じゅうたんの上で和希と肌を重ねる。 　今いる場所が理事長室のドアのそばだとか、声が廊下にもれてしまうとか、そんなのはとっくに啓太の頭の中から飛んでいた。ただ和希に身を任せて高まる快感に夢中になる。 「ん･･･あっ、和希････っ。ふっ･･･」 　無意識に自分の指の関節を口に含み、啓太が甘い吐息をこぼす。 　横になってからは簡単にズボンも下着も取り去られ、さらに和希の手と体によって両膝を割られていた。 　一度解放を許された啓太のそこが再び熱を持ちはじめ、和希のズボンと密着している部分にこすれていっそう先端を濡らしていく。 「気持ちいい？　啓太･･･」 「･･･そ、んなの、言わな･･････あ、ぁっ･･･」 「ん･･･今の啓太、すごくいい顔してる。そんな啓太見てたら、俺も･･･たまらなくなるよ」 「･･････っ」 　目を閉じて、口に含んでいないほうの手を伸ばして和希の肩口をつかむ啓太の表情に、実際和希も自分がだんだん追いつめられていくのがわかる。何度肌を重ねても飽きることなく満足することもなく、飢餓感が自分を支配する。 　――ときおり、こんなに激しく求めているのは自分だけではないかという不安に襲われるときもある。 　啓太の心を信じている一方で、たとえばこんなふうに優しく快感を与える相手なら、啓太に必要とされているのはなにも自分に限っていないのかもしれないと。 　他の世界を知らないから身近にいる人間で満足する。 　閉鎖された場所だからとりあえず自分の性欲を満たしてくれる相手に夢中になる。 　もっと広い世界を見て多くの人間と知り合ったら、啓太はもっと違う人間に惚れるかもしれない――。 　今の啓太を信じていないわけじゃない。ただ失うのを恐れるあまり、そんな不安に苛まれるときがあるのだ。 　実際今の啓太は他の世界を知らない。もっと広い世界を知ってさらに生き生きと輝く啓太を見てみたいと思う一方で、このまま自分の腕の中の世界だけを見せたまま閉じ込めてしまいたいとも思う。 　我ながら本当に歪んでいる発想だと、和希は啓太の肌を唇でなぞりながら自嘲的な笑みを浮かべた。それでもここで何もしないで本当に啓太を失ってしまうよりはましだと思っているから、いまさら更正のしようがないのだ。 「･･･啓太･･･」 　吐息まじりに熱く囁いて、それから和希は少し自分の体を起こした。啓太の左足に手をかけ、膝からゆっくりと唇をおろしていく。一方で膝裏に回した指先をじんわりと滑らせ、もう片方の手では啓太の足の指の間や付け根を辿らせていった。 「･･･あっ、和希･･･っ!?」 「――」 「なんでいきなりそんなとこなんか舐めるんだよ。なにしてんだよ和希･･･っ」 「感じる、啓太？」 「･･････べ、別に感じたりなんかしてない･･･」 　啓太からはそんな言葉が返ってきたが、指や唇で愛撫するたび啓太の身体がぴくりと反応しているのは和希には簡単にわかった。 「感じてるみたいだな」 「か、感じてないって」 「じゃあこっちは？」 「･･･っや、別になんでもない･･･から、やめろって･･･」 「そのわりには息が乱れてるみたいだけどな、啓太」 「･･････っ」 　図星をさされて顔を赤らめた啓太の表情を見て、和希はしばらく前の出来事を思い出す。同じように啓太と身体を重ねたときのことを。 　あのとき、今と同じことをした和希に啓太は。 『･･･ぷっ、な、なにすんだよ和希。くすぐったいってっ』 『･･･そこで笑うなよ啓太』 『だって本当にくすぐったいんだって。いきなり笑わせるなよ･･･く、くくっ･･･』 「･･････ふうん」 　和希の口元に笑みが浮かんだ。 「なんだよ和希･･･」 「いや、いい傾向だと思ってさ」 「い、いい傾向って･･･」 「先が楽しみだってことだよ。これ以上は啓太が怒るから言わないけどな」 　そう言って、和希はさらに啓太の足への愛撫を続けた。 　以前くすぐったがっていた箇所に感じている啓太。 　そんなふうにもっともっと感じやすくなればいいと思う。自分の手によって、いろいろな箇所がどんどん開発されていけばいいと。 　――啓太が外の広い世界を見ても、そのときに啓太の身体が自分なしではいられないようになっていたら。 　他を見たくてももう身体が自分を覚えて離れられなくなっていたとしたら――身体でも啓太をつなぎとめることができたらいいと思う。 　