「ん･･･っ」 和希からされた激しいくちづけで少し息が苦しくなっても、口の中を巧みに犯すキスの甘さに頭がくらくらしても、啓太は自分からは身を引く気はなかった。やがて和希の唇が啓太の顎のラインを滑り首筋や鎖骨に降りてきても、和希のキスを嬉しいと思いこそすれ、いやだとはまったく思わなかった。 肌を辿る和希の唇の感触を優しいと感じる。高まる熱に思わずこぼした吐息はすでに甘く、これから先のことを期待しているかのようで啓太は自分自身に恥ずかしさを覚えた。 和希の腕が啓太の腰に回り、啓太の身体を支える。だが、それと同時に和希の唇が啓太から離れた。指が、啓太のパジャマのボタンをはずすわけでもなく。他の箇所に唇を寄せるわけでもなく。 「･･････え？ 和希？」 啓太はキスの間閉じていた目を開けて和希を見た。 「ごめんな。啓太にすごく嬉しいことを言われて思わず暴走しちゃったな」 和希が、啓太の濡れた唇を自分の親指でぬぐう。それから啓太の身体を支えていた腕を解いた。 「でも啓太と久しぶりに何度もキスできて嬉しかったよ。やっぱり啓太に飢えてたんだなってつくづく実感した」 「ちょ、ちょっと待てよ和希」 「ん？ どうかしたのか啓太。啓太は･･･いやだったとか？」 「そうじゃなくて。あの、さ･･･」 「？ 啓太？」 「･･････」 和希は故意に自分を試しているんじゃないかと思い、啓太は黙って和希の顔を見上げる。だがそこには啓太のことをからかっている様子はまったくなかった。 啓太は気恥ずかしさを押し隠しながらも、和希の服の袖を引っ張った。 「･･････か、和希」 「ん？」 「･･････つ、続き」 「･･････」 「俺、和希と、今のキスの続きが･･･したい･･･」 「･･････続きって･･･」 和希の声に、啓太は勇気を振り絞った。和希の目を見て、自分の今の気持ちをはっきりと伝える。 「だから、今ここで和希に抱かれたい」 「――」 啓太は再びすぐに和希に抱きしめられた。 だが「違う」と、啓太は抱きしめられた瞬間にわかった。これは先ほどのキスのときとは違う。単なる親愛の抱擁。 「ありがとう、啓太。そう言ってくれるのはすごく嬉しいよ。でも、ここは病院だからな」 「それはわかってるよ。だけどうちの家族はさっき帰ったばかりだからしばらくは来ない。それに医者や看護士だって今は来ない。だからっ」 「でも啓太は病人だろ。いくら俺だって、啓太のことが好き過ぎて啓太にずっと触れたくたって、それくらい我慢できるよ。･･･これ以上俺のせいで啓太の身体に負担をかけたくないしな」 「負担なんかじゃない。俺が今、和希を求めているんだ。和希がここに来なくなってから、俺は和希に会えなくてずっと寂しかった。和希に会いたくて、何度も和希の夢を見た。だから今、和希がちゃんとここにいるって、俺のそばに本当にいるんだって身体で実感したいんだ」 「でもな･･････」 困ったように和希がそう呟いたのを聞いて、啓太は慌てて和希から身を離した。頭の中で瞬間的にひらめいたことがあった。 「あっ、ごめん。今の俺にこんなこと言われても和希、迷惑だよな。俺、入院してからずっと毎日シャワー浴びているわけじゃないし、一日中パジャマばかり着て汗だってかいてるし、はっきり言って今の俺汗くさ･･･」 「馬鹿、そんなこと関係ないよ」 身を離した啓太を、和希の両腕が自分のほうへ強く引き寄せた。 「そんな理由じゃない。俺だって、啓太の身体が完全に健康なら啓太のことを抱きたいよ。でも今は･･･」 「和希が俺の汗の匂いとかそんなの平気だって言うなら、俺はやっぱり今和希に抱かれたいよ。俺の身体のことなら気にしなくていい。