――俺は、本当にもうどうかしてしまったのかもしれない。
和希の言葉で煽られ、俺は和希に見られていることを意識しながら、自分の身体を浮かした。そして和希のそこを跨ぐように位置をずらす。
和希自身に手を添えると、これから自分がどんなことをしようとしているのか自覚して一瞬恥ずかしくなったが、それと同時に俺の中で和希を求める気持ちも膨らんだ。
「･･･す、するからな」
「うん。いいよ」
俺が一応と思って和希に声をかけると、俺の下にいる和希が吹き出した。
「わ、笑うなよ。こういうのはやっぱり覚悟がいるんだぞ」
和希だって絶対俺がほしいくせに相変わらず余裕ありげなその態度にむかつく。
「啓太はほんとかわいくていいなあって思っただけだよ。それより――どうぞ」
う･･･どうぞってどうぞってなんだよ･･･。
俺はそこにも突っ込みたかったけどそれはやめて気を取り直した。改めて和希のに触れて自分の位置を測りながら、ゆっくりと腰を落とす。
「･･･ん、んん･･･っ」
和希によってほぐされていても勿論一気に、とはいかなくて、俺は少しずつ和希を受け入れていった。
少しずつだからこそ、俺の後ろにあたった和希の先端とか、だんだん容量が増していくところとかが実感できて、俺はそれだけでもたまらなくなる。
いつもなら半分意識も溶けかかっていて和希がくれる気持ちよさに流されがちだけど、今日は和希の圧迫感までリアルに感じる。まあ単に和希がするより俺が自分で挿れている分うまく挿れられなくて、それでのろのろしているから余計和希を感じてしまうんだろうけど。
「･････啓太･･･。もしかしてわざと俺を焦らしてる？」
「な、なに言って･･･んっ･･･あぁっ･･････」
和希に反論しかけた途端俺はさらに身を沈めてしまって、和希をより深く受け入れる羽目になった。身体の奥から、ぞくぞくっとした快感が駆け上がる。
「･･･あっ･･･あ、ぁふ･･･んんっ･･･」
俺はもう止まらなくて、そのまま一気に腰を落とした。快感だけじゃなくて痛みも感じたけど、でも和希とつながっているからこその痛みだと思えば、それも甘い疼きにかわる。
「ん･･･。･･･はっ･･･はぁ･･･」
和希を全部受け入れてしまってから息を整える。熱い呼吸の中で和希を見れば、俺を見ている和希の目とぶつかった。
ずっと余裕ありげだった和希だけど、そのときの表情は間違いなく和希も感じていることがわかるくらいに艶を含んでいて。そしてその上気して色っぽい和希の表情を見たら、俺はその瞬間だけで自分の身体の中が熱くなってきてしまって。
「――っ」
「･･･っ啓･･･っ」
「え、かっ、和希!?」
「――っ･･･いきなり締めつけるのなしだよ啓太･･･」
「な、なにがっ!?」
俺なんにもしてないぞ･･･と俺が言いかける前に、和希が手を伸ばしてきて俺の前髪に触れた。そしてさらに俺の心を捕らえるように、その瞳をちょっと細めて「仕返し？」と言って笑ったんだ。
「･･･和希･･･っ」
今俺の心の中にわきあがった衝撃を、全部怒りにかえて和希にぶつけたい気がした。
本当に、本当に、もうどうしてくれんだよ･･･！
俺は、和希の身体の上に手を置いて、自分から少しずつ腰を動かしはじめた。最初は自分の中にある和希の存在を確かめるようにゆっくりと。
「･･･ん･･･っあ、和希･･･っ！」
ちょっとでも和希のが俺の中でこすれるたびに、俺の身体は快感を拾ってしまう。そのたびに俺は声をあげた。
けど、すぐにそれだけじゃ物足りなくなってきて、俺はさらに腰を動かした。
「あっ･･･ああっ･･･ふ･･･んんっ･･･っ」
俺をこんなにその気にさせた和希が恨めしい。
