をついた。
「なかなかいい感じになってきたな。勇気もこんなとろけた表情ができるなんて知らなかったよ」
　智友は勇気をそのままにして一度ベッドから離れると、自分のバッグの中から小さな容器を取り出して戻ってきた。そのふたを開けながら勇気に言う。
「勇気。後ろを向いて腰を上げて」
「……！」
「今日は俺がするけど、そのうち勇気があらかじめ自分でここをほぐしておくんだからな」
　ここ、と言ったときには智友の指が勇気のそこに触れていた。事前に調べた知識でそこを使うとはわかっていたが、他人に初めてそこに触れられ、勇気のとろけそうになっていた意識の中に再び羞恥の気持ちがわきおこる。
「あと、俺が冷めるからイくのはまだな」
「……あっ…」
　智友の指が触れた場所に、冷たい液状のものが垂らされる。智友の指がすぐさまそれを勇気の身体になすりつけた。
「……ふぁっ…あぁ…っ」
　慣れない場所に訪れた冷たく濡れた感触と智友の指とで、勇気の意識はおかしくなりそうだった。強弱を交えて触れてくる指の動きにすら、敏感になった体が反応する。どんな感覚をも快感に変えて、身体が解放を求めているのがわかる。――ちゃんと、我慢しなくてはいけないのに。
　だから智友の指が勇気の中に侵入してきたときも、恐怖や戸惑いよりも、勇気を襲ったのは快感だった。
「…あっ…あっ…んんっ……っ」
　自分でもどうしてと思うほどの甘い声がこぼれてしまう。その声を智友に聞かれていることがたまらなく恥ずかしいのに、その恥ずかしさすら身体を熱くさせる要素の一つになる。
「初めてとは思えないくらい感じてるんだな」
　冷静な智友の声が上から降ってきた。
「やっぱり勇気はずっとセックスしてみたかったんだな。誰でもいいから快感を与えてくれる相手がほしかったんだろ？　実はそういう相手をひそかに探してた？　俺は勇気にうまく利用されたわけだ」
「ちがっ…ちがう、トモっ。それは…っ、んっ…」
「違わないだろ」
「違う…っ。俺は、他の相手とは…したくない…っ」
「だから、こんなに感じてたら説得力ないだろ。ま、どーでもいいけどさ。――挿れるよ、勇気」
「――っ」
　智友の宣言の後、勇気の秘所に智友の熱があてられた。
「これからいろんな体位試すけど、まあ今日はコレな」
　幾度かそこを滑らせたあとで、ぐっと圧迫感が強まる。
「……！」
　勇気は耐えるようにシーツを握り締めた。
「――っ……あっ、ああっ…！」
「――」
　その瞬間訪れたものは熱とぞくぞくする快感だった。
　初めて身体を拓かれる怖さはなく、智友から与えられる甘い熱に引きずられそうになる。
「…あっ…ぁんっ……んんっ……」
　自分の中をゆるゆると探られて、勇気は自分でも智友を受け入れるように少しずつ腰を揺らしはじめた。
　この行為だけで頭の中がいっぱいになってしまった勇気は、だから智友が背後で舌打ちしたのには気づかなかった。
　智友は勇気に挿れるとき、なにも考えないように努めた。今抱こうとしているのは知り合ったばかりの適当な相手で、だから相手を気遣うことなく自分だけ楽しめばいい。そこにはなんの感慨も浮かばない――はずだった。
　だが挿れて取り込まれた瞬間、身体が持っていかれそうになった。それとともに意識が、今勇気とつながっていると認識し、さらに全身を熱くさせる。
　勇気は初めてだろうし、面倒なく楽しむためによく使っている媚薬入りのローションを使った。だから勇気が元々感じやすい身体にしろ、今甘い反応を返しているのはそのせいもある。でも自分はもう慣れていて、今していることも特別なことじゃない。
　なのに身体が今までになく暴走しそうになっている。今繋がっている身体をもっと乱暴に犯し、思いのまま揺さぶりたかった。
　身体と――そして意識が、心の奥底では今も勇気を求めてしまっていることを、智友は認めずにはいられなかった。
　ずっとずっと欲しかった身体。
　忘れようとして忘れられなかった存在。
　だから智友は愚かな自分自身に対して舌打ちする。
「…んっ…！　…あっ…ああっ……っ」
　勇気の口から甘い声がこぼれていた。勇気の中をかき回すと、さらに声が大きくなる。
　智友は、今まで抱いたどの相手よりも体の相性が良くて、そして想い人だけあって自分が今までで一番気持ちがいいことに苦笑する。
　男相手は初めてなのに。
　そして勇気はこちらの気持ちなど何も知らないのに。
「…は……勇気…気持ちいい？」
「…んっ…」
　智友が聞くと、勇気が頷いた。
「きもち…いい…よ…」
　なんの恥じらいもなく素直にそう答えたあとで、勇気は顔を上げてわずかに智友を振り返った。
　感じすぎて潤んだ瞳を智友に向けて問う。
「…トモは…？」
「――」
「俺だけじゃ、意味ない…だろ。んっ…トモ、は…？」
「……すごく…気持ちいい、よ…」
　自分でも思ってみなかったほどの優しい声と自然な笑みがこぼれた。
　その途端。
「――よかった……」
　智友を見つめたまま、勇気がふわりと笑って。
「――っ」
　智友は勇気の腰を強くつかんだ。そのまま勢いに任せて勇気の中を穿つ。
「あっ！」
　そのあと、自分を襲った衝動がおさまるまで、智友は、思いのままに勇気の身体を貪った。
「…っ、ふぁっ、あっ、トモ…っ、あっ…ああっ……っ！」
　その衝動の中で勇気がイったのにも気づかないほど、智友は夢中で勇気を抱き、そして自分も勇気の中に放ったのだった。



　そのあと、智友はベッドに倒れ込んだ勇気の身体を仰向けにし、すぐに身体を重ねた。
「ト、トモ…っ!?」
「…別に一回で終わりするとは言ってない。もう一回つきあえよ」
「トモっ…！　…あっ…」
　制止するように智友の胸を押した勇気の手をベッドに縫いつけ、再び勇気の身体を愛撫する。勇気の表情を見ながら、先ほど勇気が反応したところを責め、そしてさほど愛撫に時間をかけずに勇気の足を割り開いた。
「……っ」
　一度イったあと、勇気の身体はまだ完全には昂ってはいなかった。だがそれを気にすることなく、智友が勇気の膝を折り、勇気にのしかかる。再び勇気の秘所にあたる智友の熱。
「あっ…トモ…っ！」
「…こっちもよくしてやるから」
　そう言って智友は自分自身でゆっくりと勇気の中を侵しながら、勇気の昂りに手をかけた。
「…っ……あっ、んんっ…」
　勇気の昂りを手で扱きながら、智友は腰を送る。先ほどの挿入よりは落ち着いていたが、それも次第に速くなり。
　再び、智友は夢中で勇気の中の快感を追った。

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