だって俺は、和希が作ってくれたワクチンのおかげでもうすっかり元気なんだからさ」 「･･････本当にしたいんだな、啓太･･････。それって、要するにただ啓太が入院生活でたくさんたまっているってだけの話じゃないのか。病院だと後ろめたくて、一人で抜くこともできなかったとか？」 「うん、きっとそうなんだろうな。俺の中で和希を好きな気持ちがたまりすぎて、きっとものすごく欲求不満なんだ。そしてこの不満を解消してくれるのは、おまえしかいないんだ。だから･･････俺のわがままにつきあってくれよ和希」 啓太を諦めさせるために故意にからかうように言った言葉をそのまま返され、和希は大きなため息をついた。そのあとで啓太の額に、こつんと自分の額をあてる。 もう一度小さくため息。そして。 「――仕方ないな。ほんとに今日の啓太はわがままだぞ」 「だって和希が俺をずっと放っておいたからこんなわがままになったんだろ。和希が足りなくて飢えてるんだ」 「･･･啓太･･･殺し文句言い過ぎ。そんなことばっか言われたら、本当にセーブがきかなくなるだろ。さっきから俺の頭の中が沸騰しそうで困る･･･」 「じゃあもっと熱くなっておかしくなればいいよ。･･････俺も、おかしくして」 啓太は和希の背中に腕を回し、その腕に力を込めた。 「――」 腕の中の和希が急に身を屈めた――と思った途端、啓太の身体がふわりと浮き上がった。 「えっ!? 和希!?」 身を屈めた和希が啓太の膝裏に腕を差し込み、啓太を抱き上げる。 「このまま、ベッドに運ぶだけだよ」 「歩けるって。俺自分で歩けるから！」 「いいんだ。今は俺に運ばせてくれよ」 そう言って和希は抱き上げた啓太をベッドまで運んだ。ベッドの上にゆっくり下ろしたあと、啓太の顔を見つめたままささやく。 「今日の啓太は病人だからな。いつも以上に優しくするよ」 「･･････優しくする、なんて、なんか和希らしくないかも」 「言ったな。俺はいつも優しいだろ」 「そういうことにしておいてやるよ」 悪戯っぽく笑って、啓太は両手を和希の首に回した。啓太の腕に引き寄せられるように、啓太の身体に上半身を預けた和希が、啓太の首筋に顔を埋める。その一方で和希の手は啓太のパジャマのボタンをはずしていった。 「･･･んっ･･･」 日はまだ高く、暗くなるまでにはまだだいぶある。窓から差し込む光は明るく、それだけにだんだんはだけられていく胸もこれから触れられていくであろう下腹部も、なにもかもが日の光に晒される。いつもならせめて布団で隠してその中でと主張するところだが、今の啓太にはそんなことどうでもよかった。和希に見られても自分がどんな状態でも、今は和希に触れられているだけで嬉しい。 「あ、和希･･･」 和希の手が自分の肌を優しく撫でていく。久々に触れるその手が気持ちいい。ただ撫でられているだけで身体がすぐに熱くなっていくのが自分でもわかる。 「気持ちいい、啓太？」 「う･･･ん、気持ちいい･･･」 「今日の啓太はほんと、素直だな。いつもそれぐらい素直になって、大胆に俺を誘ってくれると嬉しいんだけどな」 少し笑って、和希が啓太の胸元に唇を滑らす。指が啓太の胸の突起に触れ、いくらか力を込めて押しつぶした。 「あ･･･っ！」 優しい愛撫の中で突然強い力で胸を刺激されて、啓太が甘い声をあげる。和希に抱かれ慣れている身体であっても、久しぶりに与えられる刺激は普段以上の甘さを啓太に与えた。反応した啓太を追い詰めるように、和希の指が故意にそこにばかり触れてくる。 「ん･･･くっ･･･あぁ･･･」 「――啓太、感じるのはいいけど、少し声は気をつけたほうがいいかもな。