くまちゃん×啓太妄想 その後 １．やばい人がここにいます。 深夜――。 もう寮生のほとんどが眠りについたであろう時間になっても、和希は自室で理事長としての仕事に励んでいた。 パソコンに向かい、今日中に仕上げなければならない書類を作成する。 さすがに夕食後何時間もパソコンの画面とにらめっこしていて、和希は疲れはじめていた。 先ほどから何回もあくびをかみ殺しており、あともう少しなのにここにきて集中力が途切れはじめていた。 「あー･･･だめだ･･･」 自分に喝を入れるために、和希は一度机から離れて伸びをした。それから目を休めるために、部屋の中を見回す。 「･･････」 部屋の中を見回した和希の目があるものを捕らえた。 その途端和希の相好がくずれる。 和希が視界に入れたもの、それはタンスの上に置いてある青いクマのぬいぐるみだった。 愛らしいクマの顔立ちは確かに気分を和ませるものではあるが、和希が思わず口元を緩めてしまった理由はそれではなかった。 数日前はここではなく、恋人である啓太の部屋に置かれていたクマのぬいぐるみ。 出張前に啓太に渡したこのぬいぐるみと和希が再会したのは、啓太が眠っているベッドの上でだった。 勿論そのままにはしておけないから、啓太の身体を拭いて着替えさせたあと、そのぬいぐるみのボディもきちんと拭いたけれど。 でもこのぬいぐるみはしばらくの間啓太のソコにうずくまって、啓太を翻弄させたモノ、なのだ。 当然その顔にもボディにも、啓太が受けた快感の証しである飛沫が飛び散って。 和希の頭の中にそのときの啓太の様子がもやもやと浮かんできた。しばらく脳裏に浮かんだ煩悩の世界に浸る。 啓太に突っ返されなくても、適当な理由で引き取ろうと思っていただけに、そのクマのぬいぐるみが今自分の部屋にあることが和希にとっては嬉しかった。 なにせこれも立派な、『啓太との思い出の品』なのだ。十億積まれたって人には譲る気のない大切な宝物の一つ。 「――よし、もう少し頑張るか」 数日前の啓太の愛らしさのおかげで頭の中が冴え渡り、こうして和希はもう一度やる気を取り戻したのだった。 ２．ずるい男。 「ちょっ、和希、ここ寮の敷地内だろ!? 人に見られたらどうするんだよ!?」 二人で話していて、不意に後ろから抱きしめてきた和希に、啓太は慌てる。 「大丈夫だよ。塀があるから外からは見えやしないよ」 「外からは見えなくったって、ここ、上からけっこう見えるとこなんだぞ!?」 「いいから気にするなよ。･･･だって、啓太の部屋には俺今立ち入り禁止だろ？ だからせめて外で啓太に触れていたい」 「･･････そんなこと言って。和希はずるいぞ。自分が触れたいときだけそうやって俺にくっついてくるんだもんな。･･･あのときは俺のことなんか放っておいたくせにさ」 後ろから回されてきた和希の腕に自分の手を重ね、啓太は拗ねた口ぶりで呟いた。 「え？」 「この前の、出張のときだよ。和希にとっては楽しみな出張だったのかもしれないけど、行く前なんか全然俺のことかまってくれなかっただろ。俺のことなんか放ってさっさと出張に行っちゃってさ。何日も会えないのがわかっていたのに･･･。そのくせ帰ってきたらこんなにくっついてくるなんて、和希は勝手だよ」 「あー･･･あのときはなあ･･･」 そのときのことを思い返して、和希は曖昧な返事を返す。 出発前に故意に啓太と距離を置いたほうが、啓太が物足りなくてそのぶんビデオを見たときに『くる』であろうことを期待してあんなふうに振舞ったのだとは、当然口にできない和希だった。 「いろいろ忙しかったからなあ･･･。なに、俺にかまってもらえなくてさみしかったって？」 「知るかよ、そんなの」 「啓太ってほんと、かわいいよなあ」 むくれて顔をそらした啓太のかわいさに、和希が啓太を抱きしめる腕にさらに力を込めた。