べランダに体を投げ出したまま呼吸を整える。あー･･･俺、ほんとにいっちゃったよ･･･。
俺は快感の余韻よりも脱力感に襲われていた。
いくら早く終わらせてしまいたかったからって、ほんとに夢中になって･･･してたよな。自分で和希の手、動かしてさ･･･。
･･････そもそも全部、和希が意地悪だからいけないんだ。
「俺の名前呼んでイってって言ったんだけどな」
和希が残念そうな声とともに溜息をついた。知らないよ、そんなの。
「まあいいか。啓太のすごくかわいい姿目に焼きつけられたしな。啓太が自分で俺の手でイったんだもんな」
「それは和希がなにもしてくれないからだろっ」
俺は文句を言ったけど、和希は俺の文句なんか素知らぬ顔で俺の手をとった。そのまま自分の口元まで運ぶ。
「か、和希っ！」
俺はぎょっとして声をあげた。
俺の視界に入ってきた俺の手と和希の手は両方とも俺のがかかってしまっていたんだけど、和希は俺の手についたそれを舐めとりはじめたんだ。
「和希っ、離せよ」
俺はすぐに手を引こうとしたけど和希は解放してくれず、俺の手を舐め続けた。
目の前で和希が俺の手を舐めている光景とともに、手から和希に舐められている感覚が這い上がってきて俺はたまらなくなる。手のひらに指と指の間に手の甲･･･。和希の舌が動くたびに俺を刺激する。
「そんなことしなくていいよ」
「俺がしたいからいいんだよ。もう一つの手もきれいにしてやろうか？」
「だからいいって」
「啓太」
俺の手をようやく離した和希の手が、俺の頬を撫でた。頬をつうっと滑った和希の手のひらにどきりとする。
頬を掠めたときのぬるりとした感触はたぶん気のせいじゃない。和希、俺の頬に俺の･･･つけたんだ。
おそらく、故意に。
「それより続き･･･してほしい？」
和希の瞳が俺を捕らえて、俺を誘う。耳に届いた囁き声は誘惑の気配に満ちていて。
俺は和希の視線にほだされて反射的に頷きそうになったけど、でもどうにかこれまで和希にされたことを思い出した。いやこの場合、なんにもしてくれなかったのが問題なんだけど。
「和希が･･･和希がしたいだけだろ。和希がもう我慢できないんだろ」
俺は自由になった手で和希の胸を軽く押し返した。その手を少しずつ下げて和希のおなかの方に触れていく。
俺がなにを言いたいのか気づいた和希が、かすかに笑った。
「あたり。あんなに色っぽい啓太を見せられたらそりゃあたまらなくなるよ。だから、啓太の手で解放して」
「か、和希っ」
俺は和希のへその辺りで手を止めたのに、和希が俺の手をつかんでさらに下まで導いた。和希のそこがすでに反応していることは知っていたけど、強引に触らされて俺は動揺する。
「ほら俺のここ、啓太のがついちゃったんだ。だから責任とって啓太に脱がしてほしいな」
「責任てなんだよ･･･っ」
「それとも今度は逆に俺が啓太の手でしてみようかな。啓太の手を好きに動かしてするっていうのも楽しそうだよな」
和希が俺の手を使ってする･･･つまり俺は和希のあれを触らされて和希の手と一緒に動かされて、それから･･･。
「あ、啓太、具体的に想像したんだ。やっらしいなあ。それとも期待した？ 俺の触ってみたくなった？」
「そうじゃなくてっ」
「俺は啓太に触ってほしいけどなあ。それに啓太だけ脱がしているのはフェアじゃないから俺も脱ぐかな。勿論、啓太が俺を脱がすんだけど」
嬉々とした和希の声に、俺の顔がどんどん熱くなる。和希は俺のこの反応を見て楽しんでいるんだってわかってても、止まらなかった。
これ以上意地を張っていたら本当に和希にどんなことを強要されるかわからない。俺は白旗を掲げて、和希に抱きついた。
「もういいから続き、してほしいよ。認めるから。これだけじゃ中途半端で物足りないって認めるから、だから和希、今度はちゃんと普通に･･･。俺だけがしているんじゃなくて、和希も俺と一緒に気持ちよくなって」
和希も俺がしているのを見て楽しんでいたっぽいけど、でもやっぱりさっきみたいのは俺が一人でさせられていただけで、二人で一緒にするのとは全然違うよな。和希の手だけでイっちゃったけど、でもやっぱり和希と抱き合ってしたいよ。
俺の言葉に、和希もすぐに「そうだな」って同意してくれた。