俺はもっと鳴かせたいけど、廊下に聞こえたらまずいもんな」 「･･･ん･･･」 熱に浮かされた啓太が頷いた途端、今まで刺激されていたのと反対側の胸の突起が和希の唇に含まれた。緩く甘噛みされて、啓太の身体が快感に震える。 「っあ、和希･･･っ」 「だから、声。啓太のいい声に誘われて、人が来ちゃうかもしれないだろ」 舌を這わせながら和希が笑う。 「･･･っだったら、もう少し、加減･･･」 「それは無理だよ。啓太にあんなふうに誘われたら俺のほうは加減できるわけないだろ。第一、『おかしくして』なんてかわいいことを言ったのは啓太だろ」 「はっ･･･あ、だけど、和希、優しくするって･･･」 「優しく、してるだろ。啓太をこんなにゆっくりと気持ちよくさせてやってる･･･」 「んっ･･･っ」 和希から与えられる快感に身体をしならせながらも、啓太は懸命に声を抑えようと唇を噛んだ。その気がなかった和希にわがままをぶつけて強引にこの状況にもってきたのは自分だが、病室を訪れる人間のことは考えても、声のことまではまったく考えていなかった。言われてみるとその通りで、いくらここに人が来なくても、廊下にまで声が漏れてしまったらその声を訝しんだ人間がここに入ってきてしまうだろう。 そしてそういう状況を利用して、故意に人を追い詰めて楽しむのが和希だということも失念していた。 「は･･･っ」 和希の唇や手が啓太の胸からゆっくりと下におりていく。啓太は肌に触れる和希の髪がくすぐったくて、和希の頭に手を置いた。和希はいまだ啓太には上半身しか預けていない。病院のベッドに二人で乗ることの強度やベッドが軋む音を心配したというよりは、やはり自分の身体を気遣ってのことだろうと啓太は察する。言葉や愛撫でからかいながらも、確かに今日の和希は優しいと感じた。 「･･････やっぱり、少し痩せたな･･･」 「･･････え？」 啓太に触れていた手を止めて、和希がふと呟いた。 「入院する前より、胸が薄い。ここのラインとか、啓太、ほんとに痩せたよな」 それから和希は啓太の腕を掴んで自分のほうに引き寄せた。腕の内側をしばらく見つめたあと唇を落とす。 「･･･和希？」 「･･････これ、点滴のあとだろ。こんなにいくつも･･････。最近は眠っている時間が多くてろくに食べていなかったんだろ」 「ひ、人の身体そんなにじろじろ見るなよ。痩せたっていうか、それってもともと俺の肉付きが悪いってことだろ」 「そうじゃないよ。ただ･･･」 さらに言い継ごうとする和希の髪を、啓太の手が引っ張った。 「和希、そこでまた自分のせいだなんて考えるなよ。それから、やっぱりやめるなんて言うなよ。ちゃんと続き･･･しろよ」 「ここでやめられたら啓太がきつい？」 そう言った和希の手が、啓太のパジャマのズボンに触れた。すでに反応している啓太自身をズボン越しに包み込むように触れてくる。 「･･････っ」 「ここ、もうこんなになってるもんな。そりゃあここでやめられたらつらいよな」 「そういう意味じゃなくて･･･」 「でもこのまま放っておかれたらつらいのは本当だろ」 和希の手が、ゆっくりと上下に動きはじめた。 「あ･･･っ」 「啓太の身体の中で、今一番元気がいいのはここかもしれないよな。入院中でも、いつもより食べてなくても、啓太のここだけは元気でなによりだよな」 「ここだけは、なんて、変な言い方するなよ」 「でも実際元気だろ。反応もいいし･･････よかった、これで俺も安心できるよ」 「安心てなにが･･･んっ･･････あ、和希っ！」 啓太の肌にくちづけた和希が、啓太のパジャマのズボンと下着に手をかけ、一気に膝までおろした。啓太の下腹部がなんの覆いもなく空気に晒される。 「うん、やっぱり元気がいいみたいだな。