いい匂いが流れてくる啓太の髪に顔をうずめ、「ごめんな、啓太」と囁く。 「でも、俺がどんなに忙しいときだって、啓太が俺を求めているときはそういうふうにはっきり言ってくれていいんだからな。そしたら他のなにを置いても啓太のそばにいてやるから。俺だって本当はそうしたいんだしさ」 「･･･和希の邪魔をしたり、負担になりたくないよ。俺のわがままで和希が無理して頑張っちゃうくらいなら、おとなしく我慢していたほうがいい。･･･ただもう少し言葉とか表情とかで俺を安心させてほしかっただけだよ」 「ん･･･愛してるよ、啓太。こうして啓太に触れられて、俺すごく嬉しい。あのときは仕方がないとはいえ、やっぱりさみしかったからさ。啓太が俺のそばにいてくれないと、生きている気がしないよ」 啓太の髪から、啓太の耳元に唇を近づけていく。吐息が耳に触れて首をすくめた啓太の反応に、和希は気をよくしてさらに続けた。 「やっぱ俺にとっては啓太がすべてだよ。啓太だけが好きだ。啓太しかいらない･･･」 「ぁ･･･っ。か、和希････っ」 和希の舌の先が啓太の耳に触れたかと思うと、すぐさま耳を甘噛みされた。啓太の弱い部分を知り尽くしている和希の行為だけに、啓太がたまらずに目を閉じた。 「啓太は？ 俺のこと、好き？」 「ん･･･っ」 啓太に聞きながらも、和希の唇は啓太の耳をとらえて甘くなぶっていく。啓太はたまらずに手で耳を隠そうとしたが、そのときには和希の腕が啓太を抱きしめたまま啓太の手を押さえ込んでいた。 「だから和希、ひ、人に見られるって･･･」 「いいから答えろって。啓太は俺のことが好き？」 「･･･好き、だけど･･･」 「なんか曖昧だな。もうちょっと気持ちを込めて言ってくれよ」 「好き、だよ。俺も和希のことが好きだけど。で、でもだからこんなの、も、やめろって･･･」 ただでさえ、もう何日もご無沙汰なのだ。 しかもぬいぐるみなんかを使ってしてしまった自分の行為を恥じて、あれ以来啓太は自分ひとりでするのも自分自身に禁じていた。 だから啓太は自分の内側に日に日になにかがたまっていっているのは自覚していた。 それでも自分が言い出した以上、和希につきつけた「一週間えっち禁止宣言」を撤回したくはないのに。 和希とのえっちが解禁になるまで、まだあと三日もあるのに。 「するわけじゃないから別にいいだろ、キスぐらい。昨日だってしただろ？」 「したけど、でも･･･っ」 昨日のキスは唇にほんの少し触れるだけのあっさりしたものだった。でも今のは明らかに性的なものを含んだ行為なのだ。和希だってそれをしっかり意識してしているのは明らかなのに。 「和希、約束破る気かよ!? このまま持ち込もうってつもりじゃ･･･っ」 「そんなつもりは全然ないって。ただこうして啓太に触れていたいだけ」 耳への愛撫から、今度は首筋への愛撫に移っていく。和希が出張から帰って来てから初めてこんなふうに触れられて、啓太が唇からこぼす吐息に甘さがにじみはじめる。 この程度でこんなに反応してしまっているのは自分だけなんだろうか。触れている和希のほうはなんともないんだろうか。 そう考えると、啓太は少しだけ自分が本当にやばい身体なのかもしれないと思えてきた。クマのぬいぐるみなんかでしてしまったときは、あれはその前に見ていたビデオと和希の言葉の巧みさのせいだと思っていたけれど。本当は自分自身が持っているもののせいであんなことになってしまったのかもしれない――。 「ん･･･啓太の肌、やっぱりやわらかいよな。それにすごく甘いんだよな」 「･･････」 制服の襟元の内側をくすぐる和希の舌と息に、啓太が自身の身体を緊張させる。 「ここにキスマーク･･･つけたらやっぱりまずいか。なんか今、啓太は全部俺のものだって、啓太の全てにマーキングしたい気分なんだよな。