そりゃあ今日は最初からその気だったけど。これまでにもさんざん恥ずかしいところを見られたけど！
でも今が一番今夜の中で感じてて、一番和希を欲しがっているのがよくわかる。月の下の和希に見とれてしまったときよりも、和希の手を使ってしていたときよりも、今すごく和希がほしくてたまらない。
――もう理性なんか全部溶けてしまえばいい。本能だけがあればいい。
周りなんか全部忘れて、ただ心と身体のままに和希を求めればいい。
「ん･･･っんんっ･･･か、和希･･･っ。はっ･･･俺、もう･･･止まらな･･･っ」
自分の身体を浮かせて、それからすぐに腰を落としてより強く和希を受け入れる。それをどんどん速度を上げて繰り返すたびに俺と和希とを繋いでいるそこがこすれ、俺の奥に和希を感じてびりびりした刺激が走った。
和希のが俺のいいところをえぐると、強烈過ぎる快感がいっそう俺の理性を溶かす。
「あっ、ああっ･･･は･･･んっ･･･んっ･･･っ」
俺は、自分が感じたいままに和希を求めた。和希が俺をどう見てるかとか、ここがどこだとかそんなことはまったくどうでもよくなって、ただこのまま、和希に突き立てられたままイってしまいたかった。
「ふぁ･･･ぁん･･･んんっ、か、ずき･･･っ･･･」
もう和希の表情を確かめる余裕もなく、ただ目の前の快感を得るためだけにあさましく腰を振る。汗が浮かぶこの身体の熱さも、自分の声とは思えない切羽詰った喘ぎ声も、耳から入る音のなにもかもが、ただ俺を追い上げるための快感に変わった。
「･･･啓太、そのままもっと足を開いて俺に見せて」
「･･･あ、んふ･･･っ」
和希の手が俺の足をぐっと広げた感覚があった。
和希にそうされて、俺をえぐる和希の角度が微妙に変わってまた新たな刺激を生み出す。
「あ、んんっ･･･はっ･･･かずき･･･っ、かずき、も、おれっ･･･このままっ･･･」
俺の感覚のすべてがどろどろに溶けてきて、そう言うのもやっとだった。
和希の返事を待つゆとりもなく俺はただ達する瞬間だけを追い求める。
もう少しでイく、というところで、和希の手が俺自身の先端に触れたのがわかった。和希の指で敏感なところをこすられて。
「あっ･･･あっ、ああ･･･っっ･･･かず、き････っかず――んん･･････っ！！！」
頭の奥でなにかがスパークしたような感じだった。
俺は自分から和希を求め、和希の上で激しく腰を振りながら本当に達してしまったのだった。
でも俺はすぐには自分の律動を止めないで、ようやく辿りついた絶頂をさらに貪るように、俺の中の和希をより深く感じた。
「は･･･っはぁ････ん･･･っ」
和希を求めて和希の上で達してしまったのに、俺の身体はまだ貪欲なようだった。俺の身体の奥がまだ疼いているような気がする。
「啓太、気持ちよかったか？」
息を整えている俺の耳に和希の声が届いて、俺ははたっと現実に返って和希を見る。
「か、和希っ」
イってしまうとやっぱりまた現実を認識する意識が少し戻ってきて、今俺はどんなふうだったんだろうとか、それをずっと和希が見てたのかなって思うと、すごくいたたまれないような心地になった。
「お、俺･･･」
「啓太がかわいすぎてこらえるのに苦労したよ･･･。でも、じゃあ今度は俺の番だよな」
そう言うと和希は、自分の身体をゆっくりと起こした。和希の上に乗っていた俺は、当然そのまま床に倒される。
「和･･･っ？ ん･･･っ！」
俺とつながったままの和希が、体勢が変わったことで角度をかえて俺の中をえぐる。
「は･･･和希･･･っ」
俺はいつものくせで床に縋るものを求めたけど、ベランダであるここには当然シーツみたいな縋れるものはなくて、俺は俺の中でさらに育った和希の熱さに戸惑いながら和希を見た。