ちゃんと出るものも出るようだし、今までと変わらないみたいだ」 「は・・・っあ、な、なに言って･･･んんっ」 露になった啓太自身を手で擦りあげながら、その先端をからかうように指で撫で回す。和希の手の動きに煽られた啓太自身から、さらに先走りの露があふれ和希の指を濡らした。 和希は啓太をベッドに横にさせたまま自分は起き上がり、啓太の胸にも手を這わせながらじっくりと啓太のそこを見下ろした。啓太に自分の身体がどれだけ感じているか知らせるため、故意に粘つく水音を聞かせる。 「･･･っあ、和希･･･っ」 「ほんとに、俺は啓太のここが元気でとても嬉しいよ。だって俺が作ったワクチンで、もしかしたら啓太を不能にさせちゃう可能性もあったからさ」 「!? な･･･ふぁっ、あっ･･･！」 「ん･･･こんなふうに啓太を勃たせることができなかったら、俺の･･････責任、問題だろ･･･」 「っ･･････！」 顔を寄せた和希に、自分自身を舐められる。張り詰めたそれを和希の手で掴まれたまま何度も舌を這わされ、啓太は快感に身を震わせた。和希の言葉に突っ込みたかったが、それができないまま声を殺すしかなかった。今口を開いたら、あられもない声が止めどもなくあふれてしまいそうだった。 「勿論その場合責任はちゃんととるし･･･ん･･･そうなったら俺が一生をかけて啓太を治してやるけど、不能の間は啓太だって少し寂し･･････」 「――！」 声で怒鳴りつけられない分、啓太はこぶしを固めて和希の頭を殴りつけた。 「痛っ。だから、そうならなくてよかったなあって話だろ。なのに殴ることないだろ啓太」 「馬鹿、なんの話してるんだよっ」 「だから啓太がイン･･･」 「それはいいから！」 和希に最後まで言わせずに再び殴る。 「まあそのときはそのときで、俺がこっちで啓太をたっぷりと感じさせてやるだけだけどな」 そう言って和希が啓太の膝を立たせ、啓太の双丘の奥に指を這わせた。 「･･････っ」 「しばらくしてないから、ここ、よく慣らさないとな」 「･･･っあ･･･」 和希の指にそこを撫でられているだけで啓太は身をよじった。久しぶりに人の指が触れる感覚に、先ほどとはまた違う恥ずかしさが沸き立つ。 「啓太、俺の指忘れてた？」 「･･･忘れるくらい和希が俺を放っておいたんだろ」 「病院に会いに来て、こうして悪戯してもよかった？ 俺がここに来ていたら弱ってて悩ましい啓太にこうして悪戯したくなってたかもな。啓太の布団に手を入れていじって遊ぶとかな。それでもよかった？」 「･･････和希にずっと会えないよりは、それでも我慢する･･･」 「――」 「っていうか、ほんとにしたらその場で怒るけどな！」 「は〜。もう啓太がかわいくて、本当にたまらないよ。こんなにかわいい啓太を見られるならたまには」 そこで言葉を止めて和希は啓太の足に絡まっていたパジャマと下着をすべて脱がした。啓太の足を割り開きながら、初めてそこで自分もベッドに乗り上がる。 「和希、たまには、なんだよ」 「啓太に殴られるからその続きは内緒」 「殴られるって自覚してるなら最初から思うな！」 「殴られるどころか･･･もしかしたら啓太にまた泣かれちゃうかもな。ごめんな、こんなに悪い男で」 「なにが･･･んっ･･･」 割り開いた啓太の足の内側に和希が顔を寄せる。そのまま唇を滑らせ、和希は再び啓太自身を舐めあげた。先ほどのように手で捕らえ横から啓太の茎にたっぷりと舌を這わせたあと、そのまま先端から口に含んでいく。 「･･･っ･･･」 啓太はとっさに自分の両手で口を覆った。和希に触られるのも舐められるのも久しぶりなら、和希の口の中に包まれるのも久しぶりのことだった。