ずるくてきたない考えなのは熟知していた。それでも、そんなふうに大人の狡猾さを利用してでも束縛したいと思う。 「･･･は、和希･･･。なんか、今日いつもより･･･んっ･･･あぁっ･･･」 「･･･いつもより？」 「･･････和希が･･･しつこくて･･･えろい･･･」 「･･･なんだよそれ」 　憮然としてそう言った和希を下から見上げて、それでも啓太は前言を取り消さなかった。 「だって･･･ほ･･･んとのこと、だろ･･･」 「･･･啓太に避けられて傷ついていたから、その分抑えがきかないだけだろ」 「う、それはごめん･･･。で、でも和希、俺が避けてたのに気づかなかったんだろ？」 「気づいてなくてもショックなことには変わりないって」 　そんなふうに啓太の罪悪感を揺さぶりながら、和希は思いのままに啓太を抱いていく。 　足から啓太のもっとも敏感なところに手を移し、そこを握りこんで鈍い圧力を加えながら啓太の身体をうつぶせにした。 　握りこんだ啓太自身をときおり上下に扱きながら、啓太の両膝を立たせて腰だけを上げさせる。 「は･･･ぁ･･･あ･･･っ」 　せつなそうに甘い声を漏らす啓太の様子を目で楽しみながら、和希は啓太の腿の内側を撫で上げる。そして汗ばんだ背中に幾度もくちづけを落とし、今日はまだ触れていなかった啓太の双丘の奥に指を這わせた。 「ん･･･っ」 　それだけで快感を拾った啓太の身体がわずかに震える。和希はそこをほぐすべく、ゆっくりと指を動かしはじめた。 「啓太･･･」 　これまで何度も抱いて、その甘い身体を堪能しているけれど。それでもいつもそこで満足することなく、もっと乱れさせたいと思ってしまう。まだ幼いともいえるこの体に強い快感を教え込むのがいいこととは思わないものの、それでも自分は啓太に関してだけは弱くてずるくて、わがままになるから。 　和希は啓太のそこがだんだんほぐれてきたのを見計らって、それまで焦らすような刺激しか与えてこなかった屹立する啓太自身をいくらか強く握りこんだ。 「あっ、なに･･･っ」 　根元をしぼりながらも、指先だけは微細な動きで啓太自身の裏側やくびれの部分などをくすぐっていく。またその動きと連動して、啓太の後ろを責める指先にも力を込めた。 「え、ちょ･･･っ･･･んんっ･･･か、和希･･･っ！」 　途端に啓太の身体にこれまで以上の甘い快感が走った。一瞬なにが起きたのかわからないほど意識がもっていかれそうになる。 「和希、ちょっとそれな･･･あっ･･･んんっ･･･」 　背中を強烈に這いのぼる快感に啓太の口から抑えきれない声がこぼれる。さきほど和希に追い上げられて一度吐精した啓太自身は、すでに次の吐精を待って和希の指先を濡らしていた。 「や･･･あぁ･･･んっ･･･」 　身体の中には強い嵐のように快感があふれているのに啓太自身を握りこむ和希の手はゆるむことがなくて、啓太はなすすべもなく床に敷いてあるじゅうたんに爪を立てた。 「･･･あ、啓太にはこういうのやっぱりまだ早かったよな･･･。ごめんな、啓太･･･」 　和希の気遣わしげな声とともに、ふっと和希の両手から力が抜けた。 「･･････はぁ･･･」 「んー･･･じゃあ啓太に合わせてもう少しお子様用に抑えてやるから」 　自分を追い立てる強烈な快感から解放されて安堵し、少しずつ息を整えている啓太の耳にそんな和希の声が聞こえた。 「――」 　意識を半分別の場所に飛ばしかけていた啓太だったが、和希の��お子様用�≠ﾌ一言にはっきりと覚醒する。 　和希はこちらを気遣ってくれているのかもしれないが。 「そんなの必要ないっ」 　首をひねって和希のほうを見やり、啓太は怒ったように声をあげた。 「え、でもな」 「俺は別に子供じゃない！　だから和希がそんなふうに気を回すことないんだからなっ」 「啓太･･･。――そうだよな、啓太はもう子供じゃないよな？」 　和希の目が一瞬きらりと光った気がした。 「――え、か、和希･･･？」 　なんとなくやばいことを言ってしまったようで、ひきつった声で和希の名前を呼んだ啓太に。 「子供扱いして悪かったよ啓太。そうだよな、ちゃんと一人前に扱わないと失礼だよな」 　和希はそう言って、愉しげな笑みを浮かべてみせたのだった。 「んー･･･和希っ、もうっ･･･っ」 　自分を翻弄する快感の嵐をどうにかやり過ごそうとして、啓太はじゅうたんを何度も引っかいた。