その途端、和希の手に大きく膝を割られる。そして和希が、より深く俺の中に押し入ってきた。
「んっ、んんっ･･･」
イったばかりなのに、俺は俺の中に強く押しつけられた和希に感じてしまっていた。自分がイってしまったからか、半分冷静に今の和希の熱さとか、和希が俺の中のどこにあたっているかが感じられて、俺は自分が夢中になっていたときよりも恥ずかしさに襲われた。
「啓太。動くよ･･･」
「か、和希!?」
「悪い。今余裕ないんだ。痛かったら言って･･･多分聞き流すと思うけど」
き、聞き流すって。それじゃあ言う意味がな――。
「あっ･･･ああっ･･･！」
心の中で突っ込む間もなく、和希が腰を押しつけてきた。押しつけて、すぐに引いて。でもまたすぐに押しつけてきて。
自分で和希の上に乗っていたときよりも、激しいその動きに俺は翻弄される。
「あっ･･･あっ･･･ん――和希･･･っ！」
和希のが俺の中に荒々しく入っては奥をこすりあげ、かき回していく。
あれだけ余裕ありげだった和希の言葉が少なくなったことからも、本当に今は余裕ないんだろうと思う。和希が自分の熱の解放のために腰を動かしているのがわかる。
俺は二度もイかされたけど和希はまだ一度も――だからそれは当然だろうと思うんだけど。
でも。
「はっ･･･かずき･･･っあっ･･･ああっ･･･んっ･･･」
だったら和希の荒々しい動きに合わせて、自分の腰が動くのを抑えられない俺はなんなんだろう。和希は今は意図して俺のいいところを突いているわけじゃないのに、自分で、身体の奥で和希を受け止めて感じてしまっている俺は。
目を開けて見上げれば、俺に感じて俺を欲している和希の顔が見え、俺はますます自分の身体が熱くなるのを感じた。
汗ばむ和希の後ろに澄んだ夜空が見える。そして和希は清冽な夜の空気の中で、感じているその表情すらも綺麗で、俺をますます虜にするんだ。
「･･････んっ」
「･･･っ･･･けいた･･･っ」
和希の動きがいっそう激しくなったかと思うと、やがて俺の中で和希が達した感覚があった。俺は身体の奥で、和希の欲望の証を受け止める。和希が俺を欲してそれでイってくれた証だと思うと、実際にはどうってことないことでも、なんとなく満たされたような気持ちになる。
荒い息をついて俺の上に倒れこんできた和希の身体を、俺はくすぐったいような心地で受け止めてその身体に両腕を回した。
「･･･啓太、ごめんな。無理させただろ？」
「大丈夫だよ。俺の身体はそんなにやわじゃないからさ」
「すっかり俺に開発されて慣れたし？」
「そういう意味じゃないけど」
俺がそう言うと和希はちょっと意味ありげな笑みを俺に向けた。
「･･･なんだよ、その顔」
「いや。今啓太、俺に抱かれながらすごく感じてたよなあと思ってさ。さっきイったばかりなのにな？ もっともっとってねだるようにひくついて俺に絡みついてくるから、もうほんとにくらくらしたよ。全部啓太に搾り取られるかと思った」
「なっ、なんだよそれっ！」
「でも実際そうだろ？」
和希が答えを追及するように、俺の顔をのぞいてくる。
そんなふうにじっと見つめられたら、俺にはとぼけることなんて無理で。
「･･･感じてたのは本当、だけど･･･でも絡みつくとか、そんなのは知らないよ･･･」
和希からちょっと目をそらしてそう言うと、和希が俺の上で大きく溜息をついたのが聞こえた。
「か、和希？」
「まったく。ほんとに今日の啓太はかわいすぎだぞ。本当に翻弄されまくって、今日は全部搾り取られるかもしれないな･･･」
「えっ、えっ!?」
なんでそんな話になるんだよ!?
