「ん･･････っ」 　俺が自分の胸まで和希の手を導いたら、和希はいつものように自分から手を動かしてしてくれるかもしれないと、俺は少し期待していた。でも和希は俺の胸に手が触れても、自分から手を動かそうとはしなかった。ただ俺を楽しそうに見つめているだけだ。 　和希の性格の悪さを再認識しつつ、俺は仕方なく和希の手を自分で動かした。 　ほんの少しの動きだけで、そこから快感が生まれる。いつもの和希の手の動きとは全然違っていて、俺が動かしている分拙いとさえ言える動きなんだけど、それでも待ち望んでいた和希の手だからか俺は感じてしまっていた。いつもと違っていても、俺の体が和希の指から自然に快感を拾おうとしているのかもしれなかった。 　和希の手のひらで撫でられ、尖っているところを指先で軽く押される。二本の指の間に挟まれて少しつままれると、それだけで熱い息がこぼれた。和希の手にそういう動きをさせているのは俺なんだけど、むしろ俺が他人の手でそうしている恥ずかしさが俺をよりたまらなくさせているのかもしれない。 「啓太のここ、固くなってるよ。そんなに俺の手は気持ちいい？　ゆっくりじゃなくて、啓太のいいようにもっと激しく動かしてもいいんだよ。そろそろもう片方も触ってほしそうだけどな」 「･･････」 　そのとおりだよ、もういっそ両方とも触ってほしいよ。 　俺はそう思ったけど和希はやっぱり自分からそうしてくれる気はないみたいだし、だからといって和希の体を支えている右手まで床からはずさせるわけにもいかなかった。俺は無言のまま和希の手を片方の胸に移動させる。そこでも今と同様の動きを繰り返してわずかな快感を得た。 　けど、やっぱり物足りない･･･。片方ずつでなくて、もっと･･･。 　俺は和希を見上げた。 「どうかしたのか、啓太」 　俺に問いかけてくる和希の唇が目に入る。キスの名残か、どことなく濡れて見える。和希はやっぱり自分からはしてくれなさそうだし、だったら･･･。 　俺は胸の上に和希の手を乗せたまま、片手で和希の頭を引き寄せた。自分の体の位置を少し上にずらし、和希の唇が俺の胸の前にくるようにする。そのまま和希の頭を引き寄せた左手に力を込めようとして――でも俺はそこで少し躊躇した。 　俺･･･もしかしなくても本当に恥ずかしいことをどんどんしようとしているんじゃないだろうか･･･。いくら熱に浮かされて正常な思考がだんだん溶けてきているんだとしても、本当にこのままだと快感のためにエスカレートしてしまいそうだし、和希がしようとしてくれるまで我慢して待っていたほうがいいんじゃないだろうか。 　そんなことをふと考えた俺の上で、和希が俺の胸にふうっと息を吹きかけた。 「あ･･･っ」 　和希の指で敏感になっていたそこが、和希の熱い息だけで快感を拾う。 「啓太、なに？　ここ、舐めてほしいの？　それとも歯でこすってほしい？」 「･･････っ」 　俺は和希に黙ってほしくて、和希の頭を引き寄せた。俺がどうするよりも和希に見られて変なことを言われるほうがもっと恥ずかしいんだと気づいたから。和希が喋れないように俺の胸に押しつける。 　和希の濡れた唇が俺の胸の敏感なところにあたった瞬間、俺はそこからもたまらない快感を感じた。 　――もう、本当にどうなんだよ、これ。 　思わず声を漏らしてしまった自分に、心の中で突っ込みを入れる。なにからなにまでいつものやり方とは違って、触られ方自体は全然大したことないのに、俺の体がものすごく反応してしまっていることがよくわかる。ずっと触ってくれないところが、もう充分なほど固くなっていることだって自覚している。 　俺は和希の頭を引き寄せた左手と同時に、胸に置いたままだった和希の手を少しだけ動かしてみた。