熱くてやわらかい和希の口腔に取り込まれ、啓太は強烈な快感の渦に翻弄された。 「･･･うっ･･･くっ･･･」 和希がさらに奥まで啓太をしゃぶり中で舌を動かす。腰から這い上がる熱に、自然と身体が揺らめく。ときおり和希の手で擦られたり揉まれると、啓太の中で吐精感が急激に膨らんだ。 本当なら思いきり声を上げて、身体の中の快感を少しでも外に出してやり過ごしたかった。最終的には追い詰められるとはいえ、この甘くて苦しい波を声を出すことで紛らわしたかった。けれど今はそれができない分、自分の中の嵐を少しも鎮めることができなかった。 「･･････っ！」 和希の口がゆるくスライドしはじめる。啓太は片手を伸ばし、和希の髪の中に指を埋めた。そのまま指に和希の髪を絡ませ、軽く引っ張って限界を訴える。 その意味に気づいたからか、別の意味にとったのか、啓太自身を含んでいた和希の口と手の動きがより激しくなった。ときおり聞こえる濡れた音が啓太をさらに煽る。 「･･････っ和希･･･！」 啓太は自分の手の内側で和希の名前を口にし、そのまま一気に膨れ上がった快感に身を任せた。このまま達してしまったら和希の口の中に思いきり出してしまうことになるとは思ったが、これ以上耐えることはできなかった。 高まる熱に暴走した身体に引きずられるように、啓太は和希の口の中に吐精したのだった。 したいと願ったのは自分だったが、けして和希の口の中でいきたいわけではなかった。むしろ毎日きちんと風呂に入っているわけではない今の状態では、和希に悪いと思うほうが先だった。 なのに気がつくとすっかり和希に流され、身を任せていたのだった。 ただ和希とつながれればよかったのに――さっさと挿れてもらえばよかった。 そんな自己反省をしながら啓太は呼吸を整える。 「啓太、身体大丈夫か？」 和希が顔を上げて、啓太の顔をのぞきこんできた。 達した直後の顔を見られるのが恥ずかしくて、啓太は自分の両腕で顔を隠したくなったが、和希の声が思いの他真剣で結局は腕を動かすことはなかった。和希の声も表情からも、真剣に自分の身体を心配してくれているのが伝わってくる。 「ん･･･大丈夫だよ」 「ならいいんだけどな。俺が声を出すなって言ったから、よけいにつらかっただろ？ ごめんな。声ぐらいかまわず外に聞かせてやればよかったな」 「いや、それはちょっと･･･」 「でも啓太が気持ちよさそうで嬉しかったよ。啓太の、久し振りに飲めたしな」 「そうだよ、それ！」 啓太はベッドに腕をついて身を起こした。 「和希、あんなことまでしなくていい。別に口でしなくても俺は和希にされてるってだけで充分だったし、あそこまでする必要なんかない。俺が無理やり抱いてって言ったのに、申し訳なくなってくるよ･･･」 「啓太が気にする必要なんかないだろ。俺がただ啓太を気持ちよくさせてやりたかっただけだよ」 「でも！」 「啓太はいやだった？ だったらごめんな」 「そうじゃなくて。だから･･･」 さらに言葉を継ごうとして、啓太は一度言葉を切った。和希の顔を見つめていた視線をふと、下に落とす。 「･･････じゃあ今度は俺がする」 「え？」 「俺が、和希にする。そしたらおんなじだろ」 「け、啓太!? いいよ、俺は」 「やだ。今度は俺がする。俺がして、和希を気持ちよくさせて、そしてもう戻れない状況にまで和希を追い詰める。でないと和希、俺をいかせるだけで終わらせそうな気がするし」 そう言って、啓太はベッドの上に膝をつくと、和希のズボンに手を伸ばした。啓太の言葉に図星を指された和希の顔に苦笑が浮かぶ。 「俺一人がいくだけじゃなくて、俺は和希にも気持ちよくなってもらいたいし、なによりちゃんと繋がりたいから。