俺が驚いて和希を見返すと、和希が、「今日の啓太は人を誘惑しすぎ」と言ってちょっと笑った。
ゆ、誘惑って･･･。
「俺を誘ったのは和希のほうだろ」
「啓太が最初に俺がほしいって言い出したんだろ？」
それは確かにその通りではあるんだけど。
「でも違うよ。今日は和希が俺を誘ってその気にさせたんだよ。和希の目が俺を誘って、俺の身体を熱くさせたから･･･だから･･･」
「だから外なんかで全部脱いで、俺の手を使ってイって、さらに自分で挿れて乱れましたって？ ほんとに大胆だったよなあ、今日の啓太は」
「そ、そう仕向けたのは和希だろ!?」
事実だけど改めて言われてみるとすごく恥ずかしい。
そう仕向けたのは和希だけど、でもその気になってのったのはどれも俺、なんだよな･･･。
後悔するわけじゃないけど、俺が今までしてきたことを思い出して顔を赤くしていると、和希からどこか淡々とした返事が返ってきた。
「そりゃあこんな機会めったにないからな。俺だけが啓太を求めてるんじゃなくて、啓太も俺と同じように俺をほしがってる。そのことが充分わかって俺は嬉しかったよ。啓太に意地悪もしたしちょっと無理させたと思うけど、今日はほんと、堪能させてもらいました」
俺は和希の背中に回した腕にぐっと力を入れた。
「･･････いつだってほんとは和希を求めてるよ」
「啓太？」
「ただいつもははっきりと言えないだけで･･･はっきり言ったら、和希が今日みたいに図に乗るのはわかってるから。でも俺だって普通にしたい気持ちはあるし、大好きな和希ならほんとはいつだって抱かれたいよ。和希が求めてくれたら俺だって嬉しいし、和希が俺で感じてくれたらもっと気持ちよくさせてあげたいって思うよ･･･」
そこまで言ってしまってから、俺ははっとして和希の顔を見返す。
和希は最初、ちょっと俺の言葉に驚いたふうだったんだけど、それからすごく嬉しそうに笑った。間近で見た和希の邪気のない笑顔に俺はつい見惚れてしまったんだけど、でもやっぱり和希は和希だった。
「つまりそれは、俺がしたいときには毎日でもかまわないってことだよな」
「心の奥にそういう気持ちを持ってるってだけで、毎日は却下」
「二日に一回は啓太から誘ってくれるとか、啓太が頑張ってくれるって宣言でもあるんだよな」
「だから言葉の綾っていうかさ･･･」
「啓太の身体はいつだって俺を求めて熱くなってるんだな。もしかして啓太は二十四時間俺とすることばかり考えてたりするのかな。授業中までそんなことを考えてもやもやしてるなんて、啓太･･･早く言ってくれれば、休み時間ごとにぬいてやったのにな」
「･･･それ、和希のことじゃないのか？」
俺が実際に口にした言葉とはいえ、案の定図に乗りはじめた和希に、俺はできるだけ冷たい返事を返す。
するとなにがおかしかったのか、和希が吹き出した。
「か、和希!?」
「じゃあ俺が啓太を抱きたくなったときは、啓太も俺と同じ気持ちなんだって思って、遠慮なく抱かせてもらうことにするよ。これは啓太も望んでいることなんだからってことでさ」
「･･････全部は否定しないけど、時と場所は選べよ和希･･･」
「なら、とりあえず今はそろそろ次にはいりたいんだけどいいかな。啓太だって、実はさっき感じたまま中途半端だもんな」
そう言いながら和希の手があやしげな手つきで俺の身体に触れてくる。
「和希っ」
「二日に一回はだめでも、今日の啓太は自分に素直で大胆な啓太なんだよな」
「――そうだよ」
和希の言葉に俺は頷いた。そして俺は、自分から和希のキスを求めた。
「だから今日は俺も素直になるから、和希も俺のこと気遣わなくていいよ。今度は俺が、和希の望むことをしてやるからさ･･･」
自分でもどうかしちゃったんじゃないかって思うくらいの言葉だったけど、今日はもうそれでもいいやっていう気になった。理性を溶かして、とことんまで快感だけを追うのも、たまにはいいかもしれない。
「俺の望むこと･･･。今日は啓太に、俺がしてほしいことたくさんしてもらったと思うけど、まだ欲張ってもいいんだ？」
「ん･･･いいよ」
和希の言葉に俺は頷く。
「今日は――今夜は特別だから」
月の下に立つ和希にほだされて。
和希の綺麗さに目を奪われて。
今日は和希の虜になった俺の負けだから、どこまでも和希の誘惑におちていくのもいいかもしれないって思ったんだ。
だってやっぱり、和希が嬉しいなら俺も嬉しいから。
俺が大好きな人のために、たまにはこんな夜があってもいいのかなって思ったんだ。
ＥＮＤ
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