両方の胸から沸き起こる痺れたような快感。 　すると和希が、突然俺の胸の突起をちゅうっと軽く吸った。 「･･･っひゃ、あ、和希･･･っ」 　それから舌でつつかれたり、俺の固くなったしこりをなぞられる。突然和希に舌や唇を動かされて、俺はそれまで以上の快感を感じて体をしならせた。 「あっ、和･･･っ、そ、んな、いきなり･･･っ」 「ん･･･これは、頑張っている啓太へのサービスだよ」 　サービスってなんだよ！ 　そう言ってやりたかったけど俺の唇からあがるのは自分でも恥ずかしくなるほどの甘い声だけだった。 「啓太のおいしそうな実が目の前にあったら、そりゃあ吸いつきたくなるよな」 　そんなことを言ってさらに和希が俺の胸の突起を舌で転がす。そのくせ自分の手はまったく動かそうとしてくれないんだから、ほんとにずるい。俺は仕方なく自分で和希の手を動かすしかなかった。 　――だけど、もう胸だけじゃ我慢できないほどの熱の昂ぶりを俺は感じていた。 　もうだめだ･･･。胸も触ってほしかったけど、もうここだけじゃ我慢ができない。現に俺の腰は揺れて、和希の体に自然と自分の腰をこすりつけていた。和希も、俺を追いつめるようにときおり故意に体を動かしているような気がする･･･。 　特別に激しいことなんかまだなんにもされていないのに、俺はもうどうにかなってしまいそうだった。 　俺は和希の頭を手で押し返すと、少し自分の体を動かして、つかんでいた和希の左手を俺の･･･下半身に導いた。 「今度はここ？」 　俺の顔を見て和希が笑う。 「･･････聞くなよっ」 　俺は和希から顔を背けて、和希の手を自分でそろりと動かしてみた。 　･･･うわっ、だめだ。和希の手で撫でられただけで俺、おかしくなる。ほんの少し自分のを撫でてみただけなのに、それが和希の手というだけで俺がより敏感に反応したのがわかる。 「今、啓太のぴくぴくしたな。俺の手に触られて気持ちいいんだ。やっぱり自分の手よりは感じる？」 「し、知らないよ」 「そんなこと言って。ほんとは啓太が一番よくわかってるだろ。ずっと触ってなかったのにこんなにぬるぬるしてるなんて、啓太、やらしいなあ。ずっとここ触られるの、待ち望んでたんだな」 　実際確かにその通りなんだけど･･･その通りだからこそ、いちいち和希に言われたくなかった。俺は和希の言葉を無視して、和希の手を再び動かす。俺のを下からなぞらせて、先端を包み込む。俺の手を和希の手に重ねて少し力を入れてみると、それだけでぞくぞくした。 「･･････あっ･･･っ」 　俺がまた少し和希の手を動かしてみると、和希の指先が俺のくびれの部分をつぅっと滑って、手のひらが俺の敏感なところを撫でた。俺の耳にかすかに、粘ついた水音が聞こえた。 「･･･んっ･･･」 「啓太、またあふれてる。俺の手、もう啓太のでべとべとだよ」 「やっ、和希もうなにも言うなよ･･･っ」 「どうして？」 「どうしてもっ」 「俺がなにも言わなかったら啓太、自分の好きなようにもっといろいろと俺の手を動かす気なんだ？　ただ俺の手の感触を感じて、俺の手に夢中になって。もっと激しく動かして、まるで俺の手を使って一人でするみたいに？　ほんとにやらしいなあ啓太は」 「だ、だって和希がいけないんだろ!?　俺ずっと言ってるのに、和希が自分からはなんにもしてくれないからっ」 「そうだな。だって今日はさっきも言ったように、俺は別に啓太のここに触らなくても満足できるからさ」 　和希はそんなふうに言ったけど、実際に今の和希がどんな状況なのか、俺にはちゃんとわかっているんだからな。体を重ねている分、和希の体が熱くなって充分その気になっていることは俺にも伝わってくる。