けど、そのあと和希は抱きついた俺の手をはずさせて、俺に聞いてきたんだ。
「じゃあ普通に二人で気持ちよくなるためには、まず最初にどうすればいいと思う？」
「･･･どうって？」
「俺は、早く啓太と直接肌を触れ合わせたいよ」
そう言いながら和希が自分のシャツを指で示す。自分で肌を触れ合わせたいとか言いながら、そのあとなにもしようとしない和希の態度に、俺は和希の言葉の真意を知る。
「･･･今日の和希、すごく図に乗ってるだろ」
「まあ、たまにはな。だって啓太から俺をほしがってくれたんだもんな。そんなこと滅多にないだろ」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ。確かに途中から啓太が俺をほしがってねだることは多いけど、最初からここまで求めてくれることは滅多に･･･」
俺は和希の言葉を遮るように、和希の体を思いきり強く押しやった。俺がそうすると思ってもみなかったのか、和希の体がそのままベランダの床にひっくり返る。
「啓太!?」
「俺だってこんなふうになるときはあるし、それに今日のはもともと和希がいけないんだろ!?」
俺はそう言って、床にひっくり返った和希の胸に手を乗せた。和希の着ているシャツを引き寄せ、そのボタンをはずす。
和希は最初自分が仰向けになったことに驚いていたようだけど、でも俺が和希のシャツに手をかけはじめると途端に自分の優位さを取り戻したようだった。なんか笑って俺を見ているから腹が立つ。今日は本当に特別なんだからな。
「もともと俺がいけないってどうして？」
「だって今日の和希が俺を･･･誘惑したからいけないんだろ。俺は別にこんなところでする気じゃなかったのに、和希が俺の体を熱くさせたんだろ。そのくせちゃんとしてくれないし、人にこんなことまでさせるし、ったくあとで覚えてろよ！」
そうは言っても俺が和希のシャツを脱がしている時点で、今日はつくづく和希に負けているんだよな。
空から降り注ぐ光の中で肌を晒した和希はやっぱり綺麗で･･･俺は内心で文句を言いつつも和希に魅かれた。楽しげに笑ったままの和希の唇に身を乗り出してくちづけて、それからシャツをはいだ和希の体に触れていく。
「啓太、続きは？ これだけじゃなんにもできないだろ？」
「･･････」
「もうきつくてさ。早く楽にしてほしいよ」
「･･････俺は他になにをすればいいんだよ」
「え？」
「この続きをして和希をもっと脱がせたら、和希、今度はちゃんと本当に俺にしてくれる？ それとももっと他のこともしないとだめ？ まさか自分はここで寝てるからあとは啓太がしたいようにしろなんて言って突き放さないよな？ もう一回だけ言うけど、俺は和希に触られて気持ちよくなりたいんであって、ただ自分でしてイければいいってことじゃないんだからな」
「･･････啓太は、そんなに俺がほしい？」
和希が俺を見て今日何度目かの確認をする。
「怒るぞ、和希っ」
俺はそのたびに和希がほしいって答えてるじゃないか。これ以上なにを言えっていうんだよ。
「俺がほしくて体が疼くくらいに？ 肌がざわついて俺に触ってほしくて、それから俺と深く繋がりたくなるくらいに俺がほしい？」
「俺のすべては和希のものだよ。俺の体の細胞の一つ一つが今すぐ沸騰しそうなくらいに和希を求めてる。もう本当にあとなにをすればいいんだよ。どうすれば、なにをすれば和希は俺に和希をくれるんだよ･･･」
「啓太、今にも泣きそうな顔してる」
「泣くよほんとに！ 和希の性格が悪すぎて本当に泣きそうだよっ」
俺がそう言うと、和希の手が伸びてきて俺の目のふちに触れた。本当にはまだ泣いてないけど、このままなら時間の問題だぞ。
「･･･ごめんな。俺もちょっと自分をいじめてみたんだ。こんなにかわいい啓太を前にして、どれくらいまで耐えられるかなって自分の限界に挑戦してみたくなったんだ」
「･･････だったらもういっそのこと、今日はお互いに一人でしようか」
「そう言うなよ。俺だって本当は好きなように啓太に触れてみたかったよ。こんなふうにさ」
和希が俺の肌を手のひらでなぞりあげた。それだけで敏感になっている俺の肌が熱くなる。