首筋も腕も足も背中も胸も････勿論啓太の一番弱いところも。たくさん舐めてマーキングして噛んで･･･」 「あ、あんなとこマーキングなんて出来るわけないだろ!? もうよせって、和希･･･」 「啓太。あんなとこってどこのことだ？」 「！」 「俺は啓太の一番弱いところって言っただけだけどな。もしかして啓太、すごくやらしいこと想像してた？」 和希が身体の位置をずらして啓太の顔をのぞきこむ。 「･･････っ！」 啓太は顔を真っ赤にして、和希から顔を背けようとした。 「和希なんかもう知らない･･･っ」 だが啓太が顔をそらす前に、和希の唇が啓太の唇に重なってきてそれを阻んだ。 触れるだけのキスとは違って、すぐさま口の中にするりと和希の舌が滑り込む。 「ん･･･っ」 ただでさえ煽られはじめていた身体なのに和希にキスを仕掛けられ、啓太の身体がだんだん熱くなってきてしまった。 どうにか逃げを打とうとする身体をしっかり抱きとめられ、角度を変えて丹念にくちづけされる。 久しぶりに和希とかわす深いくちづけ。 「は、ぁ･･･」 「だめだって･･･啓太、もっと･･･」 低い声で囁かれ、一度離れた唇を再び和希に奪われる。 ここが寮の敷地内だとか人に見られるかもしれないということより、啓太はなにより自分自身の反応が怖かった。だんだん足に力が入らなくなっているような気がする。和希の腕が、腰が砕けるのを支えてくれてはいるが。 本当にこれは和希の罠だったんじゃないか――そう啓太が思いはじめたとき、和希の唇が離れた。今和希に身体を触られたら、そのまま禁止宣言のことも放り投げて和希に応えたくなる･･･そんな自分の思考を恥じ入りつつも啓太が和希を見上げると、和希は啓太からあっさりと手を引いた。 「かずき･･･？」 「じゃあ啓太、そろそろ夕飯の時間になるから帰るか。ここでゆっくりしてたら、人に見られるかもしれないしな」 啓太に爽やかに笑いかけて、和希は寮舎に向かって歩き出した。 「･･････」 本当に他意はなく、キスをしただけだったんだろうか･･･それにしてはいやに濃いキスだったけれど。啓太が疑問を浮かべながらその場に立ち止まっていると、前を行く和希が振り向いてにやついた笑みを浮かべた。 「えっちはあと三日間お預け、だもんな。我慢するしかないよな、啓太」 「･･････っ！」 その瞬間に啓太は和希の意図を悟った。 さきほどから煽るだけ煽っておきながら、最後には啓太の宣言を盾に突き放すつもりだったのだ。 確かにここで自分から和希を誘うわけにはいかないが。 それを承知で禁止宣言を逆手にとって、啓太を中途半端な状態で放り出した和希に、啓太はさらにさらに恨みを抱いた。 「和希っ。この、待てよ！」 「なんだよ、ちゃんと守ってやってるだろ？ それとも啓太くんは俺に抱かれたくなったのかな」 「そんなわけないだろ！」 「だよな。じゃああと三日間、いい子で我慢しろよな。三日後にはたっぷりとおいしいご褒美をやるからさ」 「なんでそんな話になるんだよ!? 一週間禁止は和希への罰だろ!? 話をすりかえるなよ、和希っ！」 「どうせならとことん、我慢大会といこうぜ啓太。――またあとでキスしような」 「しないっ！ 絶対にしないからなっ！！」 にやつきながらそう言ってきた和希に、啓太は赤い顔のまま和希を追いかけて強く言い返したのだった。 |
裏話というか、その後の話です。
つまり和希が出発前啓太に淡白だったのも作戦ということで。（そこまで･･･）
リミッターが弱い和希のことですから、
下手をすると自分が墓穴を掘るはめになることを覚悟した上で、キスの勝負に挑んだことと思います。
解禁まで三日間。
啓太は自分の宣言に縛られながら、それまで和希にいじめられちゃうことでしょう。
･･･こういうのも一種の放置プレイでしょうか？