和希がなにを見てどんなことからその気になっているかなんて深く考えたくはなかったけど、俺だけが快感を求めているわけじゃない。 　なのに我慢できないのは俺のほうで、だから和希は余裕ありげに笑うんだ。 「だからいいよ、俺の手を好きに使っても。俺の指も手も啓太のものだから、啓太がしたいように使って俺の手を濡らしていいんだよ」 　だったら和希がいつもみたいに自分から手を動かしてほしいよ･･･。 　いつもみたいに俺のを握って、その手で扱いてほしい･･･。 　快感だけを求めて、俺の理性が完全に溶けてしまうのも時間の問題だった。だんだんまともな思考ができなくなって、俺は和希の手を動かして頭の中で想像したように俺のを握らせる。それから俺の手と一緒にその手をゆっくりとスライドさせた。 「んっ･･･あ、和希･･･っ！」 　強烈な快感がダイレクトに伝わって、俺の腰が浮く。片手だけじゃうまく和希の手を動かせなくて、俺は両手で和希の手ごと俺自身を包み込んだ。俺が手を動かしやすいように和希が少し体の位置をずらしたのに気づいたけど、それに対して俺はなにも反応を返せずただ手を動かすことに夢中になった。 　和希の手が熱くなった俺自身を擦りあげる。両手にきゅって力を入れると、和希の指や爪の先が俺の濡れた先っぽや、くびれたところにあたり俺をさらに感じさせた。 「･･･あっ･･･ああっ･･･んっ･･･」 　和希がしてくれるときの、俺の弱いところをとことんまで感じさせるやり方とは違う。 　自分一人でしているときよりもつたない扱き方で、和希の指が触ってほしいところに的確に当たらない分もどかしさを感じた。 　それでも俺は恥ずかしいほどに感じていた。和希が言ったとおり和希の手を濡らして、自分から腰を揺らして快感を求める。 　どんな動きであろうと俺に触れているのは和希の手で、しかも俺がこんなにおかしくなっちゃっているのを、和希がすぐそばで見ているんだ。 　目を閉じて快感を追っていても、俺をじっと見ている和希の熱い視線を感じた。こんな外なんかで和希の手を動かして喘いでいる俺は、和希の目にはどんなふうに映っているんだろう。和希も、内心ではさすがに呆れているのかな。 「はっ･･･あぁ･･･っ･･･あ･･･んんっ･･･」 　俺の手の動きがだんだん早くなる。ほんとに気持ちいいっていうのもあるけど、俺は早く達してしまいたかった。こんな恥ずかしい時間を早く終わらせて、もう少しまともなことが考えられるようになりたかった。 　――外なんかで。 　和希が自分からはなにもしてくれないから、俺が自分で和希の手と一緒に扱いたりなんかして。 　和希に見られながら喘いで、自分で腰まで動かしちゃったりして。 　ほんとにほんとに、なんでこんな変な状況でしているんだよ俺っ。どれもこれも、全部和希のせいなんだからな！ 「啓太、もう限界みたいだな。このままイっていいよ」 「･･････かず、き･･･っ」 「そう。俺の名前を呼びながらイって。今日の啓太、めちゃくちゃやらしくてすごくかわいい」 「やっ、そんなこと言うなよ･･･っ」 「でも本当のことだからさ。――だからこれは、かわいい啓太にもう一回サービスだよ」 「あっ！　やっ･･･きゅ、に動かさな･･･っ和、希･･･っ･･･!!」 　なにもしなかったはずの和希の手が急に俺の手の中で動いて、俺の先端を指でかき回した。ときおり爪も立てられて、俺はもう限界だった。 「和希･･･だめ、俺っ･･･ほんとにもう････っ」 「うん、俺がちゃんと見ててやるからさ。そのまま俺の手でイって」 「――っ！」 　和希の声と手に煽られて、俺は本当に和希の手と自分の手を俺自身に絡ませたままその場で達してしまったのだった。