だから和希が引き返せないところまで俺が･･･」 「･･････もう一度だけ確認するけど、身体に相当負担をかけるんだぞ」 啓太の手を掴んで、和希が言った。 「わかってるよ」 「今の啓太は本当に弱ってて体力だってないし、本来ならこんなのもっての他なんだぞ。久し振りだからいつもよりきっときついし」 「わかってる。だからこれは本当に俺のわがままなんだって」 和希は掴んでいる啓太の手に口を寄せると、そのまま指先に口づけた。 「戻れない状況になんかとっくになってる。それでも俺は、啓太のためになら最後までしなくてもかまわないんだ」 「じゃあ俺のために最後までして」 「･･････啓太の、楽な姿勢をとって。ちゃんとほぐすから」 「う、うん」 和希に言われて、啓太は再びベッドに横になった。横向きになり、膝を曲げる。ほどなくして、啓太の秘所に和希の指が触れた。 「･･････っ」 そこを何度か撫でたあと、和希が顔を寄せてくる気配がした。 「ん･･･っ」 和希によって、ゆっくりとそこがほぐされていく。少しずつ丁寧に、啓太の身体を気遣いながら。 啓太は久し振りの感覚に身体をぞくぞくさせながらも、本当にこれは自分のわがままだと思った。和希に抱いてほしいと言うなら、自分でちゃんと準備するべきじゃないかとも思う。自分でそこを蕩けさせて、自分で和希を受け入れられるくらいに。なのに結局は和希にこうして甘えてしまっている。確かに今日こんな状況になるなんて思ってもみなかったし、そうである以上そのための準備なんてあらかじめしようもないのだが。 「は･･･和希･･･」 「啓太･･･きつい？」 「大丈夫･･････んっ･･･」 和希の手が前にも回り、啓太自身を扱いていく。再び寄せてくる快感の波に引きずられて、後ろをほぐす和希の指と舌にも身体が甘く反応しはじめた。和希の指先を、吐息を感じるだけで、恥ずかしさと期待と嬉しさとで頭の中がくらくらする。 ゆっくりと進入してくる和希の指に、啓太は本当に自分が待っていたことを知った。快感を味わえるからじゃない。和希とちゃんと抱き合えて、一体になることをずっと求めていたのだ。 「は、ぁっ･･･もっと･･･強くしても平気だから･･･。そんなに、ゆっくり･･･動かさなくても･･･」 「だんだん焦れったくなってきた？」 「ん･･･」 「じゃあ、もっと焦らすことにする」 「和希･･･っ」 「もう少し、俺がいいと思うまで先には進まない。俺に抱いてほしいというのが啓太のわがままなら、これは俺のわがままだよ。啓太がもっと、前でも後ろでも感じればいい」 「あっ、もう、いいから･･･っ」 「･･････」 「かずき･･･んっ･･･んん･･････っ」 啓太は手を伸ばしてシーツを掴む。和希の手に扱かれて、強烈な快感が啓太自身をさらに固くさせる。その一方でゆっくりとほぐされた秘所が和希の指を飲み込み、じんわりとした熱い快感を引き出す。 「･･････っ」 やがて和希の指が啓太の中の弱い部分をかすめ、啓太はとっさに唇を噛んだ。 「啓太。そんなに強く噛んだら、唇が切れるぞ」 「は･･･だ、だってさ･･･」 「どうせ噛むなら俺の指にするか」 「だめ･･･ほんとに加減できなくなるから･･･」 「俺はそれでもいいんだけどな」 「俺がいやだ。･･･あっ･･･和希、俺本当にもう無理･･･っ、そこされたら、も･･っ」 「ん、わかった」 啓太の中に挿れていた指を抜き、和希が自分のズボンに手をかけた。 「和希･･･俺、和希の重みをちゃんと受け止めたい」 「啓太･･･」 「和希は別のことを考えていたかもしれないけど、和希といっぱい触れ合って、ちゃんと向き合ってしたい･･･。