「今度は焦らさないから。啓太の希望のままにしてあげるよ」
だから俺の上に乗って――和希に和希の足の上を指で示される。俺が戸惑っていると和希が上半身を起こした。
「啓太の顔がよく見えるようにここに座って。もう、俺の解放してなんて言わないからさ」
それはいいとしても和希の上に座るのって･･････顔だけじゃなくて、全部丸見えじゃないか。そりゃあ、もう何度も見られているし、今日だってずっと俺の裸を見られているわけだけど･･･。でもまた俺、反応しはじめちゃっているし･･･。
俺は恥ずかしくて自分からなかなか動けなかったけど、和希にここに乗ったらキスしようって言われたときには、考えるよりも先に体が動いていた。
和希の足を跨いで座り、和希に身を寄せる。するとたちまち和希の腕が俺の背中に回ってきて、俺を促した。俺たちは今日何度目かのキスを交わす。
和希がもう焦らさないって約束してくれたから、俺は安心して和希とのキスに夢中になった。さっきみたいに自分からも和希の唇を求めるようにくちづける。
「啓太、そのままでいて･･･」
「ん･･･」
キスのあと、ぼうっとした頭で和希の声を受け止める。まともな思考が戻ってなくて、このあと和希がなにをする気なのかまったく考えることができなかった。
和希のズボンのファスナーを下ろす音が聞こえたときもまだ濃厚なキスの余韻にひたっていて、俺の意識が現実をとらえたのは、和希の手に俺自身を触れられたときだった。
「か、和希っ!?」
和希の指が反応しかけている俺自身に絡んでくる。
「和希っ、ちょ、ちょっと待･･･っ」
「今度は俺が普通に啓太をかわいがってやるよ。啓太に自分で動かしてなんて意地悪はしないからな」
「やっ、ちょっと待てよ、これ普通じゃないだろっ!?」
「普通だよ。二人で気持ちよくなることにはかわりないだろ」
和希はそう言って、再び俺にキスを仕掛けてきた。俺は和希のキスに翻弄されながらも、今和希がしていることを頭の中で意識せずにはいられなかった。
「･･･ぁ、かずき･･･っ」
キスの合間に俺の口から掠れた甘い声がこぼれる。腰から、一気に快感が競りあがった。
和希の手の中で俺のが扱かれている。それも、和希の熱いそれと直接こすりあわされる形で。
「･･････っ」
快感と、恥ずかしさと。
和希の手の中で俺たちのがこすれあい、互いの先走りで互いに汚しあう光景を想像するだけで俺はたまらなかった。和希の指で扱かれる快感に、別の快感が重なっていくような感じがした。
和希の肩に乗せていた俺の両手が、和希の肩口に引っかかっているシャツを握りこんだ。
「･･･ふぁ･･･あっ･･･ああ･･･」
強烈な快感に煽られて、中途に反応していた俺自身がどんどん育っているのが自分でわかる。先端からあふれた先走りで、ときおりそこから濡れた音があがる。
「啓太、わかるか？ 俺も、啓太を見ててこんなになってたんだよ。今すぐイきそうなくらいに」
「･･･んっ･･･こ、こんなことしなくったって、わかるよ･･･っ。こんな、恥ずかしいこと･･･」
「でも気持ちいいだろ？ こうしているとお互いに熱くなっているんだってわかって、嬉しくなるだろ。啓太のもどんどん大きくなっているし、どんどんあふれてきている。ほら見てみろよ･･･すごくいやらしい眺めだよ」
「説明なんか、しなくていい･･･っ」
俺はとてもじゃないけどそんな光景を正視できなくて顔をそらしたり目を閉じたりしているんだけど、和希はどうやら楽しそうに観察しているみたいだった。たぶん、俺と和希の様子を確認しながら手を動かしているんだろうな。あふれた先走りを指で故意に塗りこめたり、手で先端だけを包み込んでそこだけをこすりあわせたり。
頭の中での想像と、体の中心から競りあがる快感が合わさって、本当に俺はたまらなくなっていた。ようやく和希が自分から俺に触れてくれたかと思うと、こんな恥ずかしいことをしてくるなんて。
「･･･かず、き･･･っ」
「啓太、気持ちいい？ ずっといじめてたから、これはそのお詫びだよ」
「お詫び、なんか･･･っ」
「勿論、こっちもな」
「！」
そう言った和希の手が俺の後ろに回った。手のひら全体で撫で回されたり揉まれたりする。
「あ･･･っ」
