人に見つからないように二人でこっそりとサーバー棟に向かった。こんなふうに二人でサーバー棟に行くのは初めてではないが、いつになっても啓太は慣れなかった。サーバー棟の中に入り理事長室に向かうときもどこか落ち着かない。 　一緒にいる相手が当の理事長だとしても、今の和希はベルリバティの制服を着ているのだから。 「･･･やっぱり何度ここに来ても緊張する･･･」 　和希がドアを開ける様子を見つめながら、啓太は自分の気持ちを正直に口にした。 「ん？　そうか？　ほら啓太開いたぞ」 「･･･なんか制服姿の和希と来ていると、入っちゃいけないところに二人で来てるみたいで罪悪感を感じて･･･」 「へえ？　でもそれもおいしいかもな。誰にも見つからないようにこんなとこにもぐりこんで二人でいかがわしいことをするっていうのも。すごく背徳的な気分になるだろ？」 　啓太を部屋の中に押し込めて鍵を閉めたあと、和希はすぐさまドアの前に立ち尽くす啓太の腰に腕を回した。 「は、背徳的って･･･」 「見つかったらこっぴどく叱られるところにもぐりこんで、生徒の俺たちがこんなことをしているんだもんな。こんなところでいやらしい気分になって感じちゃう生徒って、どうなんだろうな啓太？」 　言いながら、和希は啓太の顔に何度もキスをした。額やまぶたや頬や鼻の頭など、いろいろな場所に軽く唇を押し当てていく。 「か、和希。なんだよその言い方、まるで俺ばかり･･･っ」 「だってほんとにいやらしいのは啓太だろ？　いつもいつもこの部屋で制服を乱してさ」 「そんなの、和希がいつも脱がせるから･･･ん･･･っ」 　啓太が反論しようとすると、和希の唇が耳のふちに移ってきた。和希の舌で耳朶をゆるゆるとなぞられて、啓太の唇から思わず声がこぼれた。 「違う、啓太がいつも俺を誘うんだろ？　そんなに熱っぽい目で誘われたら、いくら真面目な生徒でもつい惑わされちゃうよな」 「な、なに言って」 「ほらな。お堅い生徒でも啓太の前にいたらこんなふうにネクタイをゆるめて脱がしたくなる･･･その奥にある肌が見たくてさ」 　和希は喋りながら耳を甘噛みしたり舌を絡ませてくる。それだけで耳が弱い啓太の熱は煽られていった。故意に首筋をくすぐりながらゆっくりとネクタイをほどいていく和希の指すら、啓太の鼓動を早める。啓太は和希の行動を制限したくて和希の体を軽く押しやったり、非難を込めて制服のジャケットを握りこむが、それらはただ和希の気持ちを煽っただけに過ぎなかった。 「和希のどこが堅いんだよ――ってここ、まだドアのまん前だろ。和希、もうちょっと奥に行こうって」 「奥？　なんだ、啓太はせっかちだなあ。あとでちゃんと啓太の奥にも行ってやるって」 「オヤジくさい発言するなよ和希っ。だからいくらなんでもドアの前っていうのは･･･」 「たまにはいいだろ？　入ってすぐっていうのも。それだけお互い我慢がきかないケダモノみたいでさ」 「我慢がきかないのは和希だろ!?　だ、だからこんなとこでして外に声がもれたらどうするんだよっ」 「啓太が声を抑えればいいんだろ。それ以前に滅多に人が来るとこじゃないしさ」 　そう言って和希はどんどん啓太の肌を露にしていく。シャツのボタンを三つほどはずし啓太の首筋をあらわにしてから、外側のジャケットに手をかけた。和希の唇が今度はそのはだけた首筋に移り、軽く吸われて啓太の足元が揺れた。姿勢を保っていられなくてバランスをくずすと、啓太の背中が後ろにあったドアにぶつかった。そして本当にここはドアのまん前だと認識する。 　啓太は場所を移さないとと考えるが和希はしっかりもうその気になっていて、啓太の腰からもう片方の手も離しどんどん啓太の服を脱がしにかかっていた。 「ほら･･･生徒は立ち入り禁止の理事長室なんかで、こんな格好をしているのは啓太だろ？」 　ジャケットのボタンもシャツのボタンもすべてはずされ、素肌をさらされた状態にされたあとで和希が小さな声で呟いた。啓太の肌を熱っぽく見つめながら、片手でその肌をなぞりあげていく。 「だから和希が脱がせたからだろ！　ったく、本当にこんなとこでする気かよ和希。もっと奥に机とかソファとか床とか、もっとや･･･や、りやすい場所があるだろ？」 「床ならここにもあるぞ？　っていうか･･･移動する時間も手間も惜しい。悪いな啓太」 「たかが数メートルの距離だろ!?」 「待てない」 「･･････っあ、和･･･っ」 　啓太の肌に触れていた手が、啓太の胸にかかった。またもう片方の胸はしゃがみこんだ和希の唇にいきなり含まれて、啓太は自分でも一瞬混乱してしまったほどの甘い刺激を感じた。唐突な刺激に、啓太の背がいくらかしなる。 　和希の指が啓太の胸の突起をひっかき、あるいは押しつぶす。またもう一方は舌や唇で啓太のそこを気ままに弄んだ。 　啓太は自分がだんだん文句も言えないほどその気にさせられているのを感じていた。もっと別のところで、と思う気持ちもあるのに、背中に当たるドアの固さに現実感と羞恥心が刺激され、いっそう身体が反応してしまう。 「は･･･んっ･･･」 「なんだ、啓太だって人のこと言えないだろ。しっかりその気になっているくせにさ」 　和希が啓太の胸の突起を唇で弄びながら、かすかな笑いをにじませて言った。啓太に密着している分啓太のそこがズボンを押し上げはじめているのは明白で、その様子は和希を楽しませた。指摘されて慌てて腰を引こうとする仕草さえ愛しく思う。 「･･･啓太、自分で気づいてたか？　啓太って部屋でするときよりここでするほうがかなり燃えるってこと。三割増しぐらい感じやすくなっているみたいでさ、すごく反応がいいんだよな。それはやっぱりここが最初の場所だからかな。それとも、緊張して罪悪感を感じる分燃えるのか･･･どっちなんだろうな？」 「こ、ここだと和希が三割増しぐらいサカってるから、そう感じるだけだろっ･･･!?」 　和希の指や唇や舌から与えられる刺激に甘い息をこぼしながらも、啓太が懸命に言葉を次いだ。 　啓太の言葉になるほどと同意し、和希はそのあとで「やっぱり背徳的な分、気持ちが増すのかな」と呟いた。 　実際和希も、ここでの情事が背徳的なものであることは百も承知だった。 　自分が理事長を務めている学園の生徒を理事長室に連れ込んで抱く――どんな事情や背景があろうと、世間から見た事実は揺り動かせない。 　啓太はときおり失念しているようだが、この関係はフィフティのようでフィフティではないのだ。どう見ても悪い大人が純真な少年を手篭めにしている構図――。 「啓太･･･」 　啓太の肌に唇を滑らせながら、和希の右手は啓太の下腹部に向かって降りていく。 　これは恋愛感情だからと自分を納得させようとしても、どこかで罪の意識も疼いている。それでもそれを押し込めて求めてしまうほどに、自分が恥知らずで貪欲なのは和希も自覚していた。 「･･････っ」 　啓太のその部分に手を押し当てる。それだけで啓太の身体がかすかに震えた。じわりと手を動かすと、啓太の手が和希の制服のジャケットを強く握り締めてきた。 　和希はそのまま腰を落とし、床に膝をついた。そうして屈みこんで、目の前のふくらみにズボンの上からくちづけた。 「！　和･･･っ！　か、和希っ！」 　顔を真っ赤にさせて、啓太が慌てて和希の頭を自分から引き離そうと押しやる。 　和希の行動はあまりにも突飛過ぎて、上から見下ろしていた啓太のほうが慌ててしまった。 「なんだよ？」 「な、なに恥ずかしいことしてるんだよ！　どっどこにキスして･･･っ」 「顔が真っ赤だぞ、啓太。なに恥ずかしがってんだよ。もっと恥ずかしいこともしてるのにいまさらだろ？」 「それはそうだけど、それもかなり恥ずかしいって！　直接触るならわかるけど、なんでいきなりキスしてるんだよ!?」 「ああ、啓太は触ってほしかったんだ？　俺の指に直接」 「誰もそんなこと言ってないだろ!?」 　目だけをあげて楽しそうに言う和希に、啓太はムキになって反論した。 　本当に触ってほしいなんて期待していたわけじゃない。ただ覚悟はしていたのだ。そろそろくる、と思っていたのに。 「啓太も好きだけど、啓太のここも好きだなあと思ってさ」 　そう言って再びそこにくちづける。故意か偶然か、過敏に反応する箇所に近いところを刺激されてそこから鈍い快感が広がった。刺激的にはさほど強くなくても、和希に自分のそこにキスされているというだけでたまらないほどの恥ずかしさを感じた。もっと脱がされて感じさせられているときだったらこれ以上の恥ずかしいこともいろいろされたけれど、そのときは気分も高まり半ば意識も飛んでいて、これほど恥ずかしいとは感じなかったように思う。 　和希の唇がそこから離れたかと思うと、今度は指が啓太のズボンのバックルをはずしていた。ホックもはずされたあと、和希がファスナーの金具を口にくわえる。そのまま和希の口によってファスナーがおろされていった。 「――っ」 　啓太はあまりの恥ずかしさに困り果てながらもそれを見ているしかなかった。ファスナーをおろされて本格的にされるんだと思うよりも先に、和希の行動自体がたまらなかった。中途半端に煽られたまま上半身は肌をさらされ、下半身は今ゆっくりと露にされようとしている。自分はドアの前に寄りかかっていて、その前で膝をついている和希。下から見上げてくる和希の視線は確かに大人の男のもので、普段は感じない怖さのようなものもときおり垣間見せる。 　普通に抱き合ってキスして、そのままベッドに倒れこんではじまるいつものやり方とは全然違う気がした。それはやっぱりこの部屋だから、和希がなんとなく『さかっている』ように思う。 　さかっていたとしても――がっついてそのまま強引に力で、というやり方をしないあたり、啓太には今の和希がものすごくたちが悪いように思えた。 （待てないって･･･本当は全然待てるけど、ただあんなこと言ってここでして･･･和希が俺を追いつめたいだけなんじゃないのかな･･･） 　そんなことを思った啓太だったが、下ろされたファスナーの奥から自分自身を引き出されるとさすがに思考がストップした。 　和希の目の前に、引き出されて。 「見るなよっ」 　咄嗟に両手を伸ばして啓太は和希の目を覆い隠した。ただ見られるだけならまだしも、この体勢ではどんなふうに見られているのかまで、いやでも自分の視界に入ってくるのだ。 　和希にどんなふうに見られているか、意識せずにはいられなくなる――。 「しっかり反応して、濡れてたよな啓太。･･･痛っ」 「うるさいっ。それ以上変なこと言ったらもっと強く髪を引っ張るからなっ」 「だってほんとのことだろ」 「･･･っ」 　啓太は再び和希の髪を引っ張ろうとしたが、その手が和希の手に捕らえられた。もう一方の、和希の目を覆っていた手も和希の手によってはずされる。 「まあそれはいいけどさ。で･･･啓太は俺にこれからどうしてほしい？」 「え･･･」 「指がいい？　それともこのまま口でしてやろうか？」 　啓太の手を両手とも捕らえたまま、和希が口元に笑みを浮かべて聞いてきた。 「――こっ、このままなにもしないのがいい」 「それは却下。そのまま立ってろよ啓太。けっこういい眺めだからさ」 　それから和希は啓太の手を解放すると、その手でズボンの奥から引き出した啓太自身を支え持った。それに顔を近づけて口を開く。 　和希の唇から赤い舌がのぞいたとき、それが触れてくる前に啓太の身体がずくんと反応した。 「ちょ、待･･･ぁ、あっ、和希･･･っ！」 　そのあとですぐに濡れた舌がそこを滑り、啓太はたちまち強い快感に襲われた。