和希、これは俺の夢じゃなくて、本当に和希がここにいるんだって俺にたくさん教えて」 啓太が姿勢をかえて仰向けになる。それから和希に向けて両手を伸ばした。 「それは、啓太が感じているときの顔もいくときの顔も全部俺に見せてくれるってこと？」 「そんな挑発したって引かない。見たければ見ればいい･･･全部、俺が和希が大好きで嬉しいって顔だから」 「･･････今日の啓太は強いな。そして大胆で、誘惑上手だ･･･」 そう囁いて、和希は啓太と繋がるべくゆっくりと身体を傾けていった。今日の啓太は病人で、身体は弱っている。だから抑えなくちゃいけないとわかっても、先程から啓太の言動に理性が崩れてしまいそうになる。 「啓太･･･本当に、いいんだな」 「うん」 「きつかったら･･･」 「和希への愛で乗り越えるから平気」 心配そうに見下ろしてくる和希に、啓太は笑ってそう言った。 それにつられて笑みを誘われたあとで、和希はゆっくりと腰をすすめた。 「･･････っ」 覚悟していたとはいえ、やはり久しぶりに与えられた熱さは、啓太の身体に痛みと衝撃を与えた。それでも、それこそがここに和希がいる証だと思ったら、ここでストップをかけてやめようだなんてまったく思わなかった。 和希が本当にここにいる。自分のすぐそば、自分の中に。 夢でも幻でもなくて、ちゃんと自分を大切に想ってくれている。 そう思ったら嬉しくて、啓太は和希の身体を引き寄せるようにして腕を回した。 「ん･･･はぁ･･･和希･･･」 「啓太･･･大丈夫か」 「平気、だから。もっと中に･･････」 「ん･･････全部、入ったよ」 「よかった･･･」 和希の言葉にほっと息をつき、笑みをこぼす。 「和希に抱いてもらってよかった･･･今の俺、すごく幸せだ」 「啓太･･････」 「和希は？」 「俺も、幸せだよ。啓太とこうして抱き合って、啓太の･･･鼓動を感じることができる。俺はちゃんと間に合ったんだって、改めて実感してるよ」 「お互い、挿れっぱなしのまま思うのは変かもしれないけどな。でも、嬉しい」 そう言ったあとで啓太は和希に触れている腕に力を込めた。 「和希、動いて。俺に和希をもっともっと感じさせて、和希も気持ちよくなって」 「それは、啓太が･･･」 「和希のペースでいい。和希が動いて。俺は、大丈夫だから」 「･･････わかった」 小さく頷いて、それから和希はゆっくりと腰を動かしはじめた。最初は啓太の反応を窺いながら慎重に。啓太がちゃんと感じているのを確かめてからは、少しずつ強く。啓太の中をかきまわしていく。 「あっ、和希･･･」 動く和希の身体に擦られて、啓太は前からも快感を拾う。 「啓太、気持ちよさそう。ならよかった」 「は･･･ぁ･･･和希は？」 「気持ちいいよ。啓太の中が熱くて甘くて溶けてしまいそうだ」 「じゃあ、溶けてしまえばいい。和希、二人で一緒に･･･」 「啓太･･･」 和希が腰をぐっと進める。その動きがさらに激しくなってきた。 「んっ･･･和希、和希･･･っ」 「啓太･･････」 あられもない声にならないようにと気をつけながらも、啓太は和希から与えられる快感に溺れていく。再び絶頂に導かれ、啓太は自分の中の和希の熱を感じながら上りつめた。 「――っ！」 そのまま、気持ちよさに包まれたまま、啓太の意識が薄くなりはじめる。 本当は和希と一緒にいきたかったのに和希はどうしただろうとか、このまま意識を沈み込ませてしまったら和希をものすごく心配させるとか、いくつか浮かんだことはあったのだが、そのどれもがやがて白い意識に飲み込まれて。 「･･･啓太!?」 すごく気持ちよくて嬉しくて幸せすぎて、啓太の意識はその幸せな心地のまま空白の中にいざなわれていった。 |