それから和希の指が割れ目を通り、そこに辿りついた。指の腹でくすぐるように触れられる。
ずっと和希を求めていたそこを和希の指に撫でられ、俺は前からもいっそう強い快感を感じた。
「はっ･･･あ･･･っ･･･んんっ･･･」
「啓太はずっとここにほしかったんだよな。そのせいかな、啓太のここ熱を持ってひくついてるよ」
「そ、そんなことな･･･」
「そんなことあるよ。収縮しておねだりしてる。でも慣らさないといけないからもう少し我慢な」
それから和希はその手を一度前に回し、俺と和希のからあふれた先走りでたっぷりと指を濡らしてから、またそこをつついた。濡れた指先を俺のそこにあてがい、指で少しずつほぐしていく。
和希の指の先端がもぐりこむと、反射的に俺の体が跳ねた。
「んっ･･･っ」
「過敏なんだな。そんなに期待されても、まだ少ししか入れてないよ」
「期待なんて･･･」
「してるんだよな。ここに、俺のがほしくてほしくてたまらなくなってる。ちょっと指を入れただけで、啓太のここが俺の指を取り込もうとしているよ。これだけじゃ物足りないってさ。今日の啓太は本当に素直だから」
和希の言葉に煽られ、和希の手に前を扱かれ。そして後ろを和希の指でほぐされてくると、俺はだんだんわけがわからなくなってきた。ここでまともな思考を放り出したらだめだと思うのに、実際もう早くイかしてほしくて俺の腰が揺れる。和希のシャツを握り締めながら、そのまま熱に浮かされてさらなる快感をねだりそうになる。
「かず、き･･･っ、和希･･････っ」
「ほらな、本当に物足りなくなってきただろ。今、啓太がものすごく俺に欲情してるのがわかるよ。だって今の啓太、すごく淫蕩な目つきで俺を見てるから」
「見えないんだからそんなの知らな･･･っ。それより、和希･･･っ」
「なに？ ここ、指増やしてほしい？ ･･･こんなふうに」
「･･････っ！」
言葉と同時に俺の後ろを犯す和希の指が増やされる。二本の指で俺の中を徐々にかき混ぜていく。まだ一本目だってそんなに奥まで入ってなかったのに、いきなり二本になってさらに俺の中をえぐる。
「違っ･･･そうじゃ、な･･･っ･･･あ、あぁっ･･･っ･･･」
なのに痛みよりも疼くような快感のほうが増しているなんて、本当に和希の言うとおり、今日の俺はとっくにおかしくなってしまっているのかもしれなかった。
「啓太、またイっちゃいそうだな。でも、今度は一人でイったらだめだよ」
両手とも止めないまま、和希が俺の汗ばんだ肌にくちづけた。胸の周辺にキスされて、ときおり舌で舐められると、もう全身が性感帯になったような気がした。
「はっ･･･んんっ･･･っ」
和希のシャツを握る手にさらに力が入る。前からも後ろからも粘ついた音が俺の耳に届き、特に前がぐちゃぐちゃなのは容易に想像できた。
「か、和希･･･っ、和希、俺、もう･････っ」
いっそそのまま和希の手の中で出してしまいたいくらいに、俺はもう限界にきていた。
俺の切羽詰った声を聞いて、和希が俺の中から指を出した。ただそれだけの動作にすら、俺は感じてしまう。
「啓太、そのまま腰を浮かせてて」
「ん･･･っ」
和希は扱いていた俺自身からも手を離すと、和希の肩をつかんでいた俺の手をはずさせ、自分の胸に導いた。俺がバランスを崩さないように俺の腕を押さえながら、そのまま体を横たえた。
「啓太、いいよ。そのままもう少し前においで」
「あ･･････」
俺の体の前に屹立して蜜を流してる和希自身があって、その向こう側に俺を見ている和希の目がある。そして和希の目が誘っているんだ。そのまま位置を修正して自分でしてみろ、と･･･。
「和希･･･」
「啓太が最初に、俺がほしいって言ったんだよ」
――うん、それは事実だ。
「外なんかで俺をほしがってもっと大胆になる啓太が見たいよ。下からじっくりそんな啓太を見せて。月明かりの下で俺のために思いきりいやらしく乱れて」
和希の言葉に俺の頬が赤くなる。
「俺ももう啓太がほしくて限界なんだよ。だから早く啓太の甘い熱で俺を包み込んで。そして啓太がそのかわいさといやらしさで、俺を翻弄して」
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