慌てて和希の髪に手を差し込むが、それだけでは和希を引き離すことなどできなかった。 「んっ･･･っ･･･」 　舌をひらめかせ、啓太の敏感な部分を丹念に舐めとっていく。そうしている間にも和希の片手はゆっくりと啓太のズボンと下着を下ろしていった。 　ズボンの生地が足にこすれる感覚や和希の手が触れてくるだけで、啓太としてはたまらなくなる。雑に同じことをされればこんなに感じたりはしないのに、和希は故意にこちらを煽り立てるように触れる手に強弱をつけたり、啓太自身を握る手を絞ってきたりするのだ。 「か、和希･･･っ」 　強い快感に、足が震えて膝が崩れそうになった。和希にされることはなんでも弱くなってしまう啓太だったが、とくにこれは和希が啓太の弱い部分を的確についてくるからすぐに達きそうになってしまう。 「俺･･･っ」 「ん･･･こらえろよ啓太。もっともっとよくしてやるからさ。こっちも･･･」 　熱を帯びてかすれた和希の声に、啓太の体がさらに熱くなった。 　そして和希の手が肉の薄い啓太の双丘に回り、さらりと撫でていく。和希の指先が、意思を持って双丘の割れ目を辿った。 「――や、それまでされたらだめだって･･･っ！！」 　啓太はたまらなくなって和希の頭を押しやり、その場に強引に座り込んだ。背後に回っていた和希の手も自然にはずされる。 「･･･ぁ････はぁ･･･」 「･･････」 　自分自身を抱きしめるように両腕を回した啓太が、敷いてあるじゅうたんの上に座り込んだまま荒い息を整える。これまで見上げていた啓太がいきなり座り込んで自分と目線があったことで、和希はその顔をまじまじと見てつい吹き出してしまった。 「なんだよ、和希」 「いや。啓太は相変らずかわいいなあと思ってさ。俺、もっと立ってろって言っただろ。そのほうがよくなるからって」 「そんなの知らないよ。だいたい、お、俺ばかり恥ずかしいことさせるなんて和希はずるい」 「ああ、啓太はもっと違うこともしてほしかったんだ」 「そんなこと言ってないだろ!?」 「啓太が恥ずかしいとか感じなくなるくらい、うーんと気持ちよくして夢中にさせればいいんだろ？」 　座り込んだ啓太に両腕をまわし、和希はその頬にくちづけた。 「う･･･それもあるけど、それだけじゃなくて、和希も夢中になんなきゃずるいだろ？」 「俺はとっくに啓太に夢中になってるけどな」 「俺だって和希に･･･って、今はそういう意味じゃなくてっ」 「わかってるって。じゃあ啓太の足に引っかかってるこの邪魔なのとろうな」 「･･･和希の服だって俺にすれば邪魔だぞ。ちゃんと、直接和希のぬくもりに触れたいのにさ･･･」 　啓太はそう言うと、和希の襟元に手を伸ばした。まだきっちりと締められたままのネクタイをほどいていく。 　ネクタイがほどけると、今度はシャツやジャケットのボタンをはずしはじめた。その間、啓太のするがままに任せて和希はその様子を黙って眺めていた。 　和希のシャツのボタンをすべてはずし終えると、啓太は一つ息をついてそのシャツをはだけた。それから吸い寄せられるように、両腕を伸ばして和希の裸の胸に抱きつく。 　思えばこうして和希と肌を重ねるのは数日振りなのだ。昨夜や今朝は自分が和希を避けていて、このぬくもりに触れることはなかった。 　――やっぱり和希が好きだと強く実感する。和希のさまざまな面を見せられるたびに、自分は和希に何度も惚れ直しているのだと思う。 　もう好きすぎて、言葉だけじゃ足りないくらいに。 「･･･啓太？」 「ほんとに、俺だけ恥ずかしいのはいやなんだからな。俺が恥ずかしいなんて感じなくなるくらい･･･そして和希もその余裕をなくすくらい、俺に夢中になって･･･」 「――余裕なんて、俺にあるわけないだろ。とっくに啓太にまいっているんだからさ」 　そう言って、和希は啓太の体をゆっくりとその場に押し倒した。