それでも和希の指の動きは止まらなくて、またその一方で堰き止める手をゆるめてもくれないのだ。 「子供じゃないんだからもうちょっと我慢。な、啓太」 「〜〜〜〜〜っ！」 　心の中で思わず和希のことを罵倒してしまう。 　あまりにも気持ちよすぎて、あまりにもつらすぎて、啓太の目は自然に潤んできてしまっていた。啓太の弱い部分を責める指以外にも、和希の唇や肌にかかる吐息ですら啓太を追いつめていく。それほどに今の啓太の身体は全身が性感帯と化していた。 「･･･っ･･･あぁっ･･･ん･･･も、もうっ･･･俺だめっ･･･ほんとに、和、希･･･っ！」 「ん、もうちょっと･･･。――すごく･･･よくしてやるから･･･」 　つらそうな声をあげる啓太に謝罪の気持ちを乗せてそう答え、和希は啓太をさらなる高みに昇らせるべく手を加えていった。 　そして快感にしなる背中に、ぽつりと小さな呟きを落とす。 「･･････ごめんな。こんな手段に頼るような弱い大人で･･･」 　それは明確な声にはならず、ゆえに身体の中の嵐に耐えている啓太の耳には届かなかった。 　――が。 「･･･痛っ。啓太!?」 　啓太自身を堰き止めていた和希の手が啓太にいきなりつねられた。和希は慌ててその手を引っ込める。啓太の背後を責めていた指も引き抜いて、啓太の表情を確認しようとする。啓太をいじめすぎて、怒らせてしまったのかと心配したのだ。 　和希の手が離れたことで、啓太は身体の向きを変えた。涙で潤んだ目が、きつく和希のことを睨んでいた。 「け･･･啓太･･･」 「もう･･･っ和希のばか」 　仰向けになったあとで、啓太は和希を見上げてそう言った。そのあとで両手を伸ばし、ぎゅうっと力強く和希の首にしがみついた。 　そして甘い吐息が混じった声で言い募る。 「･･･も、俺、和希がほしい。我慢できない、から･･･っ」 「啓太･･･」 　抱きついてきた啓太の腕から少しだけ力が抜けたかと思うと、次の瞬間、和希は啓太によって唇を奪われていた。 「――!?」 「ん･･･っ」 　啓太の誘う意思が充分込められた深いくちづけに、頭の芯がくらくらする。その甘さと心地よさに、酩酊状態に陥りそうなほどだった。 「･･･はぁ･･･。和希のばか･･･。俺に、そう言わせたかったんだろ？」 「え、いやそんなことも･･･」 　和希の言葉の途中で、啓太が再び腕に力を入れて抱きついてきた。 　そして和希に頭を摺り寄せて、啓太が自分の望みを口にする。 「今、めちゃめちゃ和希がほしい･･･っ。も、早く、きて･･･っ」 「――」 　啓太はただ快感に煽られて、それで自分を求めているに過ぎない。ある意味、自分の作戦が功を奏しただけとも言える。 　だがそれでも、和希は一瞬錯覚した。啓太に強く求められていることで、まるでこんな自分でも許されているかのようで。 「ん･･･俺も、もう限界･･･」 　抱きついてきた啓太の身体を改めてゆっくりと押し倒し、和希はその足を掲げるべく手をかけた。 　啓太の両足をさらに開き、片手で慌しくズボンのファスナーを下ろし自分の準備をする。啓太を焦らしながら自分自身をも追いつめていた和希の理性は本当に限界を超えていて、一度解放したらあとはもう止まりそうになかった。 　目の前に必死に自分を求める啓太がいて、その身体は充分にほぐされて全身で誘っているのだ。 　自分の小手先の技巧なんか笑い飛ばすかのように、啓太の方こそ身体でも自分を捕らえているのかもしれない――啓太と繋がる瞬間、和希の脳裏にそんな思いがよぎった。 「あっ･･･ああっ･･･和希････っ」 　欲望のまま啓太の中に押し入ると、わずかに身体を痙攣させた啓太が和希の首にまわした手に力を込めた。 　自分自身が啓太に包まれた途端、和希はすぐに動き出したい衝動を意思の力でどうにかねじ伏せる。挿入に喘ぐ啓太の呼吸がいくらか落ち着くのを待ってから、さらに深く腰を進めた。 「･･･ひぁ･･･っあっ･･････あぁっ･･････っ！」 　啓太の奥を激しく突くたびに啓太の唇から抑えきれない嬌声が零れ落ちる。無意識に収縮する啓太の中はあまりにも熱くあまりにも甘くて、そのまま意識がさらわれてしまいそうだった。 　つまらない思惑も悩みも、この快感の前では霧散してしまう。 　和希は自分を取り込む甘さに溺れながらも、自分の身体の下で息づくこの世で一番